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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔女と魔法使いと異世界と
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異世界で目覚めた

***





「……あれ」


ぱちり、と目が開く。

気がつけば、俺はパジャマ姿で街道に佇んでいた。……ん、街道?

思い出す……そう、今日はたまの三連休、しかもその初日だ。

昨日は夜遅くまで起きていて、昨日が今日になるまでゲームしたり本読んだりしていたあとに、ゆっくり眠ろうとしたはずなのだが。


「―――はて、なんで俺は、こんな見知らぬ場所にいるんだろうか……?」


周囲を見渡せば、まず、眼前に大きな川。

さらに、中世のイギリス辺りをイメージさせる街並みに、雑多な人が行きかっている。

馬車道にも、馬車から力のある牛車、見たことのない生物が引いている客車など、多種多様だ。

ちなみにだけど、人の服装は、旅人のようなマントを羽織ったものから、騎士甲冑を付けているもの、紳士服やラフな服装としか呼べないものなど、たくさんいる。

さらに驚くべきことに、猫耳や犬耳がある人までいる。

右から見ても、左から見ても、ファンタジーですね、本当にありがとうございます。

……はて、布団に入って眠りだした覚えはあるのだが。

いつも寝る前に聞いている音楽をかけて、干したばかりのふかふかのベッドにダイブしたのだから、眠る態勢に入ったという事実は存在しているはずだ。

俺は眠りが非常に深いタイプ。一度眠り出せば、トイレなんかにも起きないし、物音がうるさくても気にしない。

だから当然、今目が覚めるまで外に出た覚えなんてない。


「なるほどなるほど……よし、落ち着け。まずは状況整理からだ。…………いや!どう考えても!これ!異世界!だけどね!」


いきなり奇声を発した俺に周囲の人の視線が集まった。

ぺこりと頭を下げて謝りながら、多数の人が集まる、巨大な噴水が目印の広場にあるベンチに腰かける。

――まず何をしようとしたのだったか。……そう、情報だ。情報整理。

ラノベの主人公たちはみんなそうしている。

現実に即さない異世界転移もののバイブルは、やはりありとあらゆる転移のパターンを詰め込んだラノベなのだ。

なんにせよ有言実行。まずは持ち物確認……いや、自分の記憶から確認した方がいいかな……?

なにせ、何故こんなところに転移しているのか―――全く覚えていないのだから。


「よし、俺の名前!……俺の名前は、痲草(メグサ) 茉莉(マツリ)……高校二年生。……よし、覚えてるな」


ちなみに部活はやっていない。

万年帰宅部というやつだ……あれ、これは部活に分類していいのかな。


「特技は暗記……特に本の内容とかウィキ○ディアとかの内容、知識を覚えるのが好きだ」


なお、そういう知識の使いどころはほとんどないというのが、しがない現実のつらいところなのだが。


「性別は男、日本出身。……あ、すいません、日本って国知っていますか?」

「知らないよ。なにそれ、最近できた新興国?」

「あ、いえ、知らないならそれでいいんです」

「はぁ?」


ちょうど隣にいる、オレンジを籠に大量に詰めた、ガタイの良いお兄さんに日本について聞いてみるも、何も知らないようであった。

日本は日本人が思っている以上に知名度が高い国だ。

あんなにハラキリサムライニンジャなんていう濃いものがそろってれば、そりゃ有名にもなる。

そんな日本を、これだけ大きそうな都市で知らないと言い切る以上、このセカイに日本は存在しない可能性が高いというわけだ。

……つまり。


「……え、マジでこれ異世界なの?転移のトリガーなに?なんで呼ばれたんだ俺?」

「なんだい兄ちゃん……いきなり立ち上がったりぶつぶつ言ったり、不気味だぜ?」

「あ、こりゃ失敬」

「あんた、どこ出身だ?そんな服、このあたりじゃ見ないな」

「……うーん、どこ出身なんですかねぇ……」

「……あ?」


首をかしげるお兄さん。

つられて俺も首をかしげる。

しかし、クセの強い髪の毛はかしがなかった。


「なー、兄さん。変なこと聞いてもいいですか?」

「んだよ……まぁ、いいけどよ」

「お、やった。見かけによらずいい人だなー」

「あ?」

「いやいや、冗談、見かけもいい人だと思いますよー?!」


ちょっと裏家業やってそうな人相してる以外は。

あとそのボロくて少し汚れた服装と、髪を後ろに撫で付けているっていうのも、よけいに人相を悪化させてる原因だと思う。


「で、質問なんですけど。ここ……どこっすかねぇ?」

「…………はぁぁ??」


まあ、そう言う反応になるよな……。



「――ったく、本当に変なこと聞いてくるなぁ、おい……。まあいいや、答えるって言ったのは俺だしよ」

「おお!ありがとーございまーす♪」


なんと義理堅いいい人か。

お兄さんはため息をつくと、一つ前置きをして。


「いいか?一度しか言わねぇから、しっかり聞けよ。―――ここは、魔術学校アストラルを擁する、大都市カーヴィラ!大陸でも有数の、魔術師や魔法使いのいる現実が浸透した場所だぜ」




***





「……ほほう、魔術……魔法」


お兄さんは忙しいらしく、質問に答えてくれた後、オレンジの入った籠を持つと早々に立ち去ってしまった。

去り際に、この街はよそ者にも生きやすいほうだから安心しな、とは言っていたが……。


「さてさて、異世界出身の俺も、果たして生きやすい世の中なのかは、わからないかなぁ」


とはいえ、魔法や魔術というものが浸透している世界というのは実に興味がある。

そういえば、周囲を見てみれば、明らかに電子機器などとは関係のない、珍しい道具はちらほらと見える。

いくつかの石がフラスコのような硝子の入れ物に入っており、それが発光して電球の代わりになっていたり。

自動で動く羽根が、扇風機のようになっていたり。

硬質の何かが、炎を発してコンロになっていたりと、本当に様々だ。


「つっても……こう、ファンタジーっていうほどには魔法っぽくないな……」


魔法といえば、魔獣とかに対してどかーんとか、凍り付いてぱっきーんとか、そう言うイメージなのだが。

残念ながら、魔法陣も浮かんでいないし、道具を使っている人たちは、そこまで魔法使いという服装をしているわけでもない。

というより、そう言う道具を使っている人たちのほとんどは、露天商や行商人といった感じの人たちだ。


「まあ、そこら辺はまた後で考えよう。情報整理の続きしないとな」


確認したところ、記憶は別に問題なさそうである。

記憶力だけには自信があるのだ、思い出していないことなんかはない筈である。


「じゃあ次は――持ち物か」


こういう場合は、現実世界から持ち込んだ持ち物が重要なキーアイテムになったりすることが多いのだが。

俺の持ち物は…………パジャマであるジャージ一着だけだった。


「意味ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」


これ、ただの服じゃねぇか……と思ったり。

ポケットをあさるも、携帯も音楽プレイヤーすら出てこない。

残念ながら現代知識を活かしたチートプレイというのはできそうにないな。

まあ、仮に携帯があっても、電波なんてない以上、知識なんてほとんど手に入れられないのが現実だが。

……いや、電波つながる可能性もあるのか?

俺の携帯電話がそういう特殊なものであった可能性も少しだけ存在するわけだし――もっとも、仮に特殊な携帯であったところで、今手元にないのだから何の意味もないし、完全にこの思考は無駄な時間であった事に気づく。


「でも、サンダルは履いてるな」


もっと別の物を用意してくれよ、と神さま(いるのか知らない)に毒づいてみる。

毒づいたところで何にも起こらないが。

持ち物に関する情報確認は終了した。みじけぇ。


「あとは……このセカイに関しての情報収集だな。さってと―――」


俺のモットー。それは、”情報はまず本から……次いで自分の足を動かして”…だ。

残念だが、本はない。それに類するネットもない。

なら次である。つまりは、まあ。

――歩き始めるとしますかね!


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