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北風と太陽計画

作者: れのん

誰かの目に触れて、何かの意味をもてたら



この学園の男子の中でまことしやかに囁かれる噂があった。その噂は『北風と太陽計画』というものであった。



「というわけで今回の新聞部の活動としてはこの計画の噂の出所や、全貌を掴む……、というのはどうでしょう部長!」


そう声高々に発言しているのは同じ新聞部の一年である中曽根 玲子である。


彼女は謎が大好きな、よく言っても「少し変わった人」であり、悪く言うと「変人」。ちなみに認識としては後者の方が妥当だと僕は考えている。


彼女は探偵部を作りたかったらしいが、他の部員が集まらなかったのと、生徒会の許可が下りなかったことから断念し、それならばと新聞部に入り調査活動や情報の裏付けといった活動を積極的に行っている。


「却下だ。そのわけのわからない噂の出どころは気になるところだが、そんな聞いたこともない様な噂で我が新聞部が動くというわけにはいかない。おまえはまた他の記事でも考えてこい」


こう言ったのはこの部活の部長である荒我 和人先輩である。この人は新聞部唯一の三年生であり、この学校の生徒会の一人であり、副会長である。


「でも面白い噂だね、その……北風と太陽計画? どんな噂なのかは知っているのかな?」


こう尋ねたのは二年生の天野 優一先輩だ。

この人はこの部活のやさしさを一人で担っているんじゃないかというほどの聖人君子である。


 この天野先輩と荒我先輩のペアは人呼んで『新聞部の飴と鞭』と言われている。


「いえ。具体的にそこまで掴んでいるわけではないんです。そういう噂があるという噂があるといった感じで、凄く漠然としたものなので……」


「ふむ。ならばこそ調べるに値せんな。論外だ」

と、彼女の提案を一蹴する。


 ちなみに僕は田島 樹である。この部下にいるのも深い理由があるのだが、ここでは割愛させてもらおう。


「樹の方は何か記事になりそうなネタは見つかったか?」

荒我先輩が僕に尋ねてくる。


「はい。最近暑くなって来ましたし、熱中症対策を保健室の先生にインタビューをするというのはどうでしょうか?」

と僕が提言すると荒我先輩は「うーむ……」と少し考えた後に「よかろう。やってみろ」と、許可が下りた。


 自分のネタが選ばれずに、俺のネタが選ばれたのでさぞや中曽野はご立腹なのではないか(中曽根さんは負けず嫌いだ。それもかなりの)と思ったが、意外や意外、そんな様子はかけらもなく、何かを考えている風だった。

 



「何か妙だわ……」

部室での会議が終わるなり一言目に呟く中曽根さん。


「妙っていうと?」


「だってあんなにつまらなそうな田島くんの案を新聞部の記事として選ぶなんて」

おいこいつハッキリ言うなぁ……、と僕がショックを受けていると「それに」と続けて。


「田島くんの案は普段なら一蹴されるようなまじめな内容だったけど、今回は『やってみろ』だもの。私と田島くんが両方ボツならわかるけど、田島くんのだけ採用ってところが妙ね」


「一度ならず二度までもハッキリ言うねぇ!」

もう立ち直れないよ!


「ハッキリ……そうね。そうしましょう」

えっ、何が?


「私ね、ハッキリしないことは嫌いなの」


なんだか猛烈に嫌な予感が――


「田島くん。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」

と、可愛い笑顔で言う。今の状況で言われても恐怖しかない。



「ははは……」

僕の口からは乾いた笑いが出るだけだった。




「北風と太陽計画? なにそれ?」

「ううん。知らないのならいいの。ありがとね」


これまで二十人程に聞いてきたが未だ有益な情報を得られていない。


「うーん。みんな知らないみたいだね」

「おかしいわね。私が先輩から聞いた話では結構広まっている噂のようだったけれど……」

もしかして……。


「ねえ、中曽根さん。今まで聞き取りをした人たちってみんな一年生なの?」

「そうね……。聞き込みすればすぐにわかると思ったから手近なところで済ませようかと思ったのだけれど」

という事はもしかしたら……。


「もしかしたら先輩たちの間でしか広まっていないんじゃないの?」

「なるほど……。それならば聞き取りをしても手掛かりが掴めないのもなっとくというものね」

はぁ……。二、三年にも聞き込み行かなきゃなのか……。


「ここからは二手に別れましょうか。田島くんは男子の先輩方をお願い。私は女子の先輩方への聞き込みをしてくるわ」


「はいはい。わかりましたよ」

まあ気は乗らないけど……。頑張りますか。




「おまえそれ……誰から聞いた。お前まだ一年だろう」


上履きの色からして三年であろう先輩に訪ねるといきなりのビンゴである。ただこの先輩……少し怖い。声をかける相手を間違えただろうか。


「いえ、この北風と太陽計画という噂が流れていると聞きましてうちの部で調査をしようということになっていて」

本当は部でなく、中曽根さんと僕が個人で調べているだけなのだが……。


「いや、お前ら、荒我の奴に許可もらってないだろ」

うげ……。なんでばれてる。


「部長に情報が足りなく不確かだ、と却下されてしまったので情報収集をしているところなんですよ」

もちろん口から出まかせだ。我ながらよくできたと思う。


「へっ、馬鹿言え。どんなに情報を集めて来ても荒我がお前らに調査させることはない。わかったらあきらめてとっとと帰るんだな」

と、言いこれ以上は話すことはないといった態度だった。


「……わかりました。お時間いただいてすみませんでした」

と、僕が言うと


「おうよ。ついでに教えてやると他の奴に聞いても無駄だぜ。知りたかったら二年になるまで待つんだな」

と、言った。


 彼の言ったとおり、他の人にいくら聞いても有益な情報は得られなかった。




「とまあ、こんな感じだったんだけど」

調査した結果を彼女に伝える。


「おかしな点がいくつかあるわね……」


そうなのだ。


「まず、話しかけた先輩が俺らの事情に詳しすぎる。どこかから情報が漏れている可能性があるということ」

考えられるのは荒我先輩から上級生に対して連絡を行ったということが考えられる。でも、だとしたら……。


「次に、どうしてそこまで隠すのかということ」

そこまでして隠したいこととは一体……。


「最後に先輩が言った『二年になるまで待つんだな』ということだ」


「考えられる可能性としては、上級生の間で企画されている一年生に対するサプライズなどだろうか?」

それならばここまで隠ぺいされるのも頷ける。


「その可能性は薄いと思うわ」

考えをまとめていた所に彼女の声。


「なぜなら私が女子の先輩たちに聞き込みをした結果、『噂の存在を知ってはいるんだけれど、中身までは知らない』という状態だったのよ」


なるほど、確かに隠すなら噂そのものを知らないというはずだ。何より、知らないことがあったなら知りつくすといった性格の彼女に噂の存在を知らせるわけがない。


「ということは男子生徒、それも二年生以上の人だけでの秘密となるな……」


「ふーん。男子生徒の女子にも知られたくない事となると、相場は決まっているわね」

これはもしかして、この学校の上級生の男子をすべて敵に回してしまうような気がするぞ……。


「でも北風と太陽とはどういう意味なのかしら? こう……何かの隠語なの……? そこのところ同じ男子としての意見はないのかしら?」


いや知らねえよ……。


「そんな変な言葉が隠語なら、男子の会話は奇妙奇天烈になってるわ!」


「頼りにならないわね……」

落胆して「はぁ……」とため息を吐く彼女。無駄にオーバーなのでおそらくはわざとだろう……。


「でもまぁ、そんなに気になるんだったら先輩たちに直接聞いてみればいいんじゃないかな?」




次の日、学校が終わり放課後に部室へ向かうと、待っていたかのように出迎える先輩二人。


「二人ともお疲れ。昨日の調査は進んだかな?」

と、天野先輩。なんだか今は笑顔が怖い。


 そして、やはりこちらの情報は筒抜けであった。ただ、実はこちらも家でそちらの情報を得ているのだ。


「いや、こちらも調査の結果が芳しくないので、先輩方にアドバイスをもらおうかとおもいまして」

そういいながら、彼女は荒我先輩をにらみつける。


「アドバイスなぞやる気はないぞ。そもそも、ちゃんと部長の指示には従え」

荒我先輩は冷静というか、いつにもまして淡々とした様子で相手にしていない様だ。


「あのう、俺から一つ質問なんですけれど」

この空気の中に入っていかなきゃならないのかぁ……。


「なんだ樹。アドバイスなら――」


「学校裏掲示板の事なんですけど」

そう僕が言った瞬間二人の表情が変わった。


「なんでそれを……といった表情ね」

そう言った彼女はなにかしら楽しそうであった。


「おい……。それはどこから聞いた」

「みんなには口止めをしたはず……ってことですかね? せ・ん・ぱ・い」

楽しみすぎだろ!


「ほらっ、ワトソンくん。説明説明っ!」

いつの間にかワトソンくんになっていたんだ僕は……。


「はい。そこに至った経緯を大まかに説明すると、昨日聞き込みを行った際にある先輩が『二年になるまで待つんだな』と言っていました。そこで二年生に上がることで生じる変化を考えてみたところ一つ思い当たる節があったんですよ」


それが何かというと。


「二年生から開始されるパソコンを用いた情報の授業です。そこで一人ひとりにログインパスワードが渡される。今日先生に確認したところ、そこでは男子専用掲示板と女子専用掲示板が分けられているらしいですね」

まあ、なぜ分けられているかというと、そこで男女の不適切なかかわりを防ぐためっていう事が理由らしいけれど。

まぁなんともこのスマホが普及している時代において意味がないとは思うが……。



「先輩たちはそれを逆に利用して男子だけの秘密のコミュニティを作り上げたんじゃないですか?」

これからは全て推論にすぎない。だが、こちらが全て知っているように見せかけなければならない。


「確かにある。だが、それがどうした。そんなコミュニティがあること自体は問題あるまい」

先輩が認めた時中曽根さんはニヤリ……というより「ニマァ……」という表情に変わった。


僕は見なかった事にして続ける。


「で、学校裏掲示板。これが例の『北風と太陽計画』と大きく関係しているものなんですよね?」


「君が言っている事は証拠はないよね? そもそも北風と太陽計画の内容はわかっているのかい」

と、天野先輩。


「ああ、それなら大体わかるわよ」



彼女はあっけらかんと「女子に言えない変な事でしょ?」と言ってのけた。



「「「…………。」」」男子三人の間に少しの沈黙が訪れた。



「詳しくはわからないけどそんな事でしょ。それを女子にばらされたくなかったら教えてください せ・ん・ぱ・い」




 落としどころとして、僕らに全てを話す代わりに他の女子と男子の一年には伝えない事。そして彼女、中曽根さんが探偵部を作ることに副会長として荒我先輩は協力すること、でまとまった。


 ちなみに肝心の『北風と太陽計画』はとてもしょうもないものであった。



 なんでも計画と名を呈しているものの、北風は強風により女子のスカートがめくれる事……つまりはパンチラであり、太陽は暑さによって女子が薄着になることであるそうだ……。

 これらを生暖かい目で見守るというものであった……。


――こんなしょうもないもの計画でもなんでもねぇ!


……でも気持ちはわかる!


 ちなみにそれを聞いたとき彼女はとても冷たい目を男子三人に向けていた。


 


さて……。投稿した他の作品と雰囲気が違うものになっていますが……


いかがだったでしょうか……。


こういうノリ……。実は好きなんです……。他にも投稿していないものにこういうノリのものがたくさんありますのでまた機会がありましたら読んで頂けたら幸いです。


最後まで読んでいただいたあなたに最大限の感謝を

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