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女児パンツ紳士の恋愛

やや性的な表現がありますが、昼ドラより100倍マイルドな程度です。

それでも苦手な方はご遠慮ください。

 フロンティアスピリッツに満ち溢れた私は、ブリーフの下に女児用パンツを穿いて外出した。

 しかし、そんな日に限って女性に逆ナンされてしまうのだから、運命とは皮肉なものである。

 

 べつに『ブリーフが不要となるようなふしだらな関係性を即日築いてしまおう』などと浅ましく考えているわけではない。

 しかしコトには勢いという物があるし、その勢いが不足しているからこそ、この年齢まで純潔を保ってしまったと分析することもできる。

 機会を逃したくないと思うのは自然なことだし、女性とふしだらな関係になりたいと思うのは男として自然なことだ。


 そういうわけで、私は今画策している……。

 

 私を逆ナンしてくれた彼女と、


 自然に、

 紳士的に、


 ふしだらな関係になるための方法を――。


○○○


 駅前の喫茶店にて。


「とりあえず、この絵画から買ってみたら?」


 芸術に造詣が深いらしく、常に絵画カタログを持ち歩いているという彼女は、コーヒーを飲み終えるなりそう言った。

「そうだね。すごいセンスだよ、この作家。繊細で耽美なエロティシズムがある。まるで全盛期のクリムトみたいだ。クリムト級の絵が30万で買えるなんて夢みたいだよ」

 私は絵画など全く興味が無かったが、彼女の趣味に水を差すのも気が引けたので、適当に話を合わせておいた。

 こうした気遣いが出来る点に、私の男としての度量の深さが現れている。


「よかった、気に入ってくれて。じゃあ、さっそくこの契約書にサインして」

「お安い御用さ」


 私は契約書にサインした。

 

 そういう具合にトークが盛り上がってきたころ、無粋なコールが彼女のスマホから鳴り響いた。


「はい。もしもし。はあ……ええッ!? あたしのチワワが土佐犬の子を妊娠!?」


 にわかに顔色が変わった彼女は、通話を切ると、

「ごめんなさい。急用が入っちゃった。すぐに出ないと……」

 と言って、帰り支度を始めたのであった。


 こういう場合、その辺の凡夫ならば、女性を引き留めたり連絡先を聞いたりして、男としての器の小ささを露呈することだろう。

 また、器の小ささを隠すため、あえて余裕ぶって食い下がらず、

「送って行こうか」

 などと申し出るケースもあり得る。

 しかし、それは器の小ささを隠蔽するという行為によって一層の小人物性を顕在化させる愚行の極みである。

 ならば、どうするのが正解かと言うと。


「わかった。じゃあ、早速ヤらせて」


 と、このように申し出るのが正解なのである。


「え?」


 と、彼女は困惑したような反応をする。

 しかし、これは演技である。

 私くらいの紳士になると、それが分かる。

 

 だいたい、30万円の絵画を買わせた時点で、彼女はほとんど自分の貞操を放棄しているとみなせる。

 私を拒否る権限など、もはや彼女には存在しないのである。


「大丈夫。2分で済ますから」

「サイッテー!」


 そういって、彼女はグラスの水をぶっかけてきた。

 当然私はビショビショになるわけだ。

 

 だけど、これも女性特有の、いじましい反応なのである。

 どういう意味かと言うと、これはすなわち「性交渉OK」のサインなのである。


 なぜそのようなことが断言できるか?

 そんな疑問を抱いてしまうウブな男性諸君のために、クイズ形式で解説しよう。


 第1問。 

 水を掛けられた人間は、そのあとどうしますか?

 

 答は簡単。

 正解は「着替える」だ。

 だって、着替えないと風邪をひいてしまうしまうもの。

 

 続いて第2問。

 着替える為にしなければならないことは何ですか?

 

 これも答えは簡単。

 正解は「服を脱ぐ」だ。

 服を脱がなきゃ着替えじゃない。ただの重ね着だ。


 最後にもう一問。

 成熟した男女が裸になり行うことと言えばなんでしょう?


 ……。


 さて。

 もうご理解いただけたと思われる。

 

 彼女はグラスの水で私をびしょ濡れにさせた。

 そうやって、彼女は私が衣服を脱がざるを得ない状況を作り出したという訳だ。

 

 まったくもって、いじましい限りじゃないか。


 女の子と言う繊細な生き物は、「服を脱いで」などとダイレクトに要求することが出来ない。

 なので、このように遠回しに、自分の性的欲求を男子諸君にぶつけてくるのである。


 これに応えなければ男の恥。


 私は神速でベルトを外し、シャツを脱ぎ、ブリーフ一丁の出で立ちになった。

 

 この時点で15秒を浪費している。

 先程「2分」と宣言した以上、あと105秒以内でコトを済ませなければならない。


「ぎゃー!」


 彼女は咽喉から血が出るような金切声をあげて逃げ出した。

 しかし、この反応もフェイクである。


 逃げ出すということは、相手に背を向けることを意味する。

 背を向けるということは、同時に尻を向けるということだ。

 自ら私に尻を向けたということは……もはや、皆まで言う必要は無いだろう。


 私は彼女の淫靡な誘惑に乗って、その尻目掛けてダッシュした。

 残り時間はあと100秒足らずだ。


 会計カウンターを抜け、店外に出て行く彼女。

 野外に誘うとは、とんでもなく淫乱な女の子である。

 

 当然、私のボルテージも上がってくる。


 土曜日の昼下がり。

 街は人々で賑わっていたが、そんなことは関係ない。

 私は人の海を切り開くモーゼとなり、彼女の尻を追いかけた。


 しかし、思いのほか、彼女は焦らしプレイが得意だったらしい。


 というのも、彼女はかなりの俊足で私を翻弄したからだ。

 

「100メートル11秒台出せんじゃねェの(ハァハァ)」


 どうにもこうにも捕えられない。


 タイムリミットは迫って来る。

 残り時間はあと50秒も無いだろう。


 こうなってくると、仮に彼女を捕えることに成功したとして、ブリーフを下ろしている時間は無い。

 ブリーフを脱がなければ、コトは為せない。


 しかし、私は諦めなかった。


「セイッ」


 私はトップスピードを維持したままブリーフを脱ぎ捨てるという離れ業をやってのけた。

 紳士たる者、走りながらブルーフを脱げて当然なのだ。


 ともあれ、これで捕獲後のタイムロスを考えなくてよくなった。


 しかし、ここで思わぬ誤算があった。

 今日はブリーフの下に女児用パンツを穿いていたのだ。


「ええい! ブリーフも女児用パンツも同じこと!」

 

 私は走りながらの(ランニング・)ブリーフ脱衣(ブリーフ・パージ)の要領で、女児パンツの脱衣を試みた。

 

 しかし、女児パンツは女児パンツである。

 本来は女児が穿くことを想定して製造されている。

 ブリーフとは勝手が違う。

 

 38歳の私にはキツすぎた。


 その上、今は汗ばんでいて、とてもスムーズには脱ぐことが出来ない。

 生地がケツに食い込んで、Tバックのような有様だ。 

 とても走りながら脱げる代物ではなかった。


 そうやってアヘアヘともがいているうちにタイムアウト。


 持て余したフロンティアスピリッツが裏目に出た瞬間である。


「畜生!」

「ひいっ!」


 私は彼女を路地裏のアスファルトの上に押し倒していた。

 女児用パンツを穿いたまま!


「やめて! やめて! お金は払わなくていいから、勘弁して! 許して、お願い!」


 彼女は押し倒されたまま泣き叫んだ。 

 

「いや、許しを請うのは私の方だ」

「はあ?」


 そう。

 彼女は何も悪くない。

 悪いのは、2分で事を済ませられなかった私の方なのだから。


「恥、かかせちゃったね」


 女の子にここまでアグレッシブな誘惑をさせておいて、タイムアップさせてしまうとは……。

 もはや私に紳士を名乗る資格などないのかもしれない。


「何が?」

 

 彼女はまだ状況が理解できていないらしい。


「早く帰りな。チワワが土佐犬を生むんだろ。大変じゃないか」

「!」


 彼女はなんだか物足りなそう顔をして黙っている。

 その表情を見て私は心が痛んだ。

 

 しかし、土佐犬を身籠ったというチワワのことを思えば、ここで彼女とアバンチュールするわけには行かないのだ。


「ごめんね。不甲斐なくて……」


 そう言いつつ、私は彼女を立たせた。

 そして、スカートについた埃を払ってやる。


「行きなよ……30万はちゃんと振り込んどくから……」

 

 私がそういうと、彼女は腰をかがめながらジリジリと後退した。

 そのまま1メートルほど引き下がったあと、彼女は走り去っていった。

 その姿は、まるで、山道で熊に遭遇した老婆の様だった。

 

 そして、昼下がりの路地裏に、女児パンツを穿いた私だけが残された。


 ここは都会の喧騒の裏側。

 静寂と孤独が支配する場所。

 

 そこで一人、私はこうつぶやくのだ。

 

「グッバイ……マイラブ……」


 ―――fin―――

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