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ぼーい♂⇔みつるぎ⇔が~る♀  作者: 大竹雅樹
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いざいざ⇒ざわざわ

「それで緋色ちゃん。約束のほうは順調? この三年で必殺技のひとつぐらい開眼できた?」


「いんや。中一のときに幕末バトル漫画に影響されてコンクリの壁を相手に『二重の極み』の練習をして中指を骨折したのも、今となってはいい思い出ですわ」


「じゃあ、生と死の狭間で能力が覚醒したとか、先祖の血が目覚めてなんちゃらとかは?」


「それもない。授業中にテロリストが学校を占拠してクラスメイトが大ピンチになったところで、オレが真の能力ちからを解放して大活躍する無双展開なら百万回は妄想したけど」


「もしかして小さい頃の夢、諦めちゃった?」


「いえ、今でも純粋に追ってますよ。現実がそれにともなってないだけで」


「つまりラノベ風に言うと『私の幼馴染がこんなに中二病患者なわけがない』?」

「否定はしない」


「…………」

「…………」


「ガッカリにもほどがあるっ!」

「うるせぇ! おっぱい揉むぞゴルァ!」


 オレだってオレなりに努力したんだよ。

 ねぇ羽々斬。おとなになるってかなしいことなの。


「ふぅ、やれやれ。留学生を迎えた初日からクセの強い生徒たちに囲まれてのてんやわんや。どうやらボクに人並みの日常は訪れないらしい。まぁ、そんな非日常の毎日も悪くはないか」


「なんでそこで先生がラブコメ漫画の主人公みたいなモノローグ語るんですか!」

「いや、だってそういう空気を感じたから」


 我が恩師ながら恐るべし。オレもこういう歯の浮くような主人公セリフを、息を吐くようにサラっと言えるキャラになりたい。


「しかし、そんなトンデモな学園によくオレを留学生として迎える気になりましたね。自分でこういっちゃうのもなんですけど、オレってバケモノじみた親父と違って、ヒーローに憧れて剣道やってました程度の、ただの健康優良大和男児ですよ」


「そう、そこが今回の留学の企画の最も重要なポイントなんだ」

「ポイント?」


「世界中からありとあらゆる武器が集まるこの豊葦原瑞穂学園。ここに通う生徒たちはみんな、様々な英雄や剣豪たちを主として戦場を駆け巡った武具だ。そこに男子生徒を招く意味。それを察することができればヒーロー見習いに合格かな」


 それってつまり……


「もしかして、やっぱりオレには伝説の武器に認められて勇者や英雄に成るほどの隠された才能とかがあったり!? 実は英雄の転生体だったとか、神々の血を引く麒麟児だったとか!」


「いや、むしろ逆」


「はい?」


「神職に携わる人間ではなく、かといって神々に選ばれた勇者とか英雄とか救世主でもなく、前世だの転生だので強くてニューゲームとは無縁で、魔族や神の血も引いていない、ようするにどこにでもいるごく普通の平凡な人間で、そこくせ神話関係にやたらと詳しいオタク気質で非現実的展開に出会っても簡単に順応できる中二病患者。それらの条件に当てはまって、かつ武器術の心得がある十五歳の男子というのが、今回留学生として学園に招く人材の条件でね」


「長い上に酷いッ!」


「いや、ぼくもまさかここまでキミが厳格な前提条件をクリアできる人間に育っているとは夢にも思わなかった。学園長も稀代の逸材と褒めてたよ」


「なにそのちっとも嬉しくない『選ばれしもの』条件ッ!」


 褒められているようで絶対に悪口だよね?

 その絞りに絞り込んだ条件の数々には悪意しかない。


「んで、その『オレの名前は御剣緋色。どこにでもいる普通の高校生だ』を地でいく自分に、この学園でなにをさせようというんですか?」


 それだけ留学生の選抜に凡俗限定という厳しい条件があるってことは、伝説の武器を扱うに相応しい英雄候補を迎えましょうとかいう王道パターンでないことだけはたしかだ。


 つまりそういう系統ではない別の『何か』をオレにやらせたいということだ……


「正直、嫌な予感しかしないんですけど」

「ようするに、キミにはボクの担当するクラスの生徒たちを発揚させてもらいたいんだ」


「発揚?」


「この豊葦原瑞穂学園高等部には五つの学科があってね。今回、高等部に進級した一期生の生徒たちは、中等部時代の成績や実力、および進級試験の結果を踏まえて、それぞれの特性に見合った学科クラスに振り分けが行われている。例えば成績優秀な武器が集うAクラスは【聖剣学科】、それに匹敵するBクラスは【名剣学科】という具合にね」


「はぁ」


 そんな会話を続けながら、オレたちは案内も兼ねて学園校舎を巡っていく。


 テクテクと本校舎を抜けて、『E校舎』と看板の張られた渡り廊下を進む。

 その辺からなんか雰囲気というか情景というか、校舎のつくりが変化した。


 さっき通り過ぎた大理石づくりの『A校舎』の豪華絢爛さとは全く違う感じ。

 連絡通路を渡り切れば、そこに広がるのは全体的に埃っぽい木造の校舎の風景。


 うわぁ、この寺子屋みたいな貧乏臭い構造には覚えがある。

 築七十年で廃校が決定した地元の小学校と同じタイプだ。


 足元の腐った木板の感触。壁の節々から匂うカビの異臭。

 とても今年建造されたばかりの高等部新校舎とは思えない。


「あの、ここだけいきなり旧校舎ってカンジですね」


「学園長が建築に拘る方でね。E校舎はあえて懐古趣味で昭和の旧校舎をイメージして新築したんだよ。各学科ごとに基本テーマみたいなものがあってね、そこを重視した匠の技とも言うのかな。【聖剣学科】のあるA校舎のように最新設備を揃えた校舎や、【名剣学科】の日本の御屋敷風のB棟校舎もいいけど、ボクはやはりこっちの方が生まれた年代的に落ち着くね。母校の小学校を思い出すよ」


「旧校舎を新築って……」


 ちょっとまて。それはどこか日本語の使い方がおかしい。


「で、ボクが担任をすることになっているEクラスが、ちょっとアレでね……」


 と、そこまで言って天城先生はチラリと羽々斬を見た。


「先生、なんでそこで私を憐憫の目で見るんですかー!」

「だってクラス筆頭からしてコレだし」

「なんかコレとかいわれたぁー!」


 あー、なんか分かっちゃった……

 たぶんスポコンものとかでよくあるパターンだこれ。

 こういうとき感じる悪い予感ってのは、なぜか無駄によく当たる。


「緋色くんには彼女たちと同じ一人の生徒として、この手の施しようのない最弱クラスをなんとかしてほしい。ボクも担任として出来る限りのサポートをする」


 ほら、おいでなすった。


「てことは、オレの所属するEクラスって……」

「たぶんキミの考えている通りだよ。ある意味、この業界の定番だね」


 オレたちはEクラス教室のドアの前に立ち、ほぼ同時に頭上の表札を見上げた。


「あー、これは酷い……」


 思わずついて出た言葉がコレである。


「酷いとか言わないでくださいよー。確かに酷いのは事実ですけど」


 オレたちの視線の先にはボロリと片方の留め金が外れ、右斜め四十五度に傾いた木製のプレートがぶら下がっており、その表札にはて擦り切れた文字でこう書かれていた。


 【Eクラス 鈍刀なまくら学科】


 かくして、ファンタジーものによくある英雄譚とはとても程遠い……

 オレのド底辺クラスでの七難八苦の学園生活が幕を上げたのである。



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