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海とさよなら  作者: 佐藤
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第11章 見つけた人

第11章 見つけた人


 静かにドアが開き、男が一人、電車を降りた。


 今は、何時だろうか。


 鞄から壊れた計測器を取り出すが、やはりどの数値も狂っていて、

何も分からない。本部とも通信がとれず、仕事にも支障を来していた。


 無機質に「終点」とだけ書かれた看板を確認すると、

眼鏡をかけ、スーツ姿のその男は、改札を抜けた。


 誰もいない駅舎を出る。



 薄く明るい空と、凪いだ海。


 それを見て、男は不意に立ち止まる。


 男はなぜか、吸い込んだ空気が、軽くなったような気がした。

鞄に手を伸ばすが、計測器は壊れていることを思い出す。



 海から吹く風には、様々な感情が混ざっているような気がした。

だが、波の音に消されて、それらを捉えることはできなかった。


 これから夜が来るのか、朝が来るのかさえ分からないまま、

男は目的の場所へと向かっていく。



 カーン、カーンと、踏切の遮断機が下り、警告音が響く。



 電車は、なかなかやってこない。


 男は線路の向こう側の、微睡むような海を見つめていた。


 波はとても穏やかなのに、泣いているような気がした。

どうしてそう思うのかは、自分でも分からない。


 波間に隠れ、表面しか見ることができないが、

なぜか、それを見つめていると、その深い部分まで

触れたような、不思議な気持ちになる。


 気づけば、夜明けの太陽が、海に昇る。


 目の前を電車が過ぎ去りて行き、パッと、視界が開けた。



 その瞬間、海は、朝日を受け止めて、青く、蒼く、白く、黒く、銀色の、

無数の光を放った。



 叫ぶようなその眩しさを、男はまっすぐ、見つめていた。



 線路の向こう側に、光を背に受ける、一人の青年の姿があった。


 目が合うと、彼は微笑み、呟く。


「彼女はもう、ここにはいない」



 踏切の遮断機が上がる。


本作品を最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

やりたいことを色々と詰め込んだ作品になったので、ややこしい部分が

多々あったかと思いますが、それも含めて感想をいただけると嬉しいです。

皆様とこの幸せを分かち合うことができれば幸いです。

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