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第1章 見つける人
第1章 見つける人
静かにドアが開き、男が一人、電車を降りた。
太陽が沈む夕暮れ時。看板には、無機質に「終点」とだけ書かれている。
眼鏡をかけ、スーツ姿のその男は、改札を抜け、誰もいない駅舎を出る。
どこまでも静かな海が、遠くまで続いていた。
それを見て、男は不意に立ち止まる。
鞄から計測器を取り出し確認したが、数値に変化はなく、
本部からの異常を伝える連絡もなかった。
男は少しだけ考え込むが、計測器を仕舞うと、眼鏡の位置を正して、
足早に目的の場所へと向かっていく。
カーン、カーンと、踏切の遮断機が下り、警告音が響く。
男は線路の向こう側の、微睡むような海の中へ、
太陽が沈んでいく様子を見つめていた。
もう、日が暮れようとしていた。
電車が通り過ぎ、遮断機が上がる。
着いたのは、穏やかな潮風が吹き抜ける海だった。
砂浜を踏みしめながら、男は波打ち際へと歩み寄る。
沖からカモメの鳴き声が小さく聞こえたが、夕闇に溶けて消えていく。
男の姿も、もう見えない。




