表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

死期が分かる女

「それで、セイは子供の幽霊が怖くて、大急ぎで剥製を仕上げた。で。爪はどうしたの?」

 マユが、……正確にはマユの声が聖に聞く。


  お盆が過ぎて、急に涼しくなった。

山の夜は寒いくらいで、夜更けの熱いコーヒーが旨い。

曰くありげな仕事を終わらせて一息付いていた。

  ……マユが来てくれたらいいのに、という思いが、願いに、欲求に上り詰めた時、

  マユの気配を感じた。


「もちろん、カラスの中に元あった場所に戻したよ。一部接着剤が乾燥しきってないけど、明日朝一番に送るんだ」

  最短二週間の行程を数日徹夜して十日でやり遂げた。


「カラスの剥製見たい。どこ?」

マユの姿が一瞬見えた。

カラスに執着したみたいだ。

この世の出来事に興味を示すと実体化するのかもと、ふと思う。


「もう梱包しちゃった。子供の幽霊が怖いから、作業室に置いてる」

聖は言ってしまってから、幽霊のマユに失礼だったと、気がついた。


「指くわえてぼーっと立ってるんだ。話しかけても答えてくれないし。なんか怒ってるみたいだし」

と補足した。

「指くわえてる子供、カラスのお腹から出てきた爪。

 これって、その子の指をカラスが食べちゃったって事じゃない」

マユはさらりと言った。

でもカラスが子供を襲ったりしないだろうと、聖は思いたかった。


「待って、死んでからなら、不思議じゃ無いでしょ。カラスは死肉を食べるんだから」

それはそうだ。

山本マユの身体は森の生き物に食べ尽くされた。

その中にはカラスもいたのだ。

だけど、マユは自分を食べた獣に憑かずに、ここにいるでは無いか。


「もしかしたら、指だけ食べられたんじゃないのかな。その子にとって一番必要な身体のパーツだったの。親指をしゃぶるのが癖だったのね。だから憑いてきた」

成る程、と聖は納得する。

つまり、あの子はカラスに見つかる場所に一定時間死体でいた。

カラスに指だけ囓られた後で、人間に発見された。

そういう事か。


「発見されたのかどうか、わからないよね。ちょっと調べてみたら。行方不明のサイトに出てるかも」

ええっ、と思わず聖はひるんだ。

だって、あのサイトには山本マユが出てる。

いいのか見ても?

嫌だ、自分が見たくない。

生前のマユの写真を見たくない。

可愛いけど、自分が知ってるマユとは違う。


初めて神流工房に来たマユは肌が透けるように美しく、その身体は白鳥のごとく滑らかな曲線だけで出来ていてた。

この世のモノとは思われない美しさだった。まあ、事実この世の人では無かったが。

最近、姿は滅多に見えない。

もはや声だけの存在だ。それでも聖の目には美しいマユが焼き付いている。

多分淡い恋心を含んでいた。

死後のマユしか知らないから、生前のマユの世界に自分は存在しない。

だから、見たくない。

どうあがいても関わり合えない、生きていたマユに触れたくない。


「それより、まず依頼主を調べてみるよ、カラスの死因が気になるんだ」


依頼主は露蘭子カスミランコ、という。

改めてみたら胡散臭い名前だ。本名ではないのか。

しかし神流聖カミナガレセイという名もあるのだから本名かもしれない。


名前を検索したら、霞蘭子はちょっとした有名人だった。

狂人か本物の超能力者かと、話題になっている。

蘭子が配信した動画の再生数は、万を超えていた。


『ワタクシには人がいつ死ぬかが見えるんです』

と、紫のワンピースを着た四十才くらいの女がしゃべり出す。


色白でぽっちゃりしてる。

  量の多い黒髪は前髪ぷっつんでストレートのロング。

顔は、アイメークがキツくて素顔がわからないが、口から下が随分長い顔だ。


『養女のミチルです。可哀想な娘です。この子はあと百日で死んでしまうのです』


突如膝の上に女の子が現れた。

そういう風に編集している。

うわあ、と聖は声を上げる。

「その子なのね」

マユの声が大きい。


ミチルは、無表情で右手の親指を吸っていた。

ツインテールは同じ。服は違ってる。

白地に青のドットのTシャツにデニムのミニスカート。普段着っぽい。


蘭子は幼い頃から人の寿命が分かったと言いだした。

 

『……最初は叔父でした。父の弟です。


叔父は、三月十日で期限が切れる、と話していました。


ワタクシはまだ五歳か六歳。小学校にいく前でした。

父と叔父の話など聞いて居なかったのに、叔父の一言だけが耳に届いたのです。

あれは、とても寒い日でした。

黒い服を着た親戚がうちに集まっていました。

実家は本家と呼ばれ年に数回法事で親戚が集まっていましたので、多分ご先祖の何回忌かであったと思われます。

ワタクシは幼心に叔父は三月十日に死ぬのだと思いました。なぜそう思ったのか、わかりません。

カミが与えて下さった力としか思えません。

実際叔父が、ワタクシが聞いた言葉をくちにしたかどうかも分からないのです。

確かなことは叔父が翌春の三月十日に、

交通事故で亡くなったということだけです。

まだ三十九歳でした』


聖は、死に神が見える山田鈴子が頭に浮かんだ。

鈴子は死が近い人の後ろに黒い人影が見える人だ。

マユは、それは死に神ではないと教えてくれた。

死の間際に身体から何かが逃げていく。普通の人には見えない現象が、鈴子には見えるのだと。

では、カラスの剥製の依頼主、霞蘭子の死の予言は、霊界に通じているマユの目にはどう解釈されたのだろうか?


「うそよ、この女嘘つきか、狂ってるかよ」

マユは怒っていた。


「嘘なんだ」

聖はマユの言葉を信じた。

霞蘭子を一目見て胡散臭い人種と感じた直感とズレはない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ