表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

完璧な~

完璧(パーフェクト)な失恋を

作者: 橘 あんこ

初投稿になります。楽しんでいただけたら幸いです。

「何でその子なのよ!!」


私は目の前で見せ付けるように寄り添う男女を睨む。


「瞳が好きなんだ!彼女に手を出すな!」


男は私を睨み返しながら女…早乙女さおとめ ひとみを抱き寄せた。

押し倒された私は、地面にお尻をつけた状態で二人と対峙している。

ここは、学校の体育館裏。

今朝まで雨が降っていたのでジメジメした土は制服を見事に汚した。

瞳に突っかかった私を男がその手を払いのけバランスを崩した為今の状況である。


「私は圭吾けいごの『もの』じゃなかったの?!」


私は男…宮元みやもと 圭吾に詰め寄る。圭吾は軽蔑した目線で私を見下ろし…


「…お前が俺の…?いつも付きまとってただけだろ!!」


私は 目を見開く…。


「鈴ちゃん…ごめん…ごめんね…」


瞳…私の友人だといっていた女が涙を流しながら私に言う。


「こんな奴に謝る必要なんてない!いこう!!」


圭吾は、瞳の肩を抱くと私を睨み…


「二度と俺に近づくな…!」


去り際の最後の言葉を言った。

睨みつける顔でさえかっこいい。

彼はイケメンと呼ばれる男だった。

茶髪に少したれ目の整った顔立ち。頭も運動神経も 完璧パーフェクト

そんな男を周りの女が放って置く訳がない。


母親が親友同士で昔口約束で結婚させようっと言っていたのを聞いていた私は、その時から彼のものになった。

彼との結婚…それは私にとって現実味のあるものだった。

どんな女の子と付き合っても長く続かない圭吾は、最後に私に帰ってくる。

そう…確信していた。だから私は、彼女達に忠告していた。

『私が、彼の『もの』なの!』っと…。

圭吾は母子家庭だから、仕事で忙しいおばさんにかわってお弁当も毎日作った。

卵焼きも圭吾の好物の出しまき卵にして。

それも殆ど受け取ってもらえなかったケド、時々めんどくさそうに食べてくれた。

私は彼がいる場所には必ず顔を出した。

クラスが違っても毎日会いにいった。

朝、おはようのメールをして 寝る前にはお休みにメール。

返事は一回もなかった。けれど着信拒否にはされなかったから必要なんだと思った。

見た目も気にする彼のために彼の好みの清純系にしていたし 化粧もしていない。

勉強も、主席を守る彼に少しでも近づけるように恥ずかしくない程度を頑張った。

必然と中学の頃から友人はいなかった。彼だけしか私にはいなかった。

高校に入って一ヶ月…もちろん友人がいない私に 友人が出来た。

そして、その二ヵ月後に私は体育館の裏で制服を汚している。


私は制服が汚れているのを気にせず堂々と正門から帰った。

傍から見たら何かあったのは一目瞭然だろう。

きっと私を知っている人からみたら『ざまぁ』な展開なのかもしれない。

あれだけ、周りから見てもウザイ女の子を演じたんだ。

そうじゃないと今までの私の努力が水の泡になってしまう。

明日にはいい話のネタだろう。

毎日変わり栄えのない日常にネタを提供したんだ。

がっつり浸透して楽しんでほしい。

そして彼ら二人を満足させて、私の存在を隠してほしい。

もうすぐ夏休みなのも丁度良かった。早く家に帰りたいのをグッと我慢する。

一人でも多くの生徒に惨めな私を見せながら帰るのだ。

そう…今は…まだ笑ってはいけない・・・。まだ終わってないのだ。





――――三ヶ月前――――――


「なんていうか…大変そうね」


窓から他の女といちゃつく圭吾を見ながらため息をついている私にクラスメイトの荻原おぎわら 時子ときこが話しかけてきた。

メガネをして知的に見える彼女と会話をするのはコレが始めてだった。


「…大変…そう?」


どういう意味なのか…いつもは当たり障りのない返事で返す私だったが、何となく彼女と話をつなげてみたくて素直に思ったことを口にしてみる。


「いつ彼の『もの』じゃなくなるのかしらね?」


私から目線を窓も外に移しそう彼女は言った。私は、その言葉に息を呑む。


「『もの』には権利なんてないもの…」


「捨てればいいのよ…『もの』なんだ『もの』」


あら、やだ…親父ギャグになってしまったわっと笑いながら私に手を差し伸べ…

「友達になりましょう?私なら貴方の邪魔にならないから」


いつの間にか彼女のペースになってしまっていた私はその手を握り返していた。

高校に入ってから初めての友人が出来た。

彼女の言うとおり邪魔にはならなかった。

圭吾中心の生活の空いた時間に彼女がいる。

ただ其れだけの関係だったが 一人…また一人と私の周りに人が増えていった。

その中の一人が瞳だった。

いつの間にか荻原さんが彼女を私の元につれてきた。

男子には評判がいい彼女だったが女子には最悪だった。

なので私の元は彼女にとって居心地が良かったのであろう。

何せ男子にも女子にも線引きされている私と一緒だ。

いい隠れ蓑でもあったんだと思う。

瞳は、当たり前のように私に付きまとい、あっという間に圭吾の関心をさらった。

その手腕に感動と女の怖さを知った。


――――――――――――


圭吾は 完璧パーフェクトだった。


母親達が口約束でも結婚の二文字を口にした時は嫌悪しかなかった。

完璧な奴と比べられるなんて誰だって嫌だと思う。

そんな人間と結婚したいなんて 余程自分に自信があるか馬鹿なんじゃないだろうか?

努力が無駄だと感じる人生なんて本当にごめんこうむりたい。

好きになる要素は私には欠片もなかった。それ以前にまったく関わってなかった。

ときどき母親に連れられ圭吾の家に遊びにいくぐらいだ。

本当にそれだけだった。好きどころか興味もなかった。

なのに、母親からは


遊びにいく=圭吾の事が好き


という方程式が出来上がっていた。

イケメンだから娘は恋に落ちているはず!っという思い込み。

その思い込みは、圭吾の母親にも伝わっているらしく私はその事実を必死に否定した。

けれど思春期の女の子の恥じらいだと片付けられた。

その時に彼に言われたのだ。


「お前は俺の 『もの』程度だな」っと…


その時 反論しようと彼を見た私は何も言えなくなった。

彼の目が私に何も言わせなかった。

圭吾は 完璧パーフェクトだった。

だから許せないのだ。私が彼を好きでも何でもない事実を。

プライドが高いと言ってしまえばそれまでだが…この威圧感につぶされそうだ。

私は、『もの』である事が一番安全な場所なんだと瞬間に察知した。


それからは、彼からのつぶやきという命令が私を縛った。


まずは、学力を上げること見た目をマシにする事。

シャンプーから化粧水の指定まであった。

何を使えばいいのか分からない私にとっては言われた通りにするのは案外簡単だった。

勉強は問題集をといて 圭吾が採点をする。

それだけだったが何とか学力も中より上を安定させることができた。


次の彼のつぶやきはメールだった。毎日のメール。

私はメールなどはめんどうなたちで何を送ればいいのかわからず 寝る前に『おやすみなさい』っとだけ送った。

そんな短いメールだったが合格点だったらしく『おう』っと短いメールが返ってきた。

朝のメールも追加されたのは、このメールの次の日だった。


その次は毎日顔を出すっという事。

『好きなら毎日会いたいものなんだろ?』っと命令された。

さすがにそれは無理だわぁ~周りの目も気になるし毎日じゃなくても会いにいける時だけでいいよね。

なんて考えていた私が馬鹿だった。私は彼の『もの』だ。

『もの』に意思なんて持っちゃいけないのだ。

会いに行かなかった放課後、学校の廊下で流行りだった壁ドンされた。

その状態で会いにこなかった理由を問い詰められた。

友人との約束で勉強を見ていたのだ。そう彼にいうと大きなため息をつかれ言われた。


「そんなに 拗ねるな」


何を言われているのか分からなくてこれが漫画だったら頭にクエスチョンマークが跳んでいることだろう。


「『もの』が嫌だったのなら素直に言えば良かったのに…」


やっと分かってくれたのか!っと一瞬喜んで、彼の目を見る。

瞬時にぬか喜びだと気づく。彼の目に少しの熱が含まれている事に気づいたからだ。

なんでこんな展開になったのか分からない。分かりたくない。

圭吾の手が私の髪を一つまみ掴む。


「俺に会いにきてほしいなら言えばいい…って 『もの』だと言い難いか…」


ちがう…ちがうのに言葉に出来ない。彼にこれ以上何かを言わせちゃいけない。


「なら、俺の 『もの』じゃなく…「いや!」


彼の言葉をぶった切って必死に擦り寄る。


「いや!圭吾の 『もの』でいさせて!お願い!」


「…鈴」


「お願い!!圭吾…」


上目使いで圭吾を見ると少し眉をしかめたが、すぐに機嫌を取り戻しフッと鼻で笑って離れていった。

正解だったらしい…。この瞬間から友人関係をあきらめた。

それからは彼の 『もの』として何でもした。

かなり必死だったんだと思う。何も考えたくなかった。

彼を愛しすぎる女を私は 完璧パーフェクトに演じた。



 完璧パーフェクトに対抗するためには 完璧パーフェクトで対抗するしかない。

私は 完璧パーフェクトな彼の『もの』だった。





そしてやっと…――――――



泥だらけで 帰った私を母は心配し 私は泣きながら事情を説明する。

彼は母の前では 好青年で通っていたのでその内容が始めは信じられないようだったが 娘のぼろぼろの姿に最後は『お願い』も受け入れてくれた。

父が出張している九州に転校すること…

その事を絶対に 圭吾の母には言わないことそれが私の『お願い』

もともと私の為に母はここに残ってくれていた。

 転校は難しいことではないだろう。普通よりある学力も役に立ちそうだ。

圭吾のせいで転校する事になるが 圭吾のお掛けで転校が楽に出来そうだ。



一週間後私は、完璧パーフェクトに終わらせる事ができた。




――――――――――――




荻原 時子は、転校していった友人と電話を楽しむ事にした。


『もしもーし』


間延びした友人の声に笑ってしまう。

ほんの数週間前までの彼女と違う事がこんなにも嬉しい。

そして他愛もない話をした後 彼女… 工藤くどう 鈴子すずこが居なくなった学校の様子を話す。


宮元圭吾と早乙女瞳は、すぐに別れた事。瞳は納得してない事。

圭吾が主席ではなくなった事。圭吾が誰とも付き合っていない事。

最後に一番重要な事。圭吾が鈴子を探している事。


黙って時子の話を聞いていた鈴子が最後の話に息を呑んだのが分かる。


彼が鈴子を探し始めるのが思ったより早かったのだろう。

きっと彼は鈴子はどんな事があっても自分から離れない自信があったんだろうから。


しかし彼女は圭吾の執着から逃げたかった。絶対に見ようとしなかった彼の気持ち。

知ってしまえば完璧に逃れられなかっただろう…。

今でも逃れられているとは言いがたいが…


何しろ彼には最後の切り札、母親同士の縁がある。

今はまだ大丈夫だろう…だが 完璧パーフェクトな彼の事だ。


最後は…



そう考えて 時子は考えるのをやめた。

完璧パーフェクト失恋にげきった彼女の勝利を祈ろう…。


もっと完璧パーフェクトに逃げ切れるように…











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読み進めるほどに先の展開が気になる、とても面白い作品でした。 少ない文字数の中で鈴子以外の登場人物があまり主張をし過ぎず、それでいて、それぞれどういうキャラなのかが分かりやすいので物語の本…
[良い点] 思春期の恋愛について、「完璧」と「もの」という観点から、深い心情とテーマが描かれていると思います。
[一言] ここまで拗れてしまったら、最早こういう風にするしかないと分かる一方…… ここまで拗れてしまったのは不思議かも? 泣いてボロボロになって帰ってきたら転校させて貰えるということは、幼少時の最初の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ