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4.ガミジン


  ◇



 ……それから数日間、同じようにクラス対抗戦が催された。そして俺は、その全てにおいて敗北し、「一年生最弱」の称号を賜ったのだった。


「おい、雑魚」

「雑魚、パン買って来いよ」

「……」

 そうなれば、当然のように、俺を見下してふんぞり返る輩が現れる。おまけにそいつらは、クラスの下位に位置する生徒なのだから、余計に笑える。最弱の俺が言えたものではないが、そういう態度を改めないから、強者に勝てないのではないだろうか?

「おら、どうした? 行ってこいよ」

「……」

 無論、俺がそんな奴らの言いなりになるはずはなく。俺は自分の昼食だけ済ませると、図書館で残った本を読んでいた。……あいつらは後で俺に暴力を振るってくるかもしれないが、別に構わない。確かに俺は人間には勝てないが、別に死ぬことはないし、死ぬほど痛いわけでもない。積極的に回避したい事態でもないのだ。

「あ、ここにいたんだ」

「……担任か」

 大人しくラノベを読んでいた俺に、話しかけてきた人物がいた。担任の望月だ。

「こんなところで寂しく読書? お友達の一人くらい作れば?」

「作ろうと思って作った友など、何の意味も成さないさ」

「……それ、その本の受け売りでしょ?」

 望月の言葉を受け流そうとした俺だったが、あっさりと元ネタがばれてしまう。……まあ、こいつが読めと言った本だ。知っていて当然だろうが。

「それで? 本当にお友達もいないの? これからの学園生活、そんなんで大丈夫?」

「そちらこそ、「普通の学生」に対して、心配しすぎじゃないか?」

「そりゃそうよ。あなたは「普通の学生」だけど、「特別な学生」でもあるんだから」

 望月の言葉に、俺は咄嗟に周囲を見回した。……幸い、近くに他の生徒はいない。入り口近くのカウンターに図書委員らしき生徒がいたが、距離があったので聞かれてはいないだろう。

「大丈夫だよ。別に、聞かれても。「特別な学生」っていうのは、「一年生最弱」って意味だと思われるだけだから」

「それはそれで不名誉だが……それにしても、無用心だろ」

「無理に隠さないほうが案外ばれないんだよ?」

 望月の言うことも一理あるのだが、もう少し用心して欲しい。俺が「特別な学生」であることは、他の生徒に知られてはいけない。その制約を俺に課したのは、望月たち学園の人間だ。それなのに、自分でその秘密を漏らしかけているのでは、世話ない。

「ま、私個人としてはばれてもいいんだけどね。……あの子たちには、強さの意味を間違えないで欲しいから」

「……まあ、そこは分からないでもないがな」

「でしょ? あなたは確かに弱いけど、それは相手が人間だから。実戦になったら、あなたほど心強い人はいないよ。それを理解してないと、みんなすぐに死んじゃうから」

 実戦―――この学園において、それはバアルとの戦闘を指している。バアル自体は偶発的に発生するため、バアルとの実戦はカリキュラムには入っていないが、成績上位の生徒はバアル討伐の任務をこなすことがある。そして、それこそがこの学園で最も多い、死因だ。

「自分の強さを客観的に認識できない子から死んでくから、あなたみたいな規格外は色々助かるの。教育者として」

「ま、大半の奴らには、絶対に認識できないだろうな」

 人間という生き物は、自分を客観的に見ることが中々出来ない。だからこそ、自分の力を過信して、或いは過小評価して、自分の身を危うくする。だからこそ、俺のような「特別な学生」は、思い上がった生徒たちを冷静にさせるのだろう。とはいえ、その機会はほぼないだろうが。

「分からないよ? ここら辺はバアルが出現しやすいし、放課後に生徒が襲われることも少なくないんだから」

 ここ「A・ジェイク学園」周辺は、バアルによって壊滅させられた。バアルは同じ場所に再度出現しやすく、ここは特に多く発生する。故に、バアルの対処とエクソシストの教育に一番適したこの土地に学園が作られたのだ。

「まあ、そうならないことを祈る。……そもそも、俺だって全てのバアルに勝てるわけじゃないしな」

「そうだね。それが世界規模で達成されれば、一番かもね」

 俺の言葉に、望月は遠回しな皮肉―――本人にそのつもりはないだろうが―――を残し、図書室から出て行った。……やれやれ、これでゆっくり本が読めるな。



 ……その頃、校内にある別の場所で。


史絵菜しえな、それは?」

「レナか。……今年の新入生たちについて纏めた資料さ。最新の成績も入ってるよ」

「へー」

 校舎の隅にある、一般生徒が立ち入らない部屋。そこには、五人の生徒がいた。言うまでもなく、彼らは一般の生徒ではない。この場にいることが許された面々だ。

「今年は凄いのがいるんだ。この、雛山ウルスラって女子生徒。実技訓練で一度も負けたことがないんだって」

「そりゃ恐ろしいな。史絵菜と同じ、文句なしの最強か」

「……それはどういう意味だ?」

 会話をしているのは、二人の生徒。史絵菜と呼ばれた女子生徒と、レナと呼ばれた男子生徒だ。一年生たちの資料を眺めながら、そんなことを話していた。

「……まあ、いいか。とにかくこいつ、生徒会うちにスカウトしたいんだよな」

「ふーん、いいんじゃない? まだ実技訓練だけだけど、強い人材はいたほうがいいから」

 男臭くて粗暴な口調の史絵菜と、軽薄そうな話し方をするレナ。二人はそれから資料を繰っていき、やがてある生徒に目を留めた。

「おや、こいつ……はは、これは面白いな」

「どうしたのさ? ……ああ、なるほどね」

 二人が見つけたのは、織部一哉という生徒。その生徒は、成績最下位という位置づけであった。それだけなら不思議でもなんでもないが、問題なのは実技訓練以外の箇所だ。

「実技訓練では全戦全敗。けど、入学時の体力テストは極めて平均的。彼よりも体力が劣る子も大分いるのに、その子達にも彼は負けてる。これは驚くべきことだ」

「確かに、里奈より弱そうな子にも負けてるね」

「レ、レナ先輩、何失礼なこと言ってるんですか……?」

 二人の会話に、別の一人が割り込んできた。先程から、部屋の片隅で書類整理をしていた女子生徒だ。気弱な声ではあったが、はっきりと抗議する。彼女が里奈なのだろう。

「でも、実際に里奈は弱いじゃないか。まあ、神学が専門だから仕方ないだろうけど」

「うぅ……史絵菜先輩まで」

「でも、里奈より弱そうな子にも負けるなんて、どういうことなんだろう?」

「な? 気になるだろ?」

 貶されて半泣きになっている里奈には構わず、史絵菜とレナは会話を続けた。……「A・ジェイク学園」生徒会、その会長と副会長が、一哉に目をつけた瞬間だった。

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