直樹さんの“彼女”
「ねえねえ、花鈴と直樹は中学から同じなの?一回断ったって本当?」
私の後ろの席の彼、田辺悠。入学式を終え、教室にきてからずっとこうだ。人の恋愛事情なんてほっといてほしいものだが。
「先生の話を聞いてください。」
振り向かずに素っ気なく答える私の態度で、私の機嫌があまり好ましくないと察したようだ。
私のすぐ後ろにあった彼の気配が少し遠のいた。
担任の先生の話を耳では聞きながら、頭では全く別のことを考えていた。
直樹さんの身なりのことだ。何があってあんなに豹変してしまったのか…。いわゆる高校生デビュー、てやつなのかな。
私は前の方が良かった、と正直思った。私自身、そんなに派手なタイプではないから、自然とそんなタイプの人は避けてしまうのだ。
***
11時頃、高校生活初日が終わった。千春とバスを待ちながら、お互いのクラスの雰囲気や、担任の先生の話をする。
千春のクラスはどうやら、学校で一番厳しい先生らしい。
「私なんか初日からいきなり注意されてさー、もうやだよー。」
そんな千春に、後ろの席の田辺悠の話をした。
私は正直彼の態度を千春も避難してくれると思っていた。しかし、千春は共感もせず、同情もしなかった。
「あんな大胆な告白してたらそりゃ、ね。ていうか花鈴、私と帰ってるけど、直樹と帰らなくていいの?」
中学からずっと一緒に帰っていて、当たり前のように今も一緒に帰ろうとしていた。でも考えてみれば、つき合ったのだから、一緒に帰るべきなのだろうか。
しばらくいろんな考えが頭の中をグルグル回り、ただじっと千春をみつめてしまった。
千春は呆れたように小さなため息をもらし、目を閉じた。
「なんていうかさー、小学校から花鈴とはずっと一緒じゃん。彼氏がいたことなかったし、花鈴と恋バナしても私が一方的に話す形になったりしてさ。正直ちょっと心配だったの。でも考えてみたら、花鈴って直樹のこといつも見てたし…普通に恋してたんだね。ま、直樹も花鈴も恋愛初心者って感じだし。それはそれで心配だけど。」
千春は少し寂しそうな、嬉しそうな…何ともいえない表情で話し終えた。
私が直樹さんのことをいつもみていた?そんなの自分でも気付かなかった。
まだ頭が追い付いてきていないが、千春がいつも自分のことを見守ってくれたり、心配してくれたりしていたことがわかり、心の底から嬉しさがこみ上げてきた。
「千春、ありが‥」
そのとき、丁度バスがきて私の言葉は遮られてしまった。千春を見ると、少し頬を赤らめている。
バスに乗り込み、千春と他愛ない会話をしていた私は、次の瞬間、心臓が口からでそうになった。
バスに乗り込んできたのは、直樹さんと、私の後ろの席の彼、悠さんだった。
そりゃ、悠さんのことも気にはなったけど、なによりも、直樹さんをこんなに近くでみたのは、今朝の告白以来だ。妙に緊張する。
あっちも私に気付いたようで、目が思い切りあった。つい、パッと目をそらしてしまい、すぐに後悔した。
ところが、もう一度直樹さんの方をみると、あちらも私と全く同じ状況下におかれていた。
再び目を合わせた二人は、今度は恥ずかしいながらも目を離さず、お互いに微笑んだ。
すると、直樹さんは頭をかきながら下を向いた。私はすぐにその理由を悟った。直樹さんの耳は林檎のように真っ赤だったのだ。
きっと、顔はもっと林檎みたいに真っ赤なのだろうと想像すると、可笑しくてふふっと笑った。
私の心には、ついさっきとは何か少し違う嬉しさがこみ上げていた。
あまりに直樹さんばかり見ていて、千春と悠さんがニヤニヤ二人を眺めていることに気付かなかった。
「あの人がさっき話してた人。直樹さんと友達だとは思わなかった。もしかして、彼の影響で直樹さんも髪を染めたのかな…。それにピアスも制服も…。」
本人に聞こえないように、私は声を潜めて千春に問いかけた。
悠さんはかなり明るめの茶髪で、制服はもはや、それは制服なのか?というくらいに着崩していた。ピアスは耳だけでなく、下唇の左端にも一つついていた。
第一印象は大事だよ、と彼に伝えてあげたい…。
「花鈴ってああいうタイプ苦手だよね。直樹、顔広いからねー、でも私もちょっとビックリ…。」
そう言うなり、いきなり深刻な顔に急変した千春。
「でもね、直樹が急変したのはあんたのためだよ、花鈴。」
私どちらかというと前の方が…。て、え?何?私の為って何?え?
混乱した私を見かねた千春はニヤニヤしながら顎で直樹さんをさした。
「まあ、詳しい話は本人に聞きな。花鈴は直樹のか・の・じょ♡なんだからさ。」
つづく♬




