高校生活一日目
最後に彼と会ったのは下駄箱での告白以来だ。髪は寝癖一つなく、艶のある黒髪で、制服をきちんと着こなし、ホコリ一つついていなかった。
“真面目”を形にしたような身なりだったが、かなりの美形だった。
ところが今私の目の前にいる彼は髪を金色に染め、日の光を浴びて輝いている。
制服を程よく着崩し、ちらりと見えた耳には数ヶ所シルバーのピアスが施されていた。
正直、一瞬高松直樹だと気付かなかった。しかし、緑に輝く優しい目が高松直樹だということを証明していた。
それに、変わったのはそれだけではなかった。彼の周りを少なくとも5~6人の女子が群がっていたのだ。本人は誰かを捜しているようでそんなこと気にもとめていない様子だったが。
中学の頃から隠れファンはいたがどこか話しかけずらかったようでこんな事は一度もなかった。見た目だけでこんなにも変わるものなんだなあ。
そうこうしているうちに直樹さんは誰かを見つけたらしく手を振ってにっこりと優しい笑みをこぼした。
「花鈴、花鈴!!」
千春があまりにも強く背中をたたくので私はよろめいて危うく倒れそうになった。
いったい何なんだ?ころびかけた事に対する怒りで振り向くとき若干千春をにらんでしまった。
しかし、千春は私を見ていなかった。私の先にいる“何か”を驚いたような嬉しそうな表情で見つめ、指さしている。
振り向くと高松直樹がさっきよりも明らかに近くで、心配そうな表情で立っていた。
状況を把握するのにまた時間がかかった。今、手を振っていたのは私に対して?
「あ、俺のこと分かんない?下駄箱で…」
私は激しく首を振った。そんな、分からないなんて有り得ない。
「まさか、同じ高校に進学していたなんてね、これってすごい偶然だよね。」
自分の中に“嬉しい”という感情があるのは明らかだった。自然に笑顔がこぼれ、何か、もっと何か話したいと思っている。
短い間があった。下駄箱で見た彼の面影はその優しい目だけだったが、また新たにあのころと変わらない部分を見つけた。
彼の真っ赤になった表情だ。下駄箱での告白のときと全く変わらない。
「もし忘れてしまっていたら全然かまわないけど、君今は大事な時期だからって断ったろ?俺考えたんだ。もっと余裕のある時期に告白していれば、て。それで…」
「私も…同じこと考えてた。もしタイミングが違ったら、きっと」
お互いに言葉が切れ、長い沈黙…。でもお互いに、言いたいことはハッキリ分かっている。
「「付き合って下さい!」」
これが恋なんだと気付くまで実は長い時間がかかっていた。断ってからずっと直木さんの顔が離れなくて、いつしか断ってしまった自分に後悔していた。
こんなチャンスがまた来るなんて思ってもみなかった私は、自分が何を言っているのかいまいちわかっていなかった。
千春は横で口をぱっくり開けて2人を交互に見ていた。
プッ
二人で目を見合わせて吹き出してしまった。何がなんだか分からないが、きっとこれが人を好きになるってことなんだ。
***
入学早々初めて彼氏が出来た私はまた、夢と現実を行ったりきたりしていた。
高校では千春とクラスは離れてしまい、直樹とは同じクラスになった。悪いことをしたわけでもないのに妙に気まずいこの空間。
10分休みには千春のクラスに行こうと心の中で決めた。
それにしても千春以外に友達はいない上、高校で初めて見る顔ばかり。うまくやっていけるか、正直不安で仕方ない。
「ね、ちょいちょい。」
後ろの席から急に声をかけられ驚きのあまり声がでなかった。
私が答える前に後ろの席の男子はニターッと無邪気な笑顔を顔いっぱいに広げて話し出した。
「朝、すごい大胆な告白してたよね。ん?されてた…かな?」
「み、見てたんですか…。」
この人が見てたなら多分、あと数人、いや十数人が見ていたに違いない。恥ずかしさが急にこみ上げてきて顔が真っ赤になり泣きそうになってしまった。
今まで注目されたこともないし噂になるようなこともなかった。なのに、高校生活一日目からもの凄いことしてしまった。
これからどんな高校生活になるのか、もうなんか不安しかないのですが…。
つづく♬




