下駄箱の告白
最初はあなたのこと好きじゃなかった。なのにどうして?この気持ちが好き、てことなのかな?……
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私は橘花鈴。普通の、本当にふつうの中学三年生。
これといった趣味や特技もなく、なんとなく15年間過ごしてきた。けれど別にそんな毎日に不満があるわけではない。というか、これからもずっと今のままだと思っていた。
いや、一つ普通の中学三年生と違うことがある。私はいまだかつて“恋”をしたことがない。今まで男をそんな目で見たことなんてないし逆にたぶん見られたこともない。
でもそのせいで困ったことも一度もない。だから大丈‥
「えー、でも好きな人いると学校生活ぜんっぜん違うよ!?」
彼女は私の友達、森下千春。バレーボール部に所属していて将来はプロになるのが夢だそう。毎日生き生きと過ごしていて、さらには恋多き女子だ。
つまりは私と正反対の人ってこと。
「千春と私は違うの。それにどっちにしろ今は受験勉強で忙しいし。」
私がノートと教科書を机に出したのと同時に授業開始のチャイムが鳴った。まだ何か言いたげだったがしぶしぶ自分の席に戻る千春を目でおいながらふと、視界の端で私を指さす男子を捉えた。1人こっちに向かってくる。
「あのー橘さん、昼休みに、えっとー三年の下駄箱にきてください!!」
答えるまもなく男子は自分の教室に走り去ってしまった。きちんとしたイメージの男子だ。千春がわざわざ後ろを向いてニヤニヤしている。しかし千春に限らず、クラスにいた何人かは自分をちらちら見ていることに気付いた。
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「三年二組の高松直樹です!ずっと前から好きでした、つきあってください!!」
なぜ下駄箱?ずっとっていつから?ていうか何よりも‥どうして私なの?!
まさか自分にこんな日が来るとは夢にも思っていなかった私は反応が一瞬どころかだいぶ遅れてしまった。
「あー、嬉しいけど、えーっと、会ったばかりだし、えーっと」
言いたいことがうまくまとまらず変に挙動不審になってしまったが“断る”ということはもう頭の中で決まっていた。ただ、何て言えばこの人が、直樹さんが傷つかなくてすむのかが分からなかった。
断るといっても、自分を好きになってくれて勇気を出して告白してくれたことはすごく嬉しかった。だけどだけど…。
「お互いに今は大事な時じゃない。受験とか、ね?だからえーっと、その、そういうことはあの…あの、とにかくごめんなさい。付き合えません。」
私を不安そうに見ていた彼の目から光が消えた。一瞬下を向き、直ぐに顔を上げた。無視やり作った笑顔が私を困らせまいと顔全体に広がっていた。
「そうですよね、ありがとう。」
これも無理矢理絞り出したような声で、何だか無性に申し訳なくなった私は彼の顔をまっすぐに見れなかった。
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「それじゃ」
彼と別れてから少したつまで私はまだ夢か現実かあやふやだった。そんな私を現実に引き戻したのは千春だった。
「告白だったんでしょ??付き合うの?直樹って女子に人気…あっ」
私の顔を見た瞬間、まるで勢いよく噴射していた蛇口をキュッと閉めたように私をじっと見つめた。次に言われる言葉の半分は分かる、と私は思った。
「断ったんだ、そうでしょ?勿体ない。まあでも花鈴可愛いし直樹よりもっといい人がまた…」
今は千春の恋愛口座は聞く気になれなかった。なんとなく、今はこの初めての体験の余韻に浸っていたかった。
直樹さんがもしも、もっと余裕のある時期に告白してくれていたら…もしかしたら付き合っていたかもしれない。そんなことを考えている自分がいた。
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季節はあっという間に過ぎ、私達三年生は卒業した。
私と千春はめでたく同じ高校に合格し、新しい制服に合うお揃いの髪飾りを買ったり、受験で勉強尽くしだったので高校の入学までの少しの間思い切り羽を伸ばした。
そして入学式。晴れて女子高校生デビュー…しかし、入学式で目にしたのは変わり果てた彼、そう、高松直樹だった。
つづく♬




