バス停にて
初投稿になります。
性的な表現はほぼありませんが、百合小説ですので苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
ざあざあ・・・
バス停に雨の音が木霊する。
「雨、やみそうにないわねぇ」
先輩がどこか抜けた口調でそういった。
試合を終え、一緒に帰っていた先輩とわたしは急な夕立に降られてしまった。
そしてテニスラケットをかさ代わりにバス停に駆け込み、今に至るというわけだ。
それにしても・・・
「先輩、ちょっと寒くないですか?」
「確かに・・・ユニフォームがびしょびしょで体が冷えてきたわね」
うーむ・・・このバス停にはストーブとかないしなぁ
どうしたものか・・・
「そうだわ、予備のジャージに着替えましょう。少なくともこの服よりはあったかいでしょう?」
「それはいい考えです」
と、いうわけで着替えることになったのだが・・・
「あら・・・」
「先輩?どうかしたんですか?」
「ジャージもびしょびしょになってしまっているわ・・・花梨ちゃんの方は大丈夫?」
「わたしはエナメルバックなので大丈夫ですけど・・・」
「ならよかった。じゃあ花梨ちゃんは早く着替えちゃいなさい」
「って先輩はどうするんですか?」
「服がないもの、このままで我慢するしかないわね」
そういうと同時に先輩が小さくくしゃみをする。
・・・このままにしとく訳にはいかないよね
「先輩、わたしのジャージを着てください」
「え?でもそうしたら花梨はどうするの?」
「わたしはベンチコートがありますから」
「でも・・・くしゅん!」
「ほら、風邪引いちゃいますから早く!」
「なら・・・借りるわね」
先輩にジャージ一式を貸す。
本当はわたしのベンチコートはびしょびしょにぬれてしまっていてあまり防寒の役目は果たせなさそうなのだが・・・まあ先輩が風邪を引いてしまうよりはましなので我慢するとしよう。
とはいえコートに触られたら一発でばれてしまうので少し離れておくとしよう。
・・・・・・
「ありがとうね花梨ちゃん・・・ってなんでそんな隅っこにいるの?」
「ちょっと隅っこにいたい気分でして。」
「隅っこにいたい気分って・・・」
「まあ気にしないでください。ちゃんと暖はとってますんで。」
「そう、ならいいけど・・・」
・・・・・・
「バス・・・こないわねぇ」
「も、もう1時間たつんですけどね・・・」
まずい、ちょっとびしょぬれのベンチコートをなめていた。
体が芯の芯まで冷え切ってしまった。
「・・・花梨ちゃん?」
「な、なんでしょうか」
しまった!声がふるえちゃった!
「さっきから声が震えてるみたいだけど・・・もしかして」
「あ、先輩!こっちきちゃだめです!」
「やっぱり!コートびしょびしょじゃない!」
「せ、先輩に風邪引いてほしくなくって・・・」
「もう、人よりも自分のこと優先しなさいよ・・・」
「でも・・・」
「でもじゃないでしょ。体冷え切っちゃってるじゃない」
と、あたしの手を握り温度を確かめる先輩
「ほら、ジャージ返すから早く着替えて」
といって先輩がジャージを脱ごうとし始める。
「だ、だめです!先輩が風邪引いちゃうじゃないですか!」
これで先輩が風邪を引いてしまったらわたしの頑張りが水の泡になってしまう。
「でもこのままって訳には・・・そうだ!」
先輩がなにか思いついたような笑みを浮かべる。
「花梨ちゃん、ちょっと立って?」
?
とりあえず先輩にいわれたとおりに立ち上がる。
ギュッ!
!?!?!?
「せ、せんぱい!?」
「ほら、体が冷えたときは人肌で暖めるのがいいっていうじゃない」
そ、それは雪山とかで遭難したときなのでは!?
「ほら、とりあえずおとなしく暖められなさい」
そう先輩にいわれ、わたしはとりあえずおとなしくしたがうことにした。
・・・
「だいぶ温まってきたわね」
「・・・はい」
すこし時間がたち、動揺から立ち直ったわたしの心は鈍い痛みにさいなまれていた。
憧れの先輩をこんなにも近くに感じられることはもちろんうれしい。
できることならこのままずっと抱きしめつづけてもらいたい。
でも、先輩はただわたしを暖めるために抱きしめてるだけ。
私のことが好きだから、抱きしめてくれてるわけじゃない。
そう考えると切なくて悲しくて・・・
「・・・花梨ちゃん?」
気がつくとわたしは涙を流していた。
もう先輩には気づかれてしまっているかもしれないが、せめてもの抵抗で嗚咽をかみ殺す。
「・・・」
フワッ
不意に先輩が頭をなでてきた。
「我慢・・・しなくていいのよ」
そこまでがわたしの我慢の限界だった。
・・・・
「すいません。なんかみっともないところ見せちゃって」
「かわいかったから別にいいわよ」
「あぅ・・・」
「急に泣き出すから少しあせっちゃったけれどね」
「それは・・・」
い、いえない・・・
なんとなく切なくなって泣いちゃったなんて・・・
「私に抱きしめられるの、いやだった?」
「そんなこと!むしろうれし、あっ!」
し、しまった!
「よかった・・・」
ギュッ
「先輩?」
「花梨ちゃんに嫌われてなくて・・・本当によかった」
「わたしが先輩のこと嫌いになるはずないじゃないですか」
「・・・」
「先輩?」
なんだかさっきから先輩の様子がおかしい。
具体的にはわたしが泣いてしまったあたりから。
「花梨ちゃんはずるいわね・・・」
「へ?」
ずるいって・・・
わたしなにかしたっけ?
「私の心をこんな締め付けるなんて・・・もう・・・我慢できなくなっちゃうじゃない・・・」
「わたし・・・先輩にいやな思いさせちゃってました?」
「・・・」
あ、あれ?
先輩が黙り込んじゃった・・・
「花梨ちゃんって・・・意外とにぶいのね。」
「はい?」
「まあいいわ。なら誤解しようのないくらいはっきり言うだけだから」
先輩が深呼吸を始めた。
どうもさっきから先輩の行動におかしなところがおおい。
「それじゃあいうわね」
「はい」
「花梨ちゃんのこと愛してます」
「私と恋人になってください」
え?
わたしは先輩の言葉の意味をすぐには理解できなかった。
そして徐々に頭が先輩の言葉の意味を理解し始める。
うれしさがあふれ出して涙があふれてくる。
「やっぱり嫌だった?」
先輩が不安そうに聞いてくる。
わたしは思い切り首を横に振る。
「嫌だから泣いてるわけじゃないです・・・先輩がわたしのこと好きでいてくれたのがうれしくって・・・」
「ほんとに?じゃあ・・・返事をもらってもいい?」
「はい・・・」
すーはー。
先ほど先輩がしたように深呼吸をする。
「わたしも・・・先輩のこと大好きです」
「花梨ちゃん・・・」
先輩の顔が近づいてくる。
「先輩・・・」
わたしも先輩も目を閉じて、二人の唇がかさな・・・
ブォォン・・・
・・・る直前でバスが来た。
「・・・」
「・・・」
わたしと先輩は少しの間目をあわせて・・・どちらからともなく笑った。
「・・・タイミング悪いバスね」
「・・・本当ですね」
「しょうがないから・・・続きは寮で・・・ね」
「・・・はい」
わたしたちは手をつないでバスに乗り込んだ。
END
いかがでしたでしょうか。
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