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月夜の兎  作者: 望月あさら
■ 4 ■
29/36

4-2

 公一に、玲司はいった。



 ――自分が真恵を現実に連れ戻してくる。だからその後すぐに『魔』を『浄化』してほしい――。



 何を知りどう思ったからそのような結論が出たのか全く分からなかったので聞き返すと、彼は答えた。



 ――彼女は『魔』に精神の一部をとらえられている。それを解放しなければサーナは意識下で自分の力を『魔』に喰わせ続けるだろう。とらえられた精神を開放するには、サーナの持つその部分に直接語りかけ、説得するしかない。とらえられた訳の部分を解消してやるしかない。そしてそれが出来るのは、多分僕だけだ。だから、僕がサーナの意識下に入っていく。彼女が『魔』に力を喰わせている間は、その意識下が『魔』と同調して表に現われているだろう。ただ、それをサーナに従う『光の精霊』が守っているため、外に漏れ出すことがないんだ。しかし、その『光の精霊』の壁を破り、中にいれてもらえたらどうだろう。僕に従う『光の精霊』と、サーナを守る『光の精霊』を融合させ、その隙を付けば中に入ることが出来ると思うんだ。そこで、僕はサーナを『魔』から解放する。だから、コウイ。君は、――。



 サーナが離れたあとの『魔』を『浄化』してほしい、と。

 つい数時間ほど前、玲司は公一にそういった。一人で考え、練りあげた作戦を告げた。

 正直、公一には玲司がどのようなことをいいたいのか分からなかった。

 彼のいうことが漠然としすぎているということもあったが、何より、彼が『霧』で何を見、何を感じ取ったか、それを知らなかった。

 ただ、玲司に覚悟が見えたから――自信ではなく、彼女を救ってみせるという決意が見えたから、間違いはないのだと、それ以上は何も、公一も聞き返しはしなかった。

 もともと、この事件は玲司と真恵の問題だったのかもしれない。このような状況になってくるとそのようにすら思えてくる。

 『魔』にかかったのが真恵で、その彼女を救い出せるのは玲司だけ。

 確かに自分は他の候補生より二人のそばにいる人間だ。出逢ってから今までの成長を目のあたりにしてきた。かといって、本当は自分は、二人のどれだけを知っているのだろうか。他の人より知っているだけでそれほどのことを知っているわけではないのかもしれない。分かっているというのは口先だけなのかもしれない。

 本当は何も知らないのではないのだろうか。 現に、自分は今、何も出来ない。

 こうして、ただ二人を見守るしかない。

「……光の、繭……」

 光の粉が、玲司と真恵の周りを巡っていた。光の残像がきらめく細い糸のように幾重にも折り重なり、二人を包み込んでいく。

 それが、蚕が作り出す繭に似ていると公一は思った。

 深い闇に浮き上がる繭の中で何が行なわれているかは、分からない。

 公一には、分からない。

「…………」

 玲司と真恵は、両目を閉じぴくりとも動かず向かい合い立っていた。

 二人の間では何が行なわれているのか。

 二人はどのような世界にいるのか。

 自分には分からない。想像すらつかない。 当たり前といえば当たり前なのだ。自分は光の繭の外側にいるのだから、中の様子など分からなくて、当たり前。

 外側にいるくせに中の事が分かるというなど、嘘もいいところだ。

 そうなのかもしれない。

 分からないはずのことなのに分かると思い込むことは。

 嘘、だし、思い上りだし。自分の想像の域を出ていないわけだし。

 玲司は、自分なら真恵を救えるといった。

 それは多分、今まで知ることのなかった真恵を知ったからいえる言葉なのだろう。

 そう。玲司は知っている。けれど、自分は知らない。知らないから救えない。それはどうしようもないこと。

 自分と真恵との間には、玲司との間ほどのつながりはない。自分も真恵もそれほどのものを望んでいるわけではない。だから、仕方のないこと。

 自分が何も出来ないことは。

「…………」

 否、違う。自分には出来ることがある。

 『浄化』、だ。

 自分より明らかに強大な『浄化力』を持つ玲司が、自分に『浄化』を頼んできた。

 それはつまり、玲司には『浄化』できない訳があるということだ。

 『浄化』は、自分にしかできないのだ。自分がやるしかないのだ。

「……なあ、サーナ、レイ。俺、本当に、お前達と友達でいれて、よかったなって、思っているよ……」

 真恵救出後、『魔』を『浄化』する。

 最終目的の勝敗は、自分に委ねられている。

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