3-11
何をいいたいのだろう?
何をいっているのだろう?
分からない、分からない、分からない。
父親?
何が父親?
あれが父親?
一体何が?
分からない、分からない、分からない。
彼が何をいいたいのかが分からない。
彼が何を考えているのかが分からない。
そう。例えて、あれが彼の父親だとして、あれの何かが彼の父親だとして、なぜ、自分が逃げなければならない? なぜ、自分に逃げろという?
あれが父親だから?
違う。彼は他に何かをいった。
自分に逃げろという訳を、彼は自分に告げた。
そう。彼は、いった。
あの人の狙いは僕だから。
だから、自分に逃げろ、と?
なぜだ?
分からない、分からない、分からない。
あの人の狙いは僕。
ならばなおさら自分には無関係のことだ。
自分は第三者であるはずだ。
単なる観客。
違う。そんなわけはない。
充分しっかり、こうして巻き込まれている。
関係なくはない。こうして、命の危機にさらされている。
そう。命の危機。
下手をすると、自分は死んでしまう。
そう。だから彼は自分に逃げろといった。
ここにいると死んでしまうから逃げろ、と。
逃げろ、と。
ならば、逃げよう。
死んでしまうから、逃げよう。
彼も、逃げる。
彼も逃げなければ死んでしまうから、逃げる。一緒に、逃げる。
しかし、あの人は追いかけてくるだろう。
なぜならあの人の狙いは彼だから。
彼だけだから。
逃げなければならない。けれど逃げられない。
そう。彼が一緒だと逃げられない。
自分だけなら逃げられる。あの人の狙いは彼だけだから。
そう。逃げられる。逃げよう。
しかし、ならば彼はどうなる?
逃げられない彼はどうなる?
一人になった彼はどうなる?
逃げられなければ、どうなる?
逃げられなければ、死んで、しまう。
逃げられなければ、殺されて、しまう。
逃げられなければ、殺されて、死んで、しまう。
彼も、私も。私も、彼も。
逃げなければ、死んで、――。
――逃げて――。
だから。
一人では、逃げられない。