表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月夜の兎  作者: 望月あさら
■ 3 ■
25/36

3-11

 何をいいたいのだろう?

 何をいっているのだろう?

 分からない、分からない、分からない。

 父親?

 何が父親?

 あれが父親?

 一体何が?

 分からない、分からない、分からない。

 彼が何をいいたいのかが分からない。

 彼が何を考えているのかが分からない。

 そう。例えて、あれが彼の父親だとして、あれの何かが彼の父親だとして、なぜ、自分が逃げなければならない? なぜ、自分に逃げろという?

 あれが父親だから?

 違う。彼は他に何かをいった。

 自分に逃げろという訳を、彼は自分に告げた。

 そう。彼は、いった。

 あの人の狙いは僕だから。

 だから、自分に逃げろ、と?

 なぜだ?

 分からない、分からない、分からない。

 あの人の狙いは僕。

 ならばなおさら自分には無関係のことだ。

 自分は第三者であるはずだ。

 単なる観客。

 違う。そんなわけはない。

 充分しっかり、こうして巻き込まれている。

 関係なくはない。こうして、命の危機にさらされている。

 そう。命の危機。

 下手をすると、自分は死んでしまう。

 そう。だから彼は自分に逃げろといった。

 ここにいると死んでしまうから逃げろ、と。

 逃げろ、と。

 ならば、逃げよう。

 死んでしまうから、逃げよう。

 彼も、逃げる。

 彼も逃げなければ死んでしまうから、逃げる。一緒に、逃げる。

 しかし、あの人は追いかけてくるだろう。

 なぜならあの人の狙いは彼だから。

 彼だけだから。

 逃げなければならない。けれど逃げられない。

 そう。彼が一緒だと逃げられない。

 自分だけなら逃げられる。あの人の狙いは彼だけだから。

 そう。逃げられる。逃げよう。

 しかし、ならば彼はどうなる?

 逃げられない彼はどうなる?

 一人になった彼はどうなる?

 逃げられなければ、どうなる?

 逃げられなければ、死んで、しまう。

 逃げられなければ、殺されて、しまう。

 逃げられなければ、殺されて、死んで、しまう。

 彼も、私も。私も、彼も。

 逃げなければ、死んで、――。



 ――逃げて――。



 だから。

 一人では、逃げられない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ