3-3
――慰みもの――!
なんで!?
どうして!?
レイは走った。
一人、走った。
茶色い土の上、青い芝生の上。緑の雑草の上。
走った。
逃げた。
逃げ出したかった。
過去の柵から。
過去の記憶から。
捨て去りたかった。
過去を全て。
なのに。
――慰みもの――!
どうして!?
どうして!?
草に足を取られた。
前に倒れこむ。
手の平を地に叩きつける。
滑る。
痛い。
「…………」
手の平。
地面で蹲り、見つめる。
茶色く汚れた手の平。
痛い。
痛い。
「……痛い……」
双眸から涙が溢れだす。
頬を伝わり地に落ちていく。
弾け地面に吸い込まれていく。
次から次へと涙は落ちる。
彼は一人、身を小さくし、泣く。
「……いた……」
汚れた両手をいたわるように拳をつくった。
それを目蓋の上にあてる。
声を上げないようにと、押しつける。
「……いた、い……」
どうしてなのだろう。
なぜなのだろう。
自分の過去、それはあの『精霊使い』しか知らないはず。なのに、どうしてあの子が知っているのだろう。どうしてみんなが知っているのだろう。
いわないでと、いったのに。
いわないと、約束したのに。
どうして、どうして、どうして――!
会ってくれるといったのに。
ここに来ても、自分を守ってくれると約束したのに。
どうしてどうしてどうしてどうして――!
会いにこない!
一度も顔を見せてくれない!
なぜ、自分の望むものは手に入らない!?
なぜ、ささやかな願いが聞き入れられない!?
諦めたいのに、諦められられない。
全てのことを放棄してしまえば楽なのに、それは出来ない。
なぜなら、あなたと約束したから。
諦めないと、放棄しないと、あなたがいるなら頑張ると、約束したから。
約束したから!
なのに!?
「……なんで……」
ささやかな願いなのに。
顔を見れば、それだけでいいのに。
気配を感じれば、それでいいのに。
嘘をつき通してくれれば、それでいいのに。
そんなささやかな、願いなのに――。
叶え、られない。
「――――」
自分は、一人。