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月夜の兎  作者: 望月あさら
■ 3 ■
17/36

3-3

 ――慰みもの――!



  なんで!?

  どうして!?



 レイは走った。

 一人、走った。

 茶色い土の上、青い芝生の上。緑の雑草の上。

 走った。

 逃げた。

 逃げ出したかった。

 過去の(しがらみ)から。

 過去の記憶から。

 捨て去りたかった。

 過去を全て。

 なのに。



 ――慰みもの――!



  どうして!?

  どうして!?



 草に足を取られた。

 前に倒れこむ。

 手の平を地に叩きつける。

 滑る。

 痛い。

「…………」

 手の平。

 地面で蹲り、見つめる。

 茶色く汚れた手の平。

 痛い。

 痛い。

「……痛い……」

 双眸から涙が溢れだす。

 頬を伝わり地に落ちていく。

 弾け地面に吸い込まれていく。

 次から次へと涙は落ちる。

 彼は一人、身を小さくし、泣く。

「……いた……」

 汚れた両手をいたわるように拳をつくった。

 それを目蓋の上にあてる。

 声を上げないようにと、押しつける。

「……いた、い……」

 どうしてなのだろう。

 なぜなのだろう。

 自分の過去、それはあの『精霊使い』しか知らないはず。なのに、どうしてあの子が知っているのだろう。どうしてみんなが知っているのだろう。

 いわないでと、いったのに。

 いわないと、約束したのに。



 どうして、どうして、どうして――!



 会ってくれるといったのに。

 ここに来ても、自分を守ってくれると約束したのに。



 どうしてどうしてどうしてどうして――!

 会いにこない!

 一度も顔を見せてくれない!

 なぜ、自分の望むものは手に入らない!?

 なぜ、ささやかな願いが聞き入れられない!?

 諦めたいのに、諦められられない。

 全てのことを放棄してしまえば楽なのに、それは出来ない。

 なぜなら、あなたと約束したから。

 諦めないと、放棄しないと、あなたがいるなら頑張ると、約束したから。

 約束したから!

 なのに!?

「……なんで……」

 ささやかな願いなのに。

 顔を見れば、それだけでいいのに。

 気配を感じれば、それでいいのに。

 嘘をつき通してくれれば、それでいいのに。

 そんなささやかな、願いなのに――。

 叶え、られない。

「――――」




 自分は、一人。




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