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この声を私は知っている

作者: トモダ
掲載日:2025/11/28

誤字脱字がありましたらすみません。

───誰かが私を呼んでいる



───呼んでいるこの声を私は知っている、?



───この声は…





───ピリリリリリ


「朝…。」


この夢は私'サイトウ エリ‘が幼い頃から何度も見ているものだ。知らないのに知っているような…、ひどく懐かしいような…そんな夢。でもこの夢について考えたからといっても何かが分かるわけでも、変わるわけでもない…



今日は月曜日。また代わり映えのない1週間が始まる。


家を出て電車に30分揺られ、駅の大きな看板と多くの人を見送りながら歩き進めて8分のところにある高校に行く。いつもと何も変わらない通学路。下駄箱に靴を置き教室へと向かう。



「おはようエリ」


「おはようマイ」


机に突っ伏しながら挨拶をする彼女は'スズキ マイ‘。入学式で隣だったことから仲良くなった。今ではすっかり親友だ。


「ねえ、エリ…」


「なに?」


「今日ってさ…、もしかして体育あったりする…?」


「え?そうだけど…、もしかしてマイ、体操服忘れてきたの?」


「そうなんだよ~!体育あるのすっかり忘れててさぁ~。今からお姉ちゃんに借りに行くんだけど…」


彼女が勢いよく机から起き上がると


「違う学年のフロアに行くの不安だからついてきてくれない!?おねがい!」


と、顔の前で手を合わせてお願いしてきた。その動作を彼女がやっても可愛いだけなのは不思議だなと思い少し笑えた。


「エリ…?ダメかな?」


「もー、しょうがないなぁ…。その代わり、今度英語教えてよねー」


「まかせてよ!英語だけは唯一得意なんだから!!そうと決まったら早く取りに行こ!」


「あ、ちょっと早いよ!」


私の手を引っ張ってどんどんと進んでいくマイはお姉さんの教室の前に着くと手を離して1人で教室の奥に座っているお姉さんのところへ行ってしまった。


(マイったら…。私はここで待つしかないかな…)


「そこ入りたいんだけど」


(あ、ここドア前だ!邪魔になってる!)


「す、すみません!すぐに避けます…!」


慌てて顔を上げると顔の整った男子生徒と目が合った。


「エリー…?」


「え?」


(今…私の名前を…気のせいだよね…?)


「エリ!!」


「あ、マイ!体操服借りれた?」


「バッチリだよ!あれ?何か話してた?もしかして邪魔しちゃったかな…?」


「ううん。私がドア前にいて道を塞いじゃってただけだよ。」


「そっか!じゃあ教室に戻ろー」


「うん」


「待て!」


男子生徒に急に肩に手を置かれて呼び止められた。


(え…?)


「俺、'ササキ ハルト‘って言うんだけど!君は?名前。」


(私の名前…?)


「わ、私はエリ…です。」


「エリ。覚えた。」




───私はこの声を知っている



───この声は私を呼んでいた…、?



───この声は…



「…!、…リ!、エリ!」


「え?あ、なに?」


「エリ、どうしたの急にぼーっとしちゃって」


「…ちょっと考え事。ねえ、マイはさっきの先輩…ハルト先輩のこと知ってる?」


「え!?逆にエリ知らないの!?見ての通りハルト先輩はすごくイケメンだから女子達からすごく人気なんだよ!でも誰にも興味を示さないから氷の王子様って呼ばれてるんだ。だからさっきエリに名前聞いててびっくりしちゃった!」


「そうなんだ…。」


「なになにー?もしかしてエリ、恋しちゃった!?」


「そ、そんなんじゃないよ!!違くて…。私、あの人に会ったの初めてなのに名前を呼ばれたとき全然初めての感じがしなかったんだよね…」


(懐かしいような…)


「ふーん…私には隠さなくてもいいのにー!私と恋バナしようよー!」


「だからそんなんじゃないよー!」




────────────────────

sideハルト



───俺はあの人を呼んでいる



───呼び続けているのにあの人の返事はない



───この声が…



「…そうだ…僕は…いや、俺はアインハルトだった。」



────────────────────



俺が彼女と会ったのは9歳の時だった。

とある王国の侯爵家の次男として生まれた俺は生まれた時から兄のスペアだった。俺が勉強するのも、剣術を習うのも…生きるのも全て兄に何かあった時のため。そこに俺の意志はなかった。


そんな時に彼女がメイドとしてこの屋敷へやってきた。彼女は当時16歳だった。その時はあまり興味がなかった。どうせみんなと同じだろうと思っていた。俺をスペアとしか見ないだろうと…。


「はじめまして。今日からここでメイドをすることになりました。エリーです。よろしくお願いします。」


そう俺に笑いかけたエリーを見て俺はこの人はみんなと違うかもしれないと思った。…でも期待して裏切られるのは…もう嫌だった…。だから俺は彼女に返事も何もしなかった。


だけど彼女…エリーは変わらなかった。誰に対しても…。ずっと明るく笑顔で、同僚が失敗しても次はできると前向きに励ますことのできる人だった。それは僕に対しても同じだった。俺をスペアとして見ない彼女と過ごすのは楽しかった。ずっと彼女といたいと思った。この気持ちが恋だと気づくのにそう時間はかからなかった。



俺が16歳、エリーが23歳になった。俺は勉強も剣術も必死で取り組んだ。頑張れば頑張った分だけ彼女が褒めてくれたから…。特に俺は剣術に才能があったらしい。16歳の頃には同年代で俺に勝てるやつはいないくらい強くなった。将来は騎士にでもなって彼女と…エリーと結婚して…ずっと一緒になりたかった。


でもそれは叶わなかった…。

ある日、俺は暗殺者に襲われた。いくら剣術ができても数に対抗するのは難しかった。俺は後ろから切りかかってくるやつに気づくのが遅れてしまった。

まずい──。そう思った時に目に入ったのは彼女の顔だった。笑っていた。


そこから俺が何をしたのかはあまり覚えていない。周りを多くの死体が囲んでいる。俺の腕の中の彼女は血だらけで顔は白かった…。


「エリー!エリー!嫌だ!なんで俺なんか庇ったんだ!!お願いだ!!返事をしてくれ…!」


何度も何度も声をかけた。彼女はピクリとも動かず返事もない。


どうしてこうなったのだろうか…


彼女の死体を胸に抱きしめながら帰宅した…


後で調べたところ俺に暗殺者を仕向けたのは兄だった。俺が自分よりも何かが秀でているのが許せなかったらしい。彼女のために学んだ剣術が彼女を殺した…。


俺が彼女を─した…、


彼女を綺麗な花のある丘に埋葬した。彼女の笑顔は…まるで花のように綺麗だったから。俺は毎日通った。何度も声をかけた。返事はない。わかっている。返事は返ってこないことを。でも声をかけ続けた。


それから1年の時が過ぎた。兄への復讐を果たした。もう何をすればいいのかも分からない…。…彼女に声をかけた。


「エリー…俺はまた君に会いたいよ…。また俺に笑いかけてくれよ…エリー…愛してるよ」


…返事はなかった。目を閉じると涙と共に君の笑顔が溢れるのに…。


────────────────────


次に目を開けると僕は…俺はここにいた。なぜ俺はここにいるのだろうか…。エリーは…ここにはいないのに…。



変わらぬ日常が過ぎていく。心が動かされない日々が淡々と過ぎていく…。



(変わらない日常にはもう飽き飽きだ…。…ドア前に誰かいて通れないな…はぁ…。)



「そこ入りたいんだけど」


「す、すみません!すぐに避けます!」


彼女が顔を上げた瞬間、俺は鼓動が高鳴るのを感じた。


(エリー…?)


「え?」


「エリ!!」


(やっぱりエリーなのか!?)


「あ、マイ!体操服借りれた?」


「バッチリだよ!あれ?何か話してた?もしかして邪魔しちゃったかな…?」


「ううん。私がドア前にいて道を塞いじゃってただけだよ。」


「そっか!じゃあ教室に戻ろー」


「うん」


(待ってくれ!彼女を…ッ)


「待て!」


気がついた時にはもう呼び止めていた。


「俺、'ササキ ハルト‘って言うんだけど!君は?名前。」


「わ、私はエリ…です。」


「エリ。覚えた。」


(やっと…返事が返ってきた…。)



エリは俺のことを覚えてないらしい。でも彼女がいると分かっただけで俺は生きる意味を見つけたんだ。



────────────────────



───誰かが私を呼んでいる



───私はこの声を知っている



───この声はずっと…



────────────────────


いつもと変わらない通学路を歩いて下駄箱へ行く。そこにはマイがいた。


「おはようエリ!」


「おはようマイ。朝から元気だね」


「今日は忘れ物もないからね!」


「ならいいけどー」


「一緒に教室行こ!」


「いいよ」


並んで話しながら教室へ向かう。


「エリ!」


(私?)


「ハルト先輩!?」


そこには昨日出会ったハルト先輩がいた。


(な、なぜ私に…!?…でもエリと呼ぶ声はやっぱりどこかで…)


「おはようございます。どうかされましたか?」


「たまたまエリを見つけたから。」


(たまたまで声をかけるんですか!?マイ曰く、氷の王子様が…?)


「あのさ…今日…」


キーンコーンカーンコーン


「エリ!急いで教室に行こ!」


「うん!ハルト先輩、お先に失礼します!」


ドタバタドタバタ


「間に合ったー!」


「ほんとギリギリだけどね…」


「てか、エリってば朝からハルト先輩に話しかけられてたじゃん!」


「私もびっくりしたよ…。ねえ、マイ…」


「ん?なに?」


「名前を呼ばれると初めての感じしないって言ったでしょ?」


「言ってたね」


「なんだかね、懐かしい感じがするの。」


「懐かしい?」


「うん。ずっと聞いていたような…、そんな感じ」


「やっぱり運命なんじゃない!?ハルト先輩も満更じゃなさそうだし!」


「そんなんじゃ…」


「ねえ、ちょっといい?」


(ハルト先輩と同じ学年の先輩…?5人くらいかな…見たことない先輩方だけど…)


「はい。どうかしましたか?」


「話あるからさちょっと来てよ」


マイが私の耳元でこっそりと話す。


「エリ…なんか怖くない?」


「うん…。なんだろう…。少し不安だね」


教室を出て空き教室へと向かう。5人の先輩方に囲まれる。


「あのさ、ハルト君とどういう関係なの?」


(え?ハルト先輩と…?)


「ハルト先輩とは昨日知り合っただけです…」


「ならなんで!私たちが話しかけても何も言わないのにあんたにはハルト君が話しかけるわけ!?ハルト君に近寄んないでよ!」


「そんなのエリは悪くないじゃん!八つ当たりだよ!」


「マ、マイ…」


「生意気!あんたたちなんて…!」


ドンッ


ドアが開き、そこにはハルト先輩がいた。


「ねえ、お前らエリになにやってんの?」


「あ、ハルト君!なんでもないから私たちと行きましょ!」


「なんでもないわけないだろうが。エリが怖がってるんだけど?」


彼はそう言うと私たちの前に立った。


「私たちは何もしてないわよ!」


ああ…。言い争っている。彼の背中が目に入る。私はこの背中を知っている。私は─。


────────────────────


私はとある王国の侯爵家のメイドだった。そこには誰にも期待していないような目を持つ男の子がいた。こんな幼い子供がこんな目をしていいわけがないと思った私はできるだけ彼に話しかけた。彼は次第に私に心を開いてくれるようになった。


彼が16歳の頃にはもうあの頃の男の子はいなかった。剣術に優れていた彼は同世代には負け無しになっていた。そんな彼が私に対してだけ態度が違うのは気づいていた。甘い声で私を呼ぶ。気づかないはずがない。でも私はメイドだ。一生結ばれることはないだろう。近くにいるのに遠い存在で苦しかった…。


ある日、私たちは暗殺者に襲われた。彼は剣で次々と敵を葬っていった。私は動くことが出来なかった。その時、私の目に彼の後ろから襲いかかる人が見えた。私は無意識のうちに走り出していた。


私は彼を守れたらしい…、それがとても誇らしい。それに死んだらこの苦しさも消えてなくなるのだろうと思うとホッとした。私の最後はどんな顔だったかは分からない。だけど彼に…これからの彼に幸せが訪れますように─。


「エリー!…リー…!…」



────────────────────


あぁ、なんで気づかなかったんだろう。思い出せなかったんだろう。あなたのことがこんなにも…


「アインハルト様…」


「!?…エリー…?まさか…思い出したの…?」


「はい、アインハルト様。ずっと私を呼んでくださっていたのですね、」


「な、なによこの雰囲気!あんたたち変よ!私たちはもう行くから!」


ドタドタと部屋から先輩方がいなくなった。


「エリ、なんだか分からないけどお邪魔しないように私も出てくねー!後で洗いざらい話してもらうんだから!」


タッタッタとマイがいなくなる。


(マイ…ありがとう)


「エリー、ごめん…本当にごめん…俺のせいで君は…」


「アインハルト様、謝らないでください。私はあなたを守れて誇らしかったのです。」


「でも!俺が剣術なんてやらなければ君は…ッ!」


「アインハルト様…。私はあなたが剣を振るう姿とても好きでしたよ。襲われたあの時も剣で戦うあなたの背中はとてもかっこよかったです。」


「エリー…」


(今なら言えるのかな…伝えてもいいのかな…)


「アインハルト様…いえ、ハルト先輩」


「エリー…?」


「エリーではなく、エリとしてハルト先輩に言わせてください。私はあなたのことが好きです。前世からずっとずっと。身分のないこの世界ならあなたに思いを伝えられると思いまして…その…急…ですよね?すみません…聞かなかったことに…」


急に視界が暗くなったかと思うと抱きしめられた。私よりも何センチも高い彼に抱きしめられてると私の鼓動を打ち消すくらいの彼の鼓動がちょうど聞こえる。


「俺もずっと好きだった…ずっと言いたかった…愛してるよエリ…」




───呼んでいるこの声を私は知っている。



───この声は…



───愛している貴方の声だと私は知っている。


ご覧いただきありがとうございました。

少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです。

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