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『水が‥。』
冒頭
引っ越してきたのは、築30年の木造アパートだった。
家賃は安いし、駅も近い。 唯一の難点は、水まわりが古いということくらいだ。
「まあ、慣れればなんとかなるか……」
古びた洗面台の蛇口をひねると、しばらくしてゴボゴボと音を立てながら水が流れ出した。 透明だけど、少し――鉄のような匂いがする。
(さすがに、水道管が古いか)
その夜、眠っていると、風呂場のほうから音がした。
――ポタ……ポタ……
水滴が落ちるような、小さな音。 気にせず眠ろうとしたが、音は止まらない。 それどころか、音の間隔がどんどん短くなっていく。
――ポタ、ポタ、ポタポタポタ……
「……え?」
恐る恐る風呂場のドアを開けた。 だがそこには――何もない。
……ただ、床がびっしょりと濡れていた。
蛇口は閉じられていた。 でも、音は……まだどこかから聞こえてくる。
――部屋の中で、“水音”が増えていく。