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9.命名という召喚――彼らの名簿を書く日

二〇一五年九月――体調を崩し、三日ほど入院。



帰宅すると――静かに落ち着いた声が迎えたのです。



聴こえないのに聴こえてしまう声は、

鼓膜を通り越して響き渡るのです。

しかし、初めて聴いた怒号とは

印象が違って、私を気遣う

穏やかな声でした…。




『村の学校の全生徒に正式な姓名を与えてほしい。

これまで見せた幻影を文章の形で記録してほしい』




正しくは声というより『想い』が スッと伝わってきて

村の学校の生徒たちに一人ずつ名前を付けることに…。


苗字と名前を物語に登場した幻影たち全員に与えました。


一組から順番に、最初は名無しの級長が名有りの級長に。

村の学校の前庭に咲く五本の桜の樹が花を咲かせる瞬間、

級長さんの苗字は自然と決まりました。名前はキヨフミ。

漢字にすれば…いろいろと物語が膨らんでいく名前です。

名前だけだった副級長の苗字も決定しました。サクラバ。

こんな調子で軽く進めていこう。遠くから来て寄宿舎で

寝起きする生徒もいるし、都会的な印象の現代的な名前。

宝石の人みたいな印象を持つ鳥獣を入れた苗字もいいな。

通学生は北国在住の人らしい苗字のほうが相応しいかも。


自ら考えた姓名で授業に参加していた生徒もいましたが

彼らも幻世の物語から文章の形で綴られていく小説版に

切り替わるにあたって、それぞれ決めたことがある模様。

公開するのはナイショのお願いも聞いたうえでの姓名を

Wordの白い画面に用意した〈全校生徒の名簿〉に記録。

校医の先生は…。この人が重要なカギを握る存在になり

彼とは挨拶も交わせない複雑な関係…。なぜそこまでの

重荷を背負ってまで、私に小説を書いてほしいのだろう?


彼らの目的、舞台裏がどんな景色か見えない。ヒントは

綴っていくうちに見えてくる? 辿り着く目的の場所が

見えない現状だけど、一歩ずつ踏みしめて歩いて行こう!



頭の中に残っている記憶を引き出し、文章を組み立て綴る作業の開始!



といっても、独白の記述は生徒自ら話している言葉を綴ればいいだけ。

コックリさんみたいな指先に宿る導きの声に従ってキーボードを打ち

物語を前へ進めていこう。幻世の物語が原作なんだから、七年生の春

放課後の一組の教室で起きた『インビジブル事件』を書けばいいはず。


北国の桜は温暖化の影響か昔に比べて開花が早くなったけど、入学の

日は、八分咲きとなった桜が幼い生徒たちを迎える。そしたら薄紅の

花びらがあの生徒の頬を撫でて慰めてくれるはず。記述者が演出家を

気取って生徒に演技を指示しても無駄。こっちは黙って見守るだけ…。


そうすると文末に『奇妙な縦読み』が現れることもあり

笑わせてもらいました。村の学校の生徒たちの正体は…?


『…けだもの…』どんな意図があって、子どもみたいな

イタズラを思いつくんだろう?『いいたれだな』うーん、

意味不明。『いる…』うわぁ、事件の犯人役の名前がッ!

『みた…』この縦読みも不気味な羅列。私は気にしない。

たぶん誰も気づかないだろうし、このままにしておこう。

『しびとの旅?!』『しにんだよ』えっ、どういうこと?


快活な少年らしく振舞う生徒もいれば

頑なに心を閉ざすタイプの生徒もいて

ただ文章の中では『力強く生きている』

としか感じ取れない不思議な幻影たち。


小説の中に自分たちが生きている証を

それぞれ悪戦苦闘しながら記述の中に

刻み込もうとしているのが読み取れて

矢張り彼らは『空想の幻影』ではなく

『インビジブル』だと信じたい気持ち。



――ここにいる――



そして、気づいた読者が逢おうと思えば

本名を明かして逢える存在であることを

信じています。彼らは容貌を思うままに

変えることが可能だし、いくつもの姿で

表現されている存在ですから、お好みの

姿で逢えることでしょう。夢にも現れる。

テレビにも現れる。変幻自在の透明な…。



寝ることを惜しんで記述を続けていたら、物語を引っ繰り返す独白での締め?!



最強の切り札を持っていた人物が年末、物語を根底から引っ繰り返してしまう

切り札”太陽のカード”を無表情のまま、出してしまったのです。これは主役が

持つ切り札”悪魔のカード”でも敵いません。複数のカードを持っているはずの

あの生徒も手出し無用とまでに遮られたのですから、こっちは打つ手なしです。


途方に暮れて倒れ込んだら意識が遠のいて――石油ファンヒーターの温風で

両腕に低温火傷を負いました。現実は惨めでも心だけは晴れ渡っていた日々…。

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