SF作家のアキバ事件簿206 ウルトラセブヌの素顔
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第206話「ウルトラセブヌの素顔」。さて、今回は痴漢を真っ二つにするスーパーヒロインが出没します。
背後に、腐女子の"覚醒"を促す"覚醒剤"シンジケートの存在が浮上、昭和なヒーローの女性版ウルトラセブヌに容疑がかかりますが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 ウルトラセブヌ、登場
夜の地下アイドル通り。闇に沈む路地裏をハイヒールの音を響かせ美女が走る。誰かに追われている?
「おい!待てょ!」
「助けて、誰か!お願い」
「一緒に楽しもうぜ」
追いつかれ、タックルされてマウントをとられる。
「へへへ。だから、止まれって」
「やめて!離してょ」
「…彼女を離しなさい」
女の声?男は振り向く。
「誰だ?」
「黙らないと後悔するわょ」
「失せろ。さもないと撃つぞ」
安い音波銃を取り出す。その瞬間、銀色の何かが光り、路面に音波銃を握った手首がゴロリと落ちる。
「何だ?俺の手首…」
「私は、秋葉原の平和を守るために働く」
「ヤ、ヤメてくれ!」
ブーメラン?次の瞬間、闇に輝く銀色のスラッガーは、命乞いスル男を真っ二つに切断スル。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕も真っ二つにトマトを切るw
「ミユリさん。世界一のオムレツをご馳走するよ…修道院に入る前に」
御屋敷のメイド長のミユリさんが、カウンターの中で修道女?のコスプレをしている。何のイベかな?
「テリィ様。秋のメイドミュージカルで、シェイクスピア劇をやるコトになりました。コスプレ、どうかしら?似合う?」
「僕がハロウィンでETのコスプレを頼んだ時は裁縫は苦手だって…」
「細かいコトおっしゃらないで。そもそも、あの時、テリィ様は浮気中だったし…コスプレすると役者は気持ちがノルのです」
ミユリさんは、元は(コスプ)レイヤーさんだ。
「マクベス夫人だね?」
「ヲセロです!」
「なるほど(ソッチかw)」
スマホ歩きで常連のスピアが御帰宅。
「ダメ。貴方が先に切ってよ。嫌よ。ねぇ貴方が切る番でしょ…NYって最高。1月が待ち遠しいわ」
「1月?」
「1月に私も入学するの」
スピアの新しい彼氏はミュージシャンで、新年から太平洋の向こう岸の国の超有名音楽院に留学スル。
「でも、ずっと話題に出ないから、てっきり立ち消えになったのかと思ってた」
「テリィたんは、この話をスルと直ぐ不機嫌になるから…ほら、またその顔」
「待てよ。海外留学は大きな決断だぞ。よく考えろ」
「よく考えた。マイナス面はないわ」
「でも、アキバのヲタ友と一緒にイベントを楽しみたくないのか?冬コミ、カウントダウン、神田明神の初詣」←
スピアのスマホ鳴る。
「シュリからだわ!ネットで音楽院の授業を配信してルンだって。見てくる」
早々にお出かけするラギィ。今度は僕のスマホが鳴る。コスプレしたミユリさんが僕にスマホを差し出す。
「陛下、ラギィ様からです…あら?テリィ様、泣いてるの?」
「いや、玉ねぎ」
「クスクス」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下アイドル通り。今は殺人現場。
「モチロン、玉ねぎのせいじゃなかった。だって、もうすぐ僕の元カノ会の会長がいなくなるんだぜ?」
「有名音楽院への進学は、元カレとしても嬉しいコトでしょ?」
「でも、心の準備が追いつかない」
「元カノの新しい恋をキャッチアップ出来てないだけでしょ?」
「じゃ…どうすれば良い?」
「行かせるの。でなきゃ、束縛するほど彼女は離れていくわ」
万世橋の敏腕警部ラギィと現場に急ぐ。彼女とは彼女が"新橋鮫"と呼ばれてた頃からの付き合いだ。
「ラギィ警部!事件について教えてください。いきなり南秋葉原条約機構と合同捜査ですか?犯人はスーパーヒロイン?」
黒いカメラマンコートを着たパパラッチが飛び出して来てラギィとのツーショを撮影スル。ウザい。
「ノーコメントょどいて」
ラギィと黄色い規制線テープをくぐる。
「スゴい騒ぎだな。こんな路地裏にパパラッチが大集合か。被害者はセレブとか?」
「さぁ?ヘステ・ティグ巡査。何の騒ぎ?」
「警部も御覧になればわかります」
金髪美女のヘステ巡査がフェンスをどけると…ソコは一面の血の海だ。カラダ中の血液が溢れ出た?
「驚きでしょ?つまり、彼は真っ二つにされたの。頭のてっぺんから下は…」
「ルイナ、そこまで。NGワードょ。捜査に関係ないし」
「君は、男心がわかってないな」
僕のタブレットをハッキングして、超天才ルイナがラボから"リモート鑑識"をしてくれる。助かる。
「で、ルイナ。凶器は何なの?」
「恐らく鋭利な刃物をつけたブーメランね。先端が遺体に残ってたわ。血痕からすると、犯人は、強力なサイコキネシスでブーメランを操って最初に手、それから体を真っ二つに切断している」
ビニール袋入りのブーメランの破片が回って来る。
「ブーメラン?レトロだ。"怪獣王女"?もしくは"ウルトラ接吻"のアイ・スラッガーかな」
「ヲタッキーズ。儀式殺人カモしれないから、見物人の写真を撮っておいて」
「わかった。被害者はタイラ・フリス。性的暴行で服役の前科アリ」
「目撃者は?」
「被害者に襲われたマリー・マーカ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パトカーのボンネットに腰掛け、コーヒー片手のマリー。真っ赤な勝負系のワンピース…と思ったら、何と思い切り返り血を浴びてるw
「彼とは昨夜、相席メイドカフェで知り合った。間も無く大金が入るって自慢してたわ。結局、夜遅くなってから彼と相席を出たら、急に迫って来たの。必死で逃げたけど、捕まってたら何をされたのか」
「犯人が救いの神なのか」
「まぁね」
うなずくマリー・マーカ。相席お屋敷に通うには、少し年が逝っている。恐らくアラサーかな。
「犯人は見た?」
「暗くて良く見えなかったわ」
「何かわからない?人種、年齢層、体格はどう?」
首を振るマリー・マーカ。銀のポシェット。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
真っ二つの遺体がストレッチャーで搬出される。立哨中の制服警官に挨拶しながら、路地の角を曲がる。
「彼女、何か隠してるわ」
「犯人に助けられて、恩を感じているんだろう。ある意味ヒロインだからな」
「でも、自分が狙われる可能性もあるのに」
「狙いは自分じゃないと分かってルンだ…ところで、真っ二つなんてアイ・スラッガーを思わせるな。侵略宇宙人に必殺技をお見舞いだ」
制服警官が敬礼して横切る。
「セブン?…タイラ・フリスの暴行現場に現れたのは、偶然と思えないわ。彼を尾行してたんじゃないかしら」
「アイ・スラッガーを持って?」
「…確かに変ね。遺族に会いましょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
検視局。ストレッチャーの上の真っ二つに裂かれた息子を前に、腕組みしている母親メイラ・フリス。
「フリスさん。お悔やみを申し上げます」
「気にしないで」
「はい?」
母親らしからな態度だ。
「私、こうなると思ってた」
「侵略宇宙人みたいに真っ二つになると思ってたってコトですか?」
「いいえ。死に方のコトじゃない。そりゃ真っ二つには驚いたわょ。ただ、いつかタイラは殺されると覚悟してたの」
「どうして?」
「あの子は、何をやらかしても反省せず、馬鹿な過ちを繰り返していたから」
「そうですか。殺されるようなコトに関わっていたのを御存知でしたか?」
「YES」
達観している母親メイラ・フリス。
「大金が入ると周りに言ってたそうですが」
「人を騙して、いつもお金を巻き上げる算段ばかりをしていたわ」
「…では、息子さんに恨みを持つ人の名前を教えてください」
メモを取り出すラギィ。
「あら。ソンなメモじゃ書き切れないわよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"由来の事象に対応する人類側の防衛組織だ。
"裂け目"の影響で覚醒したスーパーヒロイン絡みの事件では所轄署との合同捜査になるコトが多い。
「確かにタイラは相当の悪だけど、侵略宇宙人みたいに真っ二つはナイわょね」
「自業自得ょ」
「ソレは、司法システムが判断スルことだし」
万世橋に捜査本部が立ち上がる。ヲタッキーズの他愛ないオシャベリだが、エアリの言葉が光ってる。
「アイ・スラッガーが司法なのょ」
「何それ?タランティーノの水着…じゃなかった、見過ぎでしょ」
「ちょっと待って」
エアリがPC画面を指差す。
「タイラは、プリペイドのスマホに何度もかけてるわ。いかにも犯罪が絡んでそうね」
「そして、3日前にも相席バーで喧嘩して通報されてる。万世橋が来た時には、もう姿が消えてたけど、店長曰く、何やらお金のコトでモメてたそうょ」
「あら。喧嘩のお相手は?」
「トニバ・ルデニ。前科がある」
「覚えてるわ。覚醒剤で儲けてる、化学マフィア絡みの女で、彼女の家族は千葉で精肉業を営んでる。だから、トニバのニックネームは"贅肉トニバ"」
「あら。デブ専?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スレンダー美女だ。青い柄シャツの襟を立てたトニバは(AV)女優級の顔面偏差値。合コンOKレベル。
「確かにタイラ・フリスとは口論をしました。彼女は、ウチの御屋敷で働いてた元メイドです。解雇しましたが」
「元メイド?お仕事は御屋敷で覚醒剤の対面販売してたとか?」
「おまわりさん。私は秋葉原でマトモなメイドビジネスを営む者です。メイド雇用の彼女を解雇しようとしたら、未払い賃金を要求された。でも、熟女、じゃなかった、淑女らしく解決しました。ウソだと思ったら ask her」
「ソレには降霊術が必要ょ」
初めて身を乗り出すトニバ・ルデニ。
「死んだの?」
「フリスは、以前と比べて半人前になったとでも言うか、細胞みたいに分裂したの」
「引き裂かれた人格…真っ二つに切断されたンだ。アイ・スラッガーでね。ほら、肉屋が食肉加工で使う刀みたいな奴さ」
僕が的確かつ文学的な表現をスルと、トニバ・ルデニは、ようやく自分の置かれた状況を理解したようだ。
「待ってょ!私じゃないわ!私はナンの関係もナイの!でも、奴を真っ二つにした犯人なら知ってるわ。そーよ。絶対奴だわ。実は私もソイツに襲われた。アイツはヤバいわ!」
「その時に通報すれば良かったンじゃない?」
「警察に通報?何をバカな…じゃなかった、おまわりさんに迷惑かけたくなかった。2週間ほど前、倉庫から帰ろうとしたら突然奴が現れて、私を犯罪者だと責め立て、秋葉原を出なきゃ殺すと脅した。そして、無抵抗の私に何をしたと思う?」
立ち上がり、パンツを脱ぐトニバ・ルデニ。さらにパンティに手をかけヒップをチラ見せ。たまらんなw
「何なの?」
「私のヒップに切り付けたの。見て!」
「見るぞ!」
話のキャッチボールをした僕はラギィに睨まれる。
「その…おヒップ様の傷痕は…Lかな?」
「もう良いから"ズボン"を履いて」
「アイツにヤラれた。ブーメランみたいなで武器で切りつけられた!しっかり見たら"いいね"もよろしくね」
ズボンを履くトニバ・デルニ。見事なヒップだし、とにかく脱ぎっぷりが良い。美尻系AVに違いない。
「で、相手の人相は?」
「口で言っても信じナイでしょ?でも、ウチの防犯カメラにバッチリ写ってるわ。(ウチの覚醒剤の)倉庫から逃げていく姿がね!」
最後に、音を立ててチャックを上げるトニバ・ルデニ。僕とラギィは、顔を見合わせる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"覚醒剤"はスーパーヒロインへの"覚醒"を焦る腐女子に売りつけられる麻薬の1種だ。モチロン"覚醒剤"を飲んでも"覚醒"スルとは限らないw
「防犯カメラのタイムコードは、トニバ・ルデニが襲われたと言っている時間と一致してます」
「"外神田ER"に問い合わせたトコロ、その日に尻の傷を治療したとの記録がありました」
「そう。どーやらアイ・スラッガーで制裁を加えたサイコキネシスの御尊顔を拝見出来そうね」
捜査本部。ヲタッキーズがデータを再生、本部のモニターに画像を回す。食い入るように見る僕達。
誰かが走って来る。僕は、思わず身を乗り出す。
「今のもう1回、リピート」
巻き戻すエアリ。
「ウソでしょ?」
「マジか」
「どーなってンの?」
走って来たのは…スーパーヒロインだ。真っ赤なコスプレに真っ白なライン。銀ヘルには尾ビレが…
「まさか、今のは昭和のスーパーヒーロー、ウルトラ接吻じゃナイの?曲線が女性ポイけど…」
「とゆーコトは?犯人は、サイコキネシスでウルトラ接吻のスーパーヒロイン版のコスプレ?」
「ヤメてょ」
頭を抱えるラギィ。
第2章 セブヌのスラッガー
SATOのシン司令官パツァ・ゲイツは怒っている。
「マジ?犯人は昭和のスーパーヒーロー?」
「…の女性版です。暴行を免れ、犯人の殺害を目撃した女性が見たのも、この"ヒロイン"みたいです」
「なぜ初めは黙ってたのかしら」
ホンキで頭ヒネるパツア・ゲイツ。
「ソレは…証言を躊躇うのも無理はナイかと。気持ちはわかります」
「そかしら…しかし、正義の名の下に人を殺すヒロイン?尾びれマスクをして素顔を隠す彼女をどうやって捕まえるつもり?」
「類似の犯行を調べています。それから、タイラ・フリスとトニバ・デルニの共通の敵や犯人のコスプレの入手先の確認も並行して…」
「犯人はマトモじゃないわ。ERだけじゃなく、精神病院も当たって」
「はい(当たり前でしょココは秋葉原ょ?)」
立ち去ろうとスルと背中に声がかかる。
「ラギィ警部。逐一報告してちょうだい」
「はい、わかりました、じゃなかった、ROG」
「どんなバカなコトでもね。お願いょ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部からモニター回線が切断されたのを確認して、ラギィの肩をポンと叩く。
「精神病院は無駄だぞ」
「盗み聞きしていたの?」
「いや。僕には1万m先の囁きを聞き分ける超人的な聴力がアル。ところで、ラギィ。まさか犯人を恐れてナイょね?」
「え。恐怖ょ!だって、痴漢とは言え、男を真っ二つにして妙なコスプレして逃げ回ってるのよ?」
「そのコスプレだけど、市販のモノじゃないから自作だ。かなり優秀だょ」
心の底から溜め息をつくラギィ。
「あのね、テリィたん。私は、事件解決につながるような建設的な意見が聞きたいの」
「任せろ。スーパーヒロインには、使命や誕生秘話がつきものだ。どうしてそういうヒロインになったのか、背景を知れば彼女の正体を突き止めるコトも可能さ」
「あのね、テリィたん。この犯人は、コミックのヒロインとは違う。コミックの理論を当てはめても無駄よ」
「ソレはどーかな…コイツは、裏アキバで活動しているスーパーヒロイン"紅レッド"だ」
「"紅レッド"?赤が被ってるわ。ドン引き」
構わズ動画を見せる。
"待って、悪党。万人の味方"紅レッド"参上!ねぇバッグをお年寄りに返しなさい!"
見ると夕暮れのパーツ通りで、老婆のバッグをひったくる若者にヒロインが壁の上から説教?してる。
"さっさと手を離すのょ"
ヒロインは、壁から飛び降りるが足をヒネって痛がる内に若者に突き飛ばされ植え込みに尻餅をつく。
"大丈夫ですか?"
結局バッグを奪われ、茫然としてる老婆に声をかけるが、怒った老婆にバッグで殴りかかられて悲鳴w
"痛い!助けて"…(画像STOP)
「素晴らしい戦闘能力だわ。テリィたんよりは役に立ちそう」
「恐らく生身の腐女子だ。時にはヘマもする。僕が語りたいのは、現実の世界にもヒロインが存在スルってコトさ。彼女達は、ボランタリーなイニシアティブで正義の味方をやっている」
「ヲタク扱いされながら?」
「YES。そして、きっと犯人も同じヲタクだ」
「彼女は正義を守るなら、なぜ殺人を犯すの?」
「残念ながら、彼女の場合は暗黒面に落ちてしまったんだ。そういうヒロインは結構多いんだよ…どうもありがとう」
デリバリーにサインをして封筒を受け取る。僕がリクエストした資料だ。中を見たい。会議室を探す。
「おおっ!僕のスパイダーセンスが、深層心理に何ゴトかを語りかけて来る…」
ワイワイ入って来たヲタッキーズとスレ違う。
「ラギィ。テリィたんは何だって?」
「知らない。ナンセンスがどうとか言ってたわ。現場の写真でしょ?見せて」
「YES。事件直後に集まった野次馬の写真ょ。で、怪しい女がいた。背格好はビデオに映ってたスーパーヒロインと一致。しかも、警官が現場で撮影をしてたら逃げ出したンだって」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「犯人は、ホントにスーパーヒロインかもしれないわ。万世橋の麻薬課に聞いたら、最近、売人を襲って真っ二つにしては、奪った覚醒剤を神田リバーに捨ててる女がいるらしい。しかも、昭和なウルトラ接吻のコスプレなんだけど、腰のラインがヤタラ曲線ナンだって。今、東京駅地下の円谷ショップを調査中ょ」
「コスプレは?」
「テリィたんの言う通り、何処にも市販されてないコスプレらしいわ」
タイミング良く戻って来る僕。
「そのコスプレから犯人に迫ってみたぞ。ご覧あれ。僕のコミック本コレクションと比べてみたんだ」
本部のホワイトボードを反転させる。裏には僕のお宝本達が展示されている。ラギィが指差し叫ぶ。
「これ、未だセーラームーンが3人組だった頃?もしかして、かなり初期のレア本?」
「興味があれば、他にもたくさんお宝があるから、いつでも見においで。犯人は、他のヒロインのコスプレからアイディアをもらってるコトに気がついた。例えば、色の組み合わせは"ウルトラ接吻"だが、ヘルメットは"仮面の女忍者 桃影"だ。尾ビレは"雅楽忍者隊ガッチャウィメン"、立てた襟は"パンダーウーマン"だ。これらのキャラクターの共通点は?」
「パンチラ?」
「違う。みんな、大切な人を亡くしてる。恐らく犯人にも同様の暗い、秘めた過去があるハズだ。さらに、彼女達は決してデシャバラない。いつも控えめだけど、物事の察しは抜群な委員長タイプ。きっと犯人は温厚な性格さ」
「パンチラ命の派手なコスプレ女が温厚なハズないでしょ?ヒロピンヲタクの勝手な妄想はヤメて」
げ。本部のモニターにSATOシン司令官のパツア・ゲイツが写ってる。いつからモニターしてたのかな。
「テリィたんさん。貴方は、こんな妄想で有益な回答を導き出せるとでも思っているの?」
「シン司令官どの。コチラを見てください。犯人がつけてた金のベルトです。コレは変身時代劇"変態忍者 芥子"の元カノ、カラスミが1963年に身につけてたアンクレットだ」
「それがなんだと言うのかしら?」
コメカミを押さえるゲイツに重要な指摘。
「つまり、犯人は、かなりディープなコミックコレクターだと思われます。で、コミックコレクターが必ず現れる場所とは…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
新幹線ガードをくぐる"ふれあい通り(ダサい名だw)"を歩く僕とラギィ。
ラギィは、ブルージーンズに白のブラウスをアウトに着て黒のジャケット。
「ねぇテリィたん。シン司令官が何か話すのを大人しく待てないの?」
「待てるさ。でも、僕はこの事件を解決して、ヲタッキーズの株を一気に上げるつもりだ。何しろ僕はCEOだからね。コレはトップセールスさ」
「そう。せいぜい頑張って」
フト立ち止まる僕。
「ガード下まで漂う仄かなパルプ紙の匂い。この店は同人誌の聖地なんだ。カトリック教徒にとってのバチカン。巡礼者にとってのメッカ」
「知ってる。私も14才の時"ベルサイユの腹"を買ったわ」
「いいね!好きなコミックのキャラになれるとしたら何になる?」
「宇宙女刑事ギャバ子」
「なるほど、感情をヒタ隠す非情な刑事か」
「と言うより武術の達人だからよ。テリィたんはアイアンマン?スパイダーマン?わかった。メカゴジラかしら」
「スペクトラマンだ。別名ネビュラ71。物憂げなイケメンで武器も超かっこいい」
「大した理由だコト」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
コミックショップ"わが青春のコミケディア"。
「この店は置いている高くて薄い本のセンスが抜群なんだ」
「テリィたんとラギィさん?」
「やぁ!」
声をかけて来たのは店主のスチュだ。何処かの地下アイドルの物販キャップを被ってる。恥ずかしいw
「貴女はベケットさんだ。僕はスチュ・アート。貴女のインスパイア"化学女忍者隊ガッチャウィメン"の大ファンです。あのパンチラキック…」
「ありがとう!」
「全然ありがたくないわ!」
ラギィの塩反応に気づかず小鼻を膨らますスチュ。
「"化学女忍者隊ガッチャウィメン"のコミックは最近入荷したんですが、絵もストーリーも最高でした!」
「好きなシーンは?」
「無理におだてナイでね」
ラギィが釘を差すw
「そりゃガッチャウィメンがガラクターの戦闘員を蹴るトコロです。昭和な白パンチラが…」
「アレはパンチラじゃない。彼女はレオタードを着用してルンだ」
「おおっ!知らなかった!あ、ベケット刑事ネタバレでした。ごめんなさい」
ヲタ同士のセクハラ会話にも鷹揚なラギィ。
「大丈夫ょどうせ読まないから」
「おや?でも、ウチの予約リストには貴女の名前がありましたが?」
「え。そうなの?」
マジで驚く僕。慌てるラギィ。
「あ…単に応援してあげただけよ。そんなコトより貴方に質問があるの」
「3人組だった頃のセーラームーンのコレクターはいるかな?」
「すみませんが、顧客情報です。令状ナシでお答え出来ません」
「この女を見たコトない?」
野次馬の中の翠髪女の写真を見せるラギィ。
「わかりません。見覚えがありません」
「じゃあコッチはどうだ?」
「おおっ!」
走るウルトラ接吻の画像に神反応だw
「モチロン、知ってます!」
「マジ?」
「はい」
店のPCを叩きコミックの表紙画像を呼び出す。
「"ウルトラセブヌ"?」
「コスプレもアイ・スラッガーも真っ二つ犯と同じだわ…となると、トニーのヒップの傷はJじゃなくて7だったのね?字がヘタでわからなかったわ」
「"ウルトラセブヌ"は、昭和のヒーローだったセブンのヒロイン版で、ネットのみの公開です。作者はション・エィフ。マイナーだけどファンを増やしてます」
スチュの解説にうなるラギィ。
「うーん犯人のコスプレを深読みしすぎたわ。結局コレをパクっただけだったとは」
「おや?コレは…」
「カラータイマー?」
僕は画像を指す。
「セブンはマンと違ってカラータイマーはナイ。このオデコにあるのはビームランプでエメリウム光線が出るンだけど…このパーツ、犯行現場に落ちてたな。何かのボタンかと思ってたけど、犯人が落としたんだ。コレを見つけられれば、犯人を特定出来るカモしれない」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。万世橋の捜査本部。野次馬の中の翠髪女の写真をホワイトボードに貼るエアリ。
「捜査範囲を広げたが、翠髪女の情報はナシ」
「アイスラッガーとの接点も見つからナイ」
「あぁ犯人を早く捕まえなきゃ!」
スマホをかけながらエアリが嘆く。
「エアリ。犯人の味方じゃないのか?」
「だって、ただのコスプレ好きな腐女子でしょ?」
「でも、気持ちはワカルわ。私達だってヒロインに憧れてたでしょ?コスプレして秋葉原をパトロールして悪の女幹部を倒す」
「今やってるでしょ…えぇ聞いてるわ。マジ?いつ?直ぐ行くわ」
スマホを切って駆け出すエアリ。
「翠髪女に似た客が2時間前、東京駅チカの円谷ショップでアイスラッガーを買ったらしい」
「折れたアイスラッガーの代わりを買ったのかな」
「おニューに買い替え?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その頃、僕とラギィは夜の地下アイドル通りを歩いてる。殺人現場として保全されてるが人気はない。
「確か、この辺りに落ちてた。間違いない」
「誰かにもう拾われたか、テリィたんの見間違いカモしれないわ」
「うーんソンなコトはナイ…ほらあったよ」
落ちていたクリスタルなパーツを指差す。
「コレは…ボタンじゃないわね。確かにコスプレのパーツみたい。指紋が残ってるカモ」
ビニ手をして拾うラギィ…その時、銀色の何かが光り、何者かに襲われる!
襲撃者は、狭い路地の壁を左右に蹴って僕達を翻弄し、銀色の何かが光る。
「パーツを奪われた!警察!止まりなさい!」
止まらない!バイクに乗って路地を走り去るw
「かっこいい!最高だ!」
「逃げられたのに?」
「証拠品も盗まれたしな」
ココでラギィのスマホ鳴動。
「エアリ?ごめん、かけ直すわ。非常線張らなきゃ」
「ラギィ、待って。大事なコトなの。聞いて」
「コッチは今、現場で犯人に逃げられたトコロょ」
「コッチは犯人の正体がわかったトコロ」
さしものラギィも驚く。
「え。どうやって?」
「彼女は、今朝おニューのアイスラッガーを買ったンだけど、その支払いで小切手を切った。で、そこから割り出したワケ。名前はチャラ・ホクニ。現場にいた翠髪女ょ。背格好が一致してる」
「住所は?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アパートの部屋で、コスプレ女がアイスラッガーを振り回してる。今だ、キックを使え!目だ!ソコへ…
警官隊が突入スルw
「アキバP.D.ょ!動かないで!」
「瞬間移動出来るなら別だ!」
「な、何なの?」
驚愕して即座に両手を挙げる"ウルトラセブヌ"。持っていたアイ・スラッガーをポトリと落とす。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。マジックミラーで見られてるとは知らずパンチやキックの練習に余念がないチャラ。
「この子が犯人なの?未だ"覚醒"してない、タダのコスプレ腐女子では?」
「まぁ正直に逝ってそーカモ。でも、路地裏で見た時には、もっと強そうだったンだょな。アイ・スラッガーも持ってたし」
「現場の近くのアパート住まいで、万世橋の鑑識が今、彼女のアパートで殺人とつながりそうな証拠を探しているトコロではありますが…」
語尾が消え入るラギィにゲイツ司令官の厳命。
「きっちり事件を片付けて。自白を取るのょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。白ブラウスのラギィが入室。
「座ってちょうだい。チャラ」
「ねぇ。コレは誤解。私は警察と同じ側の人間ナンだけど」
「あら。警察は悪党を殺さないわ」
キョトンとするチャラ・ホクニ。
「殺す?私、ソンなコトしないわ」
「昨夜、痴漢を真っ二つにしたょな?」
「貴女がタイラ・フリスを殺したのは目撃されてるの」
「さらに、君は犯行後に飛んで火に入る夏の虫のごとく現場に戻ってきた」
「そして、落としたコスプレパーツの1部を取り返そうとして、私達と鉢合わせをした」
2人がかりで畳み掛ける。
「なぁ?発端は父親の死ナンだろ?その悲しみが貴女を犯行へと狩り立てたんだ」
「父は青森にいてピンピンしてるわ」
「じゃ路地裏で私の手をアイ・スラッガーで叩いたのもフリスを殺したのも貴女ではないと言うの?」
顔出しウルトラセブヌは首を振る。
「モチロンょ私は人殺しなんてしてない。そもそもウルトラセブヌは正義の味方ょ?」
「でも、セブヌは貴女ナンでしょ?」
「え。私はコスプレしてるだけ。モノホンだと思った?貴方、コドモ?」
「モノホンは2次元だけ?」
ますます変な顔をするチャラ。
「何を言ってるの?元はコミック。私が言ってるのは、あのキャラを演じている実体化レベルの人のコト」
「ソンな人がいるの?誰?」
「知らない。でも、私の"紅レッド"時代の憧れだった。コスプレ仲間の間では伝説の存在ょ」
「"万人の味方参上"って奴だな?」
チャラの笑顔が輝く。
「"紅レッド"を知ってるの?」
「動画を見たわ」
「あぁアレ?…アレが広まって散々馬鹿にされて…あの頃生きるのが辛かった。もうヒロイン卒業しようかとも思ったわ。ソレでウルトラセブヌに助言を求めに行ったの」
インドア派にしては行動力がアルな。
「貴女、ウルトラセブヌと会ったコトあるの?で、セブヌは何だって?」
「"2度と来ないで"ってwでも、その言葉で心に火がついて、コスプレとアイ・スラッガーを用意して、いざ出陣と思ったら…みなさんが現れてお縄になった」
「で、ウルトラセブヌは何処にいるの?…いいえ、M-87星雲じゃなくて」
「lower東秋葉原で毎晩探し歩いた。そしたら、ついに出くわしたの。ビクマ通りとアホロ劇場の近く。私、彼女の弟子になりたい。そして、いつかパートナーになりたい。だって、ソレが私の運命だから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のモニターでゲイツが吠える。
「彼女は、ウルトラセブヌじゃない?何で?コスプレしてたんでしょ?」
「チャラは事件のあった夜、アパートでコスプレを制作していたそうです。隣の部屋の住人がミシンの音がうるさかったと110番通報して、パトカーが出動してました」
「あのね。もう特別区の大統領には報告してしまったの」
「ソレは早トチリでしたね」
切って捨てるラギィに目を剥くゲイツ。
「貴女の腕を信じた私がバカだったわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。
「バイクは?何か手がかりは出た?」
「待ってょラギィ。今、車種から登録者を調べてるトコロ」
「ビクマ通りで聞き込みもしてるから!」
「令状とってウルトラセブヌをダウンロードした人を全員調べて。犯人はその中にいるわ」
第3章 コミック作者は事件記者
その夜の"潜り酒場"。僕はカウンターでプリントアウトしたコミックを広げている。
「パッと見には、ただコミックを見ているヒマなヲタクと映るかな?」
「テリィたん。何で私のニューヨーク逝きを喜んでくれないの?」
「全力で喜んでる。ただ寂しくなると思って」
シン彼と海外留学を決めた常連のスピアが絡む。
「私も寂しい。でも、逝きたいの」
「そっか。じゃどんな授業を取るつもりなのか教えてくれよ」
「統計学入門。ミクロ経済理論。中東イスラム世界の経済理論」
「ソレってシュリと同じ授業を取るってコト?」
「そうよ。一緒にいたいんだもの。ダメなの?」
「あるスーパーヒロインが言ってた。"大いなる超能力には、大いなる責任が伴う"と」
「ミユリ姉様、ソンなコト言ったの?」
メイド長はカウンターの中で微笑み、首を振る。
「せっかく良い機会を得るチャンスがあるんだ。自分がやりたいコトをちゃんと考えた方が良いょ」
「全部私がしたいコトなの」
「シュリのしたいコトだろ?」
「彼じゃない。私が言い出した提案よ」
「うーんシュリからの提案じゃなくて?なぁもし彼と別れたらどうするんだ?」
「別れたりしない。何でそんなコトを言うの?」
どーやら地雷だ。
「そうじゃない。ただ勢いだけで決めて欲しくないだけさ」
「なんで私だけが慎重に決めなくちゃいけないの?テリィたんは、いつも好き勝手なコトばかりしてるのに」
「スピア。テリィ様に謝って」
怒ってプイとお出掛けするスピア。ドアをバタンと閉める。僕とミユリさんは、顔を見合わせる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ドアが開く。汗まみれのラギィ。
「あら」
「突然ごめん。急に来て」
「ヨガをしてたの。入って」
その後ヒラメいて、ラギィのアパートを訪問。
「ありがとう。君をビックリさせるような報告がある。ウルトラセブヌを全部ダウンロードしたんだ!」
「全然驚かないけど?」
「この後さ。犯人の特定につながる情報を探したんだが、残念ながらソレはなかった。でも、このページを見てくれ。この部分だ。廃倉庫で逃げようとした悪の女幹部をウルトラセブヌが倒す。そして、女幹部のヒップに7の焼き印を推すんだ。何か覚えはないか?」
「"贅肉トニバ"ね」
「この前も、セブヌはトニバが襲われた直後に現れた。このコミックは、トニバとセブヌしか知らないハズの襲撃をネタにしている」
「というコトはつまり?」
「このコミックの作者、ション・エルトが犯人だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。ホワイトボードの"ション・エルト"の名前にスマホを貼りながら❌をつけるラギィ。
「そう、ありがとう…テリィたん。ション・エルトは存在しない。偽名だったわ」
「おいおい。業界ではそれをペンネームと逝うんだ。僕だって本名はテリィじゃナイぜ」
「あぁわかったありがとう。またな」
スマホを切るマリレ。
「フェイスノートとインスタキログラムのアカウントを調べたけど、作者の本名は不明ね」
「テリィたんがダウンロードしたコミックには、トニバの件だけじゃなく、他にも2件、事件が描かれてた。"覚醒剤"の売人への制裁と液晶TVを大量に積んだトラックへの放火」
「マリレ。その2件の共通点を調べて」
「ROG」
PCと格闘を始めるヲタッキーズ。
「どうも腑に落ちないな。ウルトラセブヌがやってるのは悪党を懲らしめるコトだ。トニバの時のように傷跡はつけても殺しはしない。ソレをなぜタイラ・フリスだけ残酷な方法で殺したんだろう?」
「フリスだけは、死んでもらう必要があったのね」
「それしかない。タイラ・フリスは、作者を個人的に知っていたんだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
会議室。被害者タイラの母親メイラ・フリス。
「ション・エルトなんて聞いたコトないわ」
「息子さんはコミックが好きでしたか?」
「エッチなのを読む程度ね。でも最近はまってたのがあったわ。確かウルトラセブヌ」
僕とラギィは顔を見合わせる。
「これまでと違うタイプの友達が出来た様子は?」
「特に温厚そうな委員長タイプとか」
「数日前に玄関で誰かと喋っていたわ。珍しい服装の人だった」
「スーパーマンみたいなマスクとマント?」
「いいえ。背広にネクタイよ。ウチにはそんな人は来ないから珍しくて…タイラは、彼にこう言ってたわ。"俺は正体を知ってるぞ"って」
「彼の人相プリーズ」
「薄茶の髪に若くてヒゲ面だった。あと身分証をつけていたわ。緑色の奴」
「薄茶の髪でヒゲ」
「緑の身分証」
「犯行現場にいたパパラッチだ(わ)!」
僕とラギィは異口同音。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のホワイトボードに新たな顔写真が貼り出される。
「容疑者のポルウ・イテカは、コミック作家で事件記者だ。今日は職場は欠勤、自宅にもいない。目下、指名手配して行方を捜索中」
「彼なら理屈は通るわね。事件記者として多くの犯罪を見てきた。彼はそのうち記事を描くだけでは物足りずウルトラセブヌに変身、いや、覚醒かな?」
「ところが、タイラ・フリスが正体をバラすと脅迫した。ソレでフリスを一撃で真っ二つしたと言うワケね」
ラギィとは波長が合うンだ。話が弾む。ソレを尻目に考え込むポーズをキメながら、最後に話に割り込んで来たマリレに、僕は眉をピクリと釣り上げる。
「弟子が師匠に追いつこうとするのは良いが、ソレで追いついたつもりか?僕達の"妄想ハレーション"を真似したいのなら、ちゃんと推しが出来てからにしろょ」
「テリィたん。私、熟考したのに」
「そうならフリスはどうやって正体を知ったんだ?」
「その答えは私から」
今度はエアリが割って入る。
「ポルウは、情報屋から情報提供を受けるため、プリペイドのスマホを使ってた。そして、フリスは何度もその番号にかけてた」
「フリスはポルウの情報源だったから始末されたと逝うのか?」
「YES。フリスがポルウに事件発生を知らせる度に、なぜかいつも現場にウルトラセブヌが現れる。だから、フリスはその正体に気づいたってワケ」
「ソレで正体をバラすと言ってポルウを脅迫した」
「じゃポルウは殺人を犯してまでヒロインごっこを隠したってコト?」
「ソレはコスプレヒロインとして当然の心理だ。このウルトラセブヌはポルウの人生の1部であり、光と影。もうセブヌなしでは生きられない人生になっていたんだ」
ココでラギィのスマホが鳴動。
「はい、ラギィ…直ちに一帯を封鎖して!」
スマホを切るラギィ。
「ポルウが71丁目で預金を引き出したわ」
「うーんソレはコミックショップ"我が青春のコミケディア"の近くだな」
「お宝本でも買うつもり?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
コミックショップ"我が青春のコミケディア"。
「マジで20万円で良いの?"青の7号"のプレミアム本とかも入ってるょ?」
「金がいるんだ。現金で頼む。悪いけど、ちょっと急いでくれないか?」
「あらあら、どこへ行くの?ポゥラ・ウテカさん」
僕とラギィで踏み込む。振り向くパパラッチ。
「なぜココが?」
「ずいぶん急いでお金、特に現金が必要なのね、ポゥラさん?」
「またの名をウルトラセブヌ…ジュワ!」
ラギィの横で、僕は変身ポーズのマネ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室のポゥラ・ウテカ。隠しカメラで画像を見ながら同じくモニター画面のゲイツ司令官と会話。
「犯人はコミック作家?活発な作家もいるモノね。しかも、ジャーナリストだなんてスパイダーマンみたい」
「ジャーナリスト?彼はパパラッチですょ?」
「むしろスーパーマンのクラークケントに近いと思います。僕の予想通り、彼は温厚な性格だ」
売り込む僕だが、ゲイツはラギィにハッパをかける。
「警部。大統領に今度こそ犯人を捕まえたと連絡するから、必ず自白をとって頂戴」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室に入る僕とラギィ。
「ポゥル。貴方のアパートからウルトラセブヌの原画が見つかった。貴方はセブヌの作者ね?」
「別に違法じゃないでしょ?」
「コミックを描くだけならな」
「そのうちに、コスプレと凶器が見つかるんじゃないの?時間の問題だと思うけど」
ラギィとたたみかけると、ポゥルは憤慨スル。
「ウルトラセブヌは正義の味方だ。1人で犯罪と戦い、善良なヲタクを守る。でも、全て僕が脳内で作ったキャラで実在はしない」
「貴方は去年、廃ビルの外で強盗に遭ってるわね」
「そんなの東秋葉原では日常茶飯事でしょう」
「ただし、貴方はソイツよりも強かった。数針の怪我で済み、強盗のほうは病院送り。事情聴取では、とても非協力的だったと聞いています」
「どのヒーローにも転機がある。ヒーローとしての宿命に目覚めるキッカケさ。君の場合は、強盗に襲われたコトだ」
「貴方は、あのコミックを日記代わりにしていたんでしょ?貴方はもうお終い。蔵前橋に行くの。囚人達は、タイツを履いた元ヒーローに何をスルかしら?私達に協力して自白をすれば、安全な独房に入れるように手配してあげる。ねぇ破格の条件よ。取引に応じた方が賢明だわ」
すると…大きくうなずくポゥル。
「わかった。言うよ。僕がウルトラセブヌだ」
「フリスはソレを知ったのね?」
「YES。彼に知られて脅された。だから、殺した」
「今、言ったコトを書面にして」
ペンを片手にスラスラ描き始めるポゥル。何か変w
「おい、待てょ。君が正義の味方なら、正義の味方なりの矜持があったハズだ。フリスのような奴でも殺せば矜持に反スルだろう?超能力を持つ者としての矜持を曲げたコトになる。葛藤はなかったのか?フリスを殺した時、どう思った?」
「モノ凄く申し訳ない気持ちで一杯だった」
ヤタラ淡々と語るポゥル。
「ねぇフリスを殺した後で手首を切断した理由は?どうして手首を切断したの?」
「さぁね。気づいたら切り落としてたんだ…供述書の続きを書いても良いかな?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室から出て来た僕達をヲタッキーズが取り囲む。
「マジ?ポゥルは無実なの?」
「YES。あの人、手首の切断が殺害の前だって知らなかったわ」
「じゃ何で自白してるの?供述書も描いてる」
僕の出番だ。
「ソレは…真犯人をかばうためだ。ポゥルは描く人。ウルトラセブヌは描かれる人。僕にとってのラギィと同じさ。ラギィは、僕のウルトラセブヌ」
「私は、サイコキネシスでアイ・スラッガーを操り敵を切り刻む役?」
「まぁな。コスプレはセクシー系?」
「はい、妄想はそこまで。もしポゥルが犯人でないなら、強盗事件の見方も色々変わるわ」
「そうか。ウルトラセブヌがポゥルを助けた廃ビルの場所は?」
「ピクマ通りの近く」
「ソレってチャラがウルトラセブヌを見つけたと言ってた場所と同じね」
「ソレって偶然?」
「まさか。ソコが犯人の隠れ家なのょ」
感心スル僕。
「廃ビルが隠れ家なんて、いかにもアメコミだな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ピクマ通りの廃ビル。
「テリィたん。マジでココ?」
「第3新東京電力は、僕の出身母体だぜ?この209号室だけが電気の契約が生きてるらしい」
ドアを開け、音波銃を構えて入って逝く。後から続く僕。彼女は戦闘訓練を受けてるからね←
「ココが隠れ家なら、ずいぶん期待ハズレだな。だって、ムードのある照明もアイ・スラッガーの入ったガラスケースもない」
「テリィたん、ココ」
「え。何?」
ラギィに呼ばれ、壁の前に立つ。と、隠し壁がクルリと回り裏はアイ・スラッガーのコレクションだ。
「おお!なるほど、質素だが、確かに正義の味方の隠れ家だ。他に何が隠されてるかな」
キョロキョロする僕。ソコへエアリから無線が入る。
「ラギィ。犯人らしい人影がそっちに向かったわ」
ドアを閉めて闇の中で音波銃を構えるラギィ。隠れる僕。ほら、ラギィは戦闘訓練…(以下略w)
裏窓を開け、音もなく部屋に入って来るのは…ウルトラセブヌだ!背後で音波縦を抜くラギィ。
「アキバP.D.よっ!動かないで。逃がさないわょ。ゆっくりマスクを外しなさい」
マスクを取るウルトラセブヌ。中から現れたのは…
「ヘステ・ティグ巡査?」
「見ないで…」
「コレは、意外な展開だw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のホワイトボードに制服姿のヘステ・ティグ巡査の写真が張り出される。
「信じられる?犯人が万世橋の仲間だったなんて」
「何か理由があったンでしょ?」
「さっきは、ただのコスプレ好きの変態って言ってたわ。何なの?」
「警官なら話は別ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。座っている私服のヘステ・ティグ巡査。質問するラギィ。やり辛そうだ。
「タイラ・フリス殺害の証拠を鑑識が調べてるわ。コスチュームにフリスの血痕がついてないかを調べてる」
「どーせ何も出ないわ」
「貴女、まさか証拠を隠滅したの?」
真っ直ぐにラギィを見つめるヘステ。
「貴女に憧れてました。貴女のようになりたいといつも思ってました」
「貴女もなれたの。評価は高く、表彰もされてる…でも、全てが台無しね」
「…父は、東秋葉原でクリーニング店を経営していました。でも、何処かのイカれた奴に強盗に入られて8000円のために殺された。ソレで私は警官になろうと決めたンです」
ポイントを押さえた、泣ける身の上話だ。
「でも、貴女は警官になるだけでは満足出来ズ、自らの手で私的制裁を加えたってワケね?」
「父を殺された恨みは、何をしても晴れるコトはありません。でも…気休めにはなりました」
「そう。良かったわね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ギャレー。頭を抱えているポゥラに声をかける。
「ヘステ・ティグ巡査を逮捕したょ」
「テリィたん。君はなぜ私がウソの自白をしたのか不思議に思うだろうな」
「君達は…つきあってるのか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。取調室の中は、ラギィとヘステの2人。
「ヘステ巡査。貴女、馬鹿なコトをしたわね」
「私達は同じです、警部」
「タイラ・フリスの話をしましょう」
「警部のお母様のコトです」
不敵な表情を浮かべるヘステ巡査。
「あのね。母のコトは今は関係ないでしょ」
「警部は、お母様の殺害犯をこの万世橋警察署の中で射殺した。殺害犯に恨みがあったから射殺したンですよね。そーゆーウワサです」
「しかし、私は貴女みたいに殺害犯を真っ二つにしたりはしないわ」
「あら。警部、私もしてませんょ」
「したでしょ。だから、ポルウは貴女の身代わりを買って出て、自白までしようとした」
初めて動揺の色を見せるヘステ。
「ポルウが?なぜそんな…収拾がつくまで秋葉原を出てと言っただけなのに」
「一体どーゆーコト?話して」
「先ず、私はフリスを殺していません。あの遺体を見た時に私、吐いたくらいです」
「でも、その夜に地下アイドル通りの路地裏へ戻って、私からコスプレのパーツを奪ったでしょ?」
「ソレは、真犯人が誰かを調べたかったから」
理路整然と答える。微かに焦るラギィ。
「ねぇそんなコト、私が信じられると思う?」
「でも、真実です。そもそも、現場でパーツを見つけたのは私でした。でも、ヲタッキーズのメイド達に言われて聞き込みをしてたから拾えなかった。だから、後で戻って警部から奪いました」
「それからどうしたの?」
「桜田門の犯罪データベースをハッキングして指紋鑑定をかけたけど、ヒットはなかった。信じられないなら、同じコトをなさってください」
「じゃウルトラセブヌは、貴女以外で他にいると言うの?」
「それしか考えられません」
「馬鹿げた話だわ」
キッパリと告げるヘステ。
「とにかく、私は殺してません。相席バーの店員に話を聞いたら、ヘステの行動パターンはいつもと同じだそうです。ほぼ毎晩やって来ては、2時頃に路地から出て行く。女を連れて」
「ヘステ巡査。貴女は、犯人はタイラ・フリスが路地裏に現れるのを知っていたと言いたいの?」
うなずく代わりに口をつぐむ、金髪美人の巡査。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「ミユリさん。ヘステ巡査は犯人じゃないと思うンだょ」
「金髪美人だから、ですか?」
「ただ、なんとなくさ。でも、ヘステもチャラも違うのなら、犯人はマジうまいことウルトラセブヌになりすましたってコトさ」
カウンターの中で思案顔のミユリさん…あれ?いつものカチューシャじゃなくて、ヘッドドレスだ。
ゴスなの?
「では、テリィ様。犯人がヒロインなりすましの線で考えてみましょう。標的はタイラ・フリス。コスプレは身元を隠すためか…」
「あるいは、ウルトラセブヌに意図的に罪を着せるためだ。とにかく、フリスは襲うには絶好の標的だからな」
「いつも決まった行動習慣ですからね(テリィ様みたいにw)。しかも、女が一緒ならウルトラセブヌの目撃者にもなって、捜査を撹乱出来ます。犯人は、ウルトラセブヌとフリスの2人に恨みがある人物。あと、サイコキネシスでアイ・スラッガーも巧みに飛ばせる"覚醒"したスーパーヒロインです」
ミユリさんとの"妄想ハレーション"は、いつも的確だ。しかも、楽しい。僕はピンと来る。
「つまり、僕達に初めてウルトラセブヌの話をした人だな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パーツ通り地下にあるSATO司令部。ミユリさんはメイドの大御所なので、誰もが敬語を使う。
「ミユリ姉様…まさか、私がフリスを殺したとでも?ねぇバカなコトおっしゃらないで」
「トニバ・ルデニ。貴女は、ウルトラセブヌが邪魔だった。"覚醒剤"の売人や輸送トラックを襲われて恨んでたんでしょ?そんな時、タイラ・フリスが大金を出せば正体を教えると言って来た」
「姉様。たとえ、ソレがリアルだとしても、殺す動機にはならないわ」
「貴女の"覚醒剤"取引の現場に、毎回ウルトラセブヌが現れる度に、誰かが手引きしてると疑ったハズょ」
「手引きをスル裏切者。ソレは内部の人間としか考えられない。つまり、タイラ・フリスだね。だから、君は一石二鳥を思いつく。フリスを殺し、ウルトラセブヌにその罪を着せるのさ」
ミユリさんとトニデを追い込む。しかし、彼女も手強い。
「おしまい?姉様達の持ち駒はソレだけなの?ソレでヲタッキーズとは笑わせるわ」
大袈裟に笑ってみせ、僕達に挑みかかる。
「でも、問題がアルわ。姉様には、証拠がない」
「あら?あるの」
「え。」
ビニール袋に入ったビームランプを示す。
「現場に落ちてたコスプレのパーツなのだけど、貴女の従姉妹の指紋が出たわ」
「従姉妹は、シャツの仕立てでとても評判が良いらしいが、ヒロインのコスプレも作ったと言っていたぞ。君のために」
「…弁護士を呼ばせて」
ガックリ肩を落とすトニバ・ルデニ。
「それが良いわね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の留置場は地下にあるが、釈放されたヘステ巡査はエレベーターで捜査本部にやって来る。
ホント美人で可愛い。
「貴女の所持品よ。全部あるか確かめて」
「ラギィ警部。ありがとうございました」
「貴女は優秀だし、愛してくれる人もいる。過去ばかりではなく、未来を見て」
ポゥラが待っている。その後ろに僕とミユリさん…あと、モニター画面にはシン司令官パツア・ゲイツ。
「頑張って」ベケット
うなずくヘイスティング。ポールの下へ歩く。見つめ合う2人。警部とキャッスルが2人立っている。
「事件は解決。悪党を秋葉原から排除出来た。正に大成功ではないでしょうか、司令官」
「同感よ、ムーンライトセレナーダー。このチームが全力を尽くしたお陰ね」
「そりゃどうも嬉しいな」
相好を崩す僕。
「私が言ったのは、メイドチームのコトですから。ムーンライトセレナーダー、ヘステ巡査だけど、地下アイドル通りで、ラギィ警部から重要な証拠品を強奪、捜査を妨害したそうだけど」
「いいえ、ゲイツ司令官。あの界隈は夜もコスプレイヤーが多いので、万世橋も巡査と特定スルには十分な証拠が揃わなかったそうです。特にウルトラセブヌは大流行りだそうで」
「そう?なら良いの。巡査は将来有望よ。こんなコトで"分水嶺"を超える必要はナイわ…でも、ウルトラセブヌの名前は今後2度と聞きたくナイわ。またセブヌが秋葉原に出没スルようだと困るのだけれど」
「その心配は無いでしょう」
ココでキメ台詞が飛び出す。
「そうココに願うわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「テリィたん。シン司令官のヲタク心に血が通ったみたいね」
「ラギィ、早まるな。SATOが極秘にスーパーヒロインの指紋照合をしたコトをマスコミに知られたくなかっただけさ」
「ソッチ?…とにかく、犯罪と戦うSFコミック作家とその女神か。ねぇ素敵って思わない?」
釈放されたヘステ巡査は、同じく警官に付き添われたポゥラの下へと駆けて逝く。抱きつく。手をつなぐ。
「私達みたいね」
ラギィの言葉にうなずこうとしたらエレベーターのドアが閉まる直前に、ヘステはポゥラに熱いキスw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「ただいま。あ、ミユリさん。ライヲンキング?」
「違います、リア王。テリィ様、ヒドいわ。私、稽古に行って来ます」
「いってらー」
難破船の乗員みたいなボサボサのつけ髭をしたメイド長はお出掛け。カウンターのスピアに声をかける。
「何してる?」
「シュリとスカイプしてた。もう終わったわ」
「そっか」
PCを閉じるスピア。
「なぁ聞いてくれ。スピアは、初めて会った時からシッカリしてた。時には、僕よりシッカリしてた」
「時には?」
小首を傾げるスピア。良い感じ。
「おっしゃる通り。でも、スピアには他の面もある。衝動的な面や乙女らしい面。だけど、ソレも全部スピアの1部さ」
「わかってる。"大いなる力には大いなる責任が伴う"でしょ。私は"覚醒"はしてないけど、いつもヤルべきコトをしてた。確かに留学は、やりたいこコトをすべきょね。私、少し考えてみるわ」
おお。良い方向だ。
「そうさ!シュリには授業以外でタップリ会えルンだしね」
「ソレもそうだわ。だって、一緒に住むんだしね」
「え。」
凍りつく僕。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"登場人物のモデル"をテーマに、SF作家と、その妄想の産物であるスーパーヒロイン、就中、ヒロインのモデルとなる女性との恋愛感情などを描いてみました。
さらに、主人公の元カノの海外留学騒ぎなどもサイドストーリー的に織り交ぜてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかりインバウンドも秋モードな秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。