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おじさんの幽霊

「え? どこですか? 火浦さん」

「あなたの横にいますよ。見えませんか?」


 佐々木さんの横にスーツ姿のおじさんの幽霊がはっきりと現れていた。


「僕には見えないみたいです」


 こんなにはっきりと現れているのに、これが見えないのか。それはそれで、幸せなのでは……と思ったが、佐々木さんはがっくりと肩を落としていた。まるで捨てられた子犬のようだ。


「話をしたかったのに……」


 なぜ、そんなに幽霊と話をしたいのかわからなかったが、話だけならなんとかなりそうだった。


「懐かしい話をしているねっ言ってますよ」


「火浦さん、聞こえるんですか?」


 佐々木さんは、顔を輝かせてこちらを見た。


 (しまった。また、気のせいにするのを忘れていた)


 どうも、この子犬のような人を見ると、素が出てしまう。もう誤魔化すのも面倒になってしまった。


「はい。聞こえますよ。はっきりとね」


『君も、技術者かい? 今の技術はどんなふうになっているんだろう?』


 このおじさんは、技術者だったのだろうか。死んでからも今の技術が気になるとは、社畜もはなはだし……。いや、これは失礼か。技術者の鑑……。純粋に、今の技術が気になるだけかもしれない。このおじさんは根っからの技術者なのだろう。


「今の技術は、どんなふうになっているのか、気になるようですよ」


 私の言葉に佐々木さんは、嬉しそうに喋り出した。佐々木さんの言葉は、おじさんにも伝わっているようで、腕を組んでうんうんとうなずいていた。


 不思議な光景だった。


 時折、おじさんの質問を挟むと佐々木さんはまた、喋り出した。ちょっとしたコンピューターの講義を聞いているようだった。来年の新入社員研修は、このネタでお願いしようかと考えた。


 佐々木さんがあらかた喋り終わると、おじさんの姿は薄くなっていた。頭はもともと薄かったのか、すっかり透けている。


『会社は当分、大丈夫そうだ』


 そう言うと、おじさんは消えていった。佐々木さんは愕然と床にうずくまった。


「え? おじさん消えちゃったんですか? 僕、まだ何も話を聞いていません。ああいう人は、話を聞いて欲しいから出てきたんじゃないんですか?」


 私もそう思っていた。でも、あのおじさんは話を聞きたい方だったのかもしれない。


「火浦さん。おじさんに戻ってきてもらって下さい。昔の技術者の話を聞きたいんです」

「すみません。私にはそんな能力はありません。出てきたものを見るだけなんです」

「そんな……」


 佐々木さんには気の毒だが、私はもうお腹が空いてしょうがなかった。それでも、佐々木さんのお陰でお祓いをせずともおじさんは消えてくれた。体力の消耗は、最小限に抑えられた。


「とりあえず、おにぎり食べましょう」


 佐々木さんも落ち込みながら結構食べたので、私の分が足りなくなりそうだった。佐々木さんはその後、仮眠室へ行き、私は寝袋に身体を収めた。幸い、今夜はエラー音がしなかったので、ゆっくり眠ることができた。

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