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思い付き

 幸いカジノフロアの人々がアナウンスを気に留めている様子は無かった。些細なことでも何がきっかけでブルーチップのことが広まるか分からない。もしイザベラを口止めした後でも、「さっき呼ばれてたけど何があったの?」と誰かに聞かれたら、イザベラは話してしまうかもしれない。ダニエルは緊張して待ちながら、イザベラにどう口止めしようか考えていた。


(先ほどのは見間違えですよ……)


 いや、ダメだ。もう一度見たら分かってしまうことだ。


(お願い、話さないでください……)


 ダメだ。話さないことでイザベラに何のメリットが?もうこうなれば直球勝負だ。


(どうかこの金額で先ほどのことはお話しにならぬよう……皆さん興を削がれてしまいますので……)


 これでいこう。札束を握らせるんだ。これしかない。


 しかし、待てど暮らせどイザベラ・アルメイダはディレクタールームにやって来なかった。三十分待っても来ない。業を煮やしたダニエルは再びカジノフロアへと繰り出した。


(イザベラ・アルメイダ……イザベラ・アルメイダ……)


 ダニエルは亡霊のようにフロアを彷徨ったが、イザベラを見つけることはできなかった。顔は覚えている。見れば分かるはずなのに……いない。


 途中、スロットマシーンの横を通る時、さりげなく祈るような気持ちで上を見上げた。


(どうかブルーチップがまた隠れて見えなくなっていますように……)


 しかし事実は残酷だった。やはり青いチップの端が見えている。むしろ先ほどよりもはっきりと見えるように感じた。ダニエルは焦った。


(まずい、まずいぞ。イザベラが口外しなくても、他の誰かが気付いてしまうのも時間の問題かも……どうすりゃいいんだ)


 ダニエルはパニック寸前のオツムを急回転させた。


(あの球体の中身をかき混ぜてブルーチップを隠す……?いやしかし、どうやって……?もしできたとしても皆の注目の的になるのは間違いない)


「ちょっと、あなたここのディレクターよね?このスロットマシーン見てくださる?」


 その時、ダニエルに貴婦人が話しかけてきた。


(クソッ!こんな時に)


「……ええと、どちらのマシーンでしょう?」

「これよこれ。バーが外れてしまっているわ。さっきまで普通にプレイできていたのに」


 そのスロットマシーンはバーのネジが外れて取れており、プレイが続行不可能な状態になっていた。


「お客様、申し訳ございません。取り急ぎ、別のスロットマシーンでプレイしてくださいますでしょうか?こちらのマシーンに入れたチップはお戻しいたしますので……」

「嫌よ!さっきまで調子良かったラッキーマシーンなのよ!私は絶対このマシーンでプレイしたいの!」


(参ったな……)


 ダニエルはその時、画期的なアイデアを閃いた。


(これだ……!!)

 

「かしこまりました。すぐにお直しします。但し、修理に一旦全てのスロットマシーンを止める必要がありますので、しばらくお待ちいただけますか」

「……まぁいいでしょう。早くして頂戴」

「三十分もあれば……」


 ダニエルはダッシュでその場を離れると、近くにいたアシスタントディレクターに急いで話しかけた。


「至急!至急!一階のビュッフェフロアにいる客を全員別の場所に移動させろ。代わりにここカジノフロアにいるVIP全員をビュッフェフロアに移動させる」

「な、なんでまた?」

「いいから!理由はこれからアナウンスで話す。三十分だけだ。三十分経ったら全員またこの場所に戻してくれ。今から急いで係員と警備員全員に周知するんだ。いいな?」

「はい……。何名か警備員をカジノフロアに残した方がよろしいですか?」

「それには及ばない。私が対応を心得ている。全員出たらフロアをしっかりと施錠するように」


 ダニエルは再びダッシュすると、ステージに上りマイクを握った。


「ええと……皆様にお知らせがございます。マシーントラブルが発生いたしました。修理のため、しばしお待ちいただきたく存じます。全ての参加者の方々に公平を期すため、テーブルゲームも一旦全て手を止めていただき、一階のビュッフェフロアにご移動ください。一時休憩の時間とさせていただければ幸いです」


 カジノフロアでは残念そうな声が上がった。


「ご安心ください。作業は三十分程度で完了いたします。その後は今の状態から御変わりなくお遊びいただけます」


 ダニエルはやや声色を変えて続けた。


「業務連絡……業務連絡……係員と警備員はお客様を誘導し、一緒にビュッフェフロアへと向かうように。大事なお客様に対し決して粗相のないように、スムーズに移動できるようしっかりと配慮を願います」


 ダニエルのアナウンスが良かったのか、混乱もなくVIP達は警備員と係員たちに誘導されて出ていった。ダニエルは、先ほどの「ブルーチップが見えている」と報告した係員もフロアから出て行こうとしているのを見つけた。ダニエルは係員を急いで追いかけると肩を掴んだ。


「おい!お前はここに残れ!」

「え、係員は全員移動とうかがいましたが……?」

「いや、お前はいいんだ。理由は後で話す!」

「は、はぁ……」


 やがて、ダニエルと係員の二人を残してカジノフロアの鍵が外側からガチャリと閉まった。

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