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ムーンセレナーデ

ちょっとバタバタして間があいてしまい、申し訳ありません…!今日からある程度キリのいいところまで、できる限り毎日(元気があれば複数回)更新の予定です。

「世界各国からお越しくださったVIP中のVIPの皆様」


 薄暗がりの中、スポットライトの当たるカジノフロアの舞台に上がった「セレナーデ・オブ・ザ・シー」のクルーズディレクター、ダニエル・モリスの声がフロア中に響き渡った。


「この星が人類に残した最高の宝物、壮麗なダイヤモンド『ムーンセレナーデ』を皆様にお披露目する機会を設けることができ、心から感謝しております」


 ダニエルは胸を張って続けた。


「前所有者であったベルネリア王家の没落後、過去数百年に渡り行方不明だったこのブルーダイヤモンド『ムーンセレナーデ』。所有するのは一国の王となるよりも難しいと伝えられています。この宝石が皆様にとって、希望と夢、そして可能性の象徴となり、未来への扉を開く鍵となることを願っています」


 カジノフロア中のVIP達が、息を飲んでそわそわし始めた。


「それでは、いよいよその瞬間がやってまいりました。皆様、この史上最高のダイヤモンドのお披露目をどうぞお楽しみください!」


 やがて四方八方からライトの当たる中心にかかった黒い布が係員たちによって丁寧に引かれると、強化ガラスによって守られた、青く輝く大粒のダイヤモンドが姿を現した。


(おおお……!)


 どこからともなく感嘆の声が漏れ、カジノフロアを包み込んだ。


「……さて、皆様が気になっていらっしゃるのは、この『ムーンセレナーデ』をどうしたら手に入れられるのか、ということでしょう。その条件も合わせて発表いたしましょう」


 ダニエルはコホン、と咳払いをしてから、ポケットから一枚、黄色いチップを取り出して掲げた。


「こちらのカジノフロアでは、通常このようなチップを使用しております。チップの金額によって装飾や色が異なるものの、本日一枚だけ、ブルーのチップが紛れ込んでおります。それを明日の明朝、日の出の瞬間に所持していた方が、この『ムーンセレナーデ』を手にするのです」


 ざわざわ……会場がにわかにざわついた。


「幸運のブルーチップがある可能性があるのは、フロアにある全てのゲームテーブルとスロットマシーンです。皆様が賭けたチップの勝ち分に、ブルーチップが含まれている可能性があります。運が良ければすぐに手に入るかもしれません。運が悪ければ……大勝してチップをたくさん得たとしても、その中にブルーチップが含まれていないかもしれません。いずれにしても、ギャンブルをお楽しみいただかなければ何も始まらないということです」


 会場のざわつきが高まったその時、前列にいた初老の男性が声を上げた。


「あの……もし誰もそのブルーチップを手に入れられなかった場合はどうなるんだ?」


 ダニエルが言った。


「その場合は、誰も『ムーンセレナーデ』を手にしないことになります。次回のクルーズまで持ち越しです。その際には今宵の参加料三億ルークは返金させていただきますのでどうぞご安心のほど」


 どよめいたカジノフロアから、どこからともなく声が上がった。


「誰も手に入れられないかもしれないなんて、冗談じゃないぞ!何のために予定を割いてここまで来たと思ってるんだ!」

「そうだそうだ!」


 ダニエルは僅かに口角を上げて言った。


「今回のゲームの内容やルールは、ゲームが始まるまで非公開という条件を知った上で皆様お越しいただいたではありませんか。今からでも参加を辞退されるのであれば引き留めることはいたしません。三億ルークは返金いたします。但し、次回の参加はお断りさせていただきますのでご了承ください」


 やってられるか!という声が聞こえ、一人、また一人と会場から去っていった。その様子を見ていたアリスが、隣りに立っていたシャルルの袖を引っ張って小声で言った。


「シャルル様……本当にこのゲームに参加されるのですか?やめておいた方が良いのでは?」


 その時、アリスの左後ろから女性の声が聞こえた。


「ここまで来て帰るなんて、とんだ馬鹿どもね。こんなチャンスをみすみす棒に振るなんて。カジノで遊んで運が良ければ、あの『ムーンセレナーデ』を手にすることができるのよ?かつて世界中の王様や皇帝がこぞってそれを所有する栄光を競った物だということを忘れたのかしら?」


 アリスが声の方を振り返ると、世界最大の宝石商ヴァンデルブルクのCEO、リサ・ヴァンデルブルクの姿があった。シャルルはふふっと笑って言った。


「リサ・ヴァンデルブルクの言う通りさ。それに、今はまだ言えないけど、『ムーンセレナーデ』を手に入れたい理由があってね」

「はぁ……」


 結局その場を去ったのは百組計三百人ほどのVIPの中から二十人ほどで、ほとんどのVIP達はその場に残り、目をギラつかせていた。ダニエルは両手を掲げると言った。


「皆さまにご安心いただくため一つ申し上げておきたいのは、必ずブルーチップはこのカジノフロアにあり、誰しもゲームに勝つことで手に入れられる可能性があるということです。こちらの壁にはその誓約書がございますので、不安があればご確認くださいませ。後日、第三者機関による、誓約書を立証するための査察もおこなわれます」


 ダニエルはこの日一番大きい声で続けた。


「カジノフロアは本日、皆様の貸し切りとなりますのでごゆっくりお楽しみください。それでは皆様、幸運を!」

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