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ガブリエル・マルタンとの遭遇

 アリスは、冷たい風が吹き付ける曇り空の午後、拘置所の門をくぐり、重々しい空気に包まれた重厚な石造りの建物の中へと足を踏み入れた。


「ルイーズ・ドゼーさんとの面会で伺いました」


 アリスが受付の女性にそう伝えた時、アリスはふいに接近する影に威圧感を覚えた。


「なんだ貴様は、ルイーズ・ドゼーは法廷関係者以外接見禁止だぞ」


 アリスが見上げると、細身で高身長に、黒縁眼鏡をかけ、分厚い資料を抱えた男が射抜くような鋭い視線でアリスの方を見下ろしていた。それはあの天才検察官ガブリエル・マルタンその人であった。ガブリエルは強い握力でグッとアリスの肩を掴むと言った。


「怪しい奴だな、名を名乗れ」

「名乗るほどの者ではございませんが……アリス・エマール・アルノーと申します」


 その時、天才検察官の脳内復讐相手データベースが静かに回転を始めた。ガブリエル独自の調査によって作り上げた脳内データベースである。アリス・エマール、アリス・エマール……その名前はデータベースの末尾、「特にオベール=バシュラール家の没落には関係ないけど、まぁアルノー家の連中だし一応やっつけておくか」のカテゴリに入っていた。ガブリエルは一瞬驚きに目を見開いたかと思うと、口角を上げた。


「……ククククク!貴様が没落したエマール家の令嬢で、アルノー家の使用人となり、シャルル・アルノーと結婚したあのアリス・エマールか」

「まぁ、よくご存じですのね。ところでその手……痛いのですが」


 ガブリエルは興奮でアリスの肩にかけた手に力が入っていた。


「おおっと、失敬」


 ガブリエルはようやく手を離すと、アリスに向き直って言った。


「で、アルノー家夫人がルイーズ・ドゼーに何の用だ」

「無実のルイーズ・ドゼーさんを助けに参りましたわ」

「ククククク、助けに?どうやって?お友達のギロチン台は確定だよ。100%有罪だ。今回のは争う余地のない、あまりに簡単な殺人事件でね」


 ガブリエルは勝ち誇ったようにアリスに向かって言った。


「それに残念だったな。さっきも言った通り法廷関係者以外は例え家族であっても接見禁止だ。ギロチン後、仏になってから会うんだな」

「一般の方が接見禁止なのは存じておりますわ」


(何を言ってるんだこの女は?)


「接見もできないのにここに来て何をする気だったんだ?」


 アリスはガブリエルの質問を無視して、受付にあった紙にすらすらと書き込み、それを受付の女性に手渡すと、その女性はアリスに接見室の鍵を手渡した。


「それではルイーズさんとの接見に行って参りますので私はこれで」

「……は?貴様何を言ってる?どういうことだ?」


 アリスは振り返るとガブリエルに向かって言った。


「さっきからやたらと馴れ馴れしいですのね。あなたがルイーズさんの事件を担当すると噂の悪徳検察官の方でしょうか?私がルイーズさんの弁護人ですわ」


 ガブリエルはしばし呆然としながら颯爽と去っていくアリスの後ろ姿を見つめていた。混乱した頭を整理するのに数秒を要した。


(アルノー家夫人がルイーズ・ドゼーの弁護だと……?それも俺が最も得意とする殺人事件ときている。ククク、俺が担当する訴訟に敗北を重ねてアルノー家も遂にオツムがイカれたか。いいだろう、ルイーズ・ドゼーをギロチンにかけ、アルノー家夫人を法廷で恥ずかしめ、その高慢な鼻を圧し折ってやる。オベール=バシュラール家の没落に関連したアルノー家、ドゼー家の連中は俺が一人残らず地獄に送ってやるぞ……!)


 アリスはガブリエルの心の声を聞いたかのように振り返ると言った。


「必ず無罪を勝ち取ってみせますわ。また法廷でお会いしましょう」

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