私の婚約者を殺したのは誰……?
随分間があいてしまったのですが、この物語の続きを書いてみたいと思い、筆を進めることにしました!誰も読んでくださらなくても気にせず、気楽に書き進めたいと思います。
さて、第二章はシャルル・アルノーとアリス・エマールの結婚後の世界。シャルルの親友アントワーヌ・ドゼーの妹ルイーズが、婚約者殺しの容疑者となるところから始まります。どうなることやら……(自問自答)。
<人物情報(よく分からなくなった時の参考用)>
・アリス・エマール・アルノー…本作の主人公、頭脳明晰
・シャルル・アルノー…アルノー家当主、アリスの夫
・アントワーヌ・ドゼー…ドゼー家当主、シャルルの親友
・ルイーズ・ドゼー…アントワーヌの妹、婚約者ラファエル殺しの容疑者
・ラファエル・ベルトラン…ルイーズの婚約者、血を吐いて亡くなっているのをルイーズに発見される
・クロエ・ベルトラン…ラファエルの義妹
・ガブリエル・マルタン…天才検察官、アルノー家とドゼー家に恨みを持つ
・エマ…アルノー家メイド
・ポール…アルノー家使用人
・その他…今後出てきます
「君との婚約は破棄する……!」
屋敷の大広間で侯爵ラファエル・ベルトランの声が響き渡った。何が起こったのか分からず、呆然としたままルイーズ・ドゼーはその場に立ち尽くした。
「え……今何とおっしゃいましたの?」
「君との婚約を破棄すると申したのだ。ルイーズ」
ラファエルのかたわらには、ラファエルの義妹であるクロエが立ち、蔑んだ目でルイーズを見つめていた。ラファエルは厳しい視線をルイーズに向けながら口を開いた。
「君がこれまでしてきた我が義妹クロエへの虐め、暴虐の数々、自らの胸に聞いてみるがいい。ここにサインをし、荷物をまとめ、明日この屋敷から出ていけ!」
その場でへなへなと力なく崩れ落ち泣きじゃくるルイーズ。ラファエルがその脇を抱え震える手を取って書類にサインさせると、使用人たちがやってきて力無くうな垂れるルイーズの両脇を抱え大広間から連れ出していった。
クロエはラファエルを上目遣いに見て言った。
「お義兄様、突然のことで驚きましたわ。でもありがとうございます。わたくしのことをそこまで想ってくださっていたなんて」
「……ああ」
その時ラファエルの目に光った涙に、気付いた者はその場に誰一人としていなかった。
その夜、ルイーズは一睡もすることができず静かに荷物をまとめていた。ただただ悲しかった。クロエが仕組んだことなのだろう、ということは分かっていた。クロエがルイーズのことを好いていないことは知っている。
ラファエルと婚約してから、ルイーズは少しでもクロエと仲良くなろうとしたが、全ては無駄だった。クロエに話しかけては無視され、手料理を振舞っては「腐った食事を出された!」と吹聴された。何か良くないことがある度にクロエはルイーズのせいにし、ルイーズは次第に屋敷の人々からも白い目で見られるようになった。
しかしラファエルだけはずっとルイーズに対し優しかった。何かある度に守ってくれた。それなのになんで……。こんな悲しい終わり方なんて。ラファエルが以前ルイーズに向かって発した言葉が脳内にこだました。
「ごめんなルイーズ。でもクロエを恨まないでやってくれ」
荷造りも終わる頃、窓の外は薄っすらと白んでいた。間もなく夜が明ける。
(誰にも見られる前に、屋敷を後にしようか……)
ルイーズがそんなことを考えていた時、ドアの向こうでドスン、と大きな音が聞こえた。ルイーズが慌てて寝室から飛び出すと、信じられないものを目にした。
廊下には、ラファエルが血を吐いて倒れていた。
***
シャルル・アルノーとアリス・エマールの結婚から早や半年、事件現場から遠く離れたアルノー家の屋敷では、温かい陽気に包まれた日常が広がっていた。
「ひまひまひまひまひまひまー。まひまひまひまひ」
アリスが小さな声でぶつぶつと呟きながらアルノー家の屋敷をウロウロと散策していると、その姿を見たメイドのエマが窓の拭き掃除の手を止めて言った。
「最近暇そうねアリス?」
「……えと……すみませんエマさん。聞こえてました?」
「うん、もうばっちり」
「あちゃ~」
アリスはバツが悪そうに頭をかいた。
「ごめんなさい……なんだかシャルル様と結婚してから皆さんが気を使ってくださるからあまりお掃除とか雑用の仕事が回って来なくて……。それにシャルル様もほら、元気になられてから仕事一筋でしょう?」
「あらまぁ、かわいいのねアリス。もっと甘い新婚生活を期待してた?」
「うーん、まぁ違うと言えば嘘になりますわ(新婚旅行もまだだし……)」
「特に最近はシャルル様大忙しだものね」
オベール=バシュラール家の資産を差し押さえて以降、アルノー家はこの国の名家筆頭となり、宰相はもちろん、国王からも重用され当主のシャルルは多忙を極めていた。
それに加え、これまでオベール=バシュラール家に取り入って甘い汁を吸い続けてきた残党から目を付けられ、アルノー家は数多くの訴訟を起こされていたのだった。
「誰か腕のいい弁護士でもいれば少しはシャルル様も楽になるんでしょうけど」
エマがボソッと呟いた。そのエマの言葉を聞いたアリスは、朝の新聞記事を思い出した。
(検察官ガブリエル・マルタン、またもアルノー家相手の訴訟で勝利)
ガブリエル・マルタンはこの国随一の天才検察官として知られ、今までオベール家、バシュラール家に取り入って甘い汁を吸い続けてきた者の一人である。本来刑事事件が専門で数多くの敵対する被告人をギロチン台に送ってきたが、オベール=バシュラール家の没落後は一方的にアルノー家への恨みを募らせ、アルノー家相手の民事訴訟にも顔を出し軒並み勝訴していた。
その時、廊下の突き当りから、間の抜けた声で呼ぶ使用人ポールの声が聞こえた。
「おーい、そんなところにいたのかよアリス。シャルル様が応接間で呼んでるぞ~!」
(まぁ、シャルル様が……!)
「あら、良かったわね、アリス。シャルル様のところへ行ってらっしゃい!」
アリスはエマに向かってにっこりと微笑んでピースすると、小走りで応接間へと駆けていった。この後起こる出来事が、大きくアリスの運命を左右することになるとも知らずに。




