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神様なんていない ~お母さんがお母さんじゃない~

 病院から家に戻ると、面白くもない難しい本と対峙する。

きっと読めないし、『おほんたま』は怖いしで、読みたい気持ちは微塵も出ない。

お父さん曰く、難しい本の知識は専門的な『助け』になる為にあるとの事だけどさ。

それは『助け』になるかもしれないけれど、結果的に思い通りになる訳じゃない。

誰もが何かで困っているのは分かるけれど、どうしようもない事はどうしようもない。

置いてあるだけの本なんて、倉庫に埋もれている何かと同じだよ。


 読めなくて困っているボクが、そう思うもん。

とりあえず、どんな本でも読み易くて、面白くしたら良いじゃんね。

『ひらがな』ばかりで誰でも読める絵本みたいなら読みたくはなるもん。

読まれなければ意味が無いのに、読まれたい気持ちが足りないと思うのさ。

読まれた方が『おほんたま』も笑顔になると思う……笑顔も怖そうな感じだけど。

面白くも無い、読み難いだけ、ただ難しいだけの本なんて、全く意味が無い。

それが例え電子書籍になっても、きっと手に取る事も無いよ。


難しい本に囲まれて寝落ちしたら、ホラー映画みたいな夢を見そうで嫌過ぎるもん。


 やっぱり面白くて分かり易い絵本が一番と思うんだよね。

楽しい絵本に囲まれて見る夢は『ワクワク』がてんこ盛りになる。

ボクが先頭に立って、強い怪物達を倒しながら『どんどん』と突き進む。

そして『万能回復薬』を創ったりして、どんなに困っている人でも助けていく。

『勇者』として伝説となるには、まだまだ始まったばかりだ!


……という、夢を見て少しスッキリした。


 さて、また病院へと来たけれど残念なお知らせがあります。

リハビリが始まったのに、お母さんが想像していたよりも動けない……何なのさ。

立位の訓練もしているけれど『プルプル』して生まれたての小鹿みたいになってるもん。

担当の人が『できるようになっていますね』とか『随分良くなりましたね』とか言うんだよ。

ボクにとっては全くできていないんだけど、お母さんも笑顔で頑張っているから何も言えないし。


 夢の中での『万能回復薬』も、現実にはありえないのは分かっているけれど。

だからこそ現実のお母さんを見ていると、このまま『できないままかも』という恐怖がボクを襲う。

今迄の怪我や病気が治っているボクは、どうしてお母さんが治らないのか分からなくて楽しくない。

お母さんが元気になりそうな絵本を持ってきたけれど、読んで貰うにも手の動きが今一つだし。

お母さんにして欲しいのに『何もできない』お母さんを見て、ボクは思ってしまう。


「何だかお母さんが、お母さんじゃないみたいだ」


 あ、言葉に出ちゃった。

そんな思った事を呟いただけなのに、お父さんも、お兄ちゃんも『おほんたま』に負けない怖い顔。

いきなり絵本で顔面を挟まれると、無言でお兄ちゃんに休憩室へ引き摺り込まれてしまった。

お兄ちゃんから『二度と喋るな』って言われたけれど、それは言い過ぎだと思うぞ。

だってさ、ありのまま、思ったまま、そのままが口に出ただけで悪くないもん。


寧ろ、お母さんが誰よりも頑張って、もっと良くなるのなら……それで良いじゃんね?


 こんなお母さんは、お母さんじゃないもん。

何もしない何もできない何も分からない親なんて、子供からは疑問符だよ?

動物の子供だって、安全の確保、食事の世話、色々な知識を殆ど親が与えるもん。

誰かに助けられる可能性はあるけれど、大切なら教え育てて初めて親と思うよね。

こんなのおかしいもん……ボクの周りを見たら、誰だって分かると思う。


 分かっているよ、それだって『理想』なのも分かっている。

助けて面倒をみるのは義務なんでしょ、テレビでやっていたからね。

親が子を、子が親を、互いに法的な枷をしないと見捨てる人もいるんでしょ。

つまりは気持ちだけでは駄目って話さ……綺麗事じゃないもん。

世界中をみたら『子供を働かせている』ところもあるらしいからね。

大人の知る危険性を理解させるよりも先に、社会に投げ入れられる世界もあるわけ。

それでも大人が都合の良い理由や基準を持ち出したら、なんでもありじゃん。

搾取、苦痛、抑圧、放置とか、そんな虐待が正当化されちゃうよ。


理由はどうであれ、している事を堂々と言えないなら、しちゃいけないよね。


だからこそ。


 ボクはお母さんに、お母さんらしい事をして欲しいだけ。

ボクにもできそうな簡単な事ができない姿を見せられても困るよ。

笑顔で頑張っているお母さんを見ていると遊んでいるようにしかみえない。

ボクの中にある何でもできるお母さんという存在が崩壊していく。

何でお母さんなのに『こんな事もできない』のか、意味が分からないもん。

あれだけ何でもして貰えたのに、何もできないなんてさ。


『何でもしてもらえる』と思っても『何もしてくれない』のは『神様』だけで充分だよ。


……溜息交じりに周りを眺めてみると、ふとボクの中で疑問が宿る。


 この病院には、色々な大人の人がいて、忙しそうだ。

色々な役割があって、必要な仕事をしていて、成り立っている。

それって仕事場だけじゃなくて、学校や家庭、何にでも言えるのかな。

ただ皆が何かに困っていても、ボクは何もしていないし、何もする事ができない。

子供だから別に何もしなくたって仕方がないから……仕方がない?


……これって、仕方のない事なのかな?


お父さんは仕事を頑張っているから、ボクのお父さんなのかな?

お兄ちゃんは運動していなくても、ボクのお兄ちゃんだよね?

ボクって……何もしていないボクって、何なんなのかな?


お母さんは、何をしていたらお母さんなのかな?


『何をしていたら、何なのだろう』

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