表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

神様なんていない ~お願いしても治らない~

 今日も朝からボクもお兄ちゃんも『バタバタ』と大慌てで学校へ行くけれど。

勉強は面白くないし、何をしたら良いのかも分からないし、ボクにはできる事もないし。

貰った折り紙で折鶴を折ってみるけれど、折鶴がお母さんを治すとも思えないしね。


授業が終わりになると『バタバタ』と足音を響かせ、突然お兄ちゃんが飛ぶようにやってきた。


「ケンジ!お母さんが目を覚ましたって!」

 その声を聞いてボクも大急ぎでランドセルを背負うと一緒に走って校門へ。

お父さんが車で迎えに来ていてボク達が飛び乗ると、そのまま病院へ駆けつけた。

集中治療室から場所も替わり、ナースステーションで確認をしてお母さんのいる病室へ。


「お母さん!」

 個室のベッドで休んでいるお母さんは、ボク達を見つけて笑顔を見せる。

良かった……本当に良かった……お母さんが帰ってきたら、いつもの生活になるもん。

ボクは嬉しくてベッド柵を掴んで『ピョンピョン』と飛び跳ねたら、怒られた。

この病院の名医と呼ばれるお医者さんは、やっぱり『魔法使い』なんだね。


「ご家族さんですね、これからの事でお話を」

 あ、魔法使いで名医のお医者さんが『ご登場』だ。

お母さんは何時頃に帰れるのかな……用意もあるから、明日になるのなら少し残念。

食事もイマイチだし、学校の用意も忘れていたし、手伝う事ばかりボクに言われても困る。

お母さんがいないと家の中が本当に大変で、全然今迄通りにならないんだよ。


「早期にリハビリを開始して、回復状況を見極め、退院時期を判断していきます」

「よろしくお願いします」

「ご家庭での生活環境を含めた対策なども、退院時に合わせて必要になるかと……」

 ……『リハビリ』……って、何だろう。

何か難しい話をしているけれど、何となく今すぐに帰るのは難しそう。

絵本とかの魔法使いだと『ぴーっ』としたら『ぴーっ』って治りそうだけど。

あ、杖が無いからできないのかな……それとも治さない意地悪な『魔法使い』だったりして。

駄目だよ、駄目だよ、ボクは治せないから仕方がないけれど、治せるなら治さないとさ。

ここは『魔法使い』の本心を聞き出そうと、ボクは口を出す。


「ねぇ、お母さんは、どうして帰れないの?」

「どのぐらい体が動くようになるのか、まだ分からないからね」

「もう起きたから、治ったんじゃないの?」

「転んで怪我をしても少しずつ治るのと同じで、突然治る事はないかな」

「だって名医なんでしょ、魔法で治さないの、『ぴーっ』って」

「先生、済みません……ケンジ、少し黙ってろ」

 むぅ、お兄ちゃんに黙らされた……物凄く理不尽な気がする。

だってだって、お医者さんなんでしょ、名医なんでしょ、魔法使いなんでしょ?

家にある難しい本も読めるような、あの『本の神様』から睨まれないような大人でしょ?

不貞腐れながら話を聞いて分かった事は……名医って、どうやら『魔法使い』じゃないらしい。


「まずはリハビリを頑張りましょう」

 色々とできる様になる為に、お母さんはリハビリをする事になった。

リハビリは、再び適した状態になるように一定期間設けられた手順との事。

何だか大変らしいけれど、やらないと駄目みたいで……正直、面倒臭い。


 ……どうしてお医者さんなのに直ぐに治せないのかな。

色々と治せるからお医者さんなのに、治せないのなら意味が無いよ。

幾ら頑張ってもできないのなら、お医者さんをやる意味なんて無いと思うんだ。

役に立つ事をしていないのなら、そんなの『無駄な頑張り』でしかないもん。


お医者さんが治せないなら、できる人がやれば良いと思うけれど、治せそうなのは……


 うん、『神様』なら何とかできるかもしれない。

何でもできて困っている人を助けてくれるから『神様』なんでしょ。

お祈りも、お供えも、お布施も、何だってするから大丈夫だよね。


「お父さん、お医者さんが治せなくても、『神様』なら治してくれるよね」

「『神様』が治してくれるのなら、お医者さんなんて要らないだろう」

 ……絵本の世界と違って、この世界は簡単に治してくれないみたい。

少し考えれば分かる事とはいえ、お父さんの言葉はボクが不安になる正論。

これからどうしたら良いのかなぁ……ボクは一日寝たら大丈夫なのに。

お医者さんって、ボクが思ったより何もしてくれないし、できない人みたい。

人一倍大変で、人の為になる職業って聞いた事があるけれど、一体何をしていたのさ。

難しい本を読めて、難しい事もできて、難しい事を考えられるのに、治せないお医者さん。


……ボクはお医者さんにはなりたくはないなぁ。


 やっとお母さんが起きたのに、ボクの中の不安は拭い去れない。

また料理を手伝わないと駄目みたいだし、いちいち忘れ物がないようにしないといけないし。

子供は好きな事をやった方が良いのに、何でボクは嫌な事もしなきゃいけないのさ。

誰かがしたら良い事なのに、ボクが色々としないといけなくなるんだよ。


 前はこんなんじゃなかったし、今だって周りはこんなんじゃないもん。

ボクは子供なんだよ、ボクにとっては嫌なんだもん、そうだよ『ストレス』ってヤツさ。

したくもない手伝いをさせるとか、ボクが叱られるのに何もしてくれないとか。

『どんどん』好きな事をする時間が削られるし、嫌な事だけが増えていくんだよ。

している事が当たり前で特別じゃなくても、できない事はできないもん!


考えれば考える程に、ボクの顔が不満で歪む。


したくない事はしたくないもん、ボクの言っている事って何か間違っている?!

『イライラ』してストレスマックス、果てしなくストレスマックスなんだもん!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ