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神様なんていない ~難しい本があっても意味は無い~

「よし、今日は料理をしよう!」

 突然の発案に驚くけれど、お父さんは一人暮らしをしていた経験があるみたい。

お兄ちゃんはお母さんの手伝いもしていたらしく、キャンプでも活躍しているそうだ。

ボクはしなくても良かったから何もできないので、少しはできる人がいた方が都合は良い。

お父さんもお兄ちゃんも笑顔でボクの前に拳を突き出している……あれ、この空気は手伝えと?


……流石に自分の事でもあるので『嫌』とは言い辛くて、仕方なくボクも拳を突き出した。


 冷蔵庫にある食材を見ながら献立の相談をする。

カレーライスとコーンサラダとフルーツというボクの好きなメニューで決定。

お父さんを中心にして手伝うけれど、ボクは『何が手伝えるのか』も分からない。

とりあえず、任されたのは『お皿やスプーンを用意して並べて置く』だけ。

お父さんから言われた物を探して並べて……もう終わった。


……これだけだと何だか、何だかつまんないな。


「おいおい、大丈夫なのか?」

 踏み台の上に乗り、まな板の前で包丁を『キラリ』と光らせる。

ボクには初体験な事ばかりだけど、皆も『できる』ならできるもん。

それでもボクには危ないからと、今回は玉葱を切る事だけの初挑戦。

まな板が動かないように、手を切らないように、準備も気持ちも万端。

お父さんの手本通りに切ってみると上手に切れた……ボクって天才かも。

調子にのって何回か玉葱を切ってみると、何故か目が痛くて涙が出てきた。

お兄ちゃんは、お芋や人参を切っていたけれど平気そう。


「玉葱を切ると目に染みるだろう?」

 そういえば『玉葱を切ると涙が出る』って何処となく聞いた覚えがある。

お父さんの説明では『玉葱を切ると『細胞』が壊れて『硫化アリル』という成分が』……はい。

……とりあえず、詰まるところ『玉葱を切ると涙が出る』と教えて貰った。

長い説明は覚えていないけれど、こんなに涙か出るなんて事は忘れそうにない。

折角のボクの役割だから不本意だけど、お兄ちゃんに譲り任せる事にした。


 そんな感じで、できる事を少しずつ、やれる事を皆がする。

後は肝心のご飯を炊くのを忘れていたり、福神漬けを買ってくるのかで揉めたり。

段取りは今一つだけど、無駄に大騒ぎで時間は費やしたけれど、何とか夕食が出来上がった。


「では、いただきます!」

 うん、買うお弁当よりも美味しい気がする。

美味しいけれど、あれだけ皆で頑張ったけれど、お母さんのカレーより美味しい気がしない。

食べたらボクも後片付けを手伝う……これからは手伝う事が当たり前になると考えると嫌だなぁ。

お母さんがいたから、何もしなくて良かっただけ、楽ができないだけ、経験した事が無いだけ。

それだけお母さんが大変だったって事だし、ボクが甘えているだけかもしれないけれど。

そんなのは言われても、ボクは知らないし、大人じゃないし、したくないもんね。


 食後は、いつもの部屋で絵本に囲まれていつも通り……だけど。

今日は気分を変えて、少しは難しい本でも見てみようとも思うんだ。

いつまでも玉葱の事だって知らないままのボクのじゃいられないもん。


 お父さんやお母さんが読むという厚めの本が置いてある棚を見る。

本が並ぶと威圧感が凄くて、何だか色々な隙間から不思議な怖さも感じた。

絵本で言うなら『妖精』がいるかもしれないし、『おばけ』がいるかもしれない。

もしかしたら、夢で見た『本の神様』がやっぱりいるのかもしれないな。


日本には、数えきれない事を示す『八百万』を用いた『八百万の神様』が居られるという。

その『神様』は、何処にでも居られて、あらゆるものに宿り、いつでも見ているらしい。

沢山いるのなら、怖い『本の神様』も、怖くない絵本みたいな『おほんさま』だっているかも。

ただ『夢の中までいる』とするなら、誰だって逃げようが無いよね。


……やっぱり、本は片付けた方が良いのかな?


「どうしたケンジ、読みたい本でもあるのか?」

 後ろからお父さんに声を掛けられて、小さく跳び上がる。

もしかすると何か知っているかもしれないので、怖い『本の神様』の話をしてみた。

意外だけどお父さんも子供の頃は『難しい本が怖かった』らしくて『夢にも出てきた』らしい。

それは受験という勉強の為の本らしいけれど、今は置いて無いから大丈夫との事で一安心。

此処にある本棚には、ボクには読めそうにない本や普段使わない資料ばかりとの事だった。

つまり、面白い本は一つも無いらしい……面白くも無い本ばかりの本棚なんて何であるのだろう?

大人の読む本が面白く無い理由は良く分からないけれど、とりあえずは必要みたい。


「いつも片付けないから『神様』から睨まれるんじゃないか?」

 ボクの頭を『グリグリ』と撫でながら苦笑いのお父さんは、お母さんと同じ事を言う。

何一つ片付けていないから言い返せないけれど、怖い『神様』って意味が分からない。

お父さんみたいに大人になったら、不思議な怖さは感じなくなるのかなぁ。


何となく感じた怖さを探してみるけれど、お父さんといると分からないや。


 ボクは面白い本が読みたいだけだから、別に大人が見る面白くない本に興味は無い。

知らない言葉は知らないし、読めない本は読めないし、分からないものは分からないし。

何か難しい本を読めば大人になれる訳でもなくて、子供のボクには読めないのなら別にいいや。

大人が面白くも無い本ならボクが面白い訳もないし、読みたいかと言われたら別に読みたくもない。

玉葱の事だって、難しい本を見なくても経験したら分かるし、別に読む意味なんてないよね。


少しばかり忙しくて、少しばかりいつも通りで、少しばかりお母さんの事を考えながら。

少しばかり包丁も使えて、少しばかり疲れたけれど、少しばかりできる事が増えた。


怖い『本の神様』から守ってもらえるように、今日も絵本に囲まれて眠る事にしよう。

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