6. 抗酸化物質を摂取する
抗酸化物質(antioxidants)というのは、酸素による酸化を防ぐための物質のことで、生物には必ずこの物質が備わっています。
ヒトをはじめ、ほとんどの生物は酸素がないと生きていくことはできません。
しかし、生体内で酸素が燃えた時、約2%は活性酸素(active oxygens)という物質になってしまいます。
この活性酸素は体内に入った異物やガン細胞をやっつける役割もありますが、敵味方なく攻撃をするため、当然正常な細胞や細胞内の物質をも攻撃してしまいます。
もし細胞が攻撃を受けてしまうと、死んでしまうか、生き残ったとしても正常な働きをすることができなくなり、ガン細胞のように有害な働きをするようになってしまいます。
そのため、抗酸化物質の働きも欠かせません。
元々、ヒトの体内にはSOD(superoxide dismutase)や、カタラーゼ(catalase)という酵素が備わっており、活性酸素を常に除去してくれています。
しかし、それだけでは除去できずに残ってしまう活性酸素もあるため、食物からとった抗酸化物質の働きも欠かせません。
それらを両方組み合わせることによって、私達は活性酸素のダメージを極力少なくし、健康的な日々を過ごすことができます。
体が健康な状態であれば、病原菌やウィルスが仮に体内に入り込んでしまったとしても、発病してしまう前に素早く撃退することができます。
例えて言うなら、ロールプレイングゲームでHPを常に高い状態に保っておけば、戦闘で多少のダメージを受けても動揺せずに済みますし、敵から思わぬ一撃をくらったとしても、そう簡単にやられずに済むと言ったところでしょうか。
というわけで、この項では、代表的な抗酸化物質を取り上げていきます。
1. ポリフェノール(polyphenols)
近年、赤ワインで報告され、その後、色々な植物から報告された抗酸化物質です。
光合成を行う植物は、何らかの種類の抗酸化物質(ポリフェノールを含む)を持っており、体内で発生した活性酸素を消去しています。
特に、植物は光合成をするので、光が当たっていれば、そのエネルギーを利用して水を分解し、水素(正確には水素イオンと電子)と酸素を発生させています。
うち、酸素は呼吸に使う時以外は不要な物質なので、大気中に放出し、水素イオンと電子、そして大気中から取り込んだ二酸化炭素を使って、光合成をおこない、ブドウ糖を作り出しています。
しかし、時として発生した電子が酸素と結合してしまうこともあります。
こうなると、植物体内で活性酸素が発生してしまい、このままでは自身が大ダメージを受けてしまいます。
そこで、植物は強力な抗酸化物質を備えており、活性酸素による被害を少なくしています。
そのおかげで、植物は動物よりもずっと長い間生き続けると考えることができます。
その代表的な物質と考えられるのがポリフェノールです。
(なお、フェノールという物質は化学式:C6H5OHで表される物質で、タンパク質にダメージを与える(正確に言うと変性させる)物質です。ポリフェノールとは全く違いますので、ご注意ください。)
ポリフェノールは熱に強く、果実の皮など、表面に近い組織にたくさん含まれます。
ですから、多く摂取するためには、皮をむかずに食べられるものを取るのがお勧めです。
(僕はそれを知る前から生ごみを減らすという意味も込めて、リンゴや柿を皮さら食べています。)
効果の持続時間は資料にもよりますが、2~3時間または3~4時間と言われています。
ということは、約3時間おきに食事をしなければならないのでしょうか?
それはノーだと思います。
すでに書いたことですが、免疫力は空腹時に強化されます。
ですから夜食は控えるべきですし、間食もあまりしない方がいいかもしれません。
でも、空腹状態や間食を取ることを無理に我慢すると、それはストレスになりますので、完璧主義にはならず、臨機応変に対応するのがいいでしょう。
2. ビタミンA、C、E
ビタミン(Vitamins)は、微量でヒトの体に作用し、欠乏するとある種の病気にかかるといった欠乏症を引き起こす物質の総称です。
歴史上ではビタミンAとBが最初に発見され、以降、発見順にアルファベット順にC、D、Eと命名されました。
ただし、ビタミンFは脂肪酸の一種で、ビタミンと考えるのは不適とされたために外され、ビタミンKはドイツ語のKoagulation(意味は凝固です)の頭文字から取られたため、アルファベット順という規則からは外れています。
ビタミンAは脂溶性(油に溶け、水に溶けにくいこと)の物質で、正式名称はレチノール(Retinol)と言います。
酸化されて形が変化するとレチナール(Retinal)、レチノイン酸(Retinoic Acid)という名前になります。
ここで取り上げるくらいですから、当然、抗酸化作用があります。
さらに免疫細胞の発生や分化にも欠かすことは出来ません。
それ以外にも、網膜細胞の保護、粘膜や皮膚を正常に保つ働きなどがあります。
不足すると夜盲症になり、夜間に視力が低下する病気になります。
なお、過剰摂取をしてしまうと頭痛、吐き気などの症状が出てきます。
レバーにはビタミンAの含有量が非常に多いので、大量摂取は控えるべきでしょう。
一方、植物にはビタミンAの前駆体であるカロテン(αカロテン、βカロテンなど)が含まれています。
カロテンはそれ自体でも抗酸化作用がありますし、体内に取り込まれると一部がビタミンAに変わります(詳しくは後述)。
ビタミンCは水溶性(水に溶け、油に溶けにくいこと)の物質で、正式名称はアスコルビン酸(Ascorbic Acid)と言います。
自身が酸化されることで、他の物質が酸化されることを防ぐことが知られており、いわば身代わり地蔵となる物質です。
元々は壊血病(皮膚から出血が起きやすくなり、さらに血が止まりにくくなる病気)を予防する物質として発見されましたが、近年では風邪を予防する目的で取るケースが多いです。
また、鉄分と一緒に取ると鉄の吸収率が上昇し、カルシウムやコラーゲンと一緒に取るとそれぞれ骨密度上昇や、美肌効果が期待できることが知られています。
様々な野菜や果物に含まれ、さらにはサプリメント剤で安価に手に入れることもできるため、欠乏することは近年ではまれですが、欠乏症としては、上記の壊血病があります。
過剰にとっても2、3時間後に排出されてしまうため、過剰症になることはありません。
なお、弱い下剤としての作用があるため、一度に10g以上取ってしまうと下痢になることがあります。
ビタミンEは脂溶性の物質で、正式名称はトコフェロール(Tocopherol)と言います。
様々な種類がありますが、主にα-トコフェロール、β-(以下、同名)、γ-(ガンマ)、δ-(デルタ)がよく知られており、このうち、αが最も高い効果を発揮します。
この物質もビタミンCと同様に抗酸化作用が知られており、この物質も身代わり地蔵と言えます。
通常、ビタミンEは酸化されると効果を失ってしまいますが、ビタミンCなどの抗酸化物質によって再び元の形に戻ることができ、効果が復活します。
ですから、ビタミンCとEを一緒に取ることで抗酸化作用がさらにアップすることが期待できます。
資料にはCとEに関する記述が多いですが、このことは、ビタミンAにも適用できると思います。
しかもビタミンAとEは同じ脂溶性なので、同じ場所で助け合いながら働くことができると考えています。
脂溶性の物質ですが、過剰症が起きにくいことが知られており、多量にとっても血が止まりにくくなる程度の報告しか知られていません。
3. β-カロテン、α-カロテン
ニンジンなどに含まれるβ-カロテン(Beta-carotene)は、ビタミンAの前駆体で、この物質自体に抗酸化作用があります。
ビタミンAは過剰に取ると過剰症になるのに対し、β-カロテンは必要量だけビタミンAに変換されるので、これが原因で過剰症になることはありません。
せいぜい皮膚が黄色くなる程度です。
多く含む食品としては、ニンジン、カボチャ、ニラ、ほうれん草など、多くの緑黄色野菜が挙げられます。
なお、知名度はあまり高くありませんが、α-カロテンという物質もあります。
(ギリシャ文字の順番ではαがβより先に来るので、当然でしょう。)
ビタミンAとしての作用はβ-カロテンには負けてしまいますが、このα-カロテンにも抗酸化作用があります。
むしろ、抗酸化作用であればαの方が強いです。
多く含む食品としては、ニンジン、カボチャなど、β-カロテンを多く含む食品であれば、こちらも多いと考えていいと思います。
4. β-クリプトキサンチン、アスタキサンチン
ビタミン類やポリフェノール、β-カロテンと比べると、まだまだ知名度は低いですが、最近の研究で、β-クリプトキサンチン(Beta-Cryptoxanthine)やアスタキサンチン(Astaxanthin、Astaxanthine)に注目が集まりつつあります。
β-クリプトキサンチンはみかんやパプリカなどに多く含まれる橙色の色素で、カロテン類に近い物質でもあります。
強い抗酸化作用が報告されており、みかんを使った実験では、予想以上の抗酸化作用だったというデータが得られたこともあります。
アスタキサンチンは赤っぽい色をした物質で、エビやカニの殻、サケの身や卵(要するにイクラです)など、赤い色をした魚介類に多く含まれます。
β-カロテンなどよりもずっと強い抗酸化作用が報告されており、現時点では最強の抗酸化物質に分類されると思います。
(なお、イクラはコレステロールも多いので、取り過ぎに注意してください。)
ただ、最近注目されるようになったばかりなので、分からないことも多いです。
ですから、摂取する際は自己責任でと考えるべきかもしれません。
5. コエンザイムQ
コエンザイムQ(Coenzyme Q)は、ユビキノン(Ubiquinone)と呼ばれることもあり、世間ではコエンザイムQ10という名前で知られています。
生体内で合成出来、エネルギーを生み出す場所であるミトコンドリアに最も多く存在する物質です。
主な働きとしてはミトコンドリア内で行われる電子伝達系(Electron transport chain)の中で、電子を橋渡しすることが知られています。
この物質がないと、電子伝達系を最後まで進めることができず、結果的に十分量のエネルギーを生み出せないばかりか、そもそも酸素を消費して呼吸をすることが成立しません。
また、抗酸化作用も知られており、活性酸素から体を守る役割も知られています。
年齢とともに体内に存在する量が減少するため、そうなるとエネルギーを生み出す効率も落ちていきますし、活性酸素による害も受けやすくなっていきます。
ですから、サプリメント剤から不足量を補うことが盛んに推奨されています。
他に、ゴマに含まれるセサミン、にんにくを低温の油で加熱すると生成するアホエンなど、抗酸化物質は色々知られています。
無理して全部取る必要はありませんが、多少意識して取ることで抗酸化作用を上げ、活性酸素によるダメージを少なくすることで、HPの高い状態を維持し、病気にならない、健康な体を維持することにつながります。