あの日のおたまじゃくし
掲載日:2021/01/17
遠い日に、おたまじゃくしを探していた。
夕日が赤くて寂しかったから。
友達といれば、きっとしない。
近所は田んぼまみれ、
探すのには困らない。
歩けば蛙が飛び出して、
何だ何だと追いかけて。
田んぼを覗き込んでは、
黒いおたまじゃくしは可愛いと思って。
だから、捕まえよう。
それなのにするりと逃げていく。
水と一緒にするりと逃げてく。
絶対に、捕まえたい。
今度は網を持ち出すけれど、やっぱりするりと逃げて行く。
もう無理だ。
だけども網の中に目をやれば、
やっと一匹、捕まえていた。
あの日の小さな私は。
使うはずのないプラスチックの水槽に、
嬉々としながら
おたまじゃくしを入れてそして、
家へ持ち帰った。
世話なんてしないとわかっているのに、
笑顔で迎えてくれる母。
その日から。
玄関の隅に置かれた
プラスチックの水槽の前を通る度に、
いつから足が生えて
いつから緑色の蛙になって
いつからゲコゲコ鳴くの、と問いかける。
それを見て微笑む母。
だけどそんな日も続けば
次第に見向きもしなくなる。
そして足が生えた時、
おたまじゃくしを見る目は突然
恐怖に変わった。
学校から帰れば、
プラスチックの水槽におたまじゃくしはもういない。




