あの日のおたまじゃくし
遠い日に、おたまじゃくしを探していた。
夕日が赤くて寂しかったから。
友達といれば、きっとしない。
近所は田んぼまみれ、
探すのには困らない。
歩けば蛙が飛び出して、
何だ何だと追いかけて。
田んぼを覗き込んでは、
黒いおたまじゃくしは可愛いと思って。
だから、捕まえよう。
それなのにするりと逃げていく。
水と一緒にするりと逃げてく。
絶対に、捕まえたい。
今度は網を持ち出すけれど、やっぱりするりと逃げて行く。
もう無理だ。
だけども網の中に目をやれば、
やっと一匹、捕まえていた。
あの日の小さな私は。
使うはずのないプラスチックの水槽に、
嬉々としながら
おたまじゃくしを入れてそして、
家へ持ち帰った。
世話なんてしないとわかっているのに、
笑顔で迎えてくれる母。
その日から。
玄関の隅に置かれた
プラスチックの水槽の前を通る度に、
いつから足が生えて
いつから緑色の蛙になって
いつからゲコゲコ鳴くの、と問いかける。
それを見て微笑む母。
だけどそんな日も続けば
次第に見向きもしなくなる。
そして足が生えた時、
おたまじゃくしを見る目は突然
恐怖に変わった。
学校から帰れば、
プラスチックの水槽におたまじゃくしはもういない。