《第4話、ビッチ襲来》
《 第4話、ビッチ襲来 》
どうも、俺です。中村ユウです。
今朝、校内でも有名な柔道美少女、角田撫子に告白された中村です。
でも告白された身なのに、なぜか一本背負いを2回投げられて、腕ひしぎ十地固めを決められた中村です。
こんな痛い思いをするなら、彼女なんていりません。はい。
キーン、コーン、カーン、コーン
昼休みを告げるチャイムが鳴り、授業が終了。
教師が出て行くと、教室は途端に喧騒に包まれる。
授業という名の拷問に耐えていた俺は、ようやく刑期から解放され晴れて自由の身となる。
学食へ行こうと席を立つ。
その瞬間、腰と腕に激痛が走った。
「ぐっあっ、まだ痛てぇ」
朝に受けた名誉の負傷に悶絶する俺。
隣の席の足立が声を掛けてくる。
「ん? どうした中村?」
「……膝に矢を受けてしまってな」
「は? ばっかじゃねーの」
どアホウ! あいつは校内に潜むモンスターを知らない。
モブはのんきな日々でも送ってろ、ちくしょーめぇ。
がっこーぐらし!の恐ろしさを知らない足立を見捨て、教室を後にした。
学食に着くと、遠くにいる角田を発見する。
「げっ……」
とっさに隠れる。
柱の影に身を隠し、チラッと顔を出して角田を観察する。
角田は辺りをキョロキョロとしながら、周囲から目立っていた。
まるで、なにかを探しているようだ。
「あれっ、撫子、どうかしたの?」
角田の友人らしき女子が、角田に話しかける声が聞こえる。
「……ん~、気配がしたんだけどなぁ~。あれれぇ?」
やはり、なにかを探しているようだ。
角田の顔がこっちを見る。
「やばっ」
俺は顔をひっこめた。
「ん!?」
「どうしたの? なにかあった?」
「……今、あっちの柱に中村君がいたような―――」
「中村君って誰? どうしたの、撫子。さっきからヘンだよ??」
やべぇ、完全に俺を探してる。
俺は逃げるように学食から立ち去った。
「くそっ、あぶねぇ、メタルなギアをやってなかったら、見つかってたぜ……」
戦略的撤退を成功させた俺だが、昼食を食べ損ねたことに気づく。
「あー腹へった。どうしよう―――」
さすがに昼食抜きではライフがもたない。
とはいえ、学食は危険が危ない。ついでに頭痛が痛い。
仕方なくコンビニでパンでも買って、屋上で食べることにした。
コンビニで、やきそばパンと、牛乳、そして新商品のチーズフォンデュパンというわけのわからないパンを買って、屋上へ向かう。
屋上は普段、人気もない場所で、さすがの角田もやってこないだろう。
屋上に向かう途中、クラスのマドンナ的女子、佐々木さんと偶然出会った。
「あっ、佐々木さん」
「中村君……」
周りには他に誰もいない。2人きり。
先日佐々木さんに告白をして、手酷く振られたばかりなので少々気まずい。
俺は、軽く会釈をしてすぐに立ち去ろうとした。
そこへ佐々木さんが呼び止めてくる。
「待って……中村君……」
「お、おう?」
佐々木さんは周囲を見回す。
誰もいないことを確認すると―――――本性を現した。
「なにビビッてんの? ダサっ」
「あ、いや……」
「はっきりしなよ、気持ち悪い。なにその袋?」
俺の持つコンビニの袋に目を留める。
裏佐々木は、普段のお淑やかな雰囲気とあまりにも違いすぎてて、怖い。
「あ、これは、コンビニで昼食を―――」
「ふーん、なに買ったのよ?」
「ちょ、ちょっと」
そう言うと、コンビニの袋を強引に奪われる。
「―――――なにこれぇ? チーズフォンデュパン? 意味わかんねー、パンがチーズまみれじゃん。こんなの買う馬鹿いるのかよ、きゃはははははは」
爆笑しながら、馬鹿にされる。
「べ、別にいいだろ。新商品だから試しに買ってみたんだよ」
「あはははははは、こんな見えてる地雷、新商品でも買わねーって、腹イタイ、やめてよもう~プププ」
ツボに入ったのか、笑いが止まらないようだ。
俺はいたたまれなくなって、チーズフォンデュパンを取り返して距離を離す。
「じゃ、じゃあな」
そう言って立ち去る俺の後ろで、佐々木さんはお腹を押さえて笑い続けていた。
屋上に着くと、出入り口の裏手にあるベンチへと腰を下ろす。
案の定、屋上は無人で、さらに出入り口の裏手なら死角になっているため、人が来ても気づかれにくい。
ようやく、ゆっくりと食事ができる。
俺はやきそばパンから先に処理することにした。
「ん~、うまい! はぁ、一時はどうなるかと思ったぜ」
そんな独り言を呟きながら、一息つく。
昨日、ひょんなことから占い師の婆さんに出会い、そこで「お前は伝説のモテ男だ!」なんて言われた。
そんで意気揚々と登校してみれば、校内でも有名な柔道美少女角田さんに投げ飛ばされる始末。
「あのババァ……今度会ったら文句言ってやるっ!」
純情な男子の心を踏みにじりやがって……。
少しでも期待した俺がバカだったよ、まったく!
食事を続けていると、突然、屋上のドアが開く音がした。
他に誰か来たのか、と思っていると、そちらから声が聞こえる。
「姐御~、流石っすねぇ~」
「本当、本当、あいかわらずカッコいいッス!」
「……んなこたぁねぇよ。あんなフニャチンども、物の数にもはいらねーっての」
物々しく騒ぎ立てる3人の女子の声。
「げっ……」
その声色と口調に、心当たりがある。
校内でも悪名高い、天王寺桜子先輩と、そのお供の女子2人だ。
「それにしても姐御~、残念でしたね」
「うんうん、あの店員ナメてますね!」
「……いや、店員は悪くねぇ、仕方ねーよ」
屋上に響き渡る会話。
俺は扉の裏手にある死角となっているベンチにいるので、まだあちらに気づかれていないようだ。
このままこっちに来るな、他のベンチに行け! と願いながらじっとするが―――――神様は意地悪だった。
「流石は姐御! 懐が深いねぇ~」
「そうそう、一生付いていきますッス!」
「まぁ、ちょっと残念だけど―――チッ、先客がいやがる」
不良女子3人組が裏手にやってきて、俺とバッチリ目が合う。
うわー、ガラ悪いなぁ、舌打ちされたよ。
くっそ睨んでくる。
「おいてめぇ~、なに姐御の席に座ってんだ? あぁ?」
「んだんだ、テメェ誰だぁ?」
取り巻きにガンつけられる。
昼休みの屋上に来るのは久しぶりだったが、どうやらこのベンチは溜まり場だったらしい。
「ほらさっさとどけよ、しばくぞ姐御がぁ~」
「にゃあにゃあ、どっか行け! チビ」
にゃあにゃあ? まあ、そんなことどうでもいい。
くそっ、さっきから黙ってりゃあ、先輩だからって調子に乗って!
空いてるベンチなんて、他にいくらでもあるだろ!
ここは1つ、ガツンと言って―――――。
そう思って、天王寺先輩の顔を見ると………。
「あっ、いえっ、どきます。どうぞっ」
「………」
怖い! メッチャ怖い!
天王寺先輩は、くせっ毛のある金髪ロングに、長めの前髪からその瞳を覗かせていた。
切れ長の整った瞳と、スラリとした高い鼻筋、薄いピンクの唇は、整った容姿でめちゃくちゃ美人だ。
だがその反面、睨むと物凄い威圧感を放っている。
女性にしてはかなり背が高く、背筋の良さも相まって、人を寄せ付けないオーラを感じる。
俺は、ベンチから飛ぶように立ち上がり、席を譲る。
「ど、どうぞ……」
そんな情けない俺に対して、天王寺先輩は予想外なことを言う。
「……いや、お前が先に座ってんだ。どく必要はねーよ。あたしらは他に行くさ、邪魔して悪かったな」
天王寺先輩は身をひるがえすと、他のベンチに向かっていった。
お供の2人は、こちらを睨みながらも離れていく。
そして、近くのベンチに天王寺先輩を中心として3人で座る。
コンビニ袋からおにぎりを取り出し、食事を始めた。
その場でポカンと立っていた俺は、ひとまずシットダウン。
あれっ、意外と良い人?
そんな考えが頭に浮かぶ。
まあ、無理やりどかそうとしなかっただけで、別に善行をしたわけじゃないけどな。
それでも、悪名高い不良女子という噂を信じて、ひどい奴というレッテルを勝手に貼っていたのかもしれない。
俺は少しだけ反省して、食事を続けることにした。
やきそばパンを食べ終わったので、次のパンを取り出そうと袋に手を伸ばす。
近くのベンチでわいわいしている3人。
「にしても、本当に残念でしたね~、姐御」
「ええ、ええ、アレが売り切れとはぁ」
「ああ、そうだな……。楽しみにしてたんだけどなっ、チーズフォンデュパン!」
そんな会話が聞こえてくる……ん?
「はぁ?」
思わず声を上げてしまった。
丁度もう1個買ったパンの袋を開けて、中身を口にいれるところだった。
俺の声に反応して、天王寺先輩がこちらを見る。
その視線は俺のパンに釘付け。
「あっ!」と一言。
「………」「………」
固まる俺と、天王寺先輩。
―――――そして時は動き出す。
「はぁああああああああああああああああああ?」
「ひぃぃぃいいいいいいいい」
「お、おい、そ、それっ」
「ひぃぃぃいいいいいいいい」
「そ、それは―――――」
「ひぃぃぃいいいいいいいい」
「チーズフォンデュパン!!」
「ひぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「うっせえぞ!」
「は、はいっ」
終わった! 俺、終わった!
う、うそ、だろぉ。
チーズフォンデュパンなんか食いたい奴いるのかよ!?
こんなん買った馬鹿、誰だよ!?
………俺だよっ。
「お、おいっ、ちょ、ちょっとまて! お前……そ、それ―――――」
「あげますあげます、いりません、許してぇえええええ」
心はもう土下座する覚悟、いやもうしてる。
ジャンピング土下座! 実行! コンプリート!
絶体絶命のピンチに、突然、屋上のドアが勢いよく開かれた。
そこから現れた人物は、俺たちの騒ぎを聞きつけこちらに駆け寄ってくる。
そして、俺を庇うように前に立つ。
「こらっ! 下級生相手になにやってるの!」
天王寺先輩を叱りつけ、次にこちらに振り返って優しい声で言う。
「心配しなくていいよ、もう大丈夫だからね」
誰だ? 救世主現る?
絶賛土下座中の俺は、ゆっくりと顔を上げる。
あ、パンツ見えそう。じゃない!
その人物は―――――。
「か、会長!」
や、やばい、知ってる。知ってるぞ。
こいつは救世主じゃない! 災害だ! 厄災だ!
この人は、学校で1番『頭のおかしな奴』として有名な、生徒会会長だった。
《第5話、ドMも襲来中》
次話に、続く。