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助けて!モテ過ぎてやばい  作者: ふじか もりかず
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《第3話、ツンデレ襲来》その2

 ボタンを外し終えたところで(2,3個飛んでった)、2人だけの柔道場に侵入者が現れた。


「あれっ、撫子なでこ、なにしてるの?」


 第3の人物―――この邪魔者は角田つのだの知り合いらしく、声を掛けてくる。


「あっ、裕子」


 誰だ! この不届き者は! ここは神聖な道場だぞ!


「いや、朝練の忘れ物してさ」


 あっ、柔道部の部員ですか、失礼しました……よそ者はボクでした♪


「それで……その人、誰?なんでここにいるの?それに……2人でなにしてるの……」


 部員さんは不審な顔をして俺たちを見つめてくる。


 そりゃあ、そうだよな。

 他に誰もいない柔道場で、リボン外した女の子と、上半身裸の男がいたら、誰だって怪しむよねー。


「あっ、いやっ、これは……」


 角田は弁明を試みる。


「えーっと、んーっと、これはね……な、なんでもないの!」


 角田は弁明に失敗した。


 あれっ、この状況―――場合によっては俺、詰むやん。


 はたから見れば、俺が角田に襲い掛かっている状況と捉えられてもおかしくはない。

 そうじゃないと角田が釈明してくれても、なら合意の上でいかがわしいことしてたのね、と解釈される。


 ここは―――――いっちょ俺が誤魔化すしかないっ!


「あー、ちょっといいか。実はな、俺柔道部に入ろうかと思ってさ。それでテスト受けてたんだ」


 く、苦しい……。我ながら苦しい。もうちょっと上手い言い訳あっただろ、俺!


「は? なにそれ? なんでテストで服脱ぐの?」


 正論はやめてっ! 世の中、正論を言っただけで逮捕される国だってあるんだぞっ!


「だ、だから、柔道部に入るんだったら身体能力を測りたいって角田に言われてさ―――それで筋肉を見せることにしたんだ」


 駄目だこりゃ、意味分からん。こんなんで誤魔化せるワケねえ。あーあ、終わった終わった。


「へぇ~そうなんだ。そうゆうことかぁ」


 信じるんかいっ!


「でもさ、うちの学校―――男子柔道部無いよ」


「無いんかいっ!」


 普通あるだろおおおおおおお。むしろ女子柔道部の方がレアだろっ!?


「まあ、男子部員いないだけだから、加入希望すれば男子も大丈夫だと思うけど……」


 なるほど、部員がいないのか。

 なら―――――まだ舞えるっ。


「ああ、その1人目が俺っ! 男子柔道部創設者にして部長を務め、のちの黄金期を築き上げるレジェンド。俺の今後にこうご期待。次回っ男子部部長の策略―――学校から部費をわんさか騙し取るっ! 銀河の歴史がまた1ページ……」


「ふふっ、なにそれ~。なんだ、そうだったんだ。それにしてもいい体してるねー触っていい? ねぇ、撫子もそう思わない?」


 よ、よし、なんかとかなりそうだ。

 後は角田と適当に話を合わせれば、この場を切り抜けられる。


 そう思ったのも束の間、なんだか角田の様子がおかしい。

 気のせいでなければ、さっきから睨まれてる気がする。


「……ふーん、随分と、裕子と仲が良いのね中村君」


「はいい?」


「デレデレと鼻の下伸ばしちゃって……そんなに裕子と会話するのが楽しかったんだ?」


 なんでそうーなるのっ!?


「ま、待て! 誤解だ!」


「このっ、浮気者!」


 目の前にいた角田が、一瞬で消える。

 その瞬間、右腕が引っ張られ、体が宙を舞う。


「うおっ」


 ドシンッ!


 気がつけば、俺は畳の上に寝そべっていた。


「イテテテテ」


 身体中が悲鳴を発する。

 俺は角田に一本背負いを食らい、受身も取れずに投げ飛ばされていた。


「このっ、変態っ、スケベッ」


「う、うわ、やめろ、降参降参」


「逃がすかっ」


「痛い痛い痛いタップ、タァーップ」


 そのまま腕を両足で挟みこまれ、腕ひしぎ十地固めを決められる。


「まじで痛いって! ちょっ、助けてくれ!」


 俺は裕子と呼ばれた女の子に助けを求める。


「……あー、私、もうHR始まるから行かないと……じゃ、じゃあね」


 あのヤロウ、見捨てやがった!


 逃げるように立ち去って行く裕子。

 再び柔道場で2人きりになる。そして絶対絶命のピンチ。



 しかし裕子が去って行くと、角田は冷静さを取り戻したのか急に力を抜いて大人しくなった。


「ハァ…ハァ…ハァ…助かった……」


 命からがら寝技から抜け出し、腕を押さえながら立ち上がる。


「ふ、ふんっ、中村君がいけないんだからねっ。他の女に

 色目使うから―――」


「……勘弁してくれ」


「えっと―――大丈夫?」


「あばらが2,3本いってるな……」


「ふふっ、中村君って面白~い」


「い、いやっ、まじで呼吸が苦しくて……」


「どこどこ?―――――この辺り……かな?」


 角田が俺の胸に手を伸ばす。

 そして、手のひらで胸からお腹をかけて丹念に指を這わせてなぞっていく。

 さっき俺を投げ飛ばしたとは思えないほど、繊細で可憐な手だ。


 角田の顔が目の前に迫る。


 ぱっちりとした瞳に、透き通るような肌、わずかに開いた魅惑的な唇。

 こんな近くで彼女を見るのは初めてだった。

 あっ……唇の右下に小さなほくろ……あったんだ。


 気がつけば、俺は角田の顔をまじまじと観察していた。


 パーツの1つ1つが、男とは全く異なる。

 その美しさは、健康的な魅力に溢れていた。


「ねぇ、なんだか鼓動が早くなってるよ」


 俺の胸に手を置いたままの角田が言う。


「ねぇ、さっきから息使いが激しくなってるよ」


 少しだけ顔を傾けて、心配そうに言う。


「つ、角田っ!」


「きゃっ」


 無意識に角田の体を抱きしめていた。


「な、中村君……」


 最初は抵抗するそぶりを見せた角田だが、次第に体の力を抜いてその身を委ねてくる。


「お、俺っ、君に一目惚れしたかもしれない」


 溢れ出る感情を言葉に乗せる。

 言った直後に気づく。これって告白……だよな。


「じゃあ、私と一緒だねっ」


 俺の胸の中で角田は言う。お互い見つめ合ったまま。


「そ、そうなんだ……いつから俺のことを?」


「今朝。学校に行く途中の駅のホームで―――」


「駅のホーム? 俺、なにかしてたっけ?」


 今朝の自分を思い起こす。

 記憶の中で、駅の階段を登るのに苦労していた老人の荷物を持ってあげたことを思い出した。


(ああ、あの時か。あれを偶然見られていたのか。俺マジでグッジョブ! これが日頃の行いの成果!?)


「駅のホームで中村君さ……傘でフェンシングの真似してたよね?」


「はいい?」


「すっごい目立ってて、周りの人が迷惑そうにしてたよ。でもね、あの時の体の動かし方……筋肉の付き方が、私の理想とする身体だったの!」


「はいい?」


「私、今日寝坊して朝練をすっぽかしちゃって。落ち込んで登校してたら、そんな中村君を見かけて……あの瞬間思ったの! 今日私はあの光景を見るために、神様が寝坊させたんだって! そう、これは運命の出会いなのっ」


「そこぉおおおお? そこぉ? えええええ、そこなのぉ?」


 えっ、不思議ちゃん? この子、不思議ちゃん?

 完全にアタマオカシイ子やん! 傘フェンシング=運命の出会い!?


 盛り上がっていたムードが一気に白けてしまった。


 あ、あれっ、今俺は女の子を抱きしめてるんだぞ!

 なんでここで冷静になる俺?まだ賢者モードには早すぎる!!


「中村君……?」


 そんな俺の様子を敏感に感じ取ったのか、角田が不審そうにする。


「あ、いや、なんと言うか……」


 やっべぇこれどうするよ? 衝動に任せて抱きしめちゃってるし……これからどうすればいいんだ?


 すっかり気の抜けてしまった俺は、現在の状況をどう治めるか迷う。


 このまま離れるのはもったいない……よな。

 キ、キスとかしてもいいんだろうか?

 一目惚れして告白してきたんだからあっち的にもオッケーなんだよな?


 い、いくぞ? や、やっちゃうぞ?


 意を決して顔を近づける。


 そんな俺の行動に対して、角田は驚いた表情を見せて顔を背ける。


「あっ……」


 ダメじゃん! 嫌がってるよ! さすがに強引過ぎだって! 俺の馬鹿馬鹿。


「ご、ごめん……」


 そんな情けない俺に、角田は言った。


「違うの!ちょっとびっくりしちゃって……」


 あれぇええ?


「べ、別に嫌ってわけじゃないんだからっ!」


 おやおやぁああ?


「ど、どうしても中村君がしたい……なら……」


 ほっほーう。


「し、してあげてもいいんだからねっ!」


 しゃあああああああああああああああああああ。


 心の中でガッツポーズ。

 いけるっ!はじめてぇ~のチュウ♪君とチュウ♪フヒヒ。


「なにをしてもいいのかなぁ?」


 今の俺は超イケメンモード。

 ハニカム笑顔に彼女も夢中のはず。


「え、キモッ、ニヤニヤしないで」


「すみませんでした」


 反省、超反省。


「そ、その……キ…キス……したいんでしょ? ……あ、あなたにだけなんだからねっ……」


 そう言うと、角田はそっと瞳を閉じる。

 顎を少しだけ上げて、唇も閉じる。


 俺は高鳴る胸の鼓動を抑えながら、そっと頭を傾け、ゆっくりと近づき、人生で初めてのキスを―――――。



「そうそう忘れ物取りに来たんだった。早くしなきゃHR始まっちゃうよ………あれっ、2人ともまだいたの? それになにしてるの?」


 キスする直前、裕子と呼ばれていた女子部員が戻ってきた。


「えっ、こ、これはっ―――えいっ、一本背負い!!」


「ぎゃあああああああああああ」


「か、勘違いしないでよねっ! 中村君のことなんて、ど、どうとも思ってなんか無いんだからっ!!」


 気が動転している角田は、俺を投げ飛ばし、捨て台詞を吐きながら去っていく。



「なんじゃこりゃああああああああああああ」


 魂の咆哮が、1人残された柔道場に響き渡るのだった。




 《 第4話、ビッチ襲来 》


 次話に続く。




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