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助けて!モテ過ぎてやばい  作者: ふじか もりかず
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《第3話、ツンデレ襲来》

 《 第3話、ツンデレ襲来 》



 17歳の誕生日を迎えた翌日、月曜になり、また今日から学校へと通う日々が始まる。


「おはよ~」「あっ、おはよう~」


 教室では登校するクラスメイトの賑やかな声で溢れる。


 どうも、俺です。中村ユウです。

 先週末に、意を決して告白したら見事振られた中村です。

 ついでに昨日の誕生日には1人デートを決行した挙句に、2時間街をさまよった中村です。

 こんなどうしようもない俺にも、一筋の希望があります、はい。

 それは、昨日怪しい占い師から言われた「お前は伝説のモテ男だ!」という戯言を、心の片隅で期待していることであります。


「……今のところ、女子から声が掛からない……か……」


 ふ、ふんっ。し、信じてなんか、いないんだからねっ!


「………くそぉ、くそぉ、くそぉ」


 心という名の世界の中心で愛を叫ぶっ!


「お、おい、中村……、突然なんだよ? 大丈夫か?」


「お、おう。気にスンナ」


 ごめんなさい、心の声―――駄々漏れだったみたいです。



「あっ、佐々木さん。おはよう~」


「柴田さん、おはよう~」


「佐々木さん、髪切った?とっても似合ってるよ」


「えへへ、そうなの。ありがとう山田さん」


「え、えっと、佐々木……おはよう……」


「渡辺君、おはよう」


「佐々木、後で少しいいか?ちょっと相談があってさ……」


「あら、木村君。うん、いいよ! じゃあ、後でね」


 クラスのマドンナ的存在、佐々木が登校してきた。

 先週末に俺を振った人物だ。

 誰にでも優しく、明るく、可愛い。男女問わずの人気者。

 ―――が、俺はもう騙されん!

 勇気を振り絞って告白してみれば、このアマァとんでもねえ性格してやがったぜ!

 少しくらい可愛いからって調子に乗りやがって……。


 そんな俺の前を、佐々木が通り過ぎる。

 その途中で立ち止まると、俺に向かって声を掛けてきた。


「おはよう中村君」


 満面の笑みを浮かべ、手を小さく振ってくる。


「……お、おう。おはよう……」


 ち、ちくしょう……くっそ、かわええ……。

 彼女の本性を知った今でも、笑顔を向けられるとドキリとしてしまう。

 そんな佐々木は少しだけ顔を近づけると、小声で言う。


「ねぇ私のこと、誰かにしゃべった?」


 うわー、ドスの効いた声、しかも目が笑ってねえし。コエー。


「い、いえ、話しておりません」


 何故に謙譲語?


「そう、ならいいの。もし言ったら―――分かってるよね?」


「はいっ、かしこまりました」


 何故に尊敬語??


 佐々木は俺の返答に満足したのか、いつもの笑顔に戻り自分の席へと向かっていった。



 入れ替わるように、クラスメイトの足立がやって来る。


「おーい、中村。えっ、なんで泣いてんの?」


「ばっ、泣いてねーよ。んで、なんだよ?」


 俺の様子に驚いた表情を浮かべる足立だったが、用件を思い出したのか、仕切りなおした。


「あ、そうだ。1組の角田つのだがお前を呼んでくれって―――外で待ってるぞ」


「角田ぁ?」


「は? お前、角田知らないのかよ」


「いや、さすがに知ってるぞ」


 1組の角田つのだと言えば、校内でも有名な女の子だ。

 女子柔道部に所属していて、県内の大会でも優勝するほどの腕前。

 クラスも違うため話したことは無いが、背筋が良くて凛々しい出で立ちから、場にいるだけで一際ひときわ目立つ存在だ。

 ショートカットの似合う美少女で、柔道で鍛え上げたスタイルと相まってさぞかしモテていることだろう。


「だよなぁ。とにかく、伝えたからな」


「ああ、サンキュー」


 とりあえず、なんの用かは分からないが角田のもとへと向かうことにする。


 教室を出ると、足立の言った通り角田が待っていた。

 壁に背を向け直立する姿は、威圧感に似た空気を纏っている。


 その角田が俺を見つけると、ズカズカと近寄ってくる。


「おい! 話がある……。ついて来い」


 それだけ言うと、こちらの返事を待たずにスタスタと歩き始める。


 ―――俺、なんかした?

 突然の展開に呆然とする。


「おいっ!」


「は、はいっ」


 さすがは柔道部のエース、とんでもねえ覇王○の覇気を持ってやがる。危うく気を失うところだったぜ。




 角田の後について行くと、そこは柔道場だった。

 朝練は終わっていて、今は俺と角田の2人きり。

 あー、これはアレですか。俺―――〆(しめ)られる?

 ビクビクしていると、角田はこちらに振り返って、上から目線で言い放った。


「わ、私がわざわざ呼び出してあげたんだから、か、感謝しなさいよねっ」


 なんで呼ばれた側が感謝しなきゃいけないんだ?

 突然の物言いに戸惑う俺。


「はぃぃ? んーと、それで何の用……?」


「………」


「………」


「………」


 えっ、なんかしゃべれよ。


 目の前の角田は、もじもじしながら手を上げたり下げたり―――目をチラチラと合わせたり逸らしたり―――。


 その様子はまさに俺の愛読書バイブル「To LOVEってる」に出てくる女子のようだ。


 あ、あれっ。これって、もしかして―――――。


 このままでは埒が明かないので、こちらから会話を振ってみることにした。


「えっと、角田さんと会話するの初めてだよね?」


「ええ」


「俺のこと、知ってたんだ?」


「ええ」


「いつから?」


「今日」


 はい、勘ちがーい。


『以前からずっと好きでした』的な告白ちゃうやん!

 それに、「今日」ってなんだよっ!

 今までアウト・オブ・眼中かいっ!

 クラスは違うけど、ちょくちょく廊下ですれ違ったりしてたじゃん!

 はぁ、期待して損したわ。あのババア―――モテるとか言ってたのに全然じゃねーかっ。


「そ、そうなんだ……。それで、本当に何の用かな?」


 さっさと用件を聞いて帰ろうと思い、改めて問う。


「………あ、あのっ。す、好きよっ。私と付き合って!!」


 逆転サヨナラ満塁ホームラーーーーーン


「ええええええええええええええええ」


「だっ、ダメなの?」


「もちろんオーケーだ、ハニー♪」


「―――――よ、よかった……。あっ、べ、別にうれしくなんかないんだからねっ」


 拝啓、お母さん。こんな僕にも初めて彼女ができました。


「これからハニーと呼んでいいかい? ハニー」


「それは気持ち悪いからやめて」


「はっはっは、ごめんごめん。じゃあ撫子なでこでいいかな?」


「えっ、い、いいわよ。と、特別に認めてあげるわ。あなただけなんだからねっ! じ、じゃあ私も中村君って呼ぶわ」


「えっ、別にいいけど……なんで下の名前で呼ばないの?」


「だって、下の名前知らない……」


「……中村ユウ……です」


「ユウ……じゃあ私もユウ―――――ちょ、ちょっと調子に乗らないでっ! あんたなんて中村君で十分だわ」


「………」


 ちょっと待て。

 美少女からの告白に舞い上がってしまったが、少し冷静になろうか。


 今日初めて存在を知って、下の名前も知らない人のことを好きになる奴なんているか?

 これはもしかして、俺はめられてる? ハニートラップ? 美人局つつもたせ? 後で怖いおにーさん出てくる系?

 もしくは、罰ゲームで告白しろ的な展開ですかぁ?


 さすがに信じられない状況なので、探りを入れよう。


「あのさ、どうして突然告白してきたの?」


「そ、それは………」


 角田は言い淀んで黙ってしまった。

 その顔からは、聞いて欲しくないことを聞かれたという雰囲気がありありと感じられる。


 ―――こりゃあ、からかわれたな……。最悪だ。


 天国から地獄へと突き落とされた気分だ。

 そりゃあ角田はものすごい美人でスタイルも良いけど、俺だって彼女のことをあんまり知らずにオッケーしたしな。

 騙した角田が悪いのは当然だけど、簡単に引っかかった俺も俺で情けない。


 ショックのあまり角田を責める気力も沸かなかったので、適当に話を切り上げて帰ろうと思った。


「これ本気じゃないよね? もう帰っていい――――」


「ま、待ちなさい!」


「ん?」


「……近くに行っていい?」


 角田はそう言うと、距離を詰めてきた。


 そして、俺の二の腕を恐る恐ると触ってくる。


「ちょっ、どうゆうこと?」


「黙って! もっ、もう我慢できないの!」


 角田の手に力が篭る。俺の二の腕をがっしりと掴み、何度も何度もにぎにぎしてくる。


「い、いたっ、痛いって」


 さすがは柔道部。女の子とはいえとんでもねぇ力だ。


「……ちから……入れて」


「はぁ?」


 ママーこの子怖いよぉー。


「早く! ちから! 早く!」


「ひぃいいいい」


 角田に急かされた俺は、恐怖に怯えながら腕に力を入れる。


「ああっ、すごーい。中村君、部活どこ? こんな筋肉始めてぇ~」


「き、帰宅部ですっ」


「えっ、うそぉ~。帰宅部でこの筋肉? じゃあ、家でトレーニングしてるの? ダンベルはなに使ってる? トレーニングベンチとかあったりして? はわわああああ」


「いや、母ちゃんが買ってすぐに飽きた『ぶら下がり健康器』を使ってるだけだけど―――」


「ねえねぇ、腹筋も触っていい? 背中も見たい。ああっ、全身が見たい―――全部脱いで! 脱ぎなさあああああい」


「ちょ、ちょっと脱がさないで! さすがに脱ぐのは……」


「ええええええ、何で脱いでくれないの? ダメ? どうしてもダメ?」


「い、いや、さすがに恥ずかしいし……」


「じゃあ、私も脱ぐ。それでオッケー?」


「サー、イエッサー」


 完璧な敬礼とともに、即座にミッション『服ぬぎぬぎ』を実行に移す。


 角田が制服のリボンを外している間に、自称『瞬脱の貴公子』たる俺は、ブレザーを豪快に脱ぎ捨て、Yシャツのボタンを引き千切らんばかりの速度で外していく。


 角田が筋肉厨? こいつオカシイ? そんなの知るか!?


 女子の裸が見れるんだぞ! しかもあの角田の裸だ!


 こんなシチュエーションでくだらねぇこと気にスンナ!


 ―――いつやるの? 今でしょ!?




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