《第1話、振られる》《第2話、俺のターン》
《 第1話、振られる 》
「あっ、中村君……」
伝説の樹の下で、1人の少女が待っていた。
「ごめん! 俺が呼んだのに……待たせちゃった」
「ううん、私も今来たところだから……それで、『大事な話』ってなにかな?」
週末の放課後、俺こと 中村ユウ は、一世一代の勝負に出る!
「あのさ、俺と―――――」
一陣の風が舞う。
木漏れ日溢れる昼下がり。
さんさんと煌く太陽が、俺たちの『新たな関係』を祝福しているかのように照らす―――。
告白を終えると、
やがて、彼女は、小さく微笑み、
―――――吹き出した!?
「えー、うそぉー。ありえなーい。私とぉ? 中村君がぁ? 付き合う!? ぎゃははははあはは、はぁー、マジありえねー。誰がアンタなんかと付き合わなきゃいけないのよ~。ちょー受けるんですけどぉ~」
「あっ、えっ、佐々木さん……?」
あれっ、おかしくね?
もう告白が失敗したのはどうでもいい。
もともと高嶺の花へのダメもとでの告白だしな。
でも、クラス1お淑やかで誰にでも優しい佐々木さんがこんなことを言うなんて……。
「はぁ~腹イテー、笑わせないでよ。ったく、猫被るのも疲れるわー。この際だからはっきり言っておくけど、中村君と私とじゃ釣り合わないでしょ? 夢見んじゃねーっての」
「あっ、はい、すみませんでした……」
あれっ、なんで俺謝ってんの?
「まっ、いーよいーよ許してあげる」
しかもなんか許してもらってるし??
「あーあ、時間無駄にしちゃった。今度から気をつけてね――――あっ、伊集院せんぱぁあい♪」
いつもの華が咲いたような笑顔に戻り、遠くに見えるイケメン&お金持ちの先輩へと走り去っていった。
一陣の風が舞う。
「……へぁっ、へぁっくしょん」
人生の転換期を告げるかに思えた風は―――――ただ単に、今日は風が強いってだけだった。
「……なんだコレ」
人生で初めての告白は、最悪な形で幕を閉じた―――完。
《 第2話、俺のターン 》
「はぁ……」
俺こと中村ユウは失意のどん底にあった。
休日に1人で街を歩く敗者―――イエス、俺!
もしかしたら、もしかしてだよ、昨日の告白が成功していたら今頃は―――――。
『ユウ君、ユウ君、私のアイス味見する?はいっ、あーん』
『よせよっ、みんな見てるだろ』
『ぇーわたしぃ、ユウ君しか見えなーい。はいっ、あーん』
『ぺろぺろ……うっ、うめえええ。これが勝ち組の味かあああああああ』
―――――はぁああああああ。
ため息しか出ねぇ。
数日前から寝る間も惜しんで考えたデートの計画も無駄になっちまった。
しかも当日の混雑まで考慮して、カップルシートの予約までしちゃったぜ。
家に閉じ篭っていてもフラれた時の光景がフラッシュバックするので、仕方なくソロで予約した映画を見に行くことにした。
「あー待てよ……カップルシートに1人で座るのか……」
くそぉ、失敗した!失敗した!失敗した!
駅を出て、映画館へ向かう。
信号待ちでカップルを見かける。フ○ッキュー
通り道でカップルにすれ違う。ファ○キュー
映画館の並ぶ列の「前」と「後ろ」がカップル。ファッ○ュー
「いやだあああああああああああ」
列を抜けて、奇声を上げながら走り出す。
くそぉ、この世界は敵だらけか!?
これ見よがしにカップル、カップル、カップル……こいつらゴキ○リか! 本気で何処にでもいやがるぜ。
街中で周囲の目を集めながら、俺は一心不乱に走り続ける。
やがて街の外れにまでやってくると、俺は息が続かずに立ち止まった。
「ぜぇ…ぜぇ…、やべぇ、ここどこだ……?」
気がつけば、見たこともない所に来てしまっていた。
繁華街を過ぎてしまい、周りはオフィスビルが立ち並らぶ。
通りを走る車は多いが、歩く人はまばらで、完全に迷ってしまった。
「駅に戻るには、どっちの方角だ……?」
方向感覚を失い、帰る道も分からず、途方に暮れる。
仕方なく、一か八かで真っ直ぐ進むことにした。
歩き始めて数分が経過。一向に知ってる道に辿り着かない。
周りは相変わらずビルだらけ。ある意味代わり映えもしない風景が永遠に続く。
来た道を戻るべきか……後もう少しだけこのまま進むべきか……。
そんな困り果てた状況で、突然声を掛けられた。
「おやおや、お困りかい坊や」
声の主へ振り向くと、そこには怪しいローブをまとう老婆がいた。
ビルとビルの隙間、建物の陰になっている場所に、1つの机を挟んで2つの椅子が置かれていた。
一方を老婆が座り、机の向こうから声を掛けてきたのだ。
机の上には大きな水晶が置かれ、いかにも占い師ですといった風貌だ。
「ほれっ、座りな坊や」
皺くちゃの顔をほころばせた老婆に、着席をうながされる。
「あー、いや、別に俺は……」
「いいからいいから、さっさとお座り」
丁度歩き疲れて座りたい気持ちもあったが、さすがに怪しすぎる。
「早くおし! 童貞」
「ど、ど、童貞ちゃうわ!」
あ、ごめんなさい。嘘つきました。
「坊や……あたしもねぇ、長くこの商売をやってるけど、あんたからは異様なオーラが出とるんじゃ。こんなのは初めてじゃよ……。特別にタダで占ってあげるから、ほらっ、お掛けなさい」
「………それ終わったら、駅までの道、教えてくれます?」
「わかったわかった。運命を教えるついでに帰り道まで教えてあげるから、早く座りなさい、この素人童貞」
「プロもないわっ!」
やむなく老婆の言う通りにする。
椅子に座ると手を出せと言われたので、両手を見せる。
老婆は両手をがっしりと掴むと、顔を近づけて凝視す
る。鼻息がきめえ。
次に手のひらを指で何度もなぞり始める。
かさかさの指が手のひらで行ったり来たり。
「……くすぐってえ」
滑りが悪いのか「ぺっ」と唾を吐かれ、滑りが良くなる。
「……きたねぇ」
「お黙り! 今いいところなんだからっ!」
やがて満足したのか手を開放すると、俺の目を見つめながら神妙な顔をして語り始めた。
「これは驚いたよ。あんたとんでもないモン持ってるねぇ」
「ほぉ、俺のマグナムのことか?」
「だまらっしゃい、ポークビッツ!」
「ひでぇ」
「あんたねぇ……1000年に1人現れるという伝説のモテ男じゃ……」
「はぁ?」
「モテるんじゃよ! それもとてつもなく! あんたぁ……時代の寵児じゃ」
「はぁ?」
「誕生日はいつじゃ?」
「……今日」
そう、今日は記念すべき日になるハズだったんだよ!
「今日で17歳。それで間違いないか?」
「お、おう。あれっ、年齢言ったっけ?」
「そんなことはどうでもええ。とにかく17歳を迎えた日から、あんたの運命は大きく変わる。この先あんたを待ち受ける日々は―――――ああああああああああああ」
「うわっ、怖っ、突然叫ぶなよ」
「と・に・か・く、気をつけるんじゃ……あんたはモテる。ひたすらモテる。死ぬほどモテるぞぉ……」
なんだこいつ、さっきからワケわからん。
「もう行けぇ! 立ち去れぇ! 消えろぉ! わしゃあ、お前さんなんかにゃあ、トキメかないぞぉ! しっしっ」
ものすごい形相であっち行け、と手を振られる。
その剣幕に圧倒されて、俺は急いで席を立ち、この場所から離れることにした。
「ったく、なんなんだよ……」
無理やり占いに付き合わされて、その後すぐに邪険にされて……踏んだり蹴ったりだ!
「あっ、結局道聞いてねえ」
ムカムカしながら迷子中ナウ。
にしても、さっきの占い―――――。
「伝説のモテ男かぁ……」
ちっとも信じられないが、モテたいか? と言われれば、そりゃあモテたい。
だがあの老婆は『モテるから気をつけろ』って言ってたよな。
まるで、呪いのように。
「はぁ……本当にモテたいなぁ~」
しょうもないことを呟きながら、この後2時間もさまようのであった。
―――――17歳まで、後7時間。
《 第3話、ツンデレ襲来 》
次話に続く。