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~暇を持て余した神々の遊び~   作者: 霜月←シモツキともソウゲツとも読めるんだよ
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第3戦:妖精と人魚と平和主義者と???と

 半馬人(ケンタウロス)を殺したガウルはその脚を引きちぎり喰らっていた。

 腹が減ったら喰らい,戦いたければ戦い,眠たければ寝る。そうして今まで生きてきた。それはこれからも変わることはない。

 そしてそれはこのゲームの中でも変わることはない。神々の遊びさえもガウルにとっては日常の延長でしかないのだ。


「ガアァァ…ゴオォォォ…,ガアァァ…ゴオォォォ…」


 半馬人の脚を食べ終え豪快に鼾をかいて寝ていると不意に何かがガウルの近くを横切った。

 その気配を感知したガウルはすぐさま目を覚まし体を起こした。

 たとえ眠っていようとも意識は外に向けておく。戦士としての性だった。

 ガウルはすぐに近くにいるであろう敵を探した。

 失った右手と片目は再生できなかったが,それ以外はすべて回復していた。普通なら治るはずのない程の重症。

 それを可能にしているのはガウルの授かった天恵『限界突破(バーンアウト)』だった。

 自身の身体機能を限界を超えて使用できる力―――それにより跳躍で本来ならば到達できない程の高さまで行くことも,自己修復力だけでは治るはずのない傷も治すことが出来るのである。

 ガウルは姿勢を低くし,大地の匂いを嗅いだ。

 獣人のもっともすぐれているモノ―――それは筋力でもなければ聴覚でもない。嗅覚である。

 例え三日経とうと匂いを嗅ぎ分けることの出来る獣人にとって―――更に『限界突破(バーンアウト)』により強化された嗅覚で―――今発生した匂いを追うことなど赤子の手を捻るよりも簡単なことだった。


「見ぃつけたァ」


 走りながら小屋らしき場所に入っていく子供の姿が見えた。

 ガウルが扉を開けるとそこには褐色の肌をもつ少年がまるでガウルが来ることを待っていたかのように立っていた。

 だがその少年の命は一瞬にして散った。

 扉を開けたガウルは少年を見つけた瞬間,少年目掛けて跳びかかり少年の胸を貫いたのだ。


「ゴフッ―――」


 何故か血を噴き出した少年は不敵な笑みを浮かべていた。

 次の瞬間―――少年の身体は血の塊となって崩れた。


「何―――ッ」


 そして少年の消滅を合図とするかのように小屋に並べてある機械が作動し,あたり一帯の建物を巻き込み大爆発を起こした。


 ********************


 時間はゲーム開始直後に遡る。

 白塗りの建造物が立ち並ぶその一つの屋上で一人の少女が身を屈めていた。

 少女の名前はリル・グリン―――妖精(エルフ)である。

 何故リルは開始早々隠れるような行動をとっているのかそれは―――


『あれは人魚(マーメイド)?何してるんだろう』


 リルは海に浸かりのんきに歌を歌っているであろう人魚を見ていた。

 見つけたのはゲーム開始直後,もしかしたら十秒もかからず見つけていたかもしれない。それからずっとリルは人魚を観察していた。

 隙だらけの人魚を殺すことは容易かった。だが生き物をましてや自分と同等の知能を持ち,帰りを待っている人がいるであろう者をたとえ自身と愛する者の命がかかっていても殺すことなんてできない。

 リルは争いを好まない妖精の中でも特に平和主義の強い部類だった。

 手に持っている弓矢も本来争いをするための道具ではない。自分たちの住処を脅かす獣と戦う際に使用するだけ,自衛の武器である。

 リルは人魚の観察をし続けた。見ているだけでは何の解決にもならないとは分かっていたが,何をすればいいか分からなかった。

 リルが頭を悩ませているのをよそに,人魚は尚も歌を歌い続けていた。


「綺麗な声…」


 美しく透き通った声にもかかわらず,力強い命の胎動を感じさせるような歌声だった。それも距離の離れているリラにもはっきりと聞こえるような大きな声で。

 ずっと聞いていたい―――だけどそんなわけにはいかない。

 リラは家から家に飛び移り人魚のもとに向かった。

 勿論その目的は殺すことではない。

 平和主義を煮詰めたような存在であるリラが人魚のもとに向かった目的―――それは助けるためである。


「人魚さーん,そんなに大きな声で歌ってたら誰か来ちゃいますよー」

「…誰です貴女」


 リラの登場で歌を遮られたのが人魚は不満だったのか,顔をしかめた。


「えっあ…ごめんなさい。わたしは妖精のリル・グリン。よろしくね」

「そう」


 リルのことなど興味がないかのような返事をすると海に潜ると少し距離を開けて浮上した。


「あの,ちょっと待ってよ。わたしは戦う気はないの。もし良かったら協力しませんか?」


 裏表のない純粋な提案。誰も死んでほしくない。まだ解決策はないけれど,今手を組むことが出来れば無駄な争いは避けることが出来る。

 出来ることからやっていけば,たとえ絵夢物語だと言われようとも必ず成し遂げることが出来る。それがリルの信条だった。

 その思いが届いたのか,人魚はゆっくりとリラのもとに近づき口を開いた。


(わたくし)の名前はプルメラ・シャルですわ。以後お見知りおきを」

「プルメラさんっていうんだ。よろしくね」


 リルは手を差し出した。だがプルメラは首を振りその手を掴むことはなかった。


「ごめんなさい。まだ貴女のことはよく知りませんので,その,あまり馴れ馴れしくは。どんな天恵を授かっているのかも分かりませんから」

「そうだよね。ごめんなさい」


 リルはしょんぼりとするとプルメラから距離をとった。

 そして服の袖をまくった。すると腕全体から毒々しい色の粘性の液体が出てきた。


「これがわたしの天恵『毒素生成(バタフライエフェクト)』だよ。こんな風に全身から猛毒を出すことが出来るの。あっ勿論握手しようとしたときは使ってないからね!安心して」

「すごい能力ですわね。(わたくし)の天恵とは大違いですわ」

「どんな能力なの?見てみたいな」


 全く警戒心がなかった。今この瞬間天恵を使って殺されるということなんて微塵も考えていない。正真正銘のお人よし。

 まるで子どもが新しいおもちゃを買っもらう時のようにリルは目を輝かせている。

 断るにも断れない状況。

 プルメラは失笑し,息を吸うと歌いだした。

 遠くで聞いていた時よりも美しい。まるで心が洗われ今までの自分が消え去り,そこにプルメラの歌が入り込んでくるような感じだった。


「――――――ッ?!」


 気が付いた時にはもう手遅れだった。

『感じ』なんてものじゃない―――実際に自分というモノが塗り替えられているのだ。プルメラの歌によって。


『な…なん…で。プルメラさ…ん。どう…して』


 歌が体中をめぐる。どんどん自分が無くなっていく。

「やめて」と声を出そうにも体が動かない。

 何故―――どうして―――疑問が残った自我の中に巡っていた。


『仲良く…なれたんじゃ…なかったの…?』


 意識が薄れていく―――まるで底のない暗闇に落ちていくように―――光がどんどん遠ざかっていく。

 リル意識の中で手を伸ばした。届かない光を求めて。

 どこで間違ったのか―――後悔と疑問を抱きながらリルの意識は暗闇にのまれていった。


「馬鹿ですのね貴女。貴女は最初から(わたくし)の手のひらの上だったのですわよ」


 プルメラはリルと同様にゲーム開始直後にリルの存在を感じていた。

 もっともリルとは違い誰かがいるという程度のモノだったが,プルメラにとってはそれだけで十分だった。

 何故ならプルメラの天恵『洗脳技術(アンビバレント)』の能力は洗脳。そして洗脳するための条件は歌を聞かせること。

 敵に位置がばれる可能性が高いため頻繁に使うモノではない。水の豊富な場所でしか生息できない人魚にとってはデメリットがでかい能力だった。

 だが今回は相性が良すぎた。襲ってくる気配のない敵―――それも頭がおかしいとしか思えないお人よしな平和主義者。

 まさにプルメラのために与えられたとしか考えられないプレゼントだった。

 労せずして手にした駒。


「さぁ,始めましょう。狩りの始まりですわ」


 裏切りもない―――感情がないから躊躇もない―――命令に従う生ける屍。


 毒を使役する少女と他者を傀儡とする少女の終わることのないであろう同盟が誕生した。



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