#98 謎の襲撃
「ま、魔男がここに!?」
「ええ……自衛隊の部隊が防衛で向かって下さっているけど、間に合うかは分からなくってよ……」
僻地の山奥のロッジにて。
突然の魔男部隊進行中の知らせは、各自室コテージから集まった魔女たちを混乱させていた。
争奪聖杯が終わり、一か月と半月ほど後。
魔男襲撃に備えて厳戒態勢が敷かれていた市井も、その態勢が解かれ日常が戻って来た矢先。
青夢たちはまたも、大きな動きに巻き込まれることになっていた。
それが、この空宙都市計画。
争奪聖杯の一件により信頼性が低下した法機に代わり、宇宙ステーションへと吸引光線により上昇し宇宙ステーション間は新たな飛行手段たる空宙列車により移動するというものだ。
しかしそのためには、実際に女神の杼船――すなわち、スペースシャトルに乗り宇宙作戦に従事する必要があり。
そのための訓練が、今日この僻地の山奥でのサバイバルをもって開始されていたのだが。
「くそっ! 機体がここにあれば!」
「それよりも。……これは偶然かしら? 私たちがいるこの山を狙って来るなんて……」
「! そ、そういえば……」
訓練1日目も終わろうとしている時だというのに、この有様になってしまい皆は混乱していたが。
その中でも青夢の言葉に皆は、ふと首を傾げる。
魔男が一応は極秘であるこの宇宙用訓練が行われている山を襲撃するなどと確かに、偶然だろうか?
と、その時。
「こら、誰が集まれと言った!? 貴様らの上官は私だ、それに! 何だその寝巻きのままの格好は、それで戦おうなどというのか!?」
「は、はいすみません!!」
突如として現れたのは青夢たちの今回の教官たる巫術山である。
それに慌てた青夢たちは、大急ぎでコテージに戻り。
そのまま速攻で着替えを終わらせるや、急いでロッジに戻る。
「まあよい、改めて……貴様らが今しがたしたことは、隊としては命令系統を乱す行為に他ならん! 罰は後でたっぷり下す……」
「は、はい!!」
青夢たちは迷彩服で集合しつつ。
相変わらずの厳しい巫術山の怒声にやや縮こまりながら、半ば反射的に返事をする。
「が! まあ既に知っているならば話は早い……今! ここに何故か魔男が向かいつつあるという情報が入った。しかし貴様らが使う――いや、その力にどちらかと言えば使われている法機は、今この場にはない!」
「は、はい……」
「(ふん、こんな時にまで嫌みを忘れないなんて……)」
「(やっぱり、イライラする教官であってよね!)」
巫術山のやや手厳しさが目立つ言動に、マリアナや法使夏、夢零に英乃は苛立つ。
尤も、苛立ったのは彼女らを始めとする強力な法機持ちだけで。
「(クスッ……)」
「(ふん……いい気味だわ、マリアナ!)」
その他の尹乃や、レイテら旧生徒会新候補組はやや溜飲が下がる思いであったが。
さておき。
「よって! 貴様らがここにいてもただただ足手纏いにしかならない……いや! そもそも法機はおろか魔法が使えぬ以上、貴様らはもはや無力というしかない!」
「(だーかーら!)」
「いちいち嫌味ったらしいのであってよ!)」
「(このクソ教官!!)」
またも巫術山の言葉に、マリアナたちは心中で毒づく。
「そして、ここに向かっている自衛隊の助けも間に合うか分からん! そこで……ここは、貴様らの上官たる私たちが引き受ける! この山が知られた以上貴様らは、直ちに尻尾を巻き醜態を晒しながら逃げよ! 私たちはそんな貴様らを尻目に……魔男の艦隊へ時間稼ぎくらいはしてやる!」
「は、はい! ……え!!!???」
「え、ではないだろ、はいだろ!」
しかしその毒々しい巫術山の言葉に。
またも反射的に返事した皆は、すぐに疑問の声を上げ巫術山に怒られる。
◆◇
「さあさあ! 出て来いよクソアマ共があ! 今に○▲⬜︎%#!」
「う、ウルグル騎士団長……その、何度も言いますが」
「ああん!?」
「……はい、すみません。」
お前こそ何度も言わせるな、と言わんばかりに突っかかって来たウルグルに。
側近の騎士は、諫言を呑み込む。
青夢たちが下山し始める一方。
彼女たちが入る山に刻一刻と近づいていたのは、狼男の騎士団による艦隊である。
巨狼型幻獣機父艦マーナガルムを旗艦とし。
その他複数の同じく巨狼型幻獣機父艦サンドッグたちが随伴する、さながら巨狼の群のごとし。
「ああ、この時をずっとずっと待ってたぜえ魔女アマ共! そうさ、俺はずっと▲×&#%」
「う、ウルグル騎士団長!」
「ああん!?」
「……はい、申し訳ございません。」
またも諫言の時を伺っていた側近だが。
ウルグルはまたも、文字通り有無を言わさぬ勢いであり側近は押し切られてしまう。
「……ウルグル騎士団長。いよいよ我らが目的地に。」
「よし。さあ、戦闘用……意い!?」
「っ!? う、ウルグル騎士団長これは!」
と、その時だった。
青夢たちがいた山を前に戦闘態勢に入ろうとする狼男の騎士団艦隊に突如、その頭をつん裂くような衝撃に襲われる。
これは。
「くっ!? ……わ、ワォーン! な、なんだこの○▲×」
「う、ウルグル騎士団長! せめて文章に起こせるレベルの罵詈雑言にして下さい!」
皮肉にも、この敵からの攻撃と思われる衝撃により。
側近はウルグルに、ようやく諫言ができたのだった。
◆◇
「巫術山教官……敵部隊、動きを止めています!」
「ああ、止まってもらわなくてはな! さあ行くぞ、妖術魔に白魔! 貴様らキリキリ動かんとケツ蹴り上げるぞ!」
「はい、教官!」
「はい! (まったく、相変わらずだなあ!)」
今巫術山と、そしてその補佐として来ていた二等陸曹の妖術魔力華と白魔術里は。
かつての教え子時代からの、変わらぬ師匠に呆れながらも。
何やら古典的なパラボラアンテナを備えた戦闘車両三台に、それぞれ乗っていた。
「どうやらこの武器は、それなりに戦果を上げているようですね!」
「油断するな、まだ足止めもできているかどうかに過ぎない! 何せ、これは――この仮想電使戦機は、まだ試験段階のものだからな!」
巫術山は自身の車両より、力華・術里を窘める。
そう、これは。
マリアナの法機カーミラと、生徒会総海選の際魔男が使っていたピュクシスコーポレーションのVR技術とを融合させた技術である。
人呼んで、仮想電使戦機。
今魔男の動きを止めているこの兵器を見て、力華たちは思うところがあった。
もしこれが、あの争奪聖杯に間に合っていたら――
「まあよい、試験段階とはいえ今私たちが取りうる手段はこれだけだ! 行くぞ! 妖術魔、白魔両二等空曹!」
「はい!!」
しかし、巫術山の言葉に二人ははっとする。
巫術山も先ほどまでの師弟時代を引きずった言い方とは違い、今は並び立つ自衛官同士として力華・術里を呼び。
それに応えた二人も。
「……リンク、ザ システム オブ エネミー! エグゼキュート!」
「エグゼキュート!!」
再び、狼男の騎士団艦隊を照準し。
今一度、アクセスを強行する。
すると――
「! よし……また入った、魔男のシステム内に!」
「行くよ、妖術魔二等空曹!」
三人はVRの世界へと入り。
そこにある、文字通りの仮想機体へと乗り込み。
現実の狼男の騎士団艦隊を模した、VR上のそれへと突撃を仕掛ける。
「さあ……魔男たち、さっさとくたばんな!」
◆◇
「!? ま、魔男の部隊の動きが止まって……」
「なるほど……あの仮想電使戦機を発動させたのであってね、自衛隊の皆さん。」
「!? い、いや何それ魔法塔華院マリアナ?」
一方、今まさに下山途中の青夢ら凸凹飛行隊や龍魔力四姉妹、尹乃、レイテら旧生徒会新候補たちは。
すぐそばで繰り広げられている戦いにふと気づく。
「魔法塔華院コンツェルンが開発し自衛隊に納品した新兵器、その試作品であってよ。あのピュクシスのVRやわたくしのカーミラのデータを元に、敵システムへのVR上での仮想的かつサイバー的な攻撃を加えるこのシステム、まずまずの出来のようね……」
「へ、へえ……」
マリアナの言葉に、青夢は頷きつつも。
「まあ、何はともあれ……教官たちがその仮想なんちゃらを使ってくれてる間に、私たちは」
「お待ちなさい魔女木さん! これは千載一遇のチャンスであってよ……あれを使えばわたくしたちは、法機を呼べるわ!」
「!? な!」
「ほ、本当なのマリアナさん?」
「マジかよ……」
下山を促す青夢に対してマリアナが言い放った言葉に、その場の皆は驚く。
法機を呼べる?
「だ、だけどよ! ここは電賛魔法システムに接続できねえじゃねえか!」
「あら英乃さん、分からなくって? わたくしは今申し上げたはずであってよ……あのシステムは敵に、サイバー攻撃を仕掛けるものであると!」
「!? え? い、いやどういう意味だ?」
「! なるほど、マリアナさん。……あのシステムが今強制介入している敵システム。そのネットワーク接続を使えば」
「! あ!」
混乱する英乃だが。
マリアナの捕足説明に合点したのは、その姉たる夢零だった。
「ええ、ご明察であってよ夢零さん! ……あのネットワークを使えばわたくしたちは、法機を使えてよ!」
「! マジかよ……」
「さ、さすがですマリアナ様!」
「ふっ、まあ……当然であってよ!」
マリアナは法使夏からのおだてに、胸を張って応える。
が、その時。
「待って、魔法塔華院マリアナ! それってつまり……今の最前線に一度行かなきゃってことよね?」
「! ええ、そうであってよ魔女木さん……」
青夢だった。
「……皆! 私たちが今教官から命じられたのは何だっけ?」
「! え、ええと……」
「そうね……この山が知られた以上貴様らは、直ちに尻尾を巻き醜態を晒しながら逃げよ! だったわ。」
「! お、王魔女生さん……」
青夢の言葉に、答えたのは尹乃だった。
「その通りよ、王魔女生さん。つまり」
「わたくしの今の考えは、先ほどあの教官が言っていた通り命令系統を乱すことだとおっしゃりたくってよね魔女木さん。」
「……ええ。」
青夢の言葉にマリアナは、不愉快そうに彼女を睨む。
「あなた……さっきからいい娘ちゃんぶりすぎではなくって? いざという時にご自身で判断できなければ、戦場では生きていけなくってよ。」
「屁理屈こねてるけど……結局は! あの教官への反感から感情的になっているだけじゃないのあんたは?」
「あら、あなたこそ……今わたくしに対して反感をもって感情的になっているだけではなくって?」
「何ですって?」
青夢とマリアナは、方針を巡りぶつかっている。
しかし。
「魔女木、あんたマリアナ様に」
「!? 皆、伏せて!」
「! くっ!」
ふと気づいた青夢の言葉に、その場の全員は伏せる。
近くに魔男側の攻撃が、着弾したようである。
「……魔法塔華院マリアナ、今最前線に行ったら間違いなく私たち死ぬわよ? それでも行く?」
「……ふん!」
青夢の言葉にマリアナは、拗ねたように目を逸らす。
「……まあそうね、いつかは逆転の時があるかもしれない。だけど、今は山を下りることが最優先よね?」
「……そうね、マリアナさんには悪いけど。」
「……皆、行くわよ。」
これにより、皆青夢の言葉に従い。
下山を最優先することになった。
「(まったく、つくづくあなたは……今に見ていなさい!)」
マリアナはそんな青夢に、反感を持つ。
◆◇
「おお、ウルグル殿は魔女共の居場所を!」
「ここは悔しいザンスが……やってしまうザンス!」
その頃、魔男の円卓では。
この戦闘の様子を、他の十一騎士団長諸侯が眺めていた。
「ああ、我が騎士イース・シュバルツより齎された情報によるものだからな!」
アルカナは、得意げに返す。
そう、この極秘プロジェクトの内情は。
何故か"アイアコスの鍵"たる騎士、シュバルツにより把握されていたのだった。