#96 極秘プロジェクト
「ふん♪ ふん♪ ふふふん♪」
「うん青夢……いつもと違って青くないね。」
「うん、逆に心配。」
「なーによー、私が青いほうがいいっての?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……何か、調子狂うなって。」
聖マリアナ学園魔女訓練学校内のカフェテラス内にて。
円卓を囲む真白・黒日・そして鼻唄まで歌う青夢の三人はいつも通りというべきか軽口を叩き合っていた。
争奪聖杯が終わり、一か月と半月ほど後。
魔男襲撃に備えて厳戒態勢が敷かれていた市井も、その態勢が解かれ。
こうして学生生活も含めた、日常が戻って来たのである。
「はーあ、こうやって日常を問題なく送れるのが一番幸せ……」
と、青夢がマフィンに齧り付こうとしたその時だった。
「失礼します!」
「魔女木青夢さんですね?」
「うわっ!? え、ちょ、何?」
突如として黒スーツ集団が一糸纏わぬ動きではイって来た。
いや、一糸纏わぬではなく黒スーツを着ていたので訂正すると、一糸乱れぬ動きでカフェテラスに入って来た。
「……お迎えにあがりました。」
「……は? モガモガモガ!」
何と青夢はいきなり黒スーツ集団に囲まれて抱き抱えられ。
拘束され、そのまま荷物のごとく持って行かれそうになる。
「ち、ちょ、青夢!」
「こ、こらあ! 人の友達以上親友未満をさらっていくなあ!」
「い、いやまぐろ……間違った真白、私親友未満なんかーい……」
拘束されながらも、かろうじて意識を持っていた青夢だが。
親友、いや友達以上親友未満の真白、黒日に見送られ。
意識が遠のいて行った――
◆◇
「……って! もう、普通に呼び出してよ魔法塔華院マリアナ! 何事かと思ったわよ!」
青夢は魔法塔華院コンツェルン本社の客間で、マリアナに抗議する。
先ほどの黒スーツ集団は、マリアナの使いたちだった。
見れば法使夏や、剣人もいる。
「ああ、まあそれは謝っておいてよ魔女木さん。急ぎの、それも極秘のお話だったために手段を選んでられなくってよ。」
「ご、極秘ね……」
あれで極秘とは。
むしろ目立っていた気がするが。
青夢はそう突っ込もうとして止めた。
「何よあんた、マリアナ様に楯突く気?」
「そんな気ないわよ……はあ。」
法使夏の言葉に青夢は、ため息を吐く。
せっかく日常が戻ったと思えば、この有り様かと。
「おほん! ……では、極秘プロジェクトをこれから発表させていただきます。」
「……はいはい。」
相変わらず極秘と強調するマリアナに、青夢は無理矢理連れて来られた鬱憤もあり面倒くさげに聴く。
「ちょっと魔女木!」
「よくってよ雷魔さん。まあ、やる気のなさそうな魔女木さんはともかく……では空宙都市計画について発表させていただきましてよ。」
「!? こ、こーどざしてぃ?」
が、乗り気ではなかった青夢は。
聴き慣れない言葉に、思わず顔を上げる。
◆◇
――地上よりお乗せいたします人員又は貨物を衛星軌道上の施設、所謂宇宙ステーションたる電使の宝座へと上昇させます。その際には電使の宝座より吸引光線を発射いたします。
女性のナレーションと共に。
映像ではとある一家が、はるか高空――曰く、電使の宝座より発射され地上に到達した吸引光線の中に吸い込まれ。
その光線の中をさながら、エレベーターのごとくひとりでに上昇していく。
そうして。
――ご覧ください! 何という素晴らしい眺めでしょう……かつてガガーリン氏も言われた通りの青き地球。これぞまさに、ここまで到達したからこそ味わえる景色です……
ナレーションが告げた通り、到達した電使の宝座より見える地球は青かった。
――さて、ここからの移動ですが……もちろんこの地球宇宙間でも使われなかった女神の杼船は使いません! ここからは……この空宙列車による、電使の宝座間の移動となります!
さらにナレーションが告げることには。
空宙列車なるものの存在だった。
それは。
――こちらは宇宙を走る列車でございます! まあ列車と言いましても、人が轢いた線路の上を走るのではありません! それは元々ある線路……すなわち、地球の衛星軌道上を走るのです!
その言葉と共に映像中に出てきたのは、やはり名にし負う通り列車。
それは最後部の噴流器より爆炎を吐き出し。
果たして、衛星軌道上を突き進んで行く。
――さあ、空宙列車が走り出しました! 人を乗せて、夢を乗せて……次なる電使の宝座へと!
ナレーションが尚も語りかける中。
空宙列車の行く先には、次なる電使の宝座が。
――地上に戻る際には、この電使の宝座より放たれる降下光線の中に入り共に降ろされます。これにて……壮大な宇宙の旅はお終いです。
◆◇
「……という訳であってよ。」
「な……」
「まあ……」
「何と……」
マリアナが見せた映像が終わり。
青夢・法使夏・剣人は、ため息を吐く。
「……で、これがその極秘プロジェクトと何の関係があるわけ?」
青夢はようやく、口を開く。
「ええ、よくぞ聞いてくれてよ! そう、わたくしたちが次に向かう場所は……まさにここであってよ!」
「!? え、こ、ここって……ま、まさか!?」
「ま、マリアナ様!」
「ほ、本当か……宇宙に行くなどと!」
「おーっ、ほほほ!」
マリアナは青夢、法使夏、剣人に尋ねられ。
高笑いで、それらの質問に肯定の意を返した。
「そう、宇宙であってよ皆さん! そして、その選抜候補者として……わたくしたちの名前が上がっていてよ!」
「な、何てことでしょう!」
「ま、待ってよ! いやいろいろありすぎてどこを突っ込んだらいいか分からないけど……質問いい?」
「ええ、どうぞお聴きなさいな!」
「え、ええ……」
よほど自信がある計画なのかマリアナは、いつになく上機嫌である。
青夢はそれにややペースを乱されつつも、尋ねる。
「まず……そもそも、何故宇宙に?」
「ええ、まあそうであってよね! ……それは、今映像で見たこの空宙鉄道――ひいてはこの"空宙都市"を、完成させるためであってよ!」
「く、空宙都市……」
マリアナの言葉に青夢は、改めて話の大きさを実感する。
「し、しかし……何故わざわざ宇宙に鉄道なんだ? それこそ法機で」
「ふふん、ミスター方幻術。それは些か愚問であってよ?」
「な、何?」
剣人も質問するが、マリアナのやや棘がある言葉に少し眉根を寄せる。
「既に以前の戦いで、法機に対する信頼性は揺らぎつつあってよ! 今や社会では法機のリコールが多く行われている……こんな時安全と言えるのは、やはり宇宙ではなくって?」
「! あ、ああ……」
「う、宇宙ね……」
が、マリアナのこの言葉に。
剣人も青夢も、一応は納得する。
なるほど、確かに把握している限りではあるものの魔男側に宇宙装備があるとは聞いていない。
一旦宇宙に出れば、さすがに彼らも手出しはできまい。
「現に、この電賛魔法のネットワークインフラである電使衛星にも奴らは手出しできないみたいだし。そうね……」
「ええ、意外に勉強しているじゃなくって魔女木さん?」
「い、いやそんなあ……って! 意外は余計よ! ……ってあれ?」
青夢はマリアナに抗議しつつ。
ふと、さらに疑問が頭を翳める。
「待って……えっと宇宙には、さっきの映像にあった吸引ビームで行くのよね?」
「ああ、確かに紛らわしくってよね……いいえ! まだそのシステムは完成していなくってよ、故に! わたくしたちが電使の宝座へと、女神の杼船に乗りその最後の部品を運び込み組み立てを行うのであってよ!」
「!? え、ええ!?」
青夢は恐る恐る尋ねるが、やはりというべきマリアナの回答が返る。
先ほどの選抜候補者、という言葉を聞いた時から嫌な予感はしていたが。
まさか、女神の杼船――所謂スペースシャトルに乗るとは。
「な、何よそれ! それってもう宇宙飛行士じゃない!」
「あら、嫌なら降りてよくってよ飛行隊長? 但し、その場合はあなたには飛行隊長の座を降りていただきますわ!」
「な……だ、誰が降りるなんて!」
青夢のやや嫌な想像から来る苦悩の声に、マリアナがいちゃもんをつけ。
つけられた青夢は、それに突っかかる。
「わ、私も行きます!」
「お、俺だって!」
「……決まりであってね。ではこれより! 地獄のような鍛錬と選抜が待っていますから……」
「の、臨む所よ!」
つられて法使夏も剣人も、志願することを宣言し。
マリアナは勝ち誇ったように、彼女らに返す。
「(でも……はーあ! 鍛錬かあ……)」
「(ふふふ、せいぜい音を上げるがよくってよ魔女木さん! その時こそ……わたくしがその飛行隊長の座を掠め取ってあげてよ!)」
憂鬱になる青夢の隙を、マリアナは虎視眈々と狙っていたのだ。
◆◇
「"アイアコスの鍵"よ……もはや、貴様だけが頼りだ。」
一方その頃。
ダークウェブの最深部一角で、アルカナは黄昏れていた。
彼の目の前には、ダークウェブに張り巡らされた光の網に囚われ膝を突いたまま眠る"アイアコスの鍵"――魔男の騎士団所属の騎士イース・シュバルツの姿が。
そう、あの争奪聖杯最終戦で。
――fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4
NAME:> EaseSchwartz
PASSWORD:> ********
fcp> get tarantura.edrn
タランチュラをそのコマンドにより不完全ながらも実体化させた存在である。
「王よ! どうか私にご命令ください……」
「ナンダ? ダレガキテヨイトイッタ?」
「ご無礼な真似、お詫びいたします! しかし……どうか、私に直々にご命令ください!」
遡ること少し前。
アリアドネによる屈辱的な言葉を受けたアルカナは、もはや破れかぶれにタランチュラへ直談判しにやって来たのだ。
「ククク……サレ。キサマニメイズルコトナド……」
「お願いいたします、王よ!」
「……ニンギョウドモ、ツマミダセ!」
「はっ。」
「我らが王の、ご命令とあらば。」
「!? な、ウィヨルにフィダール!」
尚も食い下がるアルカナだが。
タランチュラからの鬱陶しげな命令を聞き、何とアルカナ直属の両翼近衛騎士が彼を取り押さえる。
「ソヤツラハ、アクマデワガニンギョウ……ユメユメ、カンチガイスルナ!」
「お、お待ち下さい、我らが王! くっ、離せ!」
アルカナはそれでも食い下がるが、ウィヨルとフィダールは容赦なく彼をタランチュラより遠ざけていく――
「……王まで私を……いや、まだ逆転の機はある! そうだ……お前は私にとっても、鍵だ……」
アルカナはシュバルツを前に、その胸中を吐露する。
「そうだ、王には他の騎士団長など要らぬ……この私だけでよい! ……そうだ、貴様さえいなければ!」
アルカナは、後ろを向き。
そこに積み上げられた、何やら一抱えほどの破片の山を恨めしげに見る。
その山の上にはややひび割れながらも原型を止めた、人の首のような形の部品があり。
その山の元の形を、物語っていた。
「……カイン・レッドラム!」
アルカナは、かつて処刑されたその破片の主たる騎士の名を呼ぶ。
「(……私、は……誰だ?)」
その背後ではシュバルツが目を覚ましかけたことに、アルカナは気付いていなかった。
◆◇
「魔法塔華院や龍魔力ばかり力を……私もやってやるわ、絶対に!」
王魔女生グループの本社屋上にて。
社長の尹乃は、燃えていた。
あのメアリーに騙されて以来の登場である。
と、その時。
――お前、は……誰だ?
「!? だ、誰!?」
頭の中に響いた声に、尹乃は驚く。
かくして。
空宙都市を巡る戦いは、始まろうとしていた。




