#94 戦乙女の法騎
「こ、これは……」
「な!? ま、魔女木青夢その法機の形はもしや……聖杯なのか!」
アルカナは目の前の光景に、今眩ませている目を疑う。
それは今自身が搭乗している空飛ぶ魔人艦ブレイキングペルーダと同じく、法機状の機体より上半身が生え出たような異様な姿。
曰く、戦乙女の法騎。
「ああ、そや! どうやジャンヌダルクの姉ちゃん、乗り心地は!」
赤音が誇らしげに青夢に尋ねる。
「う、うーん……えっと……」
水を向けられた青夢は、かなり困惑している。
先ほどまで空飛ぶ魔人艦の出現に驚いていた彼女が、次にはその能力――聖杯の力を自ら手にすることになっているのだから当然ともいえるが。
「そうか……貴様の仕業かフレイ!」
が、アルカナは合点する。
聖杯の力を手引きしたのは、赤音であると。
「ん? ああ、そやで間抜けな魔男の騎士団長さん!」
「貴様……いや、待て。」
赤音の挑発的な返事に、アルカナは苛立つが。
ふと疑問を感じる。
「フレイ……いや、魔女辺赤音! だとしても何故貴様が、聖杯にアクセスできるのだ!?」
「そりゃあ、そんなん決まっとるがな! 形だけとはいえあたしらは、あの争奪聖杯に勝利しとるんやで? そう……この聖杯を賞品とする、争奪聖杯になあ!」
「くっ……おのれ、それも目的にして潜伏していたのか!」
赤音の言葉にアルカナは、合点する。
アルカナが赤音を利用していたならば、赤音の方もまた然り。
聖杯の力を得る目的も兼ねて彼女は、魔男の円卓に潜伏していたということだった。
「ま、まあいいわ魔女辺赤音。何はともかく、あんたも私の目的達成に協力してくれたということね、さあマージン・アルカナ!」
「! ……ああ、そうだったな。ここで貴様を葬り、私の屈辱と我らが王に対するその侮蔑の罪雪がせてくれる!」
そうして、青夢はひとまず自身の空飛ぶ法機――否、戦乙女の法騎ジャンヌダルクに馴染み。
アルカナもまた自らの空飛ぶ魔人艦ブレイキングペルーダの矛先を、今一度青夢に向け直す。
「fcp> get AcidCracking.hcml ――アシッドクラッキング!」
そうして相対した両者のうち。
アルカナは、先制攻撃を放った。
「くっ、もう俺の防壁は保たんぞ魔女木!」
一方。
剣人はまだ尚、ジャンヌダルク諸共に青夢を防壁で守っていたが。
改めてアルカナのブレイキングペルーダより放たれた黒き波動に、ついに限界を迎えていた。
「ええ、もう十分よ方幻術! ……まあ、ありがとう。」
「! あ、ああ……こ、こんな防壁何度でも張ってやる!」
青夢がやや照れ臭げに言った礼に対し、剣人も照れる。
しかし。
「ふん、おしゃべりをしている場合か!」
「ええ、そうじゃないわね! ……hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
隙を与えぬとばかりに、アルカナが乗機より攻撃を更に激しくし。
青夢はこれに対し、毎度お馴染みの必殺光線を放つ。
そう、毎度お馴染み――の技のはずなのだが。
「なっ……くっ、光線が何股にも分かれただと!?」
「ほうら、どこ見てんのよ!」
「ぐっ!」
アルカナが驚いたことに。
青夢の空飛ぶ法機――いや、戦乙女の法騎ジャンヌダルクがその身から光線を放つや否や。
なんとその光線が多方向に分裂しただけでなく、本体たる戦乙女の法騎も姿を消し。
かと思えば光線諸共にブレイキングペルーダとすれ違うことでダメージを負わせていく。
「くっ! 小娘とはいえ聖杯の力を手にした者か……よかろう! fcp> get LaplacesDemon.hcml―― 全知之悪魔! さあ……どこから来るか……」
アルカナはその様にこれまでの舐めた態度を変え予知を発動する。
すると彼の周囲の時間はたちまち遅くなり。
その機体たるブレイキングペルーダの周りには青夢が乗機諸共突き進みそうな場所が複数示された。
「ふふふ、さあてどこに来るのだ魔女木青夢……」
そうしてアルカナの目には、その内一筋の光が強く輝いて見える。
「ははは! そこか! fcp> get demonwing.hcml……魔王旋風!」
これで最後だ――そう言わんばかりにアルカナは、次にはブレイキングペルーダを駆り予測された方へ疾風と共に突撃を仕掛ける。
しかし。
「いいえ、ここよ!」
「ぐっ!? な……予知を上回っただと!?」
「ふん、さあね! ……hccps://jehannedarc.row/、セレクト! オラクル オブ ザ バージン、ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
「くっ、予知と技を同時に!? ぐうっ、がはあ!」
青夢の戦乙女の法騎ジャンヌダルクは、技と同時に予知を行い。
それにより相手の予知をも、上回っていたのだ。
「だが、接近してくるならば予知など要らぬ…… fcp> get AcidCracking.hcml ――アシッドクラッキング、トゥービー ストロンガー!」
だがアルカナも負けじと。
たちまち自機の周りに波動を巡らし、戦乙女の法騎ジャンヌダルクを待ち受ける。
まさに、飛んで火にいる夏の虫としたいがごとく。
「そう来たか……なら! ……セレクト、サッキング ブラッド、儚き泡、エグゼキュート!」
「!? くっ、他の飛行隊員の力もだと!」
が、青夢の反応も素早く。
そのままアルカナの波動を吸収しつつ、泡で自らを覆い爆破と共に一撃離脱する。
「おのれ……だが!」
それにより左翼の欠けるブレイキングペルーダだが。
何とその欠損箇所は、即座に修復される。
「なるほど……やっぱりね、だけど! セレクト、アトランダムデッキ! 正義――正義の倍返し、エグゼキュート!」
「くっ! クランプトンの乗機の能力までか!」
「いいえ、能力だけじゃないわ……これは今、皆も一緒に戦ってくれてるのよ!」
「な、何!?」
アルカナが尚も来る、他の機体の能力による攻撃に怨嗟を漏らすが。
青夢の言葉に、更に動揺する。
そう、今は。
「魔女木さん、癪だけれど……今ここであなたに倒れられたら、後で覚えていなさいとは言えないから仕方なくってよ!」
「ま、まあ一応はミリアを助けようとしてくれたこと……あ、改めて感謝するわ!」
「魔女木、そのまま自らの願いのため翔んでいけ!」
未だ意識を共有している魔女たちと、力を合わせているのである。
「セレクト グライアイズアイ、グライアイズファング! さあ……私自ら誘導銀弾と化すわ!」
「ぐうっ!?」
「さらにさらに! セレクト、変身薬!」
「くっ!? どこへ消え」
「セレクト、大いなる謎 エグゼキュート!」
「むっ! くそ、予知能力に直接介在を」
「さあて、雲に化けるのは終わり……セレクト! 子飼いの帯!」
「ぐっ!? ふ、フレイの力を」
更に畳みかけた末に。
青夢は、ついにブレイキングペルーダを――アルカナを。
赤音のマルタの力にて、拘束した。
「よおし行ったりゃ、姉ちゃん!」
「癪だけれど……今はアルカナなんかをぶっ飛ばして!」
「ああ、ぶっ飛ばせ!」
「魔女木さん!!!」
「やっちゃえー!」
そうして先ほどまで、凸凹飛行隊と同様に青夢に力を貸していた赤音やミリアとメアリー、龍魔力四姉妹も見守る中。
「終わりよ……エグゼ」
「くう!?」
青夢はついに、拘束したブレイキングペルーダにエネルギーを注ぎ込まんとする――
――fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4
NAME:> EaseSchwartz
PASSWORD:> ********
fcp> get tarantura.edrn
「ズニノルナ……コムスメ!」
「!? わ、我らが王!?」
「!? くっ、回避!」
が、その時だった。
突然の、コマンドと共に。
何やら八本の爪のごときものがアルカナのすぐ後ろの空に生え。
それは彼を両手で包み込むがごとく、守る。
アルカナも言った通りそれは、ダークウェブの王タランチュラである。
「なるほど……王様が今度は、現実世界にお出ましなのね!」
青夢も咄嗟に技をキャンセルし、間合いを取る。
「"アイアコスの鍵"か、でかした! しかしまだ不完全か、脚しかない……まあよいか。我らが王、よくぞ……」
中途半端な実体化を果たした両手状のタランチュラに包まれつつ、アルカナは恭しく頭を下げる。
しかし、そこで。
「コムスメ……ワガモトヘ、コイ。」
「……え?」
「な!? 何を、我らが王……」
タランチュラは青夢もアルカナも、予想していなかった言葉を青夢に放つ。
が。
「待ちなさい、ダークウェブの王!」
「……ホウ? ジョオウト、ヤラカ!」
「あ、アラクネさん!」
青夢の戦乙女の法騎ジャンヌダルクに重なるように、アラクネの幻影が浮かぶ。
「彼女に何の御用かしら?」
「ククク……」
タランチュラとアラクネ。
王と女王は、一触即発の雰囲気である。
と、その刹那。
「お待ち下さい、私の王。」
「!? オ、オオ……」
「だ、ダークウェブの姫君!」
「へ? だ、ダークウェブの姫君?」
今度はアルカナを包み込むタランチュラに重なるがごとく、幻影が現れる。
それはアラクネとはまた違った姿の、少女。
ダークウェブの姫君である。
「お前ですか……不届きにも、私の王と同列を名乗る者よ。」
「……なるほど、誰だか分からないけれど。私をご存じ?」
「ええ。……我が名はアリアドネ。今そこのアルカナが言った通り、ダークウェブの姫君と呼ばれているわ。」
アリアドネとアラクネ。
ダークウェブの姫君と女王は今ここで、相対した。




