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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第五翔 円卓第十三席争奪聖杯 
94/193

#93 聖血の杯

「ふ、空飛ぶ魔人艦フライングボータウラス……?」

「ふふふ……fcp> get AcidCracking.hcml ――アシッドクラッキング エグゼキュート!」


 突如として現れたアルカナの新戦力・空飛ぶ魔人艦フライングボータウラス

 その出現に呆ける魔女たちだが、待ってはいられないと状況が――いや、アルカナが攻撃術句の詠唱とともに告げて戦いは再開される。


 たちまちその空飛ぶ魔人艦フライングボータウラスブレイキングペルーダより放たれた、黒ずみ淀んだ波動は周囲の法機やウィガール艦、スフィンクス艦に迫るが。


 ――!? 皆、攻撃が来るわ! 方幻術、愛三さん!


「わ、分かった! ……hccps://clowrey.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 皇帝(ザ エンペラー)――為政者の守り(ルーラーブロッキング) エグゼキュート!」

「任せて、ジャンヌダルクちゃん! ……hccps://sphinx.wac/、セレクト 王獣の守護(ファラオガーディアン) エグゼキュート!」


 青夢の指示により剣人や愛三の作り出した防壁により防がれる。

 しかし。


「くっ! すまん魔女木!」

「くう! ダメだ、せっかくアラクネちゃんがくれたのに……私のスフィンクスちゃん、まだ本調子じゃないみたい!」


 ――うう……難しいか!


「ははは! 所詮こちらの攻撃特性までは分かっても……その強さを貴様らは舐めていたようだな!」


 ブレイキングペルーダの浸食の力はかなり強く。

 全力で展開されているはずの剣人、愛三の防壁すらも容赦なく浸食していく。


 と、その時。


「hccps://arachne.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 皇帝(ザ エンペラー)――絶対帝政アブソリュートカイザー、 王獣の守護(ファラオガーディアン) エグゼキュート!」

「!? ふん……不甲斐ない元魔男と魔女に愛想をつかして女王様直々に手出しされるか!」


 アラクネだった。

 その身よりクロウリーとスフィンクスの能力を発動し、ブレイキングペルーダの力を防ぐ。


「さあ皆さん、私も私だけでは長くは持ちこたえられないから援護して!」

「り、了解!」

「hccps://carmila.wac/、セレクト サッキングブラッド エグゼキュート!」

「二手乃、グライアイズアイ用意! 英乃、グライアイズファング用意!」

「は、はい夢零お姉様! ……hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ! エグゼキュート!」

「了解、姉貴! hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング! エグゼキュート!」

「hccps://rusalka.wac/ 、セレクト 儚き泡バブリングパニッシュメント エグゼキュート!」

誘導銀弾(シルバーブレット)連続発射!」


 アラクネの言葉に、他の魔女たちも動き出し。

 思い思いに、抗う。


「やれやれ……まったく無駄な足掻きを!」


 アルカナは余裕の表れというべきかいつもの幻獣機の場合とは違い操縦席がある空飛ぶ魔人艦フライングボータウラスの機内にて、その席の背中に少しもたれつつ目の前の戦場を眺めている。


 この戦場のアルカナの前方では魔女陣営が、後方には未だタランチュラに意識を掌握されている魔男陣営がいて。


 その魔女陣営は今、自身が放った攻撃に苦しんでいる。

 その様を見て気持ち良く感じられるほどには、彼の性根はゆがんでいた。


「ああ……どうかなフレイたち女男の騎士団諸君! 君たちが本来手にする筈であった聖杯の力は!」

「くうう! そやな……」


 ――どういうことなの、魔女辺赤音!


 アルカナの吐いた挑発の言葉に、赤音が答え。

 青夢はこのブレイキングペルーダが爆誕して以来ずっと気になっていたことを、赤音に尋ねる。


「言葉通りの意味や! あれぞ聖杯――人呼んで聖血の杯(ブラッドサーバー)! 例の争奪聖杯に勝利した13騎士団のうちどれかがアクセスできる、強い力を授けてくれるサーバーや!」


 ――なるほど……あれはそういうことだったのね!


 青夢は未だ未来のビジョンに囲まれる、ダークウェブの深奥におり。

 そこからアルカナの乗機を見てため息をつく。


 あれが、争奪聖杯の賞品――

 尤もアルカナのアクセスしている聖杯は争奪聖杯の賞品ではなく、彼が元から第十三席を占めていたがゆえに得られたものである。


 さておき。


 ――hccps://jehannedarc.wac/、セレクト オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート!


「ふふふ……魔女木青夢! fcp> get LaplacesDemon.hcml……全知之悪魔(ラプラシーズデモン)! 一度いや、二度も予知では貴様に出し抜かれたが。所詮聖杯を持たない貴様、もはや相手にすらならぬな!」


 ――!? くっ!


 予知を始める青夢だが。

 アルカナもそれを察知し、予知を始める。


 そして、やはりアルカナの言うとおりに。

 青夢はかつてと同じく、予知を妨害されてしまう。


「さあ魔女木青夢よ! どうだ、私の目の前に出てこないか? いい加減、逃げ隠れせずになあ!」

「くっ……あかんで魔女木の姐ちゃん! 挑発に乗っちゃ!」


 アルカナの煽りを受け、赤音が青夢を制する。

 今出てくれば、この淀んだ波動の真ん中になるが。


 それはつまり、直撃を食らうことを意味しているからだ。

 しかし。


 ――方幻術、あんたの力を! あんたのアトランダムデッキで、まだ選ばれていないのあったでしょ?


「ま、魔女木か……? 何を、するつもりだ!」


 青夢は今尚攻撃を受け止め続ける剣人に要求し、剣人は聞き返す。


 ――お望み通り、あいつの真ん前に! まあだけど、そのまんま蜂の巣にだってなりかねないから。だから、あんたの能力で防御しておかないと!


「……無茶だ、今のあのアルカナ殿の攻撃を防ぎきるなどと!」


 青夢から返ってきた言葉に、剣人は首を横に振る。


 ――ふうん、最初は命を狙ってきたあんたが私の心配をしてくれるとはね……次は、身体目当てとか?


「ば、バカ言え! べ、別にお前の貧相な体なんか興味ないんだからね!」


 ――ううん、それはツンデレにしても……一番気にしてること言ってくれるじゃないの!


「!? あ、いや今のは言葉のあやで」


 ――言い訳はいい! お詫びとして、とにかくやりなさい! 飛行隊長命令!


「な……む、しかし……」


 不貞腐れたような青夢の言葉に、しかし尚も青夢の身を純粋に案じている剣人は首を縦には振らない。

 が、青夢は。


 ――魔女辺赤音の時みたいに……あいつとも、マージン・アルカナとも話をしなきゃいけないのよ方幻術!


「!? ま、魔女木……」


 その言葉には剣人も、感じ入る。

 そう、赤音が魔女を完全に裏切ったと思われていた時も。


 その赤音を信じミリアやメアリーもすくおうとする青夢は、こう言っていた。


 ――魔女辺赤音や使魔原ミリア、グレンデルの騎士とは一度話をしないと! そうしないと、何も決められないでしょ!


 すべては、全てを救うために――


「そうだな……それがお前の願いだったな飛行隊長閣下!」


 ――ええ、そうよ! まあ、閣下なんて呼び方辞めてほしいけど……


 自身に理解を示してくれたことは理解しつつも青夢は、少し苦笑する。


 ――まあいいわ……さあ、方幻術!


「ああ! ……hccps://clowrey.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 世界(ザ ワールド)――如意世界(ワールドアットウィル) エグゼキュート!」


 剣人の、その詠唱と共に。

 青夢の前方は、眩く光り出し――


「……お望み通りに来たわ、マージン・アルカナ!」

「おお……よくぞ来たな! 相変わらずのその()()()心意気だけは誉めてやろう!」

「く……あかん言うとるやろ!」

「青夢さん……」


 そうして、青夢は。

 剣人の作ってくれた結界に守られながら、乗機ジャンヌダルクを駆り。

 ブレイキングペルーダが放つ波動の真ん中へと現れる。


 ◆◇


「あんたには、ずっと言いたかったことがあるわ!」

「ほう何かな?」


 これまででもっとも至近距離にて、青夢とアルカナは対峙していた。


「マージン・アルカナ……あんたの考え方とやってることは最低ね!」

「ほう?」


 そうして対峙しての彼女の第一声に、アルカナは挑発的な態度で応える。

 が、青夢は構わず続ける。


「自分のくだらない欲望のために、自分を助けてくれた使魔原ミリアたちを犠牲にしようとして! そしてアラクネさんに聞いたわ……あんた以外の騎士団長は、そこのダークウェブの王様に関する記憶を消されているんだってね?」

「ああ、そうだ! 所詮は知る必要もないことだからなあ! 元々この円卓は我が王のもの。あとは私だけがお仕えすればよいものを……()()()()により、他の連中も抱えねばならなくなったのだ!」

「ある事件?」

「そんなことこそ……貴様ら魔女ごときが知る必要はない!」

「くっ!」

「きゃあ!」


 アルカナの言葉に呼応し。

 ブレイキングペルーダの波動は、さらに強まる。


 そうして波動に侵された剣人の結界も、綻びができ始める。


「そう、分かった……何にせよ、あんたは最低よ!」

「はははは! ああ、だから言っている……そんな私ですら救うなどと貴様の夢は、青臭い夢だとなあ! はははは!」


 尚も強まる波動の中で。

 逆風を受けながら青夢は、勝ち誇ったように笑うアルカナを睨む。


 そうして睨みながら言う。


「ええ、あんたは最低で……かわいそう。」

「……何?」


 その言葉にはアルカナも、笑いを止めて眉根を寄せる。


「あんたには仲間も誰もいないのね……いつも一人! だから……かわいそうなの……」

「くくく……はははは! それは貴様も人のことが言えた義理なのか? 貴様の飛行隊とやらも仲はよろしくなさそうだが? 龍魔力とて商敵、魔女辺赤音もリベラもブランデンも、所詮一度は魔女社会を裏切った輩ども……そんな奴らを、本当に仲間と言えるのか?」


 更に青夢の言葉にアルカナは、挑発する。

 どうだ、反論できるか? とでも言わんばかりに。


 が。


「そうね……その通りよ!」

「……何?」


 まったく反論しない青夢にアルカナは、拍子抜けする。


「ええ、そうね! まあ、龍魔力姉妹の人柄は少なくとも信用できるけど。それ以外――特によりによって私の飛行隊は、最悪の組み合わせね! 私をいじめてたいけ好かない令嬢とその腰巾着に、命目当てが最初の出会いの元魔男なんて、考えられる限りのね! それに元女男の騎士団の人たちも……信用できるかどうか。」

「ふん……好き勝手言ってくれてよね魔女木さん! わたくしだって……あなたなんか願い下げよ!」

「そ、そうよ! あんたみたいなのが隊長なんて、マリアナ様でしょ!」

「だ、だからそのことは! 謝っているだろう!」


 青夢のこの言葉には、飛行隊の面々も抗議する。


「ま、そやな……あたしらには、返す言葉もあらへんわ!」

「でもいいさ、あたしはミリアさえいればね!」

「は、はい姐様!」


 赤音やミリア、メアリーも声を上げる。


「ふん、分かっているじゃあないか……ならば、言われる道理など!」

「でも! ……それでも、私の予知を皆に共有してくれたのは魔法塔華院マリアナだし! 私の言葉通り、女男の騎士団の皆を救おうとしてくれたのは雷魔法使夏や龍魔力の皆さん! そして今、私を結界で守ってくれているのは方幻術! そうよ……あんたにはいるの? 騙したりするんじゃなくて自分の願い達成を手助けしてくれる人が!」

「! ふん、そんなもの……」


 しかし青夢が突き付けたこの言葉に。

 アルカナは、答えられない。


「確かに仲間なんて綺麗事かもしれないわね! それでも……私たちはそもそも、そんな生易しいものは期待してないのよ! 普段はちぐはぐ、いえ凸凹でもいい! それでも……目標を同じにできる時は、まとまれれば! それでいいの……それが、私たち凸凹飛行隊(バンピーエアフォース)よ!」

「魔女木さん……」

「魔女木……」

「魔女木……」


 青夢は更に、胸を張って主張する。

 思えば、このジャンヌダルクを授かりすべてを救うと願っても中々果たせなかった。


 それは、まず。


 ――分かったよ、お父さん……そうそう簡単に、"全ての人を救う"なんてことできっこない! やるには……とにかく、足掻き続けるしかないんだって!


 その姿勢が、欠けていたこと。


 更に、それを一人で抱え込んでしまっていたこと。


 ――普段はちぐはぐ、いえ凸凹でもいい! それでも……目標を同じにできる時は、まとまれれば!


 そう、いざとなれば皆の力を借りること。

 それも欠けていたのだった。


「だから……私はあんたを、そんなことすら分からない、かわいそうなあんたを含めて! 全てを救いたいの!」

「ふふふ……ははは!」


 アルカナはその青夢の言葉に笑うが。

 それはいつもの嘲笑ではない、何も答えられないが故の負け惜しみの笑いである。


 敢えて言えば、自嘲笑か。

 さておき。


「ふふふ……ああ、認めようこの屈辱を! こんな小娘ごときに哀れまれたこの屈辱……その小娘を消し去ることで晴らす!」

「! ええ……来なさい! hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」

「ふん! fcp> get demonwing.hcml……魔王旋風(デモンウイング)!」


 アルカナは、もはやせめてもの腹いせとばかり。

 ブレイキングペルーダで突撃を仕掛け、青夢もそれに対してジャンヌダルクで技を仕掛ける――


 ――魔女木の姉ちゃん!


「!? 魔女辺赤音……っ!? こ、このURLは……?」


 その時。

 未だ繋がっている青夢と他の魔女たちのネットワークを介し、赤音から通信があった。


 そうして――


「……hccps://Hades.char/、セレクト コネクティング! エグゼキュート!」

「!? そ、そのドメインはまさか……ぐっ!?」


 アルカナも、驚いたことに。

 それは、なんと聖杯のドメインであり――


「くっ!? ま、魔女木さん!」

「あ、あれって!?」

「まさか……魔女木も聖杯を!?」


 この様子を見ていたマリアナたちも、事態を察して驚く。


 はたして、青夢の乗機たるジャンヌダルクはアルカナのブレイキングペルーダがそうであったように機体を鳴動させ。


 やがてその機体に、上半身、とは言ってもブレイキングペルーダの時とは違い何やら女性型の上半身を生やし――


「こ、これって!?」

「ああ、戦乙女の法騎ライドオブワルキューレや! どや、アルカナさんや!」

「な、何だと!?」


 その赤音の言葉にアルカナも。

 青夢も驚く。

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