#92 妹の反撃
「hccps://sphinx.wac/、サーチ アサルト オブ 空飛ぶ法機スフィンクス! セレクト、大いなる謎 エグゼキュート!」
「め、愛三!?」
「ん!? ……スパルトイたちが!?」
愛三が指揮を執る、ゴルゴン旗艦が。
愛三が命じるままに、その艦前部にある一門の主砲を旋回させていく。
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。
まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。
そんな中。
なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。
魔男側を誘い出していた。
そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。
その保有艦たる幻獣機母艦スキュラ・幻獣機母艦カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。
そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスに翻弄されながらも。
加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。
しかし、それから数日後のことだった。
巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦が大挙し、さながら巨人の群れを成していた。
それを空飛ぶ法機グライアイ三機とゴルゴン旗艦により龍魔力四姉妹が、迎え撃っていた。
その激戦の末、最終的には四姉妹の四女・愛三とアロシグの一騎討ちとなり愛三の勝利に終わった後。
アルカナの提案により魔男側の攻勢競い合い――争奪聖杯に参加している六騎士団が一斉攻撃を仕掛けることになったがそれも辛くも退け。
その際に得られた情報から、自衛隊と凸凹飛行隊・龍魔力四姉妹は。
魔男の"本拠地"――正確には、罠として仕掛けられていた偽本拠地へと向かった。
しかしそこで待っていたのはマルタの魔女――赤音の裏切りと。
――ああ、君たちも聞いたことがあるだろう……ライカンスロープフェーズ! それこそ騎士が自身の幻獣機に魂を同化させた形態だよ……君たちが葬り去った幻獣機タラスクや幻獣機ナイトメアがとっていた形態でもある!
自分たちが知らずして人の命を奪ったという事実を突きつけられた凸凹飛行隊のうち法使夏と剣人が、そして龍魔力四姉妹が幻獣頭法機化させられた自機を奪われてしまったという結果だった。
その功績に加え、魔女社会にも多数の幻獣頭法機が潜んでいるという不安を与え混乱させたこともあり。
女男の騎士団が争奪聖杯を制することになった。
が、それは第十三席に見せかけた騎士王――ダークウェブの王タランチュラの席に彼女たちを座らせることで彼の逆鱗に触れさせようとするアルカナの策略であり。
それにより赤音たちは、タランチュラの怒りを買ってしまう。
一時は自身のミスに打ちひしがれながらも、それを察知した青夢は他の凸凹飛行隊と共にいち早く動き出そうとするが。
――聞こえるかいな、ジャンヌダルクの魔女さんにカーミラの魔女さん! この二人を離してほしかったら……神妙にして、あんたらの残る機体を差し出せや!
なんと自身と同じく女男の騎士団団員であるはずのミリアとメアリーを下に吊るした幻獣頭法機デモニックリバイヤサンを駆り赤音は、ジャンヌダルクとカーミラの引き渡しを要求して来たのである。
そうしてその要求通りに現れた青夢とマリアナだが。
実は人質などではなく、最初から青夢たちに牙を剥くつもりだったミリアとメアリーと彼女たちはぶつかり合いとなる。
しかし突如として現れたのは、手ずから彼女たちを葬ろうとするダークウェブの王タランチュラだった。
それに対し、ミリアとメアリーの助命を乞うも拒否された赤音はやむを得ないとばかりに真意を明かす。
――これはその姐様直々の密命や! 王様、あんたに誘いに乗ったふりして、姉ちゃん方二人を守れっちゅうな!
そのためにアラクネは一度は葬られたが、バックアップによりいずれ蘇るという。
そして蘇ったアラクネにより法機を与えられたミリア・メアリーだったが。
愛三も新たな法機スフィンクスを与えられ。
その能力を使いゴルゴン旗艦より放たれるレーザー光線に当てられ、スパルトイたちが次々に今いる空域を離脱しゴルゴン旗艦へと向かう。
「な、何この敵機群は!?」
その様子に愛三を守ろうと、ゴルゴン旗艦とスパルトイ群の間に割って入る夢零ら姉たちの法機グライアイだが。
「いいよ、お姉さんたち! この子たちは今は……私のものだから!」
「え? な、何ですって!?」
「……幻獣機スパルトイ群、ゴルゴン旗艦! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム スフィンクス艦!」
「な、何その詠唱は……ん!? な!」
愛三の言葉に、姉たちが戸惑う間にも。
なんとゴルゴン艦めがけて、幻獣機スパルトイ群が集まり。
「ご、ゴルゴン艦が……?」
「ううん、お姉さん! これはもうゴルゴン旗艦じゃないよ。わたしの空飛ぶ法機スフィンクスの力で変化した、スフィンクス艦だよ!」
「す、スフィンクス艦……」
それは果たして、愛三の言う通り。
新たに幻獣機スパルトイが融合して形成された各部位により、かつてのゴルゴン旗艦とはまったく別の形へと変わっていた。
まず、ファラオの頭部を思わせる形状の艦橋部に。
その両舷甲板上に新たに形成された三門の砲身備える、ライオンの前脚を思わせる主砲に、艦橋部前にあってさながらライオンの下顎を思わせる砲塔。
まさに名にし負う通り、スフィンクスの如し。
「……さあ、やっちゃえ王神の槍! そして獅脚主砲に咆哮主砲、発射しまくり〜!」
愛三が命じるや否や、スフィンクス艦は。
その艦後部より誘導銀弾、さらに艦橋部両脇と艦前部、合わせて三基の主砲よりレーザー光を放ち。
迫り来る小型の幻獣機バアルを、薙ぎ倒して行く。
「お姉さんたち! わたしも法機スフィンクスちゃんを手にしたから! さあ、早く!」
「あ、あなたも!?」
「マジかよ……」
「愛三……」
愛三の操るスフィンクス艦より聞こえる彼女の声に、姉たちは感じ入る。
「早く、お姉さんたち!」
「……そうね。さあ行くわ英乃、二手乃! 一番下の妹に負ける気?」
「ふん、舐めんな姉貴!」
「え、ええ私だって!」
しかし姉たちも。
負けじと、戦闘態勢に入って行く――
◆◇
「fcp> get demonwing.hcml……魔王旋風!」
「ミリア!」
「はい! ……セレクト、アンアセンブライズ エグゼキュート!」
「くっ、小癪な!」
一方、セブルディアボロスを駆るアルカナだが。
その技による突風は、キルケ・メーデイアの分離により避けられる。
「ふん、貴様らにこれを使うことはないと思ったが……fcp> get LaplacesDemon.hcml……全知之悪魔! ふふふふ……見える、見えるぞ!」
が、アルカナは予知能力を発動させる。
たちまちアルカナは、その動きを見切る。
「(姐様!)」
「(ああ! hccps://circe.wac/、セレクト 変身薬 エグゼキュート!)」
しかしミリアとメアリーも。
密かに、術句を唱える。
そして――
「はあ!」
「ふん、かかったなリベラにブランデン! 貴様がここに来ることは予測済みだ!」
「がああ!!!」
アルカナは予測していた場所に現れた、再合体したキルケ・メーデイアにここぞとばかりに。
セブルディアボロスを駆り、噛みつこうとするが――
「ええかかったわ……あんたがねえ!」
「!? な、り、リベラ!」
その背後より現れたのは何と、既に再合体しているはずのメーデイアだった。
「……セレクト、アセンブリングシザース! エグゼキュート!」
「くっ、ぐっ!」
そのままキルケ・メーデイアと、メーデイアの挟み討ちになるが。
「騎士団長閣下!」
「我らにお任せを!」
「ほう! アルカナ殿の腰巾着共かい!」
どこからともなく両翼の近衛騎士たるウィヨルとフィダールが現れ。
それぞれに右翼の首と左翼の首を担当し、法機二機の攻撃に抗う。
「腰巾着で結構……」
「我らは、騎士団長の近衛騎士であるが故に!」
「ふふふふ……いいぞ、我が人形たちよ! しかし、何故奴らが……ん!?」
二人の忠誠に喜びつつアルカナが二つの法機に目を移して行くと。
ふと目に入ったのは。
「キルケ・メーデイアが、キルケ単機に……!? そうか、能力で!」
キルケの能力たる変身魔法で、メアリーは単機ながら双胴機に見せかけたのだった。
「ええ、そうよ!」
「どうだい、騙された気持ちは!?」
ミリアとメアリーは、してやったりとばかり乗機より息巻く。
「ふん、図に乗るな! しかし、私の予知を上回るなどと……そうか!」
――ええ、お粗末様ねマージン・アルカナ!
「魔女木青夢……貴様ごときに抜かれるとはな!」
アルカナは思索を巡らせた末に、頭に響いた青夢の声に歯軋りする。
かつて自分が青夢の予知を妨害していた時とは逆に、自分がしてやられていた。
受け入れがたい現実だった。
更に。
「おうら! あたしも忘れたらあかんで!」
「! ふん……ウジのようにチョロチョロと湧き出おって!」
赤音もマルタを駆り、現れる。
考えられ得る限り、最悪の状況である。
と、その時。
――キサマハ、ココマデカ……?
「(!? 我らが王……いいえ! そうではありません!) ……来い、法機パンドラ!」
「!? な、何やて!?」
――え?
「……ははは!」
「!? くっ!」
「ぐっ!」
が、タランチュラの声に奮起したアルカナは急に力を増し。
それによりセブルディアボロスが放った攻撃により、マルタもキルケ・メーデイアも振り払われる。
「ね、姐様!」
「ミリア! 一旦引くよ!」
「止むを得えへんわ!」
これには堪らずミリアとメアリーも、赤音も。
自機を駆りアルカナと両翼の近衛騎士から、間合いを取る。
そこへ。
――あ、あれは!?
「法機や……あのアルカナに言われて、あたしが目覚めさせたな!」
赤音が舌打ちし。
一機の法機パンドラと、幻獣機ペルーダの姿が。
「でも何でや……あたしが命じてへんのに」
「さあ行くぞ! ……fcp> get CombineEidrone.hcml――法機パンドラ、幻獣機ペルーダ、幻獣機セブルディアボロス! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 幻獣頭法機ブレイキングペルーダ!」
「くっ!」
そうして、魔女たちの戸惑いをよそに。
一機の法機と二機の幻獣機は、幻獣頭法機に変わる。
いや、それだけではない。
「さあ……
fcp> open Hades.char
NAME:> MarginArcana
PASSWORD:> ********
〜〜〜〜〜〜〜
fcp> serpens main.sr
fcp> close
……聖杯よ、我が機に力を!」
――!? そ、そのコマンドは!
「せ、聖杯の力を!? ……くう!」
アルカナはこれまでに見せていない力――彼曰く聖杯の力をインストールして見せる。
やがて幻獣頭法機ブレイキングペルーダの機体は、胎動し。
みるみる変形していく――
「な、何あれ!?」
「な……法機に、上半身が生えていく!?」
「な、何ですってことなのあれは!?」
「お、お姉様!」
「何だ」
「何、あれは……」
「そんな……」
これにはこの戦場にいる魔女たちも、息を呑む。
それは――
「なるほど……まさか、聖血の杯の力を」
「ああ、そうさ……忌まわしい女王様よ!」
アラクネも驚いたことに。
「がああ!」
「これぞ我が機――空飛ぶ魔人艦ブレイキングペルーダだ!」
それはおぞましき龍人の上半身が生えた法機のような姿のものだった。