#89 争奪聖杯最終戦
「シリタイ……ソレハ、イツワリデハ、アルマイナ……」
「……ええ、そうよ!」
「……ククク!」
ダークウェブの最深部の、更に最深部にて。
青夢は怯えながらも、そこの王たるタランチュラと相対していた。
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。
まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。
そんな中。
なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。
魔男側を誘い出していた。
そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。
その保有艦たる幻獣機母艦スキュラ・幻獣機母艦カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。
そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスに翻弄されながらも。
加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。
しかし、それから数日後のことだった。
巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦が大挙し、さながら巨人の群れを成していた。
それを空飛ぶ法機グライアイ三機とゴルゴン旗艦により龍魔力四姉妹が、迎え撃っていた。
その激戦の末、最終的には四姉妹の四女・愛三とアロシグの一騎討ちとなり愛三の勝利に終わった後。
アルカナの提案により魔男側の攻勢競い合い――争奪聖杯に参加している六騎士団が一斉攻撃を仕掛けることになったがそれも辛くも退け。
その際に得られた情報から、自衛隊と凸凹飛行隊・龍魔力四姉妹は。
魔男の"本拠地"――正確には、罠として仕掛けられていた偽本拠地へと向かった。
しかしそこで待っていたのはマルタの魔女――赤音の裏切りと。
――ああ、君たちも聞いたことがあるだろう……ライカンスロープフェーズ! それこそ騎士が自身の幻獣機に魂を同化させた形態だよ……君たちが葬り去った幻獣機タラスクや幻獣機ナイトメアがとっていた形態でもある!
自分たちが知らずして人の命を奪ったという事実を突きつけられた凸凹飛行隊のうち法使夏と剣人が、そして龍魔力四姉妹が幻獣頭法機化させられた自機を奪われてしまったという結果だった。
その功績に加え、魔女社会にも多数の幻獣頭法機が潜んでいるという不安を与え混乱させたこともあり。
女男の騎士団が争奪聖杯を制することになった。
が、それは第十三席に見せかけた騎士王――ダークウェブの王タランチュラの席に彼女たちを座らせることで彼の逆鱗に触れさせようとするアルカナの策略であり。
それにより赤音たちは、タランチュラの怒りを買ってしまう。
一時は自身のミスに打ちひしがれながらも、それを察知した青夢は他の凸凹飛行隊と共にいち早く動き出そうとするが。
――聞こえるかいな、ジャンヌダルクの魔女さんにカーミラの魔女さん! この二人を離してほしかったら……神妙にして、あんたらの残る機体を差し出せや!
なんと自身と同じく女男の騎士団団員であるはずのミリアとメアリーを下に吊るした幻獣頭法機デモニックリバイヤサンを駆り赤音は、ジャンヌダルクとカーミラの引き渡しを要求して来たのである。
そうしてその要求通りに現れた青夢とマリアナだが。
実は人質などではなく、最初から青夢たちに牙を剥くつもりだったミリアとメアリーと彼女たちはぶつかり合いとなる。
しかし突如として現れたのは、手ずから彼女たちを葬ろうとするダークウェブの王タランチュラだった。
それに対し、ミリアとメアリーの助命を乞うも拒否された赤音はやむを得ないとばかりに真意を明かす。
――これはその姐様直々の密命や! 王様、あんたに誘いに乗ったふりして、姉ちゃん方二人を守れっちゅうな!
そのためにアラクネは一度は葬られたが、バックアップによりいずれ蘇るという。
しかし未だ、魔男と魔女の戦いは続いていた。
そんなさなか青夢は、今こうしてタランチュラと相対していた。
「コノコムスメモ……ケッキョクハ、ウソツキカ! キサマモ、ヤハリワレヲオソレテイル! キモチワルガッテイル!」
「っ! ……っ……」
タランチュラはしかし、青夢の真意を見透かしたように。
彼女へと近寄り、その前脚を翳し。
不気味に赤く光る複眼を揺らがせながら、睨んでいる。
◆◇
「さあどうした! 逃げ回ってばかりかいフレイ殿お? はははは!」
「がああ!」
「ぐるる!」
「がるる!」
「ああ……さあ鬼さんや、こっち来んかいな!」
一方、現実世界では。
幻獣頭法機デモニックリバイヤサン――改め、空飛ぶ法機マルタに戻った乗機を駆りつつ赤音は、アルカナから逃げ回る。
「さあミリア!」
「法使夏あ! やっとアンタをこの手でえ!」
そして。
幻獣機ゴグマゴグを駆るミリアと、取り戻された空飛ぶ法機ルサールカを駆る法使夏もまた、ぶつかり合っていた。
「さあグレンデルの騎士さん……もう、諦めたらどうであって?」
「それは魔法塔華院のお嬢様……こっちのセリフだよ!」
幻獣機グレンデルを駆るメアリーと、空飛ぶ法機カーミラを駆るマリアナも激突する。
「ところでなあ、アルカナさん! 急に王様消えはったねんけど、ありゃ何があってん?」
「ふん! 恐らくはあの青臭い夢の魔女――魔女木青夢の仕業だ!」
「おうや……あの姉ちゃんかい!」
そうして赤音も、尚も空を駆け回りつつアルカナに尋ね。
アルカナもタランチュラと青夢が会っていることを言い当てる。
「奴の予知能力は、我らが王手ずから妨害していた! それを利用して奴は、生意気にも我が王に……だが! 所詮は魔女風情、何もできはすまい!」
アルカナはそうして、青夢を嘲笑うが。
「なあるほど……ようく分かったわ! あんたが何で、あの魔女木の姉ちゃんに負けたかなあ!」
「……何?」
赤音のこの言葉に、眉根を寄せる。
◆◇
「……ええ、そりゃあそう思うわよ! 今まで私たちを散々脅かしてくれた、魔男の親玉なんだから!」
「……ホウ?」
再び、ダークウェブでは。
尚も青夢は、タランチュラを恐れながらも呼びかける。
「だけど……それでも私は! 怖いからって逃げたくないの、あなたを知ることから!」
「ナ、ニ……?」
その言葉にタランチュラは。
青夢に翳していた前脚を引っ込める。
「フシギダナ……ワレヲオソレテイル、トイウノニ……ソレノミナラズ……ナンダ、オマエノソノココロハ?」
「……私はあなたも救いたいの、ダークウェブの王様!」
「……ホウ?」
タランチュラの問いに答えつつ青夢の頭には、アルカナの嫌みが浮かぶ。
―― 見たかい? これが君の、その名前の通り青臭い夢の結果だよ魔女木青夢飛行隊長殿!
「(ええ、そうね……確かに青臭い夢よ!)」
が、今度はそれにめげることなくタランチュラを見る。
「ワレヲ……スクウ……? ククク!」
「……おかしいわよね、やっぱり。」
タランチュラからは笑いが返り。
青夢は、俯く。
しかし。
「イイヤ……ワカッタ! ナラバ、オマエヲタメソウ!」
「……え!?」
タランチュラからは予想だにしない答えが。
そうして。
「サア、コレカラサキヲ……シルガイイ!」
「!? ま、眩しい!」
タランチュラが叫んだ刹那、その姿はふと消え。
眩い光に青夢は、包まれていく――
◆◇
「……ん? こ、ここは……」
次の瞬間、青夢が目を覚ますや。
そこは。
「サア、サンダツシャドモ……ワガマエ二ホカノマジョ、モロトモ……ホロビルガヨイ!」
「だ、ダークウェブの王様!? な、何で……ぐっ!」
そこは、先ほどまでのダークウェブの最深部とは打って変わり。
現実の、戦場上空に浮かぶタランチュラの姿である。
そうしてタランチュラが、叫ぶや否や。
「……はい、でっしょ。」
「……我らが王の、仰せのままにザンス。」
「俺たちに、任せてくださいだ!」
「何卒、私たちに!」
「……御意に。」
何と、戦場高空域で控えていた他の五騎士団長たちは操り人形のごとくタランチュラに従い。
その保有する父艦たちを構成機群に分解して行き。
解き放たれた構成機群は、やがてタランチュラの姿をなぞるように集まり再融合して行く。
いや、五騎士団の艦のみならず。
「くっ、なんか別の二方向からも幻獣機群が集って来るし……あ、あれはスキュラとカリュブディス!?」
青夢が更に驚いたことに。
他の二方向からも幻獣機群が集まり、更に女男の騎士団保有の二艦もそれぞれ構成機群に自らを分解してそれらを今タランチュラの幻影が浮かぶ方へと行かせて行く。
そうして集まった幻獣機群は。
「き、巨大な蜘蛛!?」
「ククク……サア、バアル……オマエノチカラヲ、ミセヨ……」
巨大な幻獣機父艦バアルへと再融合を遂げ。
その出現と入れ替わりに幻影が消えながらも聞こえるタランチュラの声に従い。
全身より攻撃を放っていく――
「な、何やあれは……うわあああ!」
「ま、魔女辺赤音!」
「きゃああああ!!」
「! ら、雷魔法使夏、使魔原ミリア!」
「きゃあっ!」
「ぐう!」
「ま、魔法塔華院マリアナ、方幻術!」
「きゃあー!!!!」
「た、龍魔力四姉妹!」
その攻撃により。
戦場に今ある法機はそれを駆る魔女を諸共に、無情にも打ち砕いて行く。
「な、何よこれ……」
◆◇
「!? は、はあっ、はあ……」
「アア、シレテヨカッタナ……コレカラサキヲ!」
「……なるほど……今のは、未来の話なのね!」
そこでふと、青夢が気づけば。
そこは先ほどと同じくダークウェブの最深部であり。
タランチュラの言葉に、青夢は更に気づく。
先ほどのビジョンは、そう遠くない未来の話なのだと――
「サア……コレデモマダ、ワレモスクイタイトオモウカ!?」
「……そうね。」
そうしてタランチュラからは、またも問われる。
「ワレハ、ミナホロボス……ソレデモ、スクウカ?」
「……ええ、救うわ!」
「ホウ……ハハハハ!」
が、それでも青夢は。
自分の意思を曲げない。
――そうだ、秘密を一人で抱えこんでいた……名前の通り、君たち飛行隊を含めた全てを救おうなどという青臭い夢を抱いてねえ!
「(青臭い夢だなんてもう、百も承知なのよマージン・アルカナ! ……でもそうね、私に欠けていたのは)」
「ハハハ……アクマデ、マゲヌカ!」
「……魔法塔華院マリアナ。」
「!? ナンダ?」
「いいえ……何でも。とにかくそういうことだから!」
青夢は改めて、タランチュラの方へ向き直る。
彼女の胸中には縦浜の別邸で矢魔道と、剣人の前で誓ったことがあった。
―― 私、足掻き続けます! この青臭い夢を叶えるために……矢魔道さんの整備してくれたおかげで奪われずに済んだ、あの機体で!
「それでも……望まずにはいられないの! その青臭い夢を!」
「ククク……ハハハハ! ハハハハ!」
青夢のこの言葉に、タランチュラはこれまでにないほどに笑う。
そして。
「イイダロウ……オマエダケハタスケテヤル!」
「結構よ。」
「……ナニ?」
青夢のみ助命することを、約束するが。
彼女からは、即答で拒否される。
「言ったでしょ、あんたも救うって! さっき、自分は皆滅ぼすって言ってたけど……あんたをそんな風にはさせない! 私はあんたを、止めてみせる!」
「ホウ……アクマデ、タタカウトイウカ?」
青夢の言葉に、タランチュラは笑わない。
その不気味に赤い複眼が、さながら憤怒を表すがごとく歪む。
「……退いて。」
「ナニ?」
「……そこを退きなさい! hccps://jehannedarc.wac/、サーチ! コントローリング ウィッチエアクラフト・ジャンヌダルク! ……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」
「ッ! ……ナニイ!?」
が、青夢の心にもはや恐怖はなく。
たちまちその身は、自機たるジャンヌダルクに包まれ。
それはタランチュラの横を、強行突破していく。
「ハハハ……ヨカロウ! ナラバ、ノゾミドオリニ……バアル!!」
タランチュラはそれを嘲笑い。
先ほどのビジョンの通り、バアルに命じる。
◆◇
「!? これは……何や?」
「おお……我らが王! あの忌まわしき魔女木青夢を退けられたのですね!」
再び、現実世界では。
再度空に浮かび上がるタランチュラの幻影を、アルカナは拝む。
「サア、サンダツシャドモ……ワガマエ二ホカノマジョ、モロトモ……ホロビルガヨイ!」
そうしてタランチュラが先ほどのビジョン通り、叫ぶや否や。
「……はい、でっしょ。」
「……我らが王の、仰せのままにザンス。」
「俺たちに、任せてくださいだ!」
「何卒、私たちに!」
「……御意に。」
これまた先ほどのビジョン通り、戦場高空域で控えていた他の五騎士団長たちは操り人形のごとくタランチュラに従い。
その保有する父艦たちを構成機群に分解して行き。
解き放たれた構成機群は、やがてタランチュラの姿をなぞるように集まって行く――
「…… 01CDG/ セレクト、ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート! デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート! いっけえ!」
「……hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ グライアイズファング エグゼキュート! デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
「!? な、何!?」
しかし、何と。
その構成機群の素早い動きを、能力を取り戻したゴルゴン旗艦とグライアイ三機からの攻撃が襲う。
いや、それだけではない。
「ウィガール艦隊、誘導銀弾撃ちまくれ!」
「はい!」
戦場後方に控えていた自衛艦隊からも誘導銀弾群が多数迫り。
父艦バアルへの再融合を、阻止して行く。
まるで、予知をしていたかのごとく――
「……まさか、そんな!? わ、我らの王が!?」
アルカナはそこで合点する。
タランチュラ直々に抑えていた青夢の予知能力が、復活したのだと。
「ははは、いい気味やんなアルカナさんや!」
「くっ……フレイ!」
そんなアルカナを、赤音は自機マルタより笑う。
「あんたがあのジャンヌダルクの姉ちゃんに負けたんはな……人を舐めすぎやからや!」
「……何?」
赤音の言葉にアルカナは、再び眉根を寄せる。
◆◇
「まったく……やってくれてよ魔女木さん……」
この様子を自機たるカーミラより見てマリアナは、呆れ返る。
――魔法塔華院マリアナ! 今から例の予知とやらを見せるわ……この戦場の皆に!
そう、先ほど青夢は。
マリアナに頼みカーミラの能力を使い、凸凹飛行隊や龍魔力四姉妹、自衛隊に自身と意識を共有させ。
再び予知した先ほどのビジョンを、見せたのだった。




