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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第五翔 円卓第十三席争奪聖杯 
89/193

#88 王への叛逆

「あ、あれはっしょ!」

「わ、我々も……怖いザンス!」

「あ、あれは……怖いべえ!」

「う、うむ……」

「戦々恐々……いや、恐怖一色……」


 戦場から離れた所で、自艦隊にて待ち構える五騎士団だが。


 ホスピアーやボーンを始めとするそれらの騎士団長もまた、目の前の()()()()()に怯えていた。


 生徒会総海選より数日後。

 事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。


 ――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!


 それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。


 まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。


 そんな中。

 なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。


 魔男側を誘い出していた。

 そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。


 その保有艦たる幻獣機母艦(クリプティッドマザー)スキュラ・幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。


 そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスに翻弄されながらも。


 加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。


 しかし、それから数日後のことだった。


 巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦クリプティッドファザーフードが大挙し、さながら巨人の群れを成していた。


 それを空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)グライアイ三機とゴルゴン旗艦により龍魔力四姉妹が、迎え撃っていた。


 その激戦の末、最終的には四姉妹の四女・愛三とアロシグの一騎討ちとなり愛三の勝利に終わった後。


 アルカナの提案により魔男側の攻勢競い合い――争奪聖杯に参加している六騎士団が一斉攻撃を仕掛けることになったがそれも辛くも退け。


 その際に得られた情報から、自衛隊と凸凹飛行隊・龍魔力四姉妹は。


 魔男の"本拠地"――正確には、罠として仕掛けられていた偽本拠地へと向かった。


 しかしそこで待っていたのはマルタの魔女――赤音の裏切りと。


 ――ああ、君たちも聞いたことがあるだろう……ライカンスロープフェーズ! それこそ騎士が自身の幻獣機に魂を同化させた形態だよ……君たちが葬り去った幻獣機タラスクや幻獣機ナイトメアがとっていた形態でもある!


 自分たちが知らずして人の命を奪ったという事実を突きつけられた凸凹飛行隊のうち法使夏と剣人が、そして龍魔力四姉妹が幻獣頭法機(マジックノーズアーツ)化させられた自機を奪われてしまったという結果だった。


 その功績に加え、魔女社会にも多数の幻獣頭法機(マジックノーズアーツ)が潜んでいるという不安を与え混乱させたこともあり。


 女男の騎士団が争奪聖杯を制することになった。

 が、それは第十三席に見せかけた騎士王――ダークウェブの王タランチュラの席に彼女たちを座らせることで彼の逆鱗に触れさせようとするアルカナの策略であり。


 それにより赤音たちは、タランチュラの怒りを買ってしまう。


 一時は自身のミスに打ちひしがれながらも、それを察知した青夢は他の凸凹飛行隊と共にいち早く動き出そうとするが。


 ――聞こえるかいな、ジャンヌダルクの魔女さんにカーミラの魔女さん! この二人を離してほしかったら……神妙にして、あんたらの残る機体を差し出せや!


 なんと自身と同じく女男の騎士団団員であるはずのミリアとメアリーを下に吊るした幻獣頭法機(マジックノーズアーツ)デモニックリバイヤサンを駆り赤音は、ジャンヌダルクとカーミラの引き渡しを要求して来たのである。


 そうしてその要求通りに現れた青夢とマリアナだが。

 実は人質などではなく、最初から青夢たちに牙を剥くつもりだったミリアとメアリーと彼女たちはぶつかり合いとなる。


 が、その時だった。


「おやおや……いつ見てもハンサムやなあ、我らが騎士王――ダークウェブの王様は!」

「だ、ダークウェブの王……あの蜘蛛が?」


 突如として現れたのが、この恐怖の大王――もといダークウェブの王タランチュラである。


「フン……ゴタクハソコマデダ……サア、サイゴニ、ナニカアルカ?」


 赤音のおだても意に介さず。

 タランチュラは前脚二本を彼女たちに向け、光弾を生成し始める。


「待ってくれな、王様!」

「……ナンダ、サンダツシャ、フゼイガ!」


 しかし、赤音は尚もタランチュラを止める。


「簒奪者かいな。まあそれは嵌められてのことやねんけど、いや……あのアルカナさんの悪だくみがなんかあるや知ってて"第十三席"に座ったんやから、確かに確信犯やな!」

「……ホウ?」


 赤音の言葉にタランチュラは、その不気味に赤い複眼を揺らがせる。


「そのことについては謝るわ! せやからあたしには何やってもええ、けど! このゴグマゴグとグレンデルの姉ちゃんはどうか見逃してくれへん?」

「フフフ……ハハハ!」


 しかし、赤音の懇願を。

 無情にもタランチュラは、笑い飛ばす。


「サンダツシャノコトバナド……ミジンモキョウミハナイ!」

「そっか、交渉決裂かいな……」


 タランチュラはそう言うや、また前脚二本により光弾を生成し始める。


「ここまで早く出てくるとはなあ……しっかしやむを得んわ! ほいな!」

「!?」

「な……ほ、法機が!?」


 が、赤音も。


 なんと急に、先ほどまでつかまされた偽ジャンヌダルクとカーミラに振り回されていた二機を始めとする幻獣頭法機(マジックノーズアーツ)群を全て召喚するや手を打つ。


 するとその機首に刻まれた凶悪な幻獣の表情――機首絵(ノーズアート)は消え去り、空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)に戻る。


「ああさあ行くんや、フィーメイルクラーケンにキマイラ、ゴルゴニックシスター――いんや、ルサールカにクロウリー、グライアイ! 早う、ご主人様のところへ帰りや?」

「フレイ……何の真似かな?」


 そのまませっかく奪ったはずの法機群を行かせてしまう赤音だが。


 そこへアルカナからの問いが来る。


「すまんなあ、アルカナさんや……さっきも言うたやろ、あんたさんの悪だくみがなんかあるや知ってて"第十三席"に座ったんやって。そう、ゴグマゴグとグレンデルの姉ちゃんたちをなんかのやり方で嵌めようとしとることぐらいお見通しやったでえ……我らが王様ならぬ女王様の、アラクネ姐様はなあ!」

「! ほう……」

「!? じ、じゃあ魔女辺赤音。あんたまさか」


 青夢がそこで尋ねる。

 まさか、これは。


 いや、これまでのことは。


「ああ、これはその姐様直々の密命や! 王様、あんたに誘いに乗ったふりして、姉ちゃん方二人を守れっちゅうな!」

「……ふふふ、ははは!」


 赤音の言葉に、アルカナは高笑いを返す。

 王の誘いとは、あの生徒会総海選の最後に起きたことである。


 ――マルタノマジョ、トハ、オマエカ?


 ――おうや? 誰やあんた?


 あの時、赤音の脳内には突然タランチュラの声が響いていたのだが。


 彼女はその時に、今回の件についてタランチュラに勧誘されてわざと乗ったのだった。


「なるほど……それで私や我らの王を嵌め返したつもりか、だが! どうやら貴様は本当にその女王様を葬ったようだが? 女王亡き今、貴様らにできることが限られているのは同じことだぞ! はははは!」

「ゴタクハ……スデニオワッテイルハズダ!!」


 アルカナの笑い声と共に。

 タランチュラが生成し終えた光弾が、戦場に乱射される。


「ああ、そや! 芝居とはいえ姐様には、一旦本当に死んでもらう必要があったんやが! バックアップは生きとるさかい……それをまた生きさせれば、姐様は復活するでえ!」

「!? ば、バックアップ?」

「なるほど……今は、その嘘にも乗ってあげるより他なくってよね!」


 赤音の叫びに、青夢やマリアナも反応し。

 そうして彼女たちは果敢にも、今ダークウェブの王に挑まんとしていた。


 ◆◇


「騎士団長閣下……我らが王の望みは、すぐそこに。」

「ああ……()()()()も起動できたしな。更に……我々は既に、"アイアコスの鍵"を手にしているのだ! はははは!」


 この様子を相変わらず、高空の座乗艦たるベヒモスから見ているアルカナと両翼の騎士である。


「そうだ、件の法機を得るためにあの女が必要だったが……もはや手に入った以上、あの女に用はない!」


 アルカナは再び戦場を睨む。

 実は赤音を女男の騎士団長として引きずり込んだのには、何故か魔男側にあって起動出来なかったとある法機の解放を命じる目的もあったのだ。


「そうだスカーレット・フレイ……いや、不届き者の簒奪者、魔女辺赤音! 貴様に――いや、貴様らごときに何ができる? 体たらくではあるが、王の御前には何もできまい……はははは!」


 アルカナは戦場を睨みながら、赤音たちに嫌みを言う。



 ◆◇


「……使魔原ミリア! 今のは聞いたでしょう? もう、私たちが」

「……セレクト、ツインストリーム エグゼキュート!」

「くっ、し、使魔原!」


 戦場では。

 ゴグマゴグを駆るミリアに、青夢が呼びかけるが。


 ミリアは容赦なく、そんな彼女に攻撃を浴びせる。


「もう今更、いえ……いつそんなこと言われたってどうにもなりやしなかったのよ! 私は魔男側、あんたや法使夏やマリアナやクランプトンは魔女側……戦うしか、コミュニケーションの手段は最初からありゃしない!」

「くっ、そんな!」


 ミリアは青夢たちとの和解を、拒む。

 と、そこへ。


「……セレクト、ゴーイング ハイドロウェイ エグゼキュート!」

「!? ふん……待ってたわ法使夏!」

「ら、雷魔法使夏!」


 赤音から返還された自機ルサールカを駆り、法使夏が現れた。


「グレンデルの騎士さん……あなたも和解するなんて頭は、最初からなくってよね!」

「ああ、そうだねえ……あたしとアンタたちは、やっぱり魔男と魔女だからねえ!」


 そのミリアの姿勢は、メアリーと同じであり。


「行くよ、グレンデルマザー!」

「行きますわよ、カーミラ!」


 メアリーとマリアナもまた、互いにハッキング攻撃で拮抗し合う。


「やっぱり……あの王ともお話しないと! それができるとすれば……」


 青夢は対峙していたミリアが、法使夏と対峙したことで生まれた隙を使い考えていた。


 そうして、一つ思い出した。


 ダークウェブのその光景の中に、見えたのである。

 この黒い空間の中でも更に、深い闇が。


 何やら、蜘蛛のような形を取ったものが――


 ――ククク……コレヨリ、サキ、ヲ……シリタイカ?


 そこで()()()()を、感じ取った時である。


 あの時はただただ恐怖で、何もできなかったが。


「今なら分かる……あれこそ、あの蜘蛛の影こそダークウェブの王様だって! なら王様とお話しするには……もうこれしかない!」


 青夢は、意を決する。


「雷魔法使夏、ここは任せたわ!」

「! ええ……ミリアは、私の相手よ!」


 青夢は完全にミリアの相手を法使夏と交代し、その場を離脱する。


 そして。


「……hccps://jehannedarc.wac/、セレクト オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート!」


 そうして青夢は。

 あの時以来封印していた能力を、発動させる。


 そして――


「!? な、何や? 急に王様がおらんくなったわ!」


 現実世界ではタランチュラの姿が、消える。


 ◆◇


「……来たわね。」


 青夢が気づけば、果たして狙い通りに。


 真っ暗な空間に、光の線で繋がれた網のようなものが下に見える光景。


 それはかつて、青夢やマリアナ、法使夏、そしてソードや龍魔力姉妹に力が齎された時の空間。


 魔法検索システムの禁断領域・ダークウェブの更に最深部である。


 だが、そこにはかつてアラクネに導かれた時のような温もりは感じなかった。


 むしろそこにあるのは、何やら得体の知れない恐怖――


「……コムスメ、マタ、オマエカ。」

「……初めまして、いいえ……お久しぶりと言うべきかしら?」

「……ホウ?」


 しかし、恐怖の主を前にして恐怖するしかなかった以前とは違い。


 少なくとも気丈に振る舞ってきた青夢に、恐怖の主はむしろ興味を持つ。


 ◆◇


「何や……急に王様が消えてもうた。まあええわ……こうなら、後ろに控えている騎士団長様方を!」

「!? ひ、ひいい! いや……何か分からないっしょ! けど」

「何かこう……恐怖の元が消え去ってくれればもはやいいザンス!」


 一方、現実の戦場では。


 急にダークウェブの王が消えたことで戸惑いつつも、ならばと次には赤音と他の五騎士団長による戦いが始まろうとする。


 が、その時。


「待たれよ、騎士団長諸氏!」

「! な!」

「おうや……またあんたかいアルカナさん!」


 そこに割って入るは、先ほどまで高見の見物を決め込んでいたアルカナと。


「そこを動かれるな、五騎士団長方。」

「我が騎士団長閣下に何かあれば……如何に騎士団長方だとて無事では済みませぬよ?」

「なっ……くっ、腰巾着の両翼の近衛騎士っしょ!」


 右翼近衛騎士たるウィヨルと、左翼近衛騎士たるフィダール――鰐のごとき各専用機ヴァサゴとアガレスに騎乗した、アルカナの両翼の近衛騎士が現れた。


「フレイ……貴様らなど、我らが王直々に出ていただくまでもない者たちだった! よくもその王を裏切ってくれたな……貴様は、この私が葬り去ってくれる! ウィヨル、フィダール!」

「はっ。」

「騎士団長閣下の、仰せのままに!」


 アルカナは赤音相手に啖呵を切り。

 その言葉に応じてウィヨルとフィダールも、自機を差し出す。


 そして。


「さあ我が機ディアボロスよ、そして両翼の近衛騎士の機ヴァサゴとアガレスよ! 

 ……fcp〉 get CombineEidrone.hcml――コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 幻獣機(エイドローン)セブルディアボロス!」

「ぐ……があああ!!」


 アルカナの叫びと共に、彼の自機たるディアボロスの両舷へと、幻獣機ヴァサゴ・アガレスが合体し。


 さながら三つ首龍のような姿の幻獣機セブルディアボロスへと変貌を遂げる。


「ほう……格好ええなあ!」

「ああ、そうだろう? さあ……魔女狩りの時間だ!」


 誇らしげにセブルディアボロスに騎乗するアルカナは、動き出す。


 ◆◇


「ククク……コレヨリ、サキヲ、シリタイカ?」

「うっ……ええ! 知りたいわ、あなた――ダークウェブの王様のこともね!」

「……ホウ?」


 そしてダークウェブの最深部でも。

 青夢とタランチュラが、対峙していた。

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