#85 真の第十三席
「こ、これは……?」
「どういうつもりなんだい、アルカナの旦那よお?」
尚も互いにしがみついたまま、メアリーとミリアは怯え切っている。
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。
まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。
そんな中。
なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。
魔男側を誘い出していた。
そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。
その保有艦たる幻獣機母艦スキュラ・幻獣機母艦カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。
そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスに翻弄されながらも。
加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。
しかし、それから数日後のことだった。
巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦が大挙し、さながら巨人の群れを成していた。
それを空飛ぶ法機グライアイ三機とゴルゴン旗艦により龍魔力四姉妹が、迎え撃っていた。
その激戦の末、最終的には四姉妹の四女・愛三とアロシグの一騎討ちとなり愛三の勝利に終わった後。
アルカナの提案により魔男側の攻勢競い合い――争奪聖杯に参加している六騎士団が一斉攻撃を仕掛けることになったがそれも辛くも退け。
その際に得られた情報から、自衛隊と凸凹飛行隊・龍魔力四姉妹は。
魔男の"本拠地"――正確には、罠として仕掛けられていた偽本拠地へと向かった。
しかしそこで待っていたのはマルタの魔女――赤音の裏切りと。
――ああ、君たちも聞いたことがあるだろう……ライカンスロープフェーズ! それこそ騎士が自身の幻獣機に魂を同化させた形態だよ……君たちが葬り去った幻獣機タラスクや幻獣機ナイトメアがとっていた形態でもある!
自分たちが知らずして人の命を奪ったという事実を突きつけられた凸凹飛行隊のうち法使夏と剣人が、そして龍魔力四姉妹が幻獣頭法機化させられた自機を奪われてしまったという結果だった。
その功績に加え、魔女社会にも多数の幻獣頭法機が潜んでいるという不安を与え混乱させたこともあり。
女男の騎士団が争奪聖杯を制することになった。
が、それにより赤音が第十三席に着いた瞬間。
――フトドキナ、サンダツシャドモメ……
「だ、だから! あ、あたしたちは何も!」
アルカナは他の十一騎士団長たちと、女男の騎士団の赤音・ミリア・メアリーをダークウェブの最深部へと引き立て。
何故か怒り狂うダークウェブの王タランチュラへと、謁見をさせていた。
「ははは……まだわからないのかい間抜けな女男の騎士団の諸君! 私は言ったはずだ……その席は王座だとね! この意味を、まだ理解していないのかい?」
「な、何だって?」
「なるほど……そこは王座――それ即ち、ダークウェブの王の席かいな!」
「ほう……さすがは一応は騎士団長か!」
メアリーやミリアとは対照的に赤音は。
場違いとも言えるほどに冷静に、状況を分析している。
「あんたが元魔女のあたしらに温情かけてくれるなんて……何かあるや思うしかないやろ?」
「ふふふ……はははは!」
赤音の言葉に、アルカナは高笑いする。
◆◇
「き、騎士王の席だと?」
「ど、どういうことなんだい魔女木さん?」
一方、その頃別邸では。
廊下を歩きながら青夢の推測を聞いた剣人と矢魔道は、目を丸くしている。
その推測は、先ほど魔男の基礎情報を整理していた青夢自身がたどり着いたものだ。
――もしかしたら……この争奪聖杯で争奪されてたのは、第十三席じゃないかもしれないってことよ!
「ええ……恐らく魔男の円卓はあのアーサー王伝説に出てくる円卓の騎士――アーサー王っていう"騎士王"自身と他十一人……いえ、"第十三席"を呪いに打ち勝って取った騎士ランスロットも含めれば他十二人の"騎士"、合わせて十三の騎士を元にしているわ!」
「騎士王と、最大で十二の騎士……な!?」
「じ、じゃあ魔女木さん、第十三席はまさか」
その青夢の言葉に剣人と矢魔道は、合点する。
「そうです、矢魔道さん! 第十三席と私たちや魔男たちが思わされてきたのは、騎士王の席かもしれないんです!」
「! き、騎士王の席……」
「だ、だが騎士王とは一体……ん!?」
「ええ、心当たりは……ないでもないわね。」
――いい気味ね、ダークウェブの王の腰巾着よ……
そう、今は亡きダークウェブの女王アラクネが幾度か口にした言葉、ダークウェブの王。
もしやそれが、騎士王なのでは。
◆◇
「ああ……その通りだ! そこはなあ……蜘蛛男の騎士王の席なのだよ!」
「なあるほど、蜘蛛男――このタランチュラ王のことかいな!」
「はは、フレイ……貴様ら魔女の汚らわしい声で、我らがダークウェブの王の名を軽々しく呼ぶな!」
またも、ダークウェブの最深部では。
そうしてアルカナは、ここぞとばかりにメアリーとミリアに言い放ち。
更には赤音がタランチュラの名を軽々しく呼んだことにも怒る。
「ああそうだ……君たちは汚らわしい魔女たち! そんな者が抜け抜けと我らが騎士王の席に座そうなどと!」
「ま、待ってアルカナさん! そうよ、あなた言ってくれたじゃない……私たちに感謝してくれてるから、お礼をしたいって! あれは、嘘だったの!?」
しかしミリアは、アルカナに食ってかかる。
そう、アルカナの自邸で前祝いの祝杯を挙げた際に。
何故ここまでしてくれるのかと、ミリアが問うた時。
――まあ一つの礼という奴だ。他のことは疑っても、このことは真実であると信じてほしい。
アルカナはああ言った。
あれも、嘘だったというのか。
「いいや、嘘じゃないさ! これは君たちに受けた恩という名の屈辱に対する、ほんの礼なのだからな!」
「!? な!」
「く、屈辱の……礼だって!?」
アルカナの言葉にミリアとメアリーは、驚く。
まさか。
――まあ待ちな、アルカナの旦那! ……ここは一旦、撤退だよ。
――メアリー姐様の言う通り。自衛隊艦隊も、既に迫っているし。
――ふっ……ああ、そうだな……
青夢の策にハマってしまい身動きが取れなくなっていたアルカナを、彼女たちが助けた時のことだ。
「あの時私たちが助けたことは……あんたにとって屈辱だったっていうの!?」
「み、ミリア……」
ミリアはアルカナに、食ってかかる。
「ああそうだ……あの時魔女木青夢に敗北した挙句に! 君たち汚らわしき元魔女風情に助けられるなどと……屈辱の上塗りでしかなかった! 貴様らごときにこの私の気持ちは、分かるまいがなあ!」
「そ、そんなあ……」
「旦那……」
アルカナは憎悪の目をミリアやメアリーに向けながら言う。
「……でもなあ、アルカナさんや。あたしが騎士王の席に座ったんは、あんたが勧めてくれたからやで! 即ち……その汚らわしい元魔女で騎士王の席を汚したんは、あんたやないんかい!?」
「! き、騎士団長……」
が、赤音は。
そんなアルカナに、言い返す。
しかし。
「はて? ……ははは! それは違うな……私が勧めたのは、私が占めていた真の第十三席だ! それを君たちが……勝手に今空いていた席に座っただけなのだよ! はははは!」
「なっ……」
「なあるほど……そう来たかいな!」
アルカナのその言葉に、赤音は歯軋りする。
そう、真の第十三席はアルカナが今占めている席だったのだ。
「サア……ゴタクハモハヤ、オワリダ……」
「お待ち下さい、我が王よ!」
「!? ア、アリタタンカ♡」
「! これはこれは……ダークウェブの姫君。」
「ほう? 女王と王様の次は……姫君かいな!」
痺れを切らしたタランチュラだが。
そんな彼を宥めつつ、アリアドネが歩いて来る。
それにはアルカナも、不本意ながら跪く。
◆◇
一方。
「で、でも……だとしたら魔男は、魔女辺さんや使魔原さんたちをどうする気なんだろう?」
「矢魔道さん、まさにそこです! 恐らくは……ダークウェブの王の席に"勝手に座った"という口実でもってその王の逆鱗に触れさせるつもりなんじゃないかって!」
「!? な!」
「なるほど……あのアルカナ殿なら、それぐらいはやりかねんかもしれん……」
またも、魔法塔華院の別邸では。
今まさに魔男の円卓で起きていることを言い当てた青夢の言葉に、剣人はかつての龍男の騎士団長バーンの言葉を思い出す。
恐らくは魔男の円卓を裏で操る人物がおり、それが魔男の騎士団長アルカナであろうという言葉。
彼は油断ならないという言葉を――
「……だから、急がないといけないの! このままじゃ、魔女辺赤音や使魔原ミリアたちが」
「お待ちなさい、魔女木さん! 散々身から出た錆で落ち込んでいたくせに、立ち直った瞬間に独断先行など飛行隊長様はいい御身分であってよね?」
「! ま、魔法塔華院マリアナ……」
しかし、気ばかり焦っている青夢たちの前に。
マリアナが、現れた。
◆◇
「さて……日本にはあとどのくらいかしらデイビッド?」
「オーケーイ、マギー! あと一週間かな。」
「遠いわね、日本は……」
一方、その頃太平洋では。
噂通りというべきか日本へと、米海軍が本国より向かっており。
女性兵士のマギー・I・C・フォスターと男性通信兵士のデイビッド・R・Y・ソーが、旗艦たる法母上で話していた。
魔男の13騎士団
これまで12騎士団と呼称されてきた魔男の実行部隊12個に、実は騎士王として第一の席位を得ていたダークウェブの王タランチュラ直衛の騎士団を加えた13の実行部隊。
実は空席とされていた第十三席は第一席すなわち王座であり、この騎士王の席であった。
真の第十三席は既に、魔男の騎士団の席位となっていた。
そしてアルカナの目的はフレイ=赤音たちを助けることではなく、わざとこの第一席に着かせることで女魔男たちを王の逆鱗に触れさせることであった。
1.蜘蛛男の騎士王直衛騎士団
節足動物モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はダークウェブの王でもあるタランチュラ。
2.龍男の騎士団
龍モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はギリス・バーン→テグル・ベリット。
3.蝙蝠男の騎士団
死霊・妖精モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はブラド・ヒミル。
4.雪男の騎士団
野人・亜人モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はギガ・クラブ。
5.牛男の騎士団
牛モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はジャード・ボーン。
6.魚男の騎士団
水棲生物モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はオーブ・ホスピアー。
7. 巨男の騎士団
巨人モチーフの幻獣機を擁する。
但し、擁するのは大半が幻獣機父艦。
8.?の騎士団
現時点では詳細不明。
9.虎男の騎士団
猫類モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はアスラン・レーヴェブルク。
10.馬男の騎士団
馬モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はゲイリー・チャット。
11. ?の騎士団
現時点では詳細不明。
12. ?の騎士団
現時点では詳細不明。
13. 魔男の騎士団
悪魔モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はマージン・アルカナ→ラインフェルト・ウィヨル→マージン・アルカナ。