#82 青臭い夢
「ま、幻獣頭法機……? 何ですの、それは!?」
「ま、マリアナ様!」
「こ、これは一体……」
八丈島付近の岩礁――いや、魔男の"本拠地"。
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。
まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。
そんな中。
なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。
魔男側を誘い出していた。
そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。
その保有艦たる幻獣機母艦スキュラ・幻獣機母艦カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。
そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスに翻弄されながらも。
加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。
しかし、それから数日後のことだった。
巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦が大挙し、さながら巨人の群れを成していた。
それを空飛ぶ法機グライアイ三機とゴルゴン旗艦により龍魔力四姉妹が、迎え撃っていた。
その激戦の末、最終的には四姉妹の四女・愛三とアロシグの一騎討ちとなり愛三の勝利に終わった後。
アルカナの提案により魔男側の攻勢競い合い――争奪聖杯に参加している六騎士団が一斉攻撃を仕掛けることになったがそれも辛くも退け。
その際に得られた情報から、自衛隊と凸凹飛行隊・龍魔力四姉妹は。
こうして、魔男の"本拠地"へとやって来たのである。
しかし、そこで待ち受けていたのは。
「おおお、大漁や大漁! さあよく集ってくれたなあ幻獣頭法機たち! あたしの下に!」
女男の騎士団長スカーレット・フレイ――であると判明したマルタの魔女たる魔女辺赤音。
そして彼女が率いる、女男の騎士団と。
何故かひとりでに彼女の下に集って来た空飛ぶ法機や軍事ヘリ――いや、今や幻獣頭法機と化したそれらだった。
「……だから! 幻獣頭法機とは何かと、このわたくしが尋ねて差し上げていてよ! さあ、お答えになったらどうであって?」
マリアナは先ほどの自分の質問に答えない赤音に業を煮やし、怒る。
「……さっきも見たでしょ? あいつのマルタが、二つの幻獣機に乗っ取られた様を。私たちのジャンヌダルクやあんたのカーミラが空飛ぶ法機によって二機の幻獣機を乗っ取ったものなら、その逆で幻獣機の方が空飛ぶ法機を乗っ取ったものが幻獣頭法機よ。」
「!? な、なるほど……ま、まあ見れば分かってよ!」
「さ、さすがマリアナ様!」
赤音ではなく青夢の説明により、マリアナも法使夏も合点する。
「さあて……ほな、青夢ら女性陣と剣人の空飛ぶ法機ももらうでえ!」
「! 皆、気をつけて!」
「……ええ、舐めないで欲しくってよ!」
「はい、マリアナ様!」
「止むを得ないな、女男の騎士団長!」
赤音の言葉に凸凹飛行隊の面々は身構える。
いや、戦闘態勢に再度移行したのは彼女らだけではない。
赤音の下に集って来ていた幻獣頭法機たちも。
「ああ、騎士団長さんよ!」
「さあ忌まわしい凸凹飛行隊……その法機、さっさと渡してしまいなさい!」
メアリーもミリアも、戦闘態勢に再度移行していた。
「……hccps://jehannedarc.wac/、サーチ! クリティカルアサルト オブ 空飛ぶ法機ジャンヌダルク! セレクト ビクトリー イン オルレアン!」
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「なるほど……あくまでやり合う気かいな!」
技を撃つ準備に入る青夢たちに赤音も、身構える。
と、その時だ。
――ははは、久しぶりだな凸凹飛行隊諸君!
「! マージン・アルカナ!」
「あら……いつか聞いた覚えのある素敵な声じゃなくって?」
「! 何で、あんたが?」
「あ、アルカナ殿!」
今度は青夢に対してだけではない、凸凹飛行隊の全員に対してアルカナの声が響き渡る。
――なるほど……放とうというのか! 幾度となく騎士の命を奪って来た、その技を!
「な!?」
「わ、私たちが……?」
「! だ、だめ! 皆聞いちゃ」
「そ、そうだ! な、何を言っているのですかアルカナ殿!」
が、アルカナのこの言葉には。
マリアナと法使夏は驚き、青夢と剣人も必死でその声を遮ろうとする。
しかし。
――ああ、君たちは人の命を奪ったのだよ……君たちが我らより奪った、幻獣機に同化した人の命をね! 君たちは既に承知の上だったよなあ……魔女木青夢、クランプトン君!
「くっ……」
「うっ……」
「! 魔女木さん、ミスター方幻術……どういうことであって?」
「ど、どういうことよ?」
そんな青夢たちを、アルカナは嘲笑い。
マリアナと法使夏は、尚も混迷を極める。
――ああ、君たちも聞いたことがあるだろう……ライカンスロープフェーズ! それこそ騎士が自身の幻獣機に魂を同化させた形態だよ……君たちが葬り去った幻獣機タラスクや幻獣機ナイトメアがとっていた形態でもある!
「!」
「あ、あれがですって!?」
「そ、そんな……」
アルカナの話は尚も続き。
マリアナと法使夏は、青ざめる。
――そうして、それを……その事実を! 無知な君たちから隠して守ろうとしたのが君たちの飛行隊長様である、魔女木青夢さ!
「なっ……」
「ま、魔女木……それは本当?」
「……」
アルカナは更に追い討ちをかけて行く。
――ああ、大した隊長だったよ……彼女が持つ空飛ぶ法機ジャンヌダルク! その予知能力たるオラクル オブ ザ バージンで全てを知っていながら、他の隊員にその運命を背負わせまいなどという考えの下それを一人で抱え込んでいたんだからなあ! そうだろうクランプトン?
「……くっ、アルカナ殿……」
「もう一度聞きたくってよ……本当であって魔女木さん?」
「ま、魔女木?」
「……っ……」
――そうだ、秘密を一人で抱えこんでいた……名前の通り、君たち飛行隊を含めた全てを救おうなどという青臭い夢を抱いてねえ!
もはや止めとばかり、アルカナは言い放ち。
それにより今凸凹飛行隊では、少からぬ動揺が走っていた。
――……さあ、今だフレイ!
「はいな! ……hccps://DemonicLeviathan.mna、セレクト 処女の慈悲、エグゼキュートやねんで!」
その隙を突いての、アルカナの掛け声と共に。
魚男の騎士団所属の、幻獣機クラーケン・幻獣機ガルグイユが。
更には虎男の騎士団所属幻獣機ドゥンと、魔男の騎士団所属の幻獣機レオナールが躍り出る。
いや、それらのみならず。
「! あ、あれは!?」
「え、幻獣機ステノーと幻獣機エウリュアレ!? な、何故ここに!?」
地上で今尚奮闘する龍魔力四姉妹の前にも。
かつてメデューサの騎士諸共鹵獲された幻獣機二機も、出現する。
そして。
「……さあ、hccps://DemonicLeviathan.mna セレクト、コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム
幻獣頭法機フィーメイルクラーケン・キマイラ・ゴルゴニックシスター、エグゼキュートやねんで!」
「くっ、ま、マリアナ様!」
「方幻術!」
「くう!」
「あ、姉貴!」
「お姉様!」
「くっ! え、英乃、二手乃……」
揺さぶりをかけられた魔女たちの隙を突き。
幻獣機クラーケン・幻獣機ガルグイユはルサールカに、幻獣機ドゥン・幻獣機レオナールはクロウリーに。
そして地上でも幻獣機ステノーと幻獣機エウリュアレが夢零のグライアイへと、それぞれに食らいつくようにして強制合体し法機を形作り。
そのまま完成した幻獣頭法機旧ルサールカと旧クロウリー・旧グライアイはそれぞれの操縦士を強制排出して赤音の下へと飛んで行く。
「きゃあ!」
「くっ、掴まれ!」
「お姉様!」
排出された法使夏は同じく排出された剣人に。
排出された夢零は英乃と二手乃にそれぞれ保護されるが。
それのみならず。
「ひいっ! わ、私のメデューサちゃんが!」
愛三のゴルゴン旗艦からも、幻獣機メデューサが操られて飛び出して行く。
元は赤音により強制服従させられた機体なのだ、いざとなれば彼女が手元に戻すことなど容易い。
――ははは! 形勢逆転とはまさにこのことか、魔女諸君! 見たかい? これが君の、その名前の通り青臭い夢の結果だよ魔女木青夢飛行隊長殿!
「くっ……」
アルカナはさらにここぞとばかり、青夢に吐き捨てる。
「ああ、感謝するでえアルカナの旦那!」
――なあに、お易い御用さ……おや? フレイ殿、まだジャンヌダルクとカーミラが残っている! さあ早く
「ああ、ありゃ無理や旦那……あの二機にはもう幻獣機が素材に使われとってしかもその幻獣機は生きとらんさかい、あたしの操ることはできへんわ!」
――そうか……まあいい! 取り逃さないために彼女らを、こうして鼠取りにいや……魔女狩りの刑場へと招き入れたのだからなあ!
アルカナは赤音に促すが、彼女の言葉に。
凸凹飛行隊らを始末するよう命じる。
「ああ……ほな、一斉攻撃や皆!」
「くっ、舐めないで欲しくってよ! ……hccps://camilla.wac/、セレクト サッキングブラッド エグゼキュート!」
「! ま、魔女木! 何をしている!」
赤音に命じられ、彼女の下に集った全機より光線が放たれ。
マリアナはカーミラでせめてもの足掻きを見せるが。
青夢は動揺したままなのか、ジャンヌダルクの操縦席で俯き機体を動かせずにいる。
そのまま攻撃が、凸凹飛行隊を襲う――
かに、思われたが。
「hccps://arachne.wac/、セレクト サッキングブラッド エグゼキュート。 はっ!」
「!? おうやこれは……くうう!」
「あ、アラクネさん!?」
「……え?」
突如現れ、赤音操る幻獣頭法機群から凸凹飛行隊を救ったのは。
「皆、大丈夫?」
アラクネだった。




