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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第五翔 円卓第十三席争奪聖杯 
81/193

#80 魔男本拠地掃討作戦前夜

「すかーれっと姐ちゃんかい……よろしくな!」

「……ふん。」


 後衛で控えていた赤音が乗る空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)マルタと。


 女男の騎士団長フレイが乗る専用機デモニックリバイヤサンは今対峙し。


 当たり前といえば当たり前なことに二人は今、大変に剣呑な雰囲気である。


 生徒会総海選より数日後。

 事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。


 ――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!


 それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。


 まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。


 そんな中。

 なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。


 魔男側を誘い出していた。

 そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。


 その保有艦たる幻獣機母艦(クリプティッドマザー)スキュラ・幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。


 そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスに翻弄されながらも。


 加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。


 しかし、それから数日後のことだった。


 巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦クリプティッドファザーフードが大挙し、さながら巨人の群れを成していた。


 それを空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)グライアイ三機とゴルゴン旗艦により龍魔力四姉妹が、迎え撃っていた。


 その激戦の末、最終的には四姉妹の四女・愛三とアロシグの一騎討ちとなり愛三の勝利に終わった後。


 アルカナの提案により魔男側の攻勢競い合い――争奪聖杯に参加している六騎士団が一斉攻撃を仕掛けるが。


 予想以上に奮闘を見せる女男の騎士団以外の五騎士団に、アルカナは憤りを見せ。


 今こうして、これまで姿を見せていなかった女男の騎士団長スカーレット・フレイを手引きしていた。


「……まあええわ! さあ、他の五方面からも敵が来よるさかい、手短に済ませよか?」

「いや、来ない。……ここに来る時に、少し細工をさせてもらったからな。」

「……ありゃあ。」


 しれっと言ってのけるフレイに、赤音は少し呆れる。


「ええんかいな? そんなズルして。」

「ズルではない。他の騎士団を妨害してはいけないなどというルールはこの争奪聖杯には存在しないからな。」

「……へええ。」


 またもしれっと言ってのけるフレイであるが。

 赤音は更に呆れるばかりだ。


「……ま、ほならええわ! この中なら思う存分、やり合えそうやんな!」

「ああ……さあ、やり合おう!」


 が、赤音は即座に切り替え。

 その通常機体をベースとした自機たる空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)マルタを駆り、突撃をかける。


 フレイも自機たるデモニックリバイヤサンを駆り、赤音へと突撃を仕掛ける。


 ◆◇


「え? ど、どの方面でも騎士団艦隊が乱れてる?」


 青夢は自機の中で受けた報告と、目の前の混沌にただただ混乱していた。


「ち、チャット騎士団長!」

「くっ、こ、これは……」


 青夢が受け持つ山梨方面でも。


 駆逐父艦(シューター)巡洋父艦(ドラグーン)幻獣機飛行艦(チャリオット)を構成機群に分けて青夢や自衛隊に襲いかかっていた馬男の騎士団らが、その構成機群の制御が突如として効かなくなったことで大混乱し。


 同士討ちにさえなっていた。


 それは他の騎士団でも同じであり、各戦線はより混迷を極めているのだという。


 ――おやおや、これはこれは騎士団長諸氏……いい格好ですな!


「! これは……アルカナ殿か!」

「な、何であんたがっしょ!」

「そ、そうザンス!」

「一体全体……何故?」

「あ、アルカナ殿何でだんべ?」


 アルカナの呼びかけが脳内に響き。

 チャット・ホスピアー・ボーン・レーヴェブルク・アロシグは困惑する。


 ――悪いことは言いませぬ……一刻も早く、撤退した方がよいのでは? ここは女男の騎士団に任せて。


「! ま、まさかアルカナ殿あんたが」

「いや……やはりというべきっしょ!」

「くう……どこまでもあんたがザンスね!」

「……不信。」

「て、撤退なんて……あんまりだんべ!」


 当然というべきかアルカナの提案に、五騎士団長は大いに反発する。


 ――おや、それは違いますよ? それは女男の騎士団ひいては、フレイ殿の意思。彼女があなた方の動きを封じたのです。


「な、何!?」

「くっ、小娘の分際で何たることっしょ!」

「いや……それだってアルカナ! あんたが手引きしたザンスね!」

「……不信、不信。」

「くう、この……!」


 アルカナのさらなる言葉に五騎士団長らは地団太を踏む。


 どこまでも、人を――


 ――まあ何はともあれ。フレイ殿は別に不正を犯した訳ではない。妨害工作は別に、禁止されている訳ではないしな。さあそれとも……ここで野垂れ死ぬか。


「くっ……ぐう!」

「がはっ! このっしょ!」

「おのれザンス……」

「無念……」

「くっ……撤退!」


 しかしアルカナの言葉も小憎らしいほどに正しく。

 その言葉と今の状況に照らし合わせ、五騎士団にはもはや撤退以外の選択肢はなかった。


「! 敵部隊が……撤退して行く!」

「ええ……何が起きたかは分からなくってよ!」

「な、何だホスピアー殿……」

「あ、姉貴!」

「ええ、どうしたのかしらね」

「お姉さん!」

「う、うん愛三……」


 そうして、凸凹飛行隊と龍魔力四姉妹が見る中。

 五騎士団率いる部隊は、それぞれ撤退して行く。


 ◆◇


「騎士団長……私では、力不足ということですか?」

「うおりゃ!」

「ふん!」


 首都近くの空域にて。

 目の前で繰り広げられるフレイと赤音のぶつかり合いを見てミリアは、その乗艦たるカリュブディス諸共宙ぶらりんとなる。


 と、その時。


「ミリア!」

「! ルサールカ……法使夏!」


 法使夏のルサールカが、水の道を纏ったままカリュブディスを追撃して来た。


「ごめんよミリア、抜かれちまったよ!」

「さあ、白魔二等空曹!」

「ええ、妖術魔二等空曹!」

「く、うるさい蠅共だねえ!」


 メアリーが東京湾空域から謝罪する。

 そのメアリーは、自衛官たる力華や術里の駆る法機アマゾネス二機を魁とする飛行隊に翻弄されて身動きが取れないでいた。


「姐様!」

「さあミリア……私たちの前後はそれぞれの仲間が抑えてくれてる! ここは心おきなくやり合いましょう!」

「ふん、ミリア……あんたのルサールカが、海でもないこんな場所で真価を発揮できると思ってんの!」


 法使夏は、水纏うルサールカにより。

 ミリア率いるカリュブディスと、今にも正面衝突を繰り広げようとする。


 と、その時である。


 ―― fcp> get gravitonpressure.hcml――グラビトンプレッシャー エグゼキュート!


「くっ!」

「ぐう! こりゃあ……何や!」

「く、白魔二等空曹大丈夫?」

「よ、妖術魔二等空曹こそ!」


 突如として発動した、超重力力場により。

 法使夏や赤音、自衛隊機も動きを封じられる。


「こ、これは?」

「分かりませんが……これは好機です、姐様、騎士団長! 今のうちに」


 ――まあ落ち着きたまえ、ミリア・リベラ。


「! あ、アルカナさん……」

「おうやアルカナの旦那。これはあんたがやってくれたのかいい?」


 この隙を突こうとするミリアだが。

 それを制したのは、アルカナだ。


 ――既に他の騎士団は撤退した後だ。つまり……自衛隊や凸凹飛行隊、龍魔力四姉妹は今いる戦線に少数の武力のみ残して次は首都防衛に来るという訳だよ!


「! で、でも……私たちのスキュラやカリュブディス、団長のデモニックリバイヤサンがあれば!」


 アルカナの言葉にミリアは、尚も食い下がる。


 ――ふふふ……ははは! リベラ、それは虫瞰的というやつだな。もっと鳥瞰的に見た方がよい。


「し、しかし!」

「……撤退だ。ブランデン、リベラ。」

「……あいよ、騎士団長。」

「! き、騎士団長に姐様……はい。」

「くっ、み、ミリア……」


 しかし結局は。

 女男の騎士団もまた、撤退を余儀なくされる。


 ◆◇


 ところがそれから、一ヶ月も経たない内だった。


「本当なんですか!?」

「ええ。我々はついに、これまで中々掴めなかった魔男の本拠地――正確には、その一部かもしれませんが。少なくとも、彼らの艦の格納場所の一つと思しき場所を特定することに成功いたしました!」


 記者たちを前に。

 会見に望む自衛隊女性幹部が明かした情報は、魔女社会を驚かすには事足りるものだった。


「そ、それは一体どこに」

「八丈島近くにある岩礁です。いえ、一見すると岩礁ですが……そこは、海上に見えるのはほんの一部でして。海中が、彼らの基地の大部分を占めているようです!」

「な……!」


 そして更なる情報も、場にどんどん混乱を生んで行く。


「し、しかし! それが本当に本拠地であるという確証はどこに?」

「これは魔男側の罠だという可能性も」

「……おほん! 質問は各報道社同時には行わないでください、くれぐれも各社毎に!」


 が、ここで自衛隊幹部は。

 場を一喝して治める。


「まず、信憑性についてですが。これは撤退する敵機に発信器を付けて割り出しましたのでかなり信頼にたる情報であると確信しております。また、今の時点で。……魔男の六騎士団艦隊が例の本拠地守備に一極運用されているため、これも益々信憑性を高めるものかと。」

「!? ほ、本当ですか?」

「本当です。 ……今、自衛隊の残る戦力を集結させて本拠地に向かわせています。」

「!? な!」


 が、一度は治った場は再び混乱する。


 ◆◇


「さあいよいよ……この自衛隊及び、凸凹飛行隊・龍魔力連合艦隊の力を改めて、魔男に思い知らせる時ですわ!」

「はい、マリアナ様! ……法使夏、待ってて!」

「ようやく、決戦か……」

「……何事もなければいいけど。」


 法機戦艦(アームドマギ)メイルクロージングプリンセス・オブ・魔法塔華院艦内で。


 それぞれに武者震いする凸凹飛行隊メンバーとは裏腹に。


 隊長たる青夢は、一人憂いを抱えていた。


「いよいよね……妹たち、油断するんじゃないわよ?」

「ふん、こっちの台詞さ姉貴!」

「が、頑張ります!」

「楽しそー!」

「まあまあ、あたしがついているんやから心配すなや!」


 こちらは、ゴルゴン旗艦艦内にて。

 龍魔力四姉妹と赤音が、武者震いしていた。


 ◆◇


「……騎士団長閣下。いよいよ敵艦隊、我らの"本拠地"海域に入りました!」

「よし。……前座は終わった。いよいよここからが本番だよ魔女諸君! ここが君たちの墓場となるだろう……」


 一方、この様子をいつも通り高見の見物するアルカナはほくそ笑んでいた。


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