#7 その名はカーミラ
「あ、アラクネ……?」
マリアナは、目の前のアラクネに困惑している。
訓練学校を襲ったソードは、早速訓練機のいくらかを撃墜する。
そうした中で、果敢にも――彼からすれば生意気にも、貧弱な装備にも関わらず挑んで来た機体があり。
その機体・マリアナ機も撃墜しようとするが、青夢の機体に阻まれる。
そうしてソードは、青夢機諸共マリアナ機を撃破しようとするのだが。
青夢機は突然、光を出し。
その上に、アラクネの姿が浮かび上がっていた。
そして青夢機――『ジャンヌダルク』は、激戦の末に幻獣機ドラゴンを破壊する。
その時に、自機も自壊してしまった青夢はパラシュートにて脱出し。
"全てを救う"という信念の下、幻獣機ドラゴンに騎乗し空中に投げ出されて気絶している乗り手ソード・クランプトンを青夢は助けた。
だが、その数日後には。
再び幻獣機が、訓練学校を襲ったのだった。
「……! そ、そうだわ……早く戻らないと!」
「どちらへ?」
「そ、そんなの!」
未だ事態が呑み込めぬマリアナは、尋ねて来たアラクネに食ってかかる。
「そんなの! 戦場に決まっているんじゃなくて? 今、また化け物が私の学校を襲ったのですから……わたくしは、魔法塔華院コンツェルンの跡取りとして!」
「そう! それがあなたの、望みだったわね?」
「! え?」
が、アラクネのこの言葉には。
マリアナははっとし、立ち止まる。
わたくしの、望み――
そうだ、それは。
「そうですわね……わたくしの望みは、ただ一つ! 魔法塔華院コンツェルンの跡取りとして、誇り高く生きることよ! そのためには……わたくしを差し置いて抜け駆けするトラッシュなんか、わたくしの命を狙う不届き者なんか! 皆押し除けて見せますわ!」
マリアナは、高らかに宣言する。
「ほほほ……」
「な!? あ、あなた、人の望みを笑うなんて失礼極まりなくってよ!」
が、大いに笑うアラクネに。
マリアナはまたも、食ってかかる。
「ああ、ごめんなさい……なるほど。青夢さんと仲が悪いのも、分かる気がするわ。」
「ふ、ふん! あんなトラッシュ、知ったことじゃなくってよ!」
青夢の話を持ち出され、マリアナは。
更に怒るが。
「ほほほほ……まあまあ、そう言わず! 今はあなたと青夢さん、二人が力を合わせなければならないのよ!」
「え……? あのトラッシュと、ですの〜!?」
「ええ、あのトラッシュとですの。」
アラクネは、マリアナの口調を敢えて真似する。
当然これには、マリアナは。
「あなた……人をおちょくっているんですの!?」
「いいえ、おちょくっていないんですの。」
「……だから!」
さすがに、再び食ってかかる。
が、アラクネは。
「えい、捕まえた!」
「! な、わ、わたくしを抱きしめるなんて……この魔法塔華院コンツェルンの跡取りになんてことなさるの!」
「ええ、なんてことなさるんでしょうね。」
「……くう!」
マリアナはすっかり、神経を逆撫でされた気分である。
「そう、それこそあなたの望み! ……でもね、マリアナさん。青夢さんは、前にここへ来てジャンヌダルクを得た時、あなたを含めた全ての人を救おうとしたのよ?」
「! そ、そうね……」
しかしアラクネは、尚もマリアナを諭す。
マリアナも、確かに屈辱的なことではあったが青夢が自らを助けたことは本当だったと思い直す。
「だから、癪かもしれないけれど……今回だけは、青夢さんの望みにも付き合ってあげて。ね?」
アラクネはマリアナの顔を覗き込み、にこりと微笑む。
「……承知しましたわ。」
マリアナは不本意ながらも、頷く。
「さあ……改めて! あなたの願いを。」
「ええ。……hccp://baptism.tarantism/、サーチ リビング プラウド! ……! これは……」
かつての青夢と同様、自身の望みを改めて唱えたマリアナの眼前には。
hccps://camilla.wac/。
このURLが、浮かぶ。
「さあ、それがあなたの力……あなたの"誇り高く生きる"ための力よ。」
「これが、わたくしに与えられた力……」
マリアナは目の前のURLを、うっとりと眺める。
「さあさあ、青夢さんを助けに行かなくちゃ。」
「……そうね、やはり魔女木さん! あなたはトラッシュでしかないわ、わたくしが助けて差し上げなくてはね!」
マリアナはこの場にいない青夢を、挑発する。
「では…… セレクト、hccps://camilla.wac/! ダウンロード!」
マリアナはそのまま、眼前のURLを選びダウンロードする。
◆◇
「なっ!?」
「ま、マリアナ様!」
「ふう……やっと戻って来たわね魔法塔華院マリアナ!」
現実世界にて。
マリアナの乗る訓練機が、青夢の時そうであったように光り輝く。
そしてそこに、浮かび上がったのは。
「アラクネ、さんね……」
アラクネの姿である。
「ああ……また、あの人に会えた……」
矢魔道は、外に出てこの光景を見。
ため息を吐く。
空に浮かび上がる想い人・アラクネの姿に、見惚れているのだ。
「がああ!」
先ほどまで空を駆けていた幻獣機タラスクも、眩いばかりのアラクネの姿には怯み動かない。
「これが……わたくしの機体ですの?」
「ええ、そうですの。……これがあなたの機体・空飛ぶ法機ウィッチエアクラフト、カーミラ。」
「カーミラ……」
ふてぶてしくも自身の口調を真似するアラクネの言動も、マリアナはまったく気にならず。
嬉々として、カーミラ――機体としては無論、訓練機のままだが――を見つめる。
「これが、わたくしの機体……」
「がああ!」
「! ま、マリアナ様!」
が、動かぬカーミラを見て。
幻獣機タラスクは、炎を放つ。
「大丈夫よ……さあ、マリアナさん!」
「ええ……ま、お礼を申し上げますわ!」
マリアナはアラクネに、やや投げやりに礼を言う。
アラクネはそれに対し微笑み、姿を消す。
「くっ」
「ああ、魔女木さんは手出ししなくてよくってよ! …… hccps://camilla.wac/、サーチ コントローリング ウィッチエアクラフト・カーミラ! セレクト、サッキング ブラッド エグゼキュート!」
動き出しかける青夢を静止し。
マリアナは、カーミラの力を発動する。
たちまち放たれた火炎は、カーミラを直撃する。
「マリアナ様!!」
「がああ! ……が?」
勝ち誇る幻獣機タラスクだが。
次の瞬間、首を傾げる。
「おーっ、ほほほほ! どうしたの怪物さん? わたくしはここよ!」
何と、カーミラは。
未だに、健在である。
「やっぱり……相手のエネルギーを奪う術式か。」
青夢はカーミラを、おずおずと見る。
カーミラは受けた攻撃エネルギーを、自機に吸収したのである。
「魔法塔華院マリアナ……さあ、力貸しなさいよ!」
「おやおや……『力を貸してください、マリアナ様!』ではなくって?」
「くっ……!」
だから、この女に強力な空飛ぶ法機は持たせたくなかったのだと青夢は心の中で舌打ちをする。
しかし。
「がああ!」
「くっ! ……はい、力を貸してくださいマリアナ様あ!」
「ええ……いいわいいわ、やはりトラッシュはそれでないと!」
青夢の破れかぶれの頼みにマリアナは、すっかり勝ち誇る。
そして。
「じゃあ……まず、あの怪物からエネルギーを奪って動きを止めてくださいマリアナ様あ!」
「ええ……よろしくってよ!」
マリアナはすっかり、にんまりとしつつ。
再び術句を、唱え始める。
「hccps://camilla.wac/、サーチ アサルト オブ ウィッチエアクラフト・カーミラ! セレクト、ザ ファング オブ バンパイア エグゼキュート!」
「! ま、マリアナ様!」
「わ、私の機体が!」
マリアナの術句と共に、法使夏・ミリアは自機に違和感を感じ。
マリアナに、訴える。
「ああ、案じなさることはなくってよ! これはあなた方の機体を、わたくしのカーミラと繋げただけですもの!」
マリアナは、高らかに法使夏・ミリアに訴える。
「マリアナ様……」
「じゃあ……私たちは、マリアナ様と一つに!」
マリアナの言葉に、法使夏・ミリアは恍惚の表情を浮かべる。