#78 六方面攻防戦②
「何だべ……龍魔力じゃないんべ!?」
マリアナが担当する埼玉方面に。
やって来た巨男の騎士団による、巨人型幻獣機父艦の艦隊からは不満の声が聞こえる。
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。
まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。
そんな中。
なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。
魔男側を誘い出していた。
そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。
その保有艦たる幻獣機母艦スキュラ・幻獣機母艦カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。
そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスに翻弄されながらも。
加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。
しかし、それから数日後のことだった。
巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦が大挙し、さながら巨人の群れを成していた。
それを空飛ぶ法機グライアイ三機とゴルゴン旗艦により龍魔力四姉妹が、迎え撃っていた。
その激戦の末、最終的には四姉妹の四女・愛三とアロシグの一騎討ちとなり愛三の勝利に終わった後。
アルカナの提案によりこうして魔男側の攻勢競い合い――争奪聖杯に参加している六騎士団が一斉攻撃を仕掛けることになったのだった。
「あら……わたくしもその龍魔力と肩を並べる、いえ、超える魔法塔華院の娘であってよ巨男の騎士団長さん! 失礼なことを言わないで欲しくてよ。」
マリアナは眉根を寄せながら抗議する。
「魔法塔華院だべ……? ふん、何だって! 龍魔力じゃなけりゃ興味ないだ、すぐそこさ飛び越えて龍魔力ん所行かせてもらうだけだべ!」
「あいあいさー!」
相も変わらずアロシグは龍魔力四姉妹にこだわっている。
「ふふふーん……巨男の団長さーん、如何な温厚なわたくしと言いましても、その堪忍袋には許容量というものがありましてよ!」
そんなアロシグらに、マリアナはついに切れる。
尤も温厚というのは疑問符がつかないでもないが。
さておき。
「よおっしゃ! ……hccp://baptism.tarantism/、セレクト ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷鎚形態 エグゼキュート!」
「hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート!」
アロシグはマリアナを踏み越えて早く龍魔力と再戦したいとばかり、右腕を雷鎚形態に変化させた旗艦で自ら迫り。
マリアナも怒りに任せて、そんなアロシグ旗艦にハッキングを仕掛け始める。
「! く、艦体が言うこと聞かなくなり出したんべ!?」
「あ、アロシグ騎士団長! こうら、あのカーミラとかいうもんかと!」
「! そか……あいつが!?」
急に制御が効かなくなった座乗艦を訝しむアロシグだが。
部下の言葉に、未だ自らの前を飛び回るカーミラを睨む。
生意気な。
「さあ、アロシグ騎士団長! ここで女なんかに負ければ男がすたりますだ!」
「ああ、そうだべな……ここで俺たちが、聖杯をもぎ取るんだったべ! ぐおおお!」
アロシグは部下に鼓舞され。
その身に気合を入れ始める。
すると。
「! くっ……こ、これは!」
カーミラに乗るマリアナは、凄まじい手応えを感じる。
何とシステム的に干渉しその動きを抑えているはずのアロシグ旗艦が、右腕の鎚を振りかざさんと必死にもがき少しずつではあるがカーミラの干渉に抗いつつあるのだ。
「うおおお! 気合だあ!」
「くっ、これは何であって? わたくしのカーミラの干渉に抗うとは……特殊なファイヤウォールか何かかしら?」
よもや、あくまで気合いにより干渉に抗われているとは思いもしないまま。
マリアナはその状況を、訝しんでいた。
と、その時。
「戦闘車両、誘導銀弾群多数発射! 敵艦隊が停止している今こそ好機だ!」
「はい!!」
「ぐうっ! ……地上の、自衛隊だか!」
地上に配備されている、自衛隊の戦闘車両部隊から発射された地対空誘導銀弾が舞い。
カーミラにより足止めされているアロシグ旗艦をはじめ、巨男の騎士団艦隊に多数命中していく。
「! まったく……少し遅くってよ自衛隊の皆様方!」
マリアナは先ほどのアロシグによる腹立ち紛れに、自衛隊にも文句を言う。
「まあよろしくってよ……hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート!」
「くっ……何の、これしきだべ!」
「……相変わらず、何故か抗えてなのね巨男の騎士団長さん!」
そのままマリアナは気を取り直し、再び技をアロシグに見舞うが。
やはりというべきかアロシグは、自身の巨人型幻獣機父艦を動かして尚もマリアナの技に抵抗する。
「全ては……龍魔力とやり合うためだんべ!」
「まったく……わたくしが相手だというのに、他の女たちのことなど!」
ともすれば恋人同士のやり取りのようにも見えるがさておき。
◆◇
「……ハックション!」
「? 何なの英乃、弛んでるわよ……ハックション!」
「そういう姉貴もじゃねえか……ハックション! これ、誰か噂してんのかな……寒気がするぜ。」
千葉方面の夢零・英乃は。
埼玉方面で自分たちが執拗に求められていることを第六感で感じ取り、やや寒気が感じられた。
「さあさあ行くザンスよ! ホスピアー殿には悪いザンスが……ここは我ら牛男の騎士団が勝利いただくザンス!」
が、さりとて戦いは待ったなしとばかり。
ボーン率いる幻獣機父艦オドントティラヌスを旗艦とする牛男の騎士団艦隊は迫っていた。
「さあ、行くザンス皆! ……hccp://baptism.tarantism/、セレクト ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート!」
ボーンはそのまま。
さながら牛の群れのごとき自艦隊を、無数のパーツに分かれさせ更に進撃する。
「姉貴!」
「分かってるわよ英乃……こちらを警戒して初めからあの形態で来ているのだとしたら、私たちは光栄にもかなりの脅威と認識されているわね!」
夢零と英乃はこの有り様を見て臨戦態勢となる。
そして。
「……お願いします、自衛隊の皆様!」
「了解! 戦闘車両、誘導銀弾群多数発射!」
夢零の言葉を受けた自衛隊より。
埼玉方面と同じく、地対空誘導銀弾が宙を舞う。
「……hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ! ……さあ、来なさい魔男! 英乃、グライアイズファング用意!」
「了解、姉貴! hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング!」
そうして夢零・英乃も。
グライアイズアイにより敵艦隊を照準し、それに基づき発射された地対空誘導銀弾群にグライアイズファングにより誘導性を付加し。
それにより地対空誘導銀弾群は、文字通り女怪の牙を剥いて襲いかかる。
「ははは! それが噂に聞くグライアイザンスか……だけどそんなんでは!」
それを見たボーンは。
パーツ群に分かれながらも未だ形は保つ旗艦オドントティラヌスを操り。
その前右脚に当たるパーツ群は、そのまま地対空誘導銀弾群を造作もなく一閃してしまう。
「くう、誘導銀弾が!」
「ははは、さあ次は……強行突破ザンス!」
夢零と英乃が歯軋りする間にも。
ボーンは次にオドントティラヌスの、三本角の生えた頭部に当たるパーツ群を彼女らや自衛隊陣営に向け。
そのまま全身のパーツ群共々、自衛隊陣営に突撃を仕掛ける。
「あ、姉貴!」
「……hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ! 英乃。怖がっている暇などないわ、グライアイズファング用意!」
「り、了解、姉貴!」
その様に焦る英乃だが。
夢零は敢えて落ち着き払い、第二陣を用意する。
この防衛線も、突破される訳にはいかない――
◆◇
「……予想以上に、敵の数は膨大ね。」
山梨方面の青夢は。
先ほど受けた各方面からの知らせに、そう呟く。
一応は凸凹飛行隊・龍魔力連合軍の司令ではあるため、情報把握はしなければならないのである。
そして。
「ワシらの天下にするんだ!」
チャットの馬男の騎士団も。
多数の馬型幻獣機父艦や幻獣機飛行艦を率いて迫っている。
どの方面でも戦いは待ってくれないと、状況が物語っていた。
「さあ、魔弾駆逐父艦と魔弾巡洋父艦散開! 折を見て」
「戦闘車両、誘導銀弾群多数発射!」
「ふうむ……まだ直撃炸裂魔弾は出すな! 通常砲撃!」
そのまま自艦隊に戦闘指揮をするが。
誘導銀弾群が迫る様を見て、戦い方を変える。
たちまち馬男の艦隊は、向かってくる誘導銀弾をまばらな砲撃により迎え撃つ。
「ありがとうございます、自衛隊の皆さん! ……さて。」
青夢はそんな自衛隊に礼を言い。
またも、敵艦隊を睨む。
と、その時。
「さあ前衛の駆逐父艦、巡洋父艦は砲撃続行! 後衛の幻獣機飛行艦は直撃炸裂魔弾発射用意!」
「り、了解! hccps://baptism.tarantism/、セレクト、デパーチャー オブ 直撃炸裂魔弾!」
「! このタイミングであれを?」
青夢が訝しんだことに。
チャットの指示により前衛の艦隊の後ろより顔を出した幻獣機飛行艦の艦隊が、直撃炸裂魔弾群を周囲に展開し始め発射態勢となる。
「hccps://jehannedarc.wac/ 、セレクト ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
「ぐっ……ぐああ!」
しかし訝しみながらも青夢は。
光線を刃のように振るい、それにより直撃炸裂魔弾群を一閃する。
たちまち幻獣機飛行艦艦隊は、爆炎に遮られ見えなくなる。
「おお、あれは!」
「やっ、やった! 呆気ないな!」
自衛隊も戸惑いつつも。
馬男の騎士団側でのこの大爆発に、歓喜する。
しかし、またもや青夢は。
「……えいっ!」
自機たるジャンヌダルクの高度を上げ。
爆炎に遮られた幻獣機飛行艦艦隊を見下ろす。
すると。
何と幻獣機飛行艦艦隊は、まったく無傷なばかりか。
その戦闘飛行艦に似て非なる、幻獣機の寄せ集めたる艦体をいつぞやの幻獣機父艦バハムートの雷鎚形態を彷彿とさせる筒型に変化させ。
空洞の位置が重なるよう、縦一線に配置していた。
「! まさか、これって」
「……なんてな。今だ! 全幻獣機飛行艦 艦隊、火炎誘爆砲発射用意!」
「了解! ……hccps://baptism.tarantism/、サーチ クリティカル アサルト オブ 幻獣機! セレクト ファイアリング 火炎誘爆砲!」
青夢がそれを見て察した通り。
チャットは先ほどの爆炎の影で、即席の超巨大砲を用意し。
それを今にも、放たんとしていたのだ。
「ははは、これで防衛線突破どころか一気に首都までひとっ飛びよ! ワシらの勝利だ!」
「くっ…… hccps://jehannedarc.wac/ 、セレクト ビクトリー イン オルレアン!」
青夢はそれでも、なんとかギリギリまで足掻き続けるべく。
ビクトリー イン オルレアンの術句を唱え始める。
真正面からぶつかり合うより、この高度から放つ方が効果的だ。
しかし、間に合うか――
「よし……エグゼ」
「fcp> get gravitonpressure.hcml――グラビトンプレッシャー エグゼキュート!」
「!? ぐっ、な、何だ!?」
が、その刹那だった。
たちまちチャットは、自艦隊全体に何やら鳴動が来た有り様を感じる。
それにより幻獣機飛行艦 艦隊の火炎誘爆砲用陣形は、大幅に乱れた。
「な、何いきなり? ……まあいいや、エグゼキュート!」
「ぐっ! 今度は、上からか!」
青夢も大いに戸惑いながらも。
すぐさまビクトリー イン オルレアンにより上から乱れた戦列を焼いて行く。
それは馬男の騎士団に、ひいてはチャットに少なからず動揺を与えた。
◆◇
「れ、レーヴェブルク騎士団長!」
「ん……理解不能、事態急変か。」
「ほ、ホスピアー騎士団長!」
「な、何だこれはっしょ!」
「ど、どうしたんだべこれは!」
「な、何ザンスかこれは!?」
いや、馬男の騎士団ばかりではない。
虎男・魚男・巨男・牛男の争奪聖杯参加の全騎士団それぞれも、同じく突如降って湧いた鳴動にかき乱されていた。
「……騎士団長閣下。」
「ああ……すまないなあ騎士団長諸氏。あまり美しくはないが我が意にそぐわない状況は排除させてもらう!」
鳴動を起こした主は、無論というべきか。
この戦況を高みから見物している、アルカナである。
◆◇
「…… hccps://baptism.tarantism/、セレクト アンアセンブライズ 幻獣機母艦、海嵐掘削 エグゼキュート!」
「!? み、ミリア!」
いや、争奪聖杯参加の全騎士団ではなかった。
東京湾方面にて、危機に陥っていたミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスは、鳴動もなくかき乱されることもなかったばかりか。
爆発した外殻部の構成機群は切り離し、その体勢を立て直して。
「ぐああ!」
「! じ、自衛隊艦隊が!」
再び自衛隊のウィガール艦隊へと突入し、その防衛線を壊滅させてしまったのである――




