#74 鉄槌と槍
「01CDG/、セレクト、ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
「おやおや……まあた動き封じて来ただか!?」
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。
まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。
そんな中。
なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。
魔男側を誘い出していた。
そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。
その保有艦たる幻獣機母艦スキュラ・幻獣機母艦カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。
そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスに翻弄されながらも。
加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。
しかし、それから数日後のことだった。
巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦が大挙し、さながら巨人の群れを成していた。
それを空飛ぶ法機グライアイ三機とゴルゴン旗艦により龍魔力四姉妹が、迎え撃っていた。
「……でえも、甘いだよ魔女共お! hccps://baptism.tarantism/、セレクト ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態 エグゼキュート!」
が、アロシグの反応も早く。
ゴルゴンシステムによる封じ込めを避けるべく、艦体を各パーツ毎に分離させていく。
「なるほどね……でも甘いわ! 二手乃、見せてやりなさい!」
「わ、分かってますお姉様! …… hccps://graiae.wac/deino、せ、セレクト グライアイズアイ、セレクト グライアイズファング エグゼキュート!」
が、夢零の号令と共に。
二手乃も分離を始めたアロシグの旗艦パーツ群を、再照準し誘導銀弾への誘導性再指定を始める。
そうして。
「さあ、再びのだべ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷鎚形態 エグゼキュート!」
「さあ、後は任せたわ愛三!」
「おっけー、お姉さん!」
アロシグの旗艦パーツ群は再度集結・合体して雷鎚形態となり。
そのまま右腕が変化した雷鎚を、二手乃機及び愛三のゴルゴン旗艦めがけて振り下ろさんとする。
「砕け散るんべ魔女共ぉ! セレクト、ファイヤリング 巨人の鉄槌 エグゼキュート!」
「ムッキー! そっちがその気なら……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート! 貫いちゃえ王神の槍!」
「愛三!!!」
「うおお!」
「やあああ!」
アロシグの旗艦はエネルギーを帯びた雷鎚をそのままぶつけんと振り下ろし。
対する愛三も、負けじとばかり。
誘導銀弾群発射の技に自ら名前をつけて挑んだ。
皆が息を詰めて見守る中――
「ぐああ!」
「おっと! あ、危なかった〜……」
間一髪で誘導銀弾群の方が、アロシグ旗艦に命中し。
そのままパーツ群は、火を吹く。
雷鎚もあと少しでゴルゴン旗艦に到達しかけるも、何とか事なきを得た。
「あ、アロシグ団長がやられた!」
「くっ、こうなったら俺たちも行ぐだ!」
これを見ていた後方の、巨人型幻獣機父艦艦隊も前に出ようとするが。
――まあ待ちたまえ、巨男の騎士団の諸君。
「な!? この声は」
「ま、魔男の騎士団長アルカナ殿だあ! オラたちの邪魔する気だか?」
急に聞こえて来た脳内のアルカナの声に、その歩みを止める。
――ああ、できれば一度箸をつけた獲物は食べ尽くしてほしいと言いたいところなのだが……一時の方向を見てくれ!
「な、一時の方向?」
「! あ、あれは!」
アルカナの言葉に巨男の騎士団団員たちは首を捻りつつもレーダーを見て驚く。
そこには。
「はいな! マルタの魔女が来たでえ、さあさあ魔男の騎士の皆様寄ってらっしゃい見てらっしゃい! その幻獣機も母艦もあたしが操ったるさかいに!」
果たしてアルカナの言う通り。
一時の方向よりマルタの魔女――赤音が乗る通常機体ベースの空飛ぶ法機マルタが迫っていたのだった。
――さあ、これで分かっただろう? まあ、あのマルタの魔女に乗艦を持っていかれたいというならば敢えて私の止めるところではあるまいが。
「ひ、ひいい! き、騎士団長!」
「ああ、皆……撤退だあ!」
アルカナの戯けた口調をよそに、巨男の騎士団艦隊は大いに混乱し。
問答無用とばかり、撤退を始める。
◆◇
「あ、あれは!」
「マルタの魔女……今更のこのこと出て来るとは、なってなくってよ!」
「は、はいマリアナ様のおっしゃる通り!」
一方、戦場の様子をモニター越しに見ていた剣人・マリアナ・法使夏も赤音の出現に驚いていた。
「どこに行ったのかと思ったら……まったく、美味しいところだけ持ってくなんて。」
青夢も呆れつつ、少し笑う。
◆◇
「マルタの魔女さん……」
「や、久しぶりやな龍魔力の姉ちゃん方!」
巨男の騎士団が撤退した後。
ゴルゴン旗艦の格納庫内に乗機諸共入って来た赤音は、相変わらず帽子を目深に被り顔を隠したまま。
一足早く着艦していた夢零・英乃・二手乃と、更に旗艦艦長たる愛三に出迎えられた。
「愛三は妹だもの、お姉ちゃんじゃないもん!」
「おお、これはすまんかったなあ愛三ちゃん! ……でも、妹がいない分姉ちゃんて呼ばれる気分はどうや?」
「……うっれしー! マルタちゃん、わたしの妹にしてあげるよ!」
「おお、ほなおおきに!」
「ち、ちょっと愛三……」
「愛三、マルタの魔女さん……はあ、あたしはついていけねえぜ。」
「う、うんお姉様たち。私も同感……」
割合息の合ったやり取りを見せる妹と赤音に。
姉三人は、呆れるばかりである。
「……さて! 待たせたなあ姉ちゃん方。これから……作戦を練るでえ!」
「まあちょっと待ってマルタの魔女さん。……今まで、どこにいってらしたの?」
赤音が気を取り直し仕切り直そうとした時だった。
夢零は当然の問いというべきものを、投げかける。
「ああ、まあそんなことどうでもええやろ! 今回だってこの通り、助けてやったんやから!」
赤音は夢零の追及を、受け流す。
「そうね……でも」
「それとこれとは別だ! 確かにあんたには何度も助けてもらった。このゴルゴンシステムをくれたのだって、母艦型幻獣機の時だってな。でも、それで全部信じるって訳にはいかねえ! あんたは自由すぎるんだよ。」
「あらまあ……こりゃ、どうしたもんかいな。」
夢零を遮る形で英乃も抗議し、赤音は困り果てる。
「大丈夫だよお姉さん! マルタちゃんは」
「あなたは少し黙ってなさい、愛三!」
「はーい……」
愛三も声を上げかけるが、夢零に素気無く遮られる。
「しゃあないなあ……ま、ええんやで! アラクネ姐様から大事なお知らせもらって来たんやけど聞きたくないんやったらしゃーないしゃーない!」
「!? な、何ですって?」
が、赤音のこの言葉に。
龍魔力四姉妹は、耳を疑う。
◆◇
「さて! 全員揃ったザンスね?」
「呼び出された理由分かってるっしょ、アルカナ殿?」
「……私に、何か用かな?」
その頃、魔男の円卓では。
牛男の騎士団長ボーン・魚男の騎士団長ホスピアー主導により全騎士団長が召集され、会議に臨んでいた。
そのボーンとホスピアーの呼びかけにより。
最初から照らし出されていた彼らに続き、アルカナの席が照らし出される。
「とぼけるなっしょ! お宅の騎士団、争奪聖杯には参加してないくせして! 何で女男の騎士団や巨男の騎士団を助けるっしょ!?」
「そうザンス! あんた前々から思ってたザンスが……余計なことしすぎザンスよ!」
アルカナに対し、容赦なく二騎士団長からの非難が飛ぶ。
「……言われているが、どうかな? アロシグ殿。」
「あ、ああ……」
アルカナはさして気にとめた様子はなく。
アロシグに意見を求める。
「ま、まあそんなにアルカナ殿を責めるもんでもないだ。お、俺たちは何はともあれ今回は救われただし!」
アロシグは戦闘直後で疲弊した様子ながらも。アルカナを庇う。
「一度助けられたからといって信頼しちゃダメっしょ、こんな男を!」
「そうザンス、アロシグ殿! こいつは」
「……静粛にすべきではないか、ボーン殿とホスピアー殿!」
「なっ……!!」
またも口々に文句を言うボーンとホスピアーを、今度はアルカナ自ら一喝する。
「諸氏らの言葉は分かった、要するに自分たちに中々機が回って来ず僻んでいるのだろう?」
「なっ!」
「な、なんて論理の飛躍をザンス!」
アルカナの言葉は、確かにボーンの言う通りにやや飛躍した論理だが。
しかしアルカナの言う通り、ボーンとホスピアーが僻んでいたのも事実だった。
「ならばそうだな……今回争奪聖杯に参加している女男・巨男・牛男・魚男・虎男・馬男の六騎士団による総攻撃を行い、それにより手柄を上げた騎士団が勝利するというのはどうだろうか!」
「なっ!!」
「何だべと!?」
「……ほう。」
アルカナのこの提案には、この場にいる全ての騎士団長が耳を疑う。




