#73 巨男の鉄鎚
「さあさ、魔女共お! チビるんじゃないべよ!」
巨男の騎士団長アロシグは、目の前に展開されている自衛隊戦力に向かい叫ぶ。
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。
まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。
そんな中。
なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。
魔男側を誘い出していた。
そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。
その保有艦たる幻獣機母艦スキュラ・幻獣機母艦カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。
そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスに翻弄されながらも。
加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。
しかし、それから数日後のことだった。
「あ、あれは……空に浮かぶ巨人の群れ!?」
自衛官が驚いたことに。
今や巨男の騎士団が擁する巨人型の幻獣機父艦が大挙し、さながら巨人の群れを成していた。
「ああ、驚いて声も出ないんべな……さあ、散開するんべ! 魔女共に一泡も二泡も吹かせてやるだ!」
「へーい!」
アロシグからの命令に、幻獣機父艦の艦隊は散開する。
「り、力華!」
「行くよ術里! 私たちがここは、やるしかない!」
「わ、分かってる!」
この様子を乗機たる軍事ヘリ、アマゾネスから見ていた自衛官二人――共に二等空曹の妖術魔力華・白魔術里は励まし合いつつ向かって行く。
「誘導銀弾発射用意!」
「了解!」
「おっと、先制攻撃のつもりだか? ……甘えるじゃないだ!」
が、アロシグは。
散開した自艦隊の隙間に入り込み攻撃しようとする自衛隊部隊に腹を立て。
部下の艦に命じる。
すると。
「くっ!」
「て、敵艦格闘戦に突入!」
「ひ、怯むな白魔二等空曹! 所詮こんな図体のデカいだけの艦など、法機にとっての良い的でしかない!」
「ん……了解、妖術魔二等空曹!」
巨人型幻獣機父艦たちは腕を上げ、入り込んで来たアマゾネスや軍事ヘリに向かいその腕を振るう。
その巨体には似合わぬ、素早い動きだ。
だがまたも力華と術里は、互いに励まし合い。
この攻撃を、避ける。
「ほや!? こりゃあ中々見応えあるだな……なら!」
「……01CDG/、セレクト、ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
「! う、動きが!?」
そうしてアロシグが更に闘志を燃やした、その時だった。
突如として巨人型幻獣機父艦艦隊は、動きを封じられてしまったのである。
「これは、まさか!」
アロシグには、思い当たる節があった。
「な、これは!?」
「妖術魔二等空曹! 部隊を退げろ、龍魔力財団からの攻撃が来るぞ!」
「! た、龍魔力財団が……? は、はい!」
力華も驚くが。
通信による上官からの命令に、ひとまず部隊を退げる。
「くう……私たちが倒したかったのに!」
「まだ機会はあるだろうから、今は一旦退くよ白魔二等空曹!」
「は、はーい……」
術里も名残惜しそうにしつつ。
そのまま自機たる軍事ヘリを退げる。
◆◇
「お姉さん、自衛隊機の部隊は皆退がったみたい!」
「了解、ご苦労様愛三! ……さあ、英乃!」
戦場から少し離れた所から"目"を発動させたのは。
やはり龍魔力四姉妹が擁する、ゴルゴン艦旗艦である。
「分かってる! でも姉貴、"目"で照準した母艦型幻獣機たちは」
「分かってるわよ英乃! 恐らくこちらの誘導銀弾攻撃は回避して来るから、グライアイズアイで再照準しないとね!」
長妹の言葉に、夢零は少し苛立ちつつ返す。
「ああ、分かってんならいいぜ!」
「私を何だと思ってるの……さて、二手乃! また愛三のこと頼むわ!」
「え、ええ……行ってらっしゃいお姉様たち!」
英乃と夢零は軽口を叩き合いつつも。
次妹に末妹を託し、自分たちは自機を前へと進める。
◆◇
「話には聞いとった龍魔力四姉妹だな! こりゃあ血が騒ぐだ……全艦隊、迎撃用意だ!」
「あいあいさー! hccps://baptism.tarantism/、セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート!!!」
アロシグは奇襲に驚きつつも、部下たちに命じる。
部下たちも各座乗艦に命じる。
するとやはり一にして複数の群体であるが故に"目"の照準から逃れていた巨人型幻獣機父艦の構成機群はざわめき始める。
「ひい、お姉さん!」
「ええ、相変わらずの気持ち悪さね……hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート!」
「hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング エグゼキュート!」
二手乃は怯えつつも、夢零と英乃は詠唱を続ける。
そして。
「愛三!」
「りょーかい! ……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
愛三は姉たちの言葉に。
ゴルゴン旗艦より、誘導銀弾を多数放つ。
それにより、再照準された誘導銀弾は。
先ほど照準を免れた構成機群が、次々と直撃を受ける。
「ぐああ! き、騎士団長!」
「くう、やはり中々やるだな……よし、俺自ら行くわ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷鎚形態 エグゼキュート!」
その状況にアロシグは、自身の旗艦を前に出す。
「あ、姉貴!」
「落ち着きなさい英乃! ……一人で前に出て来るとは、見応えがあるわね!」
敵艦隊より一つ、前に出て来る艦を見て英乃は少し動揺するが夢零はそれを制する。
しかし、その巨人型の艦の右手が形状変化した有様を見た夢零も。
「あ、あれは……あの時の!?」
少なからず動揺する。
その右手は雷鎚形態――かつて幻獣機父艦バハムートが英乃・二手乃のゴルゴン艦を軒並み葬った時にとっていた形態である。
さながら鎚の形をした右手を持つ、巨人のごとく――
「ははは、こりゃあ驚いとるなあ! よし、精々……怒りの鉄鎚の餌食になるだ!」
「あ、姉貴!」
「!? はっ、な、何をしているのかしら私ったら!」
夢零は長妹の言葉にはっとなり、そのまま機体を退がらせる。
アロシグにより振り下ろされた幻獣機父艦旗艦の右手はそれにより、空を切る。
◆◇
「もう……よりにもよって、あの形をとるなんて卑怯よ!」
縦浜の別邸にて。
青夢は戦場の様子を映しているモニターに向けて毒づく。
「モニターに怒っても仕方なくってよ、魔女木さん!」
「そうよ魔女木! まったく、マリアナ様。やっぱり私たちが出て行けばよかったですね!」
マリアナと法使夏も、思い思いに言う。
「しかし、あの形も……あの姉妹は一度は克服したはずだが。」
剣人はモニター越しの姉妹の様子に、疑問を呈する。
「まあもしかしたら……フラッシュバックってこともあるのかも。」
「フラッシュバック、ね……いずれにしても、作戦中に心乱れるようではまだまだであってよ!」
「……ったく、相変わらず血も涙もないわね魔法塔華院マリアナ!」
青夢は自分の言葉へのマリアナの反応にため息を吐く。
「まあ二人とも見ろ! どうやらあの姉妹は……そうそう簡単にやられる奴らではないようだぞ?」
「え?」
「何ですって?」
しかし剣人の言葉に、青夢とマリアナは再びモニターを見る。
すると――
◆◇
「hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ、セレクト グライアイズファング エグゼキュート! さあ、愛三!」
「オッケー、二手乃お姉さん! 01CDG/、セレクト デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
「! く、まだそっちがいたんべか!」
再び、戦場では。
尚も鎚に変形した右手を自身の旗艦に振るわせ続けていたアロシグだが。
二人の姉の機体に気を取られていた間に思わぬ方向から来た攻撃に見舞われて怯む。
そう、これまでは目標の再照準たるグライアイズアイは夢零機が、誘導銀弾への誘導性再付与は英乃機がそれぞれに担当していたが。
夢零機・英乃機・二手乃機と、三機で一機を成す空飛ぶ法機グライアイは能力を分散させたり集中させたりでき。
これにより普段は夢零機・英乃機に分散されていた能力を、二手乃機に集中させて奇襲攻撃ができたのである。
「ナイスアシストだぜ、二手乃!」
「まあ……まだタイミングが遅いけどね!」
英乃と夢零はそれぞれ、二手乃に言葉をかける。
「は、はいお姉様方! つ、次こそは必ず!」
「おやおや……戦場で油断は大敵だべ!」
「!? 行ったわ、二手乃!」
しかしその隙を突かんとばかり。
アロシグは旗艦を、愛三のゴルゴン旗艦と二手乃機の方向に向ける。
「! き、来たわ愛三!」
「りょーかい、お姉さん!」
二手乃と愛三も、これを迎え撃つべく身構える。
◆◇
「騎士団長閣下、アロシグ殿中々に御奮闘の模様。」
「ああ……少し厄介だな。」
一方。
戦場より離れた高空の幻獣機父艦べヘモスより、この有様を見ていたアルカナは。
ウィヨルからの報告に、少し面白くなさそうな表情を浮かべていた。